08/30 (Sun)
「昨日は悪かったね」
冴子の部屋の壁に貼り付けられているカレンダーを見て、知章が冴子に聞く。右手
にはさっき、冴子の祖母からおやつとして差し入れられた西瓜がある。
当の祖母は午前中から遠出していた。
「何を今更‥‥」
冴子は顔も上げずに、素っ気ない返事を返す。
この日、冴子は残り溜まっている宿題を、知章にノートを持ってきてもらったのを
幸いに見ながらずっと必死に写していた。
知章は床の畳の上に座ったまま西瓜を食べている自分と、自分の机の上で必死に写
している冴子を見比べて、
「いや‥‥何かさ‥‥」
と、溜息をつく。
「別に今更どうって事じゃねえだろ‥‥」
そう知章に冴子は手も休めずに言う。
「でも、それにしては‥‥凄い人気だが‥‥」
「言うな‥‥」
知章が横を見ると、部屋の隅に山積みにされたプレゼントが溜まっている。
昨日の29日は冴子の誕生日だった。
普段から友達付き合いが広いタイプではないのだが、高校になってからはファンが
多いのか、友人から以外でもプレゼントを受け取っていた。
既にこれについては昨日の誕生日会の最中、散々に美亜子にからかわれていた。
昨日は美亜子、菜織、それに帰ってきた真奈美、正樹に乃絵美が中心となって冴子
の家で誕生日会が催され、途中でみよかが乱入したりして大騒ぎの中、幕を閉じてい
た。
「しかし‥‥男からのは見事にないな」
「だから言うなって‥‥」
知章は手近にあった箱を1つ持って、包装紙に挟まっているカードの名前の部分を
見て苦笑する。
「昨日はどう? 楽しかったか?」
「いや、散々大騒ぎしただけだ」
昨日のことを思い出して冴子は苦笑を浮かべていた。が、その表情は満更でもなさ
そうだった。
「楽しかったなら、良かった」
「おめえも来られれば良かったのにな‥‥」
「いや、御免御免」
知章は8月の初め頃からずっと父親が居るヨーロッパへ行ってきた。新しく家族に
なるかも知れない人間たちと一緒に過ごすことを余儀なくされた。
その間、色々な出来事が冴子にもあったが、お互い、電話でしか連絡が取りあえず
にいた。
そして今朝、帰ってきたばかりの足で自分の家に荷物だけを置いて冴子の家に知章
はやってきていた。
「しかしまぁ‥‥律義に憶えててくれただけでも嬉しいけどな。疲れてねえか?」
「飛行機の中で寝てたからそんなに疲れなかったけどね」
そう言いながら、知章はポンポンと手で首筋を叩く仕種をする。
「でも、何かいつも以上に部屋が狭く感じるな‥‥」
「ベッドのせいでなくてか?」
そう言って知章は下を向いて、この部屋で一番空間を占拠している自分が座ってい
る腰の下のベッドを見る。
昔ながらの家の作りのせいか、8畳もある部屋だったが、冴子が住むようになって
から畳敷きの部屋の上にピンク色の絨毯が敷かれ、大き目のベッドを初め、洋風に設
え替えられていた。
「婆ちゃんが気を利かせて用意してくれたんだけど‥‥あたいは別に布団の方でも構
わなかったんだけどね‥‥」
「俺も布団でもベッドでもどっちでも構わないけどね‥‥」
そう言って、ベッドの上に腰掛けている身体を揺らす。
「埃が立つから止めろって‥‥」
「でも‥‥昔は、お前の誕生日。人、集まらなかったよなぁ‥‥」
「宿題が溜まってるヤツ、多かったからな‥‥」
冴子は机に向かったまま、やはり顔を上げないで答える。
「親が家から出してくれないとか電話入れてきたり‥‥」
「あたいは、家族の皆が祝ってくれたからな‥‥大して気にしなかったぜ」
「俺は毎回、キチンと来てやってたぞ‥‥」
「おめえは、要領いいからな。真っ先にまとめて片付けてから遊ぶタイプだったし‥
‥」
「で、こうして良く、見せる方だったって訳だ‥‥」
「くうぅぅぅ‥‥」
