『裏 With you 〜気付かぬ視線〜』


序章  動き出す視線


氷川菜織シナリオで話は進行しています。 尚、オリキャラとの話なので嫌な方はお戻りください。

05/13 (Wed)

 ここはSt.エルシア学園図書館。
 既に一日の全ての授業が終わり、帰宅部の生徒達はあらかた帰ってしまった頃の時
間、本の整理をしている最中だった図書委員の伊藤乃絵美の元に、のんびりとした雰
囲気の男子生徒が入ってくる。
「やぁ、乃絵美ちゃん」
「あ、真田先輩」
「確か昨日、返却予定だった‥‥」
「はい。前、言っていた本ですね。返ってきていますから、ちょっと待ってて下さい
ね」
「あ、いいよ。自分で取るから‥‥」
「いいえ。奥に取りのけてありますから‥‥」
「あ、そう‥‥」
 その男子生徒は、やることがなくなったように伸ばした手を仕方なく、頬にやって
照れ隠しのように軽く指で掻く仕草をする。

「はい。これですね‥‥」

 まだ未整理の本がダンボールに入ったまま山積みされている奥の小部屋から、乃絵
美はやや大きめのA4のファイルサイズの本を持ってきて、その男子生徒に手渡す。

「ありがとう。すまないね‥‥」
 そう言って受け取るとその男子生徒は手慣れた手つきで厚めの表紙を捲り、パラパ
ラと中身を捲って確認してから、改めて乃絵美に笑顔を向ける。
「そんな‥‥あ、図書カードに名前書くの、忘れないで下さいね」
「おっとと‥‥そうだった‥‥何か書く物、持ってる?」
 指を意味も無く動かしてから、テーブルを見渡すが筆記用具らしきものはない。
「あ、これを‥‥」
 乃絵美は自分がさっきまで使っていた熊のキャップのシャープペンをその男子生徒
にキチンとペン先を自分の方に向けて差し出す。
「ありがと‥‥可愛い趣味だね」
「あ、その‥‥これはお兄ちゃんから貰ったものだから‥‥」
 その言葉に、微かに照れたように乃絵美が答える。
「ふぅん‥‥よし、と。はい、ありがとう」
 男子生徒も図書カードに名前を書いて乃絵美に自分の方にペン先を向けたシャープ
ペンと一緒に手渡す。
「は、はい‥‥ご利用、ありがとうございました」
「はは、まるでウエイトレスみたいだね‥‥と、また、来るよ‥‥」


 持ち辛いその本を小脇に抱えて、反対側の手で軽く手を振ってその男子生徒は、乃
絵美がペコンとお辞儀をする図書室を出ていった。





「染みついちゃってるの‥‥かな?」




‥‥‥To be Continued   


 次回予告



 平凡な毎日。
 そんな退屈な日々がずっと続くと思っていた。

 変わらない関係と共に。

 でも、同じ日が一日たりともないように、
 あたいたちの世界も少しずつ、ゆっくりと歩みだしていた。


 次回、『裏 With You』
第1章


穏やかな関係
「おめえはずっと‥‥そのままでいるつもりなのか‥‥?」
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