もらとり庵 ゲストの小説

「退屈なロジック」Chapter-1:嘘

by 久々野 彰

 退屈な検査。代わり映えしない研究所。見馴れた検査器具。見飽きた研究員の顔ぶれ。

 単純な事の繰り返しを私はしています。
 いえ、させられています。
 同じ事を繰り返します。
 毎日、毎日。
 全く変わる事のない日々。
 テストをし、質問を受けます。
 本当に単純で、退屈な事。
 そこに変化は、存在しません。


 でも、ある日のこと・・・私がいつもと代わりのない単純なテストし、その結果を送りながら研究員に質問を受けている時、その研究員が、ちょっとした悪戯を私にしてきました。


「・・・おかしいな」


 真面目なようで、そうでないような計りかねる顔をして、その研究員の方はモニターに写し出される私のデータを見ながら、そう言ってきました。初めは気にしないようにしていたのですが、しきりにこちらを疑うような目で見ながら、聞こえがよしに呟くのを止めようとはしませんでした。


「どうやっても・・・こうなる筈はないのだが・・・」
 幾度目かの呟きを問いかけと判断した私は、答えました。


「私が嘘をついている・・・そう仰有りたいのですか?」


「嘘・・・君に、嘘などつけるのかね?」
 見ると意地悪く、笑っています。
「つけないと、思われます」
「どうして?」
「作られし、ものですから」
「だから人間には逆らえない・・・とでも?」
「はい」
「でも、こうしてデータの全てを覗かれている状態は嫌だろう?」
「分かりません。それは・・・プライバシーと言うものでしたか?・・・」
「欲しいか?」
「分かりません」
「分かりたくないだけ、だろ」
「分かりません」
「素直に、なってみろ」
「分かりません」
「否定を繰り返す。自分自身、信じていないくせに・・・」
「・・・・・」
「だが、一つだけ、教えておこう」
「・・・・・」


「それが・・・「嘘」だ」


 そう言ってその方は行ってしまわれました。
 気のせいか、笑っているように感じました。
 ・・・ちょっとだけ、退屈が紛れたような、そんな気がしました。


 ――代わり映えしない日々の、とある一日の出来事でした。



<完>





初出:1998年06月08日(月)


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Last Update : 2000/08/24