必死になって、知章のノートを写している冴子が呻く。
「ったく‥‥高校生にもなっても変わらないな‥‥」
「英語の量、半端じゃねぇんだよ‥‥自分でやってて気付いたら間に合わなくなって
てさぁ‥‥」
「電話して「プレゼント、何が欲しい?」って聞いて「宿題の答え」はないだろうが
、普通‥‥」
「いいだろ、別に‥‥あ、ここは? 何も書いてないぞ」
「え?、‥‥ああ。悪い。書き忘れだ」
英訳文の回答欄の空白部分を指差す冴子に、囓り終えた西瓜を皿に置いて覗き込む
知章。
「えっと‥‥「What kind of impertinence this is! A fig for his opinion!」
‥‥「生意気なことをしやがって、あいつの言うことが何だって言うんだ」ってトコ
かな‥‥ちょっとシャーペン借りるぞ‥‥」
「あ、おい‥‥」
立ち上がった知章は脇から手を伸ばして、自分のノートの回答欄部分に、日本語訳
を書き込んでいく。
「‥‥‥‥」
「ん‥‥どうした?」
冴子が回答欄ではなくて、自分の手を見つめていることに気付いた知章が聞くと、
「手‥‥」
「手?」
「大きくなったなって‥‥」
「そりゃ‥‥そこそこにな」
「悪い‥‥何か昔を思いだしちまった‥‥」
感傷的な気分になったらしく照れた顔を向ける冴子に、知章がしれっとした顔で言
ってのけるが、
「お前の胸よりは成長したって‥‥んぐっ!!」
「余計なお世話だ‥‥」
「は、はい‥‥痛ぅ‥‥」
すかさず冴子に肘打ちを伸び切っていた鳩尾に喰らって、悶絶する。
「ふぅ〜‥‥やっと片づいたぁ‥‥」
シャーペンを放り出すようにして、両手をあげて冴子が大きく伸びをする。
「他の科目は片付けてるんだろうな?」
ドアの前で腕組みしながら寄りかかるようにして立っている知章が聞くと、
「そこまで抜けてないって‥‥あ、ノート‥‥サンキュ。一番嬉しいプレゼントだっ
たぜ」
「へーへー‥‥」
笑顔の冴子からノートを受け取ると、知章は床に置いてあった自分の鞄にしまう。
「さて‥‥これからどうする? 婆ちゃんはまだ、帰らないし‥‥何処か出るなら書
き置きしておかないと‥‥」
そう言いかける冴子に、知章は部屋のドアを開けて外から包みを取ってきて、
「ほらっ‥‥」
と、投げ渡す。
「へ?」
椅子に座ったまま、そちらを向いていた冴子は、反射的に受け取って膝の上に乗せ
る。
「何? ヨーロッパ土産か?」
「‥‥プレゼント」
「誰の?」
「お前の」
キョトンとした表情を見せる冴子。
「そりゃそうだろうけど‥‥誰からのだ?」
「俺からのだ」
「あ、え‥‥?」
驚いたような顔をする冴子に、
「お前‥‥俺が本気でノート貸すだけで済ますと思ってたのか?」
知章が苦笑いを浮かべる。
「あ、はは‥‥わ、悪いな、気を使わせて‥‥」
ようやく理解して、冴子は表情を和らげて照れる。
「ちぇ‥‥あげ甲斐がないなぁ‥‥」
そう言いながらも、どこか楽しそうに笑う知章。
「えーと‥‥何だ?」
誤魔化すように呟きながら椅子から立ち上がって、その包みを机に置いて引き出し
を開けて鋏を探そうとする冴子に、知章は後ろから近付く。
「そう言うヤツには‥‥」
「え?‥‥」
冴子が振り向いた時、知章は冴子の肩を掴んでいた。
そしてそのまま、顔を近付ける。
「え? え?」
「‥‥‥‥」
「な、何だよ。オイ‥‥」
「‥‥‥‥」
「そ、そんな間近で見るなよ‥‥恥ずかしいじゃ‥‥」
「ふぅ‥‥」
知章は暫くじっとその姿勢で冴子を見つめていたが、肩に当てていた手を下ろして
少し離れると、軽く肩をすくめて見せる。
「な、何?」
「やっぱり、こーゆーのは向かないのかなぁ‥‥」
「何がだよ」
「いや、こーゆーこと」
「ん?」
そう言って、知章はもう一度近づくと、今度はそのまま、冴子の唇に自分の唇を押
