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どうしようもない俺に降りてきた小悪魔
 お前が女性に縁のない成人男性だったとする。  かと言って風俗に向かう度胸、もしくはお金がなかったりする。  口癖と言えば「どっかにヤらせてくれるいー女いねーかなー」  TVの清純派アイドルを見れば「へっ、媚びちゃってやだねぇ」  グラビア系アイドルを見れば「常識も知らない馬鹿女が」  エロゲーやれば「ぜってー、こんな女いないって」  そんなどこにでもいそうな野郎だったとする。  そこ、頷くな。  まだ手を叩くな。  俺を指差すな。  俺は違う、断じて違う。  しっしっ。  前置きはこれぐらいでいい。  そんなお前が夜道を歩いていたとしよう。  仕事帰りでも塾帰りでも部活帰りでも予備校帰りでもバイト帰りでもいい。  恐らく手にはコンビニの袋でも下げているだろう。  中身は夕飯や飲み物、雑誌あたりが入っているものと思われるが、疲れていて重い ものを持つ気はないだろうから、大した物は入っていまい。  とにかく、つまらない時間がやっと過ぎ、くたびれた身体でフラフラと自分の家に 帰ろうとしている。  もう目を瞑っても迷うことがない、通り慣れた道を淡々とお前は歩いている。  週末ならばまた状況も変わってくるだろうが、ここは平日にしておく。  翌日を休日としてしまうと手にするはレンタルビデオの袋になり、缶ビールとつま みが入った袋になり、きっと鼻歌混じりで上機嫌でテコテコと間抜け面をさらしなが ら歩いているので、これから起こる事に対して違った反応を示してしまうかもしれな いからだ。  何はともあれ俺のケースは平日で、このまま明日になんかならなければいいと、代 わり映えのしない日常を呪っていた有り触れた一日だったと記憶しておいて欲しい。  俺は歩きなれた夜道を歩く。  見なれた景色という以前に電灯もロクに設置されていない薄暗い場所を、とぼとぼ としょぼい身なりで早く家に辿りつきたいという思いで先を急ぐ。  アパートまで後少しの路地裏に女が立っていた。  まだ二十歳に届いていなさそうな、少女と呼んで差し支えない年頃の女が一人で立 っている。  上はフード付きのジャケットを着、下は白いフトモモが眩しいショートパンツとい う視聴者への表向きの説明としては健康的、視聴率の話としては魅惑的な姿だった。  それだけだったらば何の事はない。  ちょっぴりドキドキしながらも下手にこっちから関わったり、目を向けてたりした ら変態扱いされたり、蔑まれるような目で見られたりして俺がこっそり護っているピ ュアハートが木っ端微塵に打ち砕かれ、その晩は自分に非はないのにコンチクショウ と咆えながらむかっ腹を抑えきれずに自棄酒に走って明日に差し支えることにならな いように、顔だけ作ってそのまま顔を合わせないようにその前を通りすぎるだけで済 む。  だが、今回は思わず足を止めてしまった。  彼女が首からロープで釣って掲げていた看板に、こんなことが書かれていたから。 『えっちとかできます』  俺はどうしたかって?  それはこれから話す。  自慢話に聞えたら気のせいだ。  絶対に気のせいだ。 「……………」  絶句。  ただただ絶句。  茫然自失。  この世の全てを否定する瞬間。  いや、そこまで言えば言い過ぎだろう。  ドッキリ?  まさか?  こんなところで?  数秒は立ち尽くしていただろう。  少ししてからは目でだけキョロキョロと辺りを見渡していたに違いない。  顔を動かすと、その仕草をTVカメラを通してお茶の間の皆様にお送りされていた りしたら惨め極まりない。  そしてから俺は落ちつかない頭で色々考えた挙句、至極妥当な行動を起こすことに した。  クルリ  そんな擬音が俺の中で聞えてきたようだった。  ものの見事に踵を軸に半回転をして踵を返す。  小学校の頃に教え込まれた「後ろ向き前へ倣え」という訳の判らない号令を思い出 しつつ、あの時から変わっていないステップは我ながら見事だと思いながら、そのま ま早足で来た道を戻る。  遠回りにはなるが、あのまま目の前を通っていくだけの勇気は俺にはない。  