一人でいるわけ 〜柏木 千鶴〜 |
憎まれ役。 敵役。 そんな風に呼ばれても、影でいい役で活躍すれば人は喜ぶ。 想いを隠して。 大事なものに殉じて。 大儀のために。 他の人のために。 皆のために。 その人のために。 自分の本当の気持ちじゃないから。 そう言えば、同情される。 私は鬼を退治した。 二匹の鬼を。 人を殺した。 二人の人間を。 他の人を殺すから殺した。 人という枠組みの維持のために。 大義名分が空々しい。 これ以上、見ていられなくなったから殺した。 愛しい人故にと悲しみを堪える。 流す涙が冷たくて、寒い。 誤解。 仕方がないことだ。 誤解しない方が、おかしい。 納得したじゃない。 そう、思う。 本当に自分じゃないと思ったら、もっと否定するはず。 やましい気持ちが、自分でも疑う気持ちがあったから……。 私が言いくるめた。 自分で殺すことに快感を覚えていた私に、彼は殺された。 もっと、深く考えていれば。 自分に酔った私によって、彼は言いくるめられた。 自惚れ。 私だから殺されてくれたという自惚れ。 ゆっくりと倒れていく彼。 落ちていく彼。 誰かが、走る。 飛び込む。 その間、私は自分に酔っていた。 死んだ彼。 必死に介抱する妹。 見つめる私。 破綻は覚悟していた。 満足だったから。 満たされた気分になっていたから。 自分に酔いながら。 続く殺人。 真犯人。 私はもう一人、人を殺した。 間違いに気付き、騒然とした。 だけど、何故か後悔できなかった。 気付いたら、一人でいた。 いつでも、一人になった。 私の胸の中に、彼は住んでくれなかった。 仕方がない、こと。 私は泣けなかった。 だから、いつでも笑うことにした。 笑うことが出来た。 楽しくて、笑った。 自分の笑いこそ、自分が嗤われている時だから。 一人になれて良かったと、その時に思った。 会長室の時計を見る。 そろそろ、腰を上げよう。 ヒールとしての自分に満足してしまった私に、笑顔は似合う。 そのくせ、どこかいい人であろうと藻掻いていたが。 用意して貰っていた花束を持って、電話を取った。 ……墓参りに行くために。 ▲ |