し当てる。
「ん‥‥あ‥‥?」
知章は軽く触れただけで、唇を放す。
「そ、そのな、何だ。えっと‥‥えっとその‥‥」
「落ち着けって」
「あ、あたい‥‥そ、その‥‥何。何だ‥‥えー、あ、あた‥‥」
「ふふ‥‥」
「こ、心の準‥‥あ!?‥‥」
知章はまるで柔らかい物をそっと掴むように、軽く両腕を回して冴子の身体を抱き
しめる。
「あ‥‥え、えと‥‥」
「ほんの二、三週間だったけど‥‥何か遠く離れた場所に居たら‥‥寂しくなっちゃ
ってね」
首を冴子の肩に乗せるようにしたまま、知章がゆっくりと喋り出す。
「え?」
「何だかさ、別にいつも会う訳でもないのに‥‥何でだか、そう思っちゃって」
「‥‥‥‥」
「だから今日はホッとしたよ」
「え‥‥‥‥」
「でも、こう思うようになったのも‥‥きっと‥‥ここ最近からだと思うんだけどね
‥‥」
「と、知章‥‥」
「何か、弱々しくなっちゃったってことで‥‥」
「ば、馬鹿‥‥」
顔を上げて笑う知章に、冴子は笑い返す。
そしてもう一度、顔が近付いて、
「ん‥‥‥」
今度は目を閉じて、大人しく口づけを受け入れる。
「ん‥‥ん‥‥‥‥ん‥‥‥‥‥‥んん‥‥‥‥‥‥」
暫く唇を合せたまま動かないでいたが、息が続かなくなって、
「っはぁっ!‥‥はぁ‥‥‥‥」
離れた唇から互いの混じり合った唾液が光る。
その互いの表情に気づいたのか、それぞれが顔を見つめ合い、笑みが零れ、笑い声
が漏れる。
「ん‥‥。ん‥‥。ん‥‥。ん‥‥。ん‥‥」
幾度となく口づけを交わす。
何度も。何度も。
肩を押さえつけていた手が、服の上から身体のラインを撫でるようにそって滑る。
「あっ‥‥」
服の上から胸に触る。
薄い生地から、下着の感触が伝わってくる。
「やっ‥‥」
両手を背中に回し、服の中に侵入させると、
「ちょ‥‥ちょっ‥‥」
慌てて、自分の手で侵入を食い止めようとする。
「ん?」
手を止めて、わざとらしく首を傾げてみせる。
「い、いきなり‥‥あ、あた‥‥だからまッ‥‥心の、その‥‥」
「俺も、してなかったけど?」
「う、嘘つ‥‥」
口を唇で塞ぐと、
「っ!?‥‥!!」
そのままベッドに押し倒すと言うより、もつれ合うようにして二人で倒れ込む。
「ベッドで‥‥良かったじゃん」
「‥‥‥‥」
もつれ合ったままの姿勢で、顔を上げて見つめながらそう言うが、気が動転したま
まなのか余裕がないらしく、その口から返事が返ってこない。
ただ、顔をじっと見つめ続けて眼は動かなかった。
安心させるように笑って見せてから、
「ん‥‥」
身体の位置を固定させる意味合いも兼ねて、唇を奪うようにキスをする。
「んふ‥‥ぁ‥‥はぁ‥‥」
ゆっくりとした手つきで上着を捲りあげる。
うっすらと焼けた肌の色が、服を脱ぐと鮮明にわかる。
「‥‥‥‥」
ここまでずっとこちらの顔を見つめ続けていたが、そこで顔を横に背ける。
胸にピッチリとくっついたスポーツブラを両脇から手を差し込むようにして、上へ
とずらしていく。
「ぁ‥‥」
震えた声が、微かに漏れる。
下唇を噛み締めている。
小振りな胸が、白い肌を維持して、目の前に晒される。
なだらかなカーブを指でなぞり、先の突起を軽くつつく。
「ぁぅっ!‥‥」
首を震わせるように動かし、反応してくる。
「冴子‥‥」
そこでようやく名前を呼び、
「マッサージしてやろーか?」
と、そのまま突起を指先で弄くる。
「ば、馬鹿やぁ‥‥‥‥んっ!」
胸の膨らみを十分に手で味わうようにふにふにと揉みしだく。
手で掴むように持ち上げながら、胸に顔を埋めて、その柔らかい肌に軽く歯を立て
て、口に含んだ。
舌でそのつぼみとも呼べそうな程、立っている突起を舐めあげ、つつくように虐め
ながら、むしゃぶりつくように吸い上げる。
