もらとり庵 ゲストの小説

「退屈なロジック」Chapter-5:生まれし意味 与えられし役目

by 久々野 彰

 今、私はご先祖様と向き合っています。


 ネジを巻き、机の上に置きます。
 すると――


 規則正しく両足を動かし、前進していくご先祖様。
 その自分の与えられた役目を、迷い無く果たしていらっしゃいます。


 その歩みは机の端まで進み、足場が無くなって落下しかかろうとも、止めることはありませんでした。

 慌てて受け止めた私の手の中で、ご先祖様は相変わらず、両足を動かしていらっしゃいます。
 でも、しだいにその動きは遅くなり、動くのを止めてしまわれました。


 ご先祖様は歩くだけの為、生まれたようです。
 ただ動くことで、人を歓ばせることをしてきたそうです。
 自分に出来る唯一の機能を駆使して。

 ――ただ、それがご先祖様の望んだ結果かどうかはわかりませんが。


 私も人を歓ばす為に作られました。

 私はその与えられた機能を駆使して、人をどれだけ歓ばせる事が出来るのでしょうか。

 歩くことだけを目的とし、それを果たす事で人を歓ばす事を成し遂げたご先祖様。


 私はそれを誇らしく思うべきなのでしょうか。
 哀しみを覚えるべきなのでしょうか。


 再びネジを巻き、床に置きます。
 先ほどまで全く動くことをしなかったご先祖様は、きびきびと動き出します。


 休むことなく、
 ただ、前だけを。


 それを見ていた私は羨ましいような気分を覚えました。
 今、この気持ちをそう呼ぶのなら。


<完>





初出:1998年07月13日(月)


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Last Update : 2000/08/24