自嘲することで支える自分 〜柏木 梓〜 |
通い慣れたお寺へと足を運ぶ。 顔合わせをするために。 そこには現実を忘れたがって、夢想に走りたがる人達がいた。 その惨めな人間達が、一年だけ、顔を合わせる。 一度だって、変わらない。 顔形、姿形、そんな外見から……内側まで。 全く、変わらない。 不気味な、生き物が集まる。 始まりの場所へと。 自分自身、流されて、生きているだけだった。 そこには目的も、意義も見いだせないでいた。 ただただ、嫌いを連発するだけで、 何もできないでいる自分を憎みながら、他人を羨望して過ごすだけの毎日。 そこには悲劇を演じている自分がいた。 大好きな人を失って泣いている。 大切な人を欠いて茫然自失に陥っている。 大きいことだった。 大きくて、大きくて……押し潰された。 しかし、本当の自分はここにいる。 平然と、ここにいる。 逃げることもなく、 ただここにいる。 月日が流れる。 月日だけが、動いてくれる。 未だに自分では抜け殻を引きずっている気分でいる。 ただ、きっかけを失っているだけ。 戻るきっかけ。 そう、引きずっていない。 ただ単に、放棄するきっかけを見つけただけ。 それに甘えて、縋って、演じて見せているだけ。 自分を捨てたくなる大勢の人間の一人に過ぎない。 理由を見つけた幸運な一人に過ぎない。 だからこそ、一生演じ続けなくてはいけない。 悲劇を、演じ続けることを。 好きな人がいた。 そのことだけに、没頭したくて足掻いていた。 しがらみも振り解けず、振り解こうともしないで、 目先のゴールを目指して走り続けていた。 失って哀しんだ。 泣いた。 喚いた。 ……急に、醒めた。 徐々にぬくもりが消えていくその横で、醒めていく自分がいる。 自分の体温も抜けていく気分になる。 誰かが嗤った気がする。 その場に立ち尽くした姉だったのか、 消えゆく従兄だったのか、 自分自身の内だったのか、 嗤われ続ける自分がいた。 その時から、あたしは演技を始めることになった。 気怠くて、退屈な役者に……あたしはなっていた。 ▲ |