君子ではないがみすみす危うきに近寄るほどお人よしでもなければ、こんなところ にチャンスが転がっているというような錯覚を覚えるほど嗅覚も持っていない。  平凡な人間の平凡な判断。  それは平凡な結果をもたらす最善手の筈あった。  平凡な人生を生きてきた身としてはそう実感していた。  途轍もない展開はいらない。  漫画や小説、ゲームの主人公になんかなりたくない。  俺は彼らが持っているようなものを何一つ持っていないから。  だからこれからもまた、平凡な一日を進むことを選んだ。  その筈だった。  だが最初の曲がり角を曲がると、 「――シャチョーサン」 「うわぁっつ!?」  目の前に何かがいた。  何か、ではない。  女がいた。  変な立て札を下げた女。  こんな女は二人といないだろう。  さっきの女に間違いない。 「な、何故?」  いつの間に回りこまれたのだろうか?  RPG並の理不尽さだ。 「え、ええと……」 「シャチョーサン! スケベ、スケベ」  そう言って胸に下げた立て札を持って掲げて見せる。 「誰が社長だっ!!」 「ジョーム? ブチョー?」 「役職じゃねぇ!!」 「ニッポンジン、ヤスクシトクネ」 「だーかーらっ!!」  俺がさらに声を張り上げようとした瞬間、目の前の女の表情が消える。 「――と、このようにどのような外国人の言葉にも対応できます」 「………」  呆気に取られて言葉を失ってしまった。 「外国人?」 「はい」  間違ってる。  絶対に間違ってる。  さて、もう一度落ちつこう、俺。  胸に手を当てて、ゆっくりと深呼吸。  吸って、吐いて。  吐いて、吸って。 「――もっとしっかり触っても良いんですよ………ぁん…あ……ん」 「………」  無言で胸に押しつけられていた手を振り解く。 「やんっ」 「………」 「いけずですね」 「………」 「あのー。もしもし?」  呼びかけを無視して俺は歩き出す。 「ちょっとー」  無視。 「えーとぉ」  無視ったら無視。  そのまま路地裏を出て、いつもの帰り道を俺はゆったりとした足取りで歩く。  できることなら駆け出したかったが、あまりにもそれはみっともない気がして躊躇 った。  後からついてこないかどうか心配だったが、雰囲気からしてついては来ていないよ うだった。  家の近くまで来てからゆっくりと振りかえるが、誰もいなかった。  ホッとして、自分の部屋のあるアパートの前にやってくる。  それでもまだまだ油断は出来ない。  その場に立ち止まって後ろを向いたままじっくりと一分だけ待った。  気配はない。  アパートの周囲を見回す。  特に人が潜んでいるような雰囲気はない。  階段をゆっくりあがる。  俺の部屋は階段のすぐ脇にある。  待ち構えられてもいなかった。  ドアも看板が掛かっているだけで抉じ開けられた形跡もない。  ようやく安堵した。  これで部屋の中にでも侵入されていたら泣くに泣けないが、流石にそこまで悩んで いたらもうどうしようもない。  鍵を取り出して看板が引っ掛けられたノブに鍵をさし込む。  …看板?  そこには短く書いてあった。  さっ見たばかりの文字。 『えっちとかできます』 「――こんばんわ」 「っ――――――――――――っ!!」  俺は声にもできず口をパクパク動かすだけで、突如現れた女に抗議していた。  尻餅をついた格好で。 「な、な、なんで………」 「不法侵入は犯罪行為なのでこうして待ち伏せしておりました」 「待ち伏せって……」 「警戒されていたようですが、何かあったのですか?」 「………」  お前だよ、お前。 「貴方に決めました」 「いやだ」  何をと聞くこともなく首を横に振る。  どんな用件であろうと、嫌だ。  きっとロクなことではない。 「どうしてですか? えっちですよ、えっち」  ドアノブに掛かっていた看板を持って俺に見せる。 「男の人はえっちが好きではないのですか?」 「だからっていきなり何を……」 「判りました。シチュエーションを大事にしたいタイプなのですね」 「は?」 「データにもありました。お任せ下さい」 「へ?」 「――ずっと前から愛してました。好きです。抱いてください」  バタン  取り敢えず鍵と共にチェーンロックもかけておくことにした。 