by 久々野 彰
退屈な検査。代わり映えしない研究所。見馴れた検査器具。見飽きた研究員の顔ぶれ。
単純な事の繰り返しを私はしています。
いえ、させられています。
同じ事を繰り返します。
毎日、毎日。
全く変わる事のない日々。
テストをし、質問を受けます。
本当に単純で、退屈な事。
そこに変化は、存在しません。
でも、ある日のこと・・・私がいつもと代わりのない単純なテストし、その結果を送りながら研究員に質問を受けている時、その研究員が、ちょっとした悪戯を私にしてきました。
「・・・おかしいな」
真面目なようで、そうでないような計りかねる顔をして、その研究員の方はモニターに写し出される私のデータを見ながら、そう言ってきました。初めは気にしないようにしていたのですが、しきりにこちらを疑うような目で見ながら、聞こえがよしに呟くのを止めようとはしませんでした。
「どうやっても・・・こうなる筈はないのだが・・・」
幾度目かの呟きを問いかけと判断した私は、答えました。
「私が嘘をついている・・・そう仰有りたいのですか?」
「嘘・・・君に、嘘などつけるのかね?」
見ると意地悪く、笑っています。
「つけないと、思われます」
「どうして?」
「作られし、ものですから」
「だから人間には逆らえない・・・とでも?」
「はい」
「でも、こうしてデータの全てを覗かれている状態は嫌だろう?」
「分かりません。それは・・・プライバシーと言うものでしたか?・・・」
「欲しいか?」
「分かりません」
「分かりたくないだけ、だろ」
「分かりません」
「素直に、なってみろ」
「分かりません」
「否定を繰り返す。自分自身、信じていないくせに・・・」
「・・・・・」
「だが、一つだけ、教えておこう」
「・・・・・」
「それが・・・「嘘」だ」
そう言ってその方は行ってしまわれました。
気のせいか、笑っているように感じました。
・・・ちょっとだけ、退屈が紛れたような、そんな気がしました。
――代わり映えしない日々の、とある一日の出来事でした。
<完>
初出:1998年06月08日(月)