《いつかきくこえ》


「助けられない人がいるのは不公平? 違うだろう。助けられなかった者から生き残った者が恨まれるのが嫌なだけじゃないのか。自分がそう思われているように。全員救ってしまえば生き残った人を憎む者は出ない。それだけだろう? 酷い―――エゴじゃないか」
 身勝手な感想を漏らしている。
 俺の誓いを、想いをただそれだけで無残に斬り捨てる。
 それは遂、最近聞いたばかりの声。
 聞き覚えのある声。
 思い出せない声。
 奥底に巣食った声。
 愉悦の混じった声。
 蔑みの篭もった声。
 そして少しだけ優しい声。

「したいなら、したいって言えばまだ筋は通るじゃないか。しなくちゃいけないなんて誤魔化そうとするから自分一人しか納得の出来ない話になる。俺がそうありたいと、そうなりたいと望んでいることを望んだままにすればまだ話は少し簡単になるのに」
 それは違う。
 それは認められない。
「正義の味方にならなくてはいけない―――わけじゃないだろう? 正義の味方になりたいのだろう」
 それとこれとはまた話は異なる。
「嘘でも仮でも死者の為を謳うなら、せめて枷じゃなくて力にすれば良かったのに」
 勝手に俺をわかったようなことを言うな。
 お前にそれを語られることなんかおかしい。
 違うだろ、それは。
「だから、お前は繋げる手を繋ぐべきだろう」
 はあ? どうしてそんな話に―――

 果たすべきことがあるなら、
 目指すべきものがあるなら、
 使えるものは使う方が―――

「それは……違うっ。それは俺のじゃ……ない」
 反論しようとするも声は届かない。
 一方通行。
 押し付けられるだけ。
 毎晩毎晩。
 その重苦しさに呻きながら、意識が遠のいていくのが分かった。
 違う。逆だ。覚醒しようとしている。今の記憶と引き換えに。
 起こすことで、夢を見ていたことすら綺麗さっぱり忘れさせようとしている。
 くそ………。
 抵抗しようにも体が動かない。夢の中だとわかっているとはいえ、体の自由を奪われているという不快感はぬぐいきれない。
 露骨になっていくのは余裕がないのではない。
 これは人の話し方を知らない。
「そう、人との話し方なんて知らない。大概言葉は一方的に告げるものか、受けるもの。交し合うことなんか殆どなかった。たまにあるのは腹の探り合い。裏を読むことばかりに頭がいって、語ることそのものを大事にしたことがない」
 だから話が成り立たない。
 どれだけ繰り返そうとも、どれだけ続けようとも。
 俺一人、言葉で調伏なんかできやしない。
 押し付けの言葉は、根っこまでは届かない。
 だから苦しみだけで終わる。
 悩むだけで終わる。
 反発することで、繰り返される。
 おわらないもの
 おわらないもの
 おわらないもの
 おわらないもの

 途切れた直後、割って入る声。
 隙間を縫うようにして、微かに触れるように届く。





 だからこそ、そろそろ気付いても良さそうだと思わない?
 アンタはそんな口先よりも、大事なことを知ってたじゃないの。





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