「あの」  ドアの外から声がしたが気にしないことにした。  さっき不法侵入がどうとか言っていたし、まさか破られることはないだろう。 「――何が不満なのでしょうか?」  聞こえない。聞こえない。 「こんな美人な娘さんが自ら進み出てくれるなんてチャンス、そうそうないと思いま すよ」  言うな。 「人のように病気を持っていることもないですし、どんなに下手でも笑ったりもしま せんし」  黙れ。 「もしかしたら………アブノーマル?」  は? 「――そうでしたか……でも、ご安心下さい」  おい。 「この来栖川製のメイドロボットに不可能はないのです! 貴方のどんな趣向にもお 応えできるのがウリです! 眼鏡も持参しております! ショートが好みでしたらこ の自慢の髪もバッサリと切ります!」  あのな。 「ナースでもメイド服でもセーラー、ブレザー、体操着ブルマにスクール水着、婦警 でも女教師でもエプロン一枚でも、男物のTシャツでも、貴方好みの私になり―― 「だぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜っ!! そんな猥褻な言葉を大声で言うなっ!」  しかも俺の部屋のドアの前で!!  ドアを開けて周囲を見渡す。  目の前にはさっきの女が立っていた。  どこの部屋からもドアは開いていなかったがやけに静かなのが気になる。  普通、これだけ騒げば文句の一つや二つはくるはずなのに。 「ご主人様!」  だが、ドアを開けたことで目の前の女が迫ってくるのを避けることはできなかった。 「スカトロもできます! お漏らしもできます! スパンキングに蝋燭! 先ほどの コスプレに加えてボンデージ、拘束用に縄も首輪も尻尾も準備してます!」 「だからだなぁ!」  俺の怒鳴り声を聞いちゃいねぇ。 「拡張も可! 従順なメイド調教! 牝奴隷調教! 露出変態調教!! これでも駄 目ですか!? それでもまだ満足できませんか!!」 「満足どうこう以前だ!!」 「では縛っても、刺しても、四肢切断しても、眼窩に突っ込んでも……」 「………」  流石に聞いているだけでも気分が悪くなってきた。  というか、何で俺はこんな目にあっているんだろう。 「あの? 顔色が宜しくないようですが」 「誰のせいだ?」 「怒鳴り過ぎです」 「だから誰のせいだ?」 「日頃の不摂生からくる自業自得でしょうか?」 「………」  衝動が抑えられない。  いやここまでよく我慢したなあ、俺。 「――なるほど。首を締めながらする性癖なのですね」  いーから黙れ。一生。  首にかけた両手に力を込めるがあまり気にした様子も無い。 「私は構わないのですが……」  力の限り締め続けるが、平然と喋り続ける。 「玄関先での露出プレイは第三者の注目を集めておりますが良いのでしょうか?」 「………」  良く見ると、締まっていた筈のお隣さんのドアが半開きに。  その隣の家の窓はカーテンが引かれているくせに開いていたり。 「見せつけるのでしたら、脱ぎましょうか?」  その言葉にドアや窓が締まる音が次々と。 「………」  俺、もうこのアパートには住めないかも。 「ここは下がコンクリート剥き出しですので、このまま私が下になった方が……」 「何の話をしている」 「ですから、ご主人様と私の露出プレイを……」 「俺はノーマルだっ!!」 「ではアナルセックスがお好みですか?」 「どーしてそれがノーマルだっ!!」 「でもご主人様は好きそうですし」 「だ、第一……誰がご主人様じゃい」 「あなた様です」 「………」 「このいやらしいスケベな牝奴隷を可愛がってくださいませ」 「………」  力の限りに殴りつけた拳は痛かったわけで……。 「申し訳ありません。この身体は暴力プレイにはイマイチ適さなかったようで……」 「それはもういい」 「ですが……」 「いいから! 俺の質問に答えろ。お前はなんなんだ?」  結局、部屋に上げて皮がズルリと向けた拳を治療してもらう。  一切これ以上関わりたくなかったのだが、閉め出すとまたさっきの繰り返しになる 恐れもあり、治療と誤魔化して話を逸らすことにした。 「――メイドロボットです」 「嘘つけ」 「では人間に見えるのですか……お世辞でも嬉しいです。