戻る。
『不器用者のサンタクロース』



 ――朝、目が覚めました。


 いつもと代わりのない朝です。
 一日たりとも同じ日はないのだろうが、毎日がそれ程違うわけでもないですが。

 冬の季節に相応しく、室内の温度も低く「肌寒い」状態なのでしょう。
 体感温度を持たない私には、酷く曖昧で不確実な言葉ですが。

 私は椅子に座ったまま腕のコードを巻き戻し、卓上に置かれたノートパソコンの電
源を切ります。

 すると不意に、卓上に置かれた包みが視界に入ってきました。

 その包みは赤字に白の水玉模様の包装紙に、薄いピンクのリボンが十字に巻かれ、
蝶結びで結ばれていました。
 そして、白いカードがリボンの隙間に挟まれていました。



 『 Merry Christmas セリオへ サンタクロースより 』



 サンタクロース。
 子供達にプレゼントを送る、実在の人物を元に生み出された架空の人物。


 ――私は、子供ではないのですが……。


 改めて包みの全体を見つめます。
 それ程大きくなく、片手に乗る程度の大きさの箱。
 重さも、それ程重くはないようです。


 ――私は……


 少しだけ躊躇して、リボンを解き、セロテープで止めてあった包装紙を破らないよ
うにして、開いていきました。
 包装紙の中から白い厚紙の箱が現れ、包装紙を折り畳んでから、ゆっくりと蓋を開
けると……

 茶色い、小さな小箱が出てきました。
 飾り気のない、質素なミニチュアの箱です。
 このまま大きくしたら、昔の着物を収納する箱か、船室の隅にあるような無骨な箱
ですが、この大きさだと……流石にそれ程の物は入りません。

 ゆっくりと指で押し広げるようにして、箱の蓋を開けました。

 すると、その途端、音楽が鳴り響いてきました。
 箱は何かを収納するものではなく、その音楽を鳴らす為の器機の器だったようです。
 よく見ると、手に持っている後ろ側に穴が開いていました。この穴からネジを入れ、
巻くことによって曲を流す……


 ……オルゴールでした。


 暫く、私はその曲を聴いていました。
 聞き覚えのある曲でした。

 それは以前、CDで流していた曲でした。
 エンドレスで流れるその曲を聴いていた私に、曲についての感想など、色々と尋ね
てきたことを思い出します。

 この曲の楽譜を見た覚えがあります。
 一ヶ月程前、錐と金属の薄い、小さな板を持ってカバーのついた本を片手に悩んで
いる姿と共に、見覚えがあります。
 私が近づくと、すぐに隠してしまわれましたが。

 繰り返されていたオルゴールの曲が止まっていました。
 小箱と箱に付いていたネジを取り、箱の後ろにある穴にネジを入れて回します。


 ゆっくりと、ゆっくりと


 そして再び、曲の流れ出した箱を机の上に置きます。
 私は暫く、やや辿々しい曲が鳴り響くそのオルゴールを眺めていました。


・
・
・


 私は曲が再び終わったオルゴールの蓋を閉じて立ち上がりました。


 そして、私はいつも通り、朝食の支度をする為に台所へと向かいます。
 そう、いつも通りに。



 ……ただ一つ、いつもと違うこと。



 今日の朝食の相手はいつものマスターではなく、寝たふりの上手いサンタクロース
氏へと変わったことぐらいです。




                           <完>

戻る。