三人は門を潜り、先を急いだ。
 いつ一雨来てもおかしくない天気だからだ。

 おかしいといえばもう何もかにもがおかしくなっていた。
 元々、こんな早朝から人里離れた山奥にやってきたのは、由宇がネットで見つけ
出したマジックアイテム、聖ペンを手に入れる為である。
 ネットでの噂、これほどにまで信憑性の薄い出所にも関わらず、由宇が拘ったの
はもちろん理由がある。
 口に出してしまえば照れ臭いが、思い出作りである。
 いつも一緒だった仲間である彩が商業デビューするという。
 勿論、そのことで三人の関係が変わることはないだろうが以前よりは違った付き
合い方になるのは否めない。由宇自身、いつまでも宙ぶらりんな生活を続けること
はできないのだ。このまま芽が出なければ何れは実家の旅館を継がなくてはならな
い。そうなれば会う機会も減るだろうし、こんな馬鹿をやることもそうそうできな
くなるだろう。
 だったら最後にパァァっと思いっきりアホやったるねん。
 彼女の愛読する某スポーツ新聞の見出しのような思いを込めて企画したのが、こ
の聖ペン探しだった。見つかるとかそれを得てどうするとかは深く考えていない。
ただ、楽しめればそれでいい。
 十年二十年後にこんなことがあったね楽しかったよねと笑いあえればそれでいい
と思っていたのに、何故こんなことになったのだろう。
「いつもの無計画が原因だと思います」
「そーよ! そーよ! 責任取りなさいよーっ!」
 でも物事に不確定要素はつきもの。むしろ先などわからないからこそ面白い。
「誤魔化さないでください」
「第一こんなとここなくったって、良かったじゃないよ」
 彼女たち二人もきっといつかはウチに感謝する日が来るに違いないのだ。
「大体、パンダはねえ……」
「もう子供ではないのですから……」
「ええーい、うっさいわ! 過ぎたことをぐだぐだと! あんたらそれでも一端の
同人女かいなっ!」
 唸るハリセンが二人の脳天を見舞う。既にハリボテの腕は破けていた。
「あにすんのよーっ!」
「うっさいうっさいうっさいわ! 十年後ウチに感謝するんやから素直に喜ばんか
いっ!」
「……詠美さん」
「えーいっ!」
 暴君イナガワユウの所業に憤った二人は互いに拳を固め、彼女の頭を敷地一帯に
鳴り響くほど音高く殴った。
「なにするんやーっ!」
「こっちの台詞よっ!」
「ファットっ」
「なに一人逃げてるねんっ!」
「ひとごとみたいでムカつくーっ!」
 肉体的精神的疲労を極めた三人の前に結束の文字はない。
 苛立ちも最高潮。
 空中分解も間近というところで、三人だけのバトルロワイヤルが繰り広げられて
いると、


「にゃはははは☆」


 そんな明るい笑い声が聞こえてきた。
 三度続けば詠美達もそれほど敏捷にはならない。
 それぞれがそれぞれを掴み合う手を離し、もの煩げに顔を上げて、自分たちの前
に現れた人影を見た。


「あいかわらず、キミたちは楽しそうだねー☆ でもさあ、いい加減いつも通りの
面子でつるんでて飽きてこない?」


 門を潜った先、寺の敷地内の中央に顔まですっぽりと隠れたフード付きマントを
着込んだ声からして女性が寺を背に三人の前に立ちふさがっていた。
「むきーっ! 誰よ!」
「まるでウチが詠美や彩みたいに他に交友関係が持ってないみたいな言い様やな」
「わ、わたしだって詠美さんよりは……」
 ボソリと彩が問題発言をしたことで、動揺する二人。
「え、ホンマかいなっ?」
「ちょ……そんなの聞いてないわよ! いつの話よーっ」
 両側から詰め寄られながらも、彩は指折るようにして名前を挙げていく。
「か、彼方ちゃんでしょう。それに芽依子様にしぐれさん、あとあと……」
「いや、それアンタやないし」
「……あ、あんまんっ」
「今更趣旨変えされても」
「にゃははは♪ でもね……しかし、貴様らの命運もここまで!」
 揉める三人にも動ぜず、その女はそう言ってフードを脱いだ。
「……私自ら、貴様らを葬ってくれるっ!」
 マントを手で払う仕草をしつつバサリと大仰にわざとらしい台詞を吐くと、
「この、蒼きガッシュこと芳賀玲子の手によって! ね!」
 目の前の三人を指差した。
 それに対して、


「「「誰?」」」


 と、全く同時に尋ねる三人だった。

  
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