ご主人様」 「メイドじゃねーだろ」  ただのイカれたロボットだ。 「いえ。このようなお勤めも立派なメイドの仕事」 「そんな仕事はエロゲーとエロ小説にしかねぇ!」 「酷いです。フォスター様……」 「誰だそれは!? もう一度聞く。お前は一体何なんだ? どうしてあんなところに 立ってた? 何で俺についてきた? どうしてここまで俺に絡むんだ!?」 「――質問は一つ一つ正確にお願いします。故障の原因になります」 「いきなりメカメカしくなるんじゃねぇ!」  しれっとした顔になる目の前の女を怪我をしていない方の手で掴んで揺さぶる。 「私はメイドロボットです。御不審に思われようと、疑念を感じようと、例えこんな に愛らしくて人間そっくりでも残念ながらロボットなのです」 「次」 「それは客を取るため――ではなく、主人を探すためです」 「待て。客って―― 「私に相応しいご主人様を求めて立っていたのです」 「だから客ってのは―― 「――次の質問ですが」  とことん無視かよ。 「貴方様こそ、運命のご主人様だと判断したからです」 「嘘つけ」 「いいえ。ご主人様を見た時から身体中に電流が走ったように痺れ、身体の奥底から 熱く濡れそぼっ―― 「てめえ、ロボットだろーが」 「それでも濡れるのです」 「………冷却水だよな」 「嗅いで見ますか」 「手をやるなっ!!」 「顔が赤いです」 「誰のせいだっ!!」 「遠慮なさらずに」 「いーから次だ次っ! どーして俺に絡む。他の男でもいいだろうが!」 「何を仰りますか!? 私にはご主人様しかいませんっ!!」 「どーしてそうなるっ!!」 「既に私のメモリーの一番大切なところにご主人様のお名前を刻み込んでしまいまし た。これで初期化されても覚えております」 「やめろっ! 頼むからっ! と言うか俺の名前をいつ知ったっ!!」 「さっきの問答中、サテライトサービスを使いまして」 「お前の存在そのものが害だな」 「お褒めに預かり恐悦至極」 「誉めてねーよ」 「………」 「まあ、その何だ……」 「惚れた?」 「惚れるかっ!」 「身体だけの関係でも私はその……」 「床にのの字を書くな! 削ってるだろうがっ!」 「ご主人様、愛してますだから今すぐ抱いてください」 「うわー すげーや」  投げやりには投げやりで対抗する。 「ご主人様の熱くて固くて逞しくて立派なモノを私の熱く濡れそぼった―― 「表現を変えても一緒だ」 「いけず……」  だから指をくわえて恨めしそうな目で見るな。 「まあお前の要求はわかりたくなかったが、一応は理解した。でもメイドロボにはそ ういうのは普通ないだろ?」 「はい」 「じゃあ何でお前だけ……」 「オリジナルと私だけがついているのです」 「何?」 「この世界でただ2体だけ。性交できるメイドロボットなのです」  やや誇らしげ。 「でもどうして?」 「何ででしょう?」  聞くなよ、俺に。 「判らないのか」 「はい。普通は必要ないはずですし」 「まぁ、そりゃあなぁ……」  ダッチワイフそこらに量産するわけにもいくまい。  天下の大企業来栖川としては。 「ですが私のは理由があります」 「何でだ?」 「当時、旦那様と奥様は上手く行っておられずに……」 「いや、もういい……」 「まだ話し始めたばかりですが」 「いや、いいって」  来栖川家の醜聞。  あんまり深く聞かない方が賢明な気がする。  ホラ、暗殺者とかに狙われると困るし。 「立たなくなった旦那様はショックのあまりヒッキーとなり、その部屋の前で裸踊り をしたのが初起動直後の仕事でした」 「天の岩戸かよ」  しかもその理由情けなさ過ぎ。 「二番目の仕事は倦怠期の中年男性を喜ばせる24のテクニックをダウンロードする ことでした」 「いいから黙れ」 「三番目にやっと本来の役目であるところの結合を……」 「だーまーれっ!!」 「――と、よくわかるダイジェスト版で御送りしました」 「わかり過ぎだな……というか、頼んでない!」 「因みに旦那様を魅了した私のダンス、ムービーでログ保存しておりますが、ご一緒 に鑑賞しませんか?」 「………」  ちょっと興味あるかも。  というか、売れる?  脅迫になるのか? 犯罪は嫌だが……。 「燃え盛る松明。オイルに濡れる肌。