by 久々野 彰
今、私はご先祖様と向き合っています。
ネジを巻き、机の上に置きます。
すると――
規則正しく両足を動かし、前進していくご先祖様。
その自分の与えられた役目を、迷い無く果たしていらっしゃいます。
その歩みは机の端まで進み、足場が無くなって落下しかかろうとも、止めることはありませんでした。
慌てて受け止めた私の手の中で、ご先祖様は相変わらず、両足を動かしていらっしゃいます。
でも、しだいにその動きは遅くなり、動くのを止めてしまわれました。
ご先祖様は歩くだけの為、生まれたようです。
ただ動くことで、人を歓ばせることをしてきたそうです。
自分に出来る唯一の機能を駆使して。
――ただ、それがご先祖様の望んだ結果かどうかはわかりませんが。
私も人を歓ばす為に作られました。
私はその与えられた機能を駆使して、人をどれだけ歓ばせる事が出来るのでしょうか。
歩くことだけを目的とし、それを果たす事で人を歓ばす事を成し遂げたご先祖様。
私はそれを誇らしく思うべきなのでしょうか。
哀しみを覚えるべきなのでしょうか。
再びネジを巻き、床に置きます。
先ほどまで全く動くことをしなかったご先祖様は、きびきびと動き出します。
休むことなく、
ただ、前だけを。
それを見ていた私は羨ましいような気分を覚えました。
今、この気持ちをそう呼ぶのなら。
<完>
初出:1998年07月13日(月)