インターネットから得た情報によると、手にした者に未来永劫語り継がれる
話を書く才能を与える聖なるペンとやらは、F県、T県、G県の三つの県の県
境にある、小林寺という名の古い寺に奉納されているらしい。
そこで由宇、詠美、彩の三人は、地図を頼りに電車を乗り継ぎ、小林寺の最
寄り駅とされるローカル線の駅に、都内から数時間かけて辿り着いた。
「しっかし、辺鄙な場所やなぁ…」
ホームに立ち、深呼吸をしつつ大きく伸びをし、周囲を見回しながら由宇が
言った。
その駅は単線用のホームしかなく、改札も無人だった。
また駅自体、ろくな手入れもされていないのであろう。
ホームのコンクリートはひび割れ、雑草が我が物顔で背を伸ばしていた。
建物などは、経年劣化と風雨により激しく傷んでおり、ちょっとの地震で、
簡単に崩れてしまいそうだった。
「あの『ぽっぽや』の駅の方が、まだ立派な感じやで…」
「けど、長閑な場所です…」
ゆっくりと流れゆく風に、はためく髪を押さえつつ、彩が呟く。
彼女の言うように、周囲は小高い山々に囲まれ草と土の匂いに包まれていた。
運良くも、今日は晴れ。
白い雲の浮かんだ青い空には、数羽の猛禽らしき鳥の影が見えた。
「しかし、あれよねー」
暫くはしんみりと旅情に浸っていた由宇と彩だったが、詠美の発した言葉に
意識を現実へ戻す。
「こうしてるとさ、なんかロープレっぽくない? 秘密のマジックアイテムを
求めて、人外未踏の場所へ行く…みたいな」
「はは、確かにな」と笑う由宇。
「ウチらが探してるのは、アンタのゆぅ通りのマジックアイテムや。それに三
人って人数も、ロープレのパーティーっぽいしな」
「じゃあ、わたしはムーンブルクの王女で」
「お? ほなら、ウチはローレシアの王子役や」
「なら、この詠美ちゃん様はサマルトリアの王子ね…って、なんであたしがあ
んな半端者なのよっ!」
「ええやん。剣も魔法も中途半端って辺り、あんたらしいやん」
「むきーっ!」
「でも、『はかいのつるぎ』と『はやぶさのけん』を組み合わせた裏技を使え
ば、物凄く使えるキャラに…」
「そうよ、そうっ! 彩、あんた今、すっごくいいこと言った!」
「せやけど、とどのつまりはメガンテ要員やな、ケケケ」
「おのれパンダーっ!」
などと、三人がいつもの調子で軽口を叩き合っていると、不意に彩がなにか
を思い出したように、「あっ」と手を叩いた。
「そうです、こんなこともあろうかと…」
そして背負っていたリュックを地面に下ろし、中を漁り始める。
「やはり、冒険ファンタジーには危険は付き物。そして、次々と襲い来る脅威
から身を守る装備品も付き物です」
なにやら持論を披露させながらも、リュックを漁る手を休めない彩。
「あ…」
やがてその手が止まると、リュックの中から掌ほどの小物を取りだした。
「なんや、それ?」
「なんかの…ブローチ?」
互いに顔を寄せ合い、まじまじと彩の手にある小物を見る由宇と詠美。
それは、三角形の形状を持ったブローチだった。
中央に大きく、エクスクラメーションマークを象った意匠が施されている。
「Meたんのブローチです」
彩は、そのブローチを詠美の方へ差し出す。
「これを、詠美さんへ」
「え? あたしに? あ、ありがと…」
「着けてみて下さい」
「あ、う、うん…」
彩に言われるまま、胸元にそのブローチを装備する詠美。
┌――――――┐
| アイテム |
| まほう |┌――――┐
|>そうび || ゆう |
| ステータス||>えいみ|┌――――――――――┐
└――――――┘| あや || |
└――――┘|>Meたんのブローチ|
| |
└――――――――――┘
┌――――えいみ――――┐┌―――――――――――┐
| どうじんさっか || ちから: 9|
| せいべつ:おんな || すばやさ: 27|
| レベル: 21 || たいりょく: 21|
| HP:119 || かしこさ: 5|
| MP: 37 || うんのよさ: 6|
└―――――――――――┘| ドジっぷり:255|
┌―――――――――――┐| さいだいHP:119|
|E ちゃんさまのペン || さいだいMP: 37|
|E ちゃんさまのふく || こうげき力: 27|
|E ちゃんさまのくつ || しゅび力: 25|
|E Meたんのブローチ||Ex: 258367|
└―――――――――――┘└―――――――――――┘
えいみは、Meたんのブローチをそうびした!
ドジっぷりが255になった!
「わっ、なんだか良く判らないけど、変わった気がする! なんて言うのかな、
こう身体の奥から沸き上がる物が、沸々と…きゃっ!」
えいみは、なにもないところでいきなりコケた!