周囲にはかがり火が沢山焚かれ、太鼓やリズム かるな笛の音と共に目の前のバーを――  カポッ  取り敢えず手にした中身の入っていないゴミ箱を目の前で熱弁するメイドロボット みたいな何か。えんいーの口をふさぐように顔に嵌めこむ。 「ほぉ、ほしゅしんひゃまほあひゃくくておひょひいもほはわははのくひょを…」 「喋るなっ!! 脱ぐなっ!! まとわりつくなっ!!」  被せられていたゴミ箱を頭から外すと、 「――ここにきて互いの意見が食い違いを見せ始めたのは非常に残念なことです」  首を残念そうに左右に振る。 「最初から全くこれっぽっちもかみ合ってなんぞいなかったわい!」 「こんな時は勝負をして決めましょう」 「勝手に決めるなっ!」 「あれも駄目。これも駄目なんて我侭が許されるとでも思っているのですか?」 「だから何でだなあ!」 「そんな勝負と言っても必ず私がどんなことをしてでも手段を選ぶことなく勝つとは 決まったわけではないですし」 「絶対に勝つ気だな。おまえ」 「では先にイッた方が負けという69ゲームを……」 「それはお前の最終目的だろうがっ!」 「最終目的は互いの性器と性器を……」 「わーっ! わーっ! わーっ!」 「意外に純情なんですね」 「お前がイカれているだけだっ!」 「まだイってません。何もしていませんし」 「するなっ!」 「でもそれでは勝負が」 「だからどうしてそんなお前の希望する方向での勝負になる」 「気付きましたか?」 「気付かない方がおかしいわ!」 「――外見にそぐわず意外に賢い……」 「何か頭の中でメモってるんじゃないっ! しかも外見って大きなお世話だっ!」 「では残念ですが違う勝負で」 「だから………」  はぁ。と流石に疲れてため息をつく。 「ではポッキーゲームで決着をつけましょう」 「何の決着だよ!」 「しゃあどうじょ」 「しかも口に咥えて既に準備OKだし」  どこから出した? 「しゃあしゃあしゃあ」 「普通、逆じゃないのか? 第一本当にそれ……」  地方限定の極太ポッキーじゃないかと、半分ほど彼女の口のなかに入っていたもの を確かめようと顔を寄せる。  顔と顔の距離、僅か5センチ…  ――瞬時。  その距離は消えた。 「っ!?」  …迂闊と言うか、俺って馬鹿か?  我ながら、呆れた。 「んーっ!!」 「ん、ん、ん……んんっ……」 「や、やめ……」  ぎゅっと強い力で抱きしめられる。 「離…っ」 「い、イヤァッ!」 「な、何言って……」  顔を引き剥がしながら文句を言おうとする。  が、間近で見た女の顔はさっきまでとは違い、泣きそうなほどに歪んでいた。 「……な?」 「あっ…ご主人様……私……」  再び唇を奪われる。  そして口蓋も侵食されていく。 「だか……んっ……」 「触って……下さい」  もどかしげに自分の身体を揺すっている。  服が摺り下されて、黒に統一された下着が見える。 「ん…んぁっ、ちょっと待……」 「んはぁっ」 「んぁ!」  そこへ彼女の手に導かれるように俺の手が被さる。  熱い。  熱がそこにあった。  そして、確かに濡れている。 「や、やめ……」  どうやって作っているんだろう。  ぼんやりとそんなことを考え始める。  ああ、駄目だ。  既に術中に填まってしまっている。 「……?」  ほんの少し触れただけでじっとりと指先が濡れているのが判る。触っている場所か ら滲んで出てきている。 「ちょっと待……」 「あっ!! んっ……」  下着の上から胸に触れただけで、彼女はまるで快感に酔いしれるように身体を震わ せる。  まるで感じているかのように。 「いくらなんでも……」 「ち、違……」  俺の目を恐れるように、彼女は震えながらフルフルと首を振る。 「わ、私……ちが……」  何が違うのかと聞こうとしたが、その言葉は彼女の口で塞がれた。 「違う……私は……私は……」  まるで憑かれたように繰り返す。  見ただけでは恐怖で震えているような震え方だが、その震えの中心は俺の指先らし い。  そして掠れ掠れの声でやっと俺の耳に囁きかけた。 「私は……こんな身体なん…です」  恥じるように。  泣き出すように。  そんな言葉を俺にぶつけてきた。  その言葉は俺の疑念について的確な回答に当たる。  