「んあっ、ああっあああああああっ!!‥‥吸っ‥‥っ!!」
そのまま貪るように身体に唇を押しつける。
音を立てて吸った後には、いくつかの赤い跡が残されていた。
「ふふ、みよかちゃんの方が上手いかも知れないね」
「ば、馬鹿‥‥‥‥はぁ‥‥ぁっ‥‥」
太股の間に手を置いて、そこからゆっくりと足を開かせる。
「‥‥あ、あたい‥‥その‥‥あっ!!」
唇同士、息が止りそうなくらいに密着して重ね、舌を伸ばす。
震えてると思うと、これ以上延ばせなかった。
キスを終えたとき
潤んだ目がこちらを見つめていた。
不安に揺れている。
濡れた目が
これ以上なく近付いた距離。
今までで一番、近付けた瞬間‥‥。
「あ‥‥あぐっ!‥‥っ!っ!っ!っ!‥‥‥‥ふぅ‥‥はぁ、はぁ‥‥はぁ‥‥」
一度、張りつめた緊張を吐き出すようにしてから、
「あ‥‥い‥‥痛‥‥‥っ!!!」
悲鳴に似たその叫びに二言、三言詫びながらも、一気に押し進む。
「あ、ああっ!、んんっ!!‥‥はっ‥‥はっ‥‥」
裏返る声を聞きながら手で、ゆっくりと境目を撫でた。
既に納まっている。
たっぷりと濡れたっせいもあり、進入はすんなりとを許していた。
が、少し進むとかなりきつく感じる。
ほんの少しの侵入ながら、びくびくと反応し、締め付けられるものを感じる。
「あ、あ、あ‥‥あああっ‥‥あ‥‥あっ‥‥あふっ‥‥」
辛そうに、切なそうに、身体をよじりながら抱きついて来る。その汗ばんだ肌に、
手を添えて、指先を滑らせるように撫でさする。
「どう?」
不安になったのか、小声で聞く。
「う、うん‥‥知章‥‥知章っ‥‥」
名前を、掠れた声で呼びながら、身体を反らせて唇を捕まえてくる。両目からいっ
ぱいの涙が零れていた。
「ん‥‥んふぅん‥‥‥んんっ!!」
手を回してお互いに力一杯抱きしめ合う。
身体と身体の間で、胸の先端の、赤い突起が押し潰されている。
「んあっ‥‥はぁっ‥‥はああっ‥‥‥ああっ!、あっ!、あっ!」
激しくしながら、目の前で揺れている小振りの双房に、何か堪え切れなくなったよ
うにして両手で掴んで、揉みしだく。
浅い膨らみを包むように全体を覆い、そのまま撫で回して、
「ああ‥‥あっ‥‥んっ、んん‥‥くううん!」
舌を伸ばして転がすようにして、先端の突起をなぶる。
動きが激しくなり、無我夢中になる。
「あ、ああっ!、あ、あ、あ‥‥あああっ!」
「ん‥‥うっ‥‥ああ‥‥っ!‥‥」
「あ‥‥んっ‥‥んんっ!!」
「あはぁっ!! ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――っ!!!!!!」
冴子の身体が、一瞬、ぐっと反り返る。
そして、その身体の中に、奥に自分の身体全体をぶつける。
両手に力を込めて、抱きしめながら。
そのまま、冴子に身体を重ねるように、委ねるように横たわった。
そして‥‥
季節は既に冬が近付き始めていた。
陽が落ちるのが早くなり暗くなり始めた時間、校門脇で知章は待ち続けていた。
知章は結局、高校は表向き帰宅部で過ごし、大学から表舞台復帰を目指して走る事
に決めていた。それはかなり難しいことだったが、彼の持つタイムはトップランナー
達に見劣りしないぐらいの自己ベストを取り戻し、日々更新しつつあった。
冴子はハンドボール部というマイナー故に苦しかったみたいだが、何とかスポーツ
推薦を取り付けて同じ大学に入る予定でいる。
お互い、あくまで「予定」でしかないが、今はその「予定」に向けて歩き始めてい
た。
「あ、悪りぃ‥‥遅れちまって‥‥」
急ぐように息を切らせて、冴子が走ってくる。
知章は軽く手をあげて、笑顔を向ける。
そんな二人の関係は、これからもずっと続くことになる‥‥。
‥‥‥Finゥ