もらとり庵 ゲストの小説

「退屈なロジック」Chapter-6:いたずら

by 久々野 彰

 今日は研究所の皆様に連れられて海に来ています。
 表向きは私の海水などの耐久テストの実地となっていますが、実際海に着いてみると各々のはしゃぎっぷりから察するに、あまり私は相手されていないように感じるのは客観的に見られての結果でしょうか。


「真夏だ」
「――はい」
「と、なると海だよな」
「――そうなのですか?」
「常識だ。覚えておくように」
「――はい」


 と、今、私の隣にいる発案者を除いては、ですが・・・。


「日頃、室内に籠もりっきりだからな。たまにはこうした息抜きも必要だよな」


 私の怪訝な視線に――私自身は自覚がないのですが――まるで言い訳でもするように、付け加えたところを見ると、やはり私をダシに遊びに来たと考えるのが、正しいのではないでしょうか。

 確かに見ると、あまり健康美とは無縁そうな研究所の皆様の身体には、多少の直射日光が必要な気もしないでもありません。


 ――人間もまた、陽の元に生きるものであるのですから。


 そう考えていたら、不意に呼び掛けられます。

「わざわざ見繕っただけあって、なかなか似合ってるじゃないか」

 どうやら、私の水着についての発言のようです。


 白のワンピース。
 別段、変わったものでもなく、単純なものです。
 露出度も別段、高くはないと思うのですが・・・。


 …そう言えば出発前・・・。


「ひょっとして、セリオの水着の姿が見たくて企画したのかな?」
「またまた、そーゆーこと言うかな・・・長瀬主任じゃあるまいし・・・元体育会系の血が騒いだと考えられない?」
「貴方が?。ご冗談・・・」
「実は君の水着姿が見たくて・・・」
「コラコラ・・・」



 そんな研究所内での会話を思い出していると、ポンと私の肩を叩きました。

「じゃあ、早速競争だ」
「――・・・・?」
「だから、競争だって。泳ぎに来たんだから。他は兎も角、君と僕は」
「――・・・・・・・??」
「防水のテストは皮膚レベルで十二分にしているから、泳ぎ自体のテストはまだまだ不十分だろ?。あのブイの辺でターンしてここまで泳いで戻ってくる。ざっと200mぐらい・・・かな?」

 尤もらしく、ボールペン片手にバインダーに挟んだ書類を持ち、科学者らしく説明してきましたが、その本心はわかりません。


 ですが言い分に従い、共に泳ぐことになりました。
 別に競争には意味はないと思うのですが、折角の提案ですので、従うことにしました。





 必死に泳いでいるようでしたが、やはりプログラムされた私の泳ぎの方が早いらしく、私が泳ぎ切った時にはまだ半ばみたいです。


 …当たり前と言えば、当然の結果なのでしょうが・・・。


 仕方がないので、私は海岸にあがって待つことにしました。


 その時、

 …なっ・・・・・
 …うおぉぉ・・・
 …おいおい・・・
 …まぁ・・・・・

 競争を始める前まで浴びなかった周囲の注目を何故か浴びています。
 と、言っても研究所の皆さんしかいないのですが。


 …何故なのでしょう?


 その私の疑問に、慌てて駆けてきた、あの軽口を叩き合っていた女性の研究員の方が答えてくれました。

「セリオっ!!。透けてるわよっ!!」


 こっちに泳いでくるあの方は笑っているように見えるのは、私の錯覚ではないでしょう。


 …こういう時、どう反応するのが適切なのでしょうか?


 即座に対応出来ず、何だか少しだけ悔しい気分になってしまいました。
 不思議に思わないだけ、成長したと言えるのかも知れませんが。


<完>





初出:1998年08月10日(月)


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Last Update : 2000/08/24