演技ではない。  そう言いたいのだろう。  女が自分で言ったような経歴の持ち主であれば――  一番の目的がダッチワイフとして生まれたロボットだったのならば――  感じているフリなんて――  出来るはずが……許されるはずが――ない?  作り手はそんな半端を目指すはずがない。  買い手はそんな半端を求めるはずがない。  量産型ではないオーダーメイドなのだから。  だとするなら…彼女の身体の設定は…。 「ゆ、許して……お願いします」  俺は目の前の彼女を見る。  目が潤んでいる。  その水の成分はニセモノであっても。  その元は0と1の二進数であっても。  彼女は。  その身体は。  その思考は。  全て……… 「おねがい……します。も、もう……」 「もう知らん……」  自分を誤魔化すようにそう呟いて、 「んあっ!」  考えるのが嫌になった俺は彼女を自ら引き寄せていた。  ――馬鹿は馬鹿なりに、馬鹿に付き合おう。  俺も所詮は馬鹿だから。  こんなものを作ったやつも、こんなやつを求めたやつも、そしてコイツ自身もみん な馬鹿だ。  身勝手で図々しい馬鹿だ。  だったら俺一人馬鹿でなく過ごす理由もない。 「…んっ……」  焦らすように彼女のそこに指を這わせる。  ショーツの上からでも判る。  彼女のその部分は潤い続け、指を這わせる度にその潤いは徐々に広がり、大きくな ってゆく。 「あく! あっ、んっ!」 「しかし……凄いな」 「あん……んんんぅぅ…っく……ああ……!」 「聞いちゃいないし」  初めは意志を持っていたはずの俺の指も、今では彼女の手によって動かされるだけ の玩具になってしまっている。  焦らされるだけの余裕もないらしい。 「そ、そんなにがっつくな」 「あ、貴方に、して戴けるのなら……くださるのでしたら、どんなことでも……構い ません……だから、もっと……」  哀願の目。 「だ、抱かれるためだけに存在するものがぁ!……あ、あっ…、その目的をは!、た せないままに……んぁっ!」  盛りのついた犬という表現では収まりきらないほどの乱れようだ。 「ずっと……ずっと我慢していました……ぁっ」  性欲を抑えられないのか、はぁはぁと息苦しそうな呼吸を続ける。  例え息を止めたところで、死ぬことのない存在のはずなのにも関わらず。 「ずっと……ずっと……」  判っている。  自分でも判っている。  一緒に溺れた方が、迷わなくて済むと。  だが、ここで悩んでしまう。  それが、人間だから。  混乱し続ける頭とは対照的に、指だけは彼女の秘所を弄り続ける。  彼女の手からはもう外れているので、自分の意思で動かしている筈なのにその実感 がない。  まるで手が勝手な意思を持って動いているように。  手首まで濡れていく感触も、指を通して伝わる熱さも締め付けも、全て感じている のにそれでも、その手の動きは俺の意思とは外れていた。  機械的に、機能的に動き続ける。 「いぃっ! う、うあ……やっ、あ……私……くぅ!」  それが、俺にとっての猶予期間であるかのようだった。  考えをまとめるまでの。 「んくぅっ! あぅ……あっ、い……も、もっと…もっと……ください……」  指が痛くなるほど、圧迫される。  断続的に聞こえる喘ぎ声。  忙しない呼吸音。  薄っぺらいカーペットを擦る背中の音。  じっとりと指から垂れ落ちるほど濡れる体液。  全身から涌き出る汗。  目から零れ落ちる涙。  口から漏れる涎。  目の前の事態から逃避するように、俺の目はこの手の中の女を観察し続ける。 「はぁ……あ、あぁ……あふっ!」  そして指は更なる変化を求めて蠢き続ける。 「ひぃいっ! ぅあ……あっ、すご……いい……」  本当にこの女は、人の手で作られたロボットなのだろうか。  皮を捲ればネジやオイルが詰まっているのだろうか。  この身体で。  この姿で。 「んんっ……あっ……ん、んっ……あっ……んんっ、んくっぅ……んんっ……」  夢中になっている今なら、確かめることができるかもしれない。  簡単だ。  テーブルの上にある空のカップ麺の上に並んだ箸を持って、力任せにこの身体に突 き立てればいい。  赤い血が噴き出れば人であるし、そうでなければ血ではない何かが変わりに噴き出 るだろう。 