次いで彩は、リュックの中から髪飾りを取りだした。
『XP』というアルファベットを象った物だ。
「わたしは、これです…」
┌――――――┐
| アイテム |
| まほう |┌――――┐
|>そうび || ゆう |
| ステータス|| えいみ|┌――――――――――┐
└――――――┘|>あや || |
└――――┘|>XPたんのかみどめ|
| |
└――――――――――┘
┌――――あ や――――┐┌―――――――――――┐
| どうじんさっか || ちから: 8|
| せいべつ:おんな || すばやさ: 15|
| レベル: 17 || たいりょく: 12|
| HP: 99 || かしこさ: 22|
| MP:128 || うんのよさ: 18|
└―――――――――――┘| バストサイズ:512|
┌―――――――――――┐| さいだいHP: 99|
|E がざいやのはたき || さいだいMP:128|
|E がざいやのエプロン|| こうげき力: 20|
|E ロングブーツ || しゅび力: 19|
|E XPたんのかみどめ||Ex: 199999|
└―――――――――――┘└―――――――――――┘
あやは、XPたんのかみどめをそうびした!
バストサイズが、512MB(メガバスト)になった!
「うっとりです…」
どういう原理なのか良く判らないが、大きくなった胸元を撫でながら、彩が
熱っぽく呟く。
「おおっ、なんや知らんけど、楽しそうやんか! な、な、ウチは? ウチの
はどんなのがあるんや?」
プレゼントを見せびらかされた子供のように目を輝かせながら、由宇は彩に
おねだりをする。
「えっと、由宇さんのは…あ、これです…」
そう言って彩はリュックの中から、折り畳んだダンボールの束を取り出した。
どうやって小さなリュックに詰め込んだのか、全く持って判らない大きさの
ダンボールだった。
果たして彩のリュックサックの中は、四次元空間にでも繋がっているのだろ
うか。
「玲子さん達に協力してもらって作りました。…はい」
折られたダンボールを元に戻しながら、彩は由宇へそれを手渡す。
┌――――――┐
| アイテム |
| まほう |┌――――┐
|>そうび ||>ゆう |
| ステータス|| えいみ|┌――――――――――┐
└――――――┘| あや || |
└――――┘|>98たんのハリボテ|
| |
└――――――――――┘
┌――――ゆ う――――┐┌―――――――――――┐
| どうじんさっか || ちから: 13|
| せいべつ:おんな || すばやさ: 21|
| レベル: 22 || たいりょく: 23|
| HP:179 || かしこさ: 17|
| MP: 52 || うんのよさ: 5|
└―――――――――――┘| かんさいべん:255|
┌―――――――――――┐| さいだいHP:179|
|E ハリセン || さいだいMP: 52|
|E 98たんのハリボテ|| こうげき力:109|
|E なにわのくつ || しゅび力: 45|
|E まるめがね ||Ex: 345987|
└―――――――――――┘└―――――――――――┘
ゆうは、98たんのハリボテをそうびした!
しかし、なにもおこらなかった!
「ちゃんと、頭の部分もバイザーっぽく開閉するようなギミックにしてみまし
た」
「わー、ほんまやー、カパカパ開いて楽しいわー…って、なんでウチだけ色モ
ノ扱いやねん! …ったく、こんなもん、着てられっかぁぁぁぁぁっ!」
由宇はダンボールでできたハリボテを脱ぐと、地面に叩きつけるように捨て
た。
すると、彩の表情が今にも泣き出しそうな物へと変化する。
「せっかく、頑張って作ってきたのに…」
じわり、と目尻に浮かぶ涙。
「え? あ、彩?」
これには、さすがの由宇も狼狽した。
「ちょっとパンダっ! いくらなんでもやり過ぎでしょ!」
「ぐ…せ、せやけど、これは…やっぱし…なあ?」
「いいから、着てあげなさいよ! いいじゃないのよ、着るくらい! それと
もなに? パンダってばそんなこともできないほど土俵の狭い人間だったの?」
「あーはいはい、判った判った…ったく、もう…。ちなみに、それを言うなら
土俵やのうて度量やからな」
詠美に肘で小突かれながら、今し方自分が叩き捨てたハリボテを、ブツブツ
言いながらも再度身に纏う由宇。
「や、やー、なんや? 意外と身体にフィットしてて、着心地ええやんかー。
あ、ありがとな、彩」
わざとらしい言い回しで、彩の機嫌を取るハリボテの由宇。
「気に入っていただけましたか?」
見る見るうちに、彩の表情に笑顔が戻る。
「ああ、蝶サイコーやで、あはっ…あははは…」
「じゃあ、今日はこのままずっと装備していてくださいね」
「え゛っ!」
由宇の笑顔が凍り付く。
「勿論、家に帰るときまでです」
「あ、彩たん? それは…さすがに…なぁ…」
「駄目なんですか…」
再び、彩の顔が泣き崩れそうになる。
「あー、あーっ! 判った、判ったちゅうに。…ったく、このまま着てればえ
えんやろ?」
「はいっ!」
「くぅぅぅぅぅ…ウチのイメージが…」
結局、由宇が半ば自棄気味に折れる形で落ち着いた。