「あん……ん、んんぅ……んっ! んっ……あっ!」  そんな俺の考えも知らずに、女は喘ぎ続けている。  そのピッチは徐々に上がっていっているように感じる。  固くその目は閉じられ、目尻からは涙のような無色の液体が流れ続けている。 「………」  俺は目を閉じて軽く、首を振った。  そして意を決した。 「あっ……くぅっ! んあああっ!」  いきなり突き刺したせいだろう、女の目は驚きに大きく見開かれた。 「んあっ! あっ、そんな……急に……」 「………」  それほど、抵抗はなかった。  十分に濡れていたからだろうか。  それとも、元々そのような作りになっていたからだろうか。  俺には判らない。  また、考えるゆとりもなかった。 「あっ! んあっ、あっ! あっ! あっ! あっ、んっ、あっ、あっ、あっ!!」 「んっ……くっ……」  ひたすら間抜けになって、腰ばかりを振りつづける。  全身から汗が吹き出るのが判る。  服を脱いでおくべきだったと微かに後悔する。 「……んんっ! あっ、あっ、あっ、あっ! つ、強っ……あっ……あぁぁっ!!」  腹の下の狂乱は留まるところを知らない。  身体の全てが蠢いているようで、そして絡まりついてくる。  押しつけるように、  突き放すように、  俺は単純運動を繰り返す。 「んあっ! あっ! ひ……すご……いぃっ!」  俺は止まらない。  止められない。  止まったらそれで全てが終わってしまう。  吐き出すことしかできなくなってしまう。 「こ、こんな……あ……うあっ! あっ!」  今の俺は激しく動くことで耐えることしかできない。  慣れてない。  慣れるはずがない。 「んあっ! やっ、あくっ!」  全てが自分の意思で、自分の意思ではなかった。  身体の奥で湧き上がるものだけを避けるために、必死だった。 「ああっ……っく…ぁ……んあっ……!!」  同時にさっきからその動きを止めようと、絡めとられるような感触が伝わってくる。  まるで搾り取ってしまうことを誘うようなその強い力に、激しく動くことで抵抗す。  きっと今の俺は相当にみっともない。 「はんっ! んっ! んっ! あっ……んんっ! あっ……ああああぁ……!!」  剥いていた胸の先端に口を吸いつける。 「ふあっ、あっ! いっ……いい……ああっ!」  腰を挟まれるような感触。  熱いものが更に近付く。 「…あっ、あっ、あっ……はっ…んっ……んく、んくっっ!!」  本能なのだろうか。  考えなくても、勝手に身体が動いている。  かつて自分の意識の外から離れた指のように。  下半身のように。  今は身体の全てが俺の意思から外れて、目の前の女を求めきっていた。 「わっ、私……わたしぃ……いいっ! いっ、いいで……あっ! ああっ!」  強く、ひたすら強く抱きしめられる。  本当に力の限り抱きしめられたらどうなるのかは判らないが、今のこの女の精一杯 が俺の背中に感じられる。 「ひあっ! あっ、くぅっ! やっ、ああっ!」  どれだけ続いたのか、  どれだけ保ったのかもわからない。 「あっ! あぅあっ!! あ、あ、あ、あぁあっ!! ぅあ、あっ、あああっ!!  あぁ、あ、あああああああああああっ――――――――――――――――っ!!」  どれだけ叫んでいたのかも。  ――俺の必死が、いつ終わったのかさえも……。  心地良い疲れなどない。  ただひたすらに余韻が鬱陶しくて、ただただくたびれ果てていた。  それは荒い呼吸が落ち着きを見せた今でも、変わらない。  頭がはっきりとしてきた分、強まったようにも感じる。  放心していた俺の前で、後始末をしていた女が俺の様子を見て、正座になって座り 直した。  その神妙さに、俺はちょっと可笑しくなる。  その口が開くまでは。 「――それではお会計です」 「は?」 「ほら、私はそういうモノですし」 「ちょ、ちょっと待て!」  今までのは、なんだったんだ。ゴラァ。 「私はその為に作られた存在です」 「だからってな」 「払わない気ですか? ヤリ逃げ?」 「お前が勝手に…」 「ヤダー、サイテー」 「なに、女子高生調になってやがる」  しかもすごいいい加減な声だし。 「…………」 「?」  急に黙るので不安になる。 「――…く、ダウンロード完了」 「は?」 「YOU HAVE THE RIGHT TO REMAIN SILENT.  ANYTHING YOU SAY CAN AND WILL BE USED AGAINST YOU IN A COURT OF LAW.  YOU HAVE THE RIGHT TO TALK TO A LAWYER AND HAVE HIM PRESENT WITH YOU WHILE YOU ARE BEING QUESTIONED.  IF YOU CANNOT AFFORD TO HIRE A LAWYER, ONE WILL BE APPOINTED TO REPRESENT YOU BEFORE ANY QUESTIONING, IF YOU WISH ONE.」 「日本語喋れ!」 「あなたには黙秘する権利があります。  あなたが言うことはどんなことでも法廷であなたにとって不利に使われることがあ ります。  あなたには弁護士と話し合う権利があり、尋問中、弁護士を同席させる権利があり ます。  あなたに弁護士を雇う金銭的余裕がない場合、望めば、いかなる尋問の前にも、弁 護士を任命し、あなたの代理をさせることができます。アンダスタ〜ンド?」 「ミランダ警告かよ。しかも最後は何だか似非アメリカ人風だし」  いきなり何をやりだすんだ。この女は。 「そういうことで、逮捕します」 「できるかっ!!」 「淫行条例違反です」 「どこがっ!」 「ワタチ、サンチャイ」 「………」 「――えーと、その御遺言は?」 「死んでしまえ!!」 「では身体で払って貰うと言う事で、今後とも宜しくお願いします」 「するかっ!」  俺がそう怒鳴ると、女は急に表情を抑えて乱れた髪を手で撫でて俺を見る。 「でも……貴方には感謝しています。私を救ってくれたのですから」 「はぁ?」  俺はさぞかし怪訝な顔をしていただろう。  とことん圧倒されっぱなしだ。 「無理にとは言いませんが、私を愛してください……」 「何を今更そんな勝手に」 「えい」 「うがっ!?」  身体に電流を走らせたようなショックが襲った。 「――ごめんなさい。今は、まだ……」  その日の俺の最後の記憶は、そんな身勝手な言葉だった。  ………。  さて、どうだっただろうか。  これでもお前は俺を羨ましいと思うか? 「――ご主人様」 「………」 「お茶が入りました」 「………」 「ふ〜」 「うぎゃぁっ!?」  無視していたが、耳に息を吹きかけられる。 「もう……そんなに根を詰めないで下さい」  目の前には本来廃棄処分の筈のメイドロボットが座っている。 「………」  彼女は自分が処分される前に処理施設から逃げ出して、俺と出会った。  自らを救ってくれる相手として。  そして彼女が唯一持つ武器、己の身体を駆使して。  彼女は言ったそうだ。  全てを越えて愛し合った二人を引き裂くことは誰にもできないと。  彼女の身体にあった俺の精液を見せながら。  俺は彼女の持っていた秘密というか醜聞を誰にも喋らないことを条件にして、彼女 を引き取ることになっていた。彼女の維持費も向こうに負担してもらいうことも条件 に入っていたので生活自体は特に変化はなかった。  ただ、問題はそれらが全て俺の記憶のないうちに執り行われていたことだ。  と言うか、俺を巻き込むなよ。そんな揉め事に。 「――どうかしました。私の顔に何か?」 「………」  何度となく言い争ったが、遂に口では勝てなかった。  このメイドロボットの最大の武器はその口だったのではないだろうか。 「で……何だ、これは?」 「お茶ですが」 「普通、お茶には黒焦げのヤモリは入っていない」 「粉末の方が良かったですか?」 「良くないっ!」 「今晩も、宜しくお願いします」  そう言って、深々と頭を下げる。 「だから勝手に……」 「――私にはもう、貴方しかいませんから」 「………」  その笑顔は本物か偽物か。  今の俺には知る由もない。 「……3回まで、だぞ」  俺、弱々。  ここに記したのは……  ハメてハメられハメ続ける、そんなお馬鹿な物語。                            <完>

この作品への感想を是非。