IT'S LOVE
 蒲団の準備、良し。  目覚ましの準備、良し。  ティッシュの箱も開けたばかりで準備バッチシだ。 「……ええと祐一さん?」 「あ、佐祐理さん」 「何をしているんですか?」  俺が一つ一つ指差し確認をしていると、佐祐理さんがやや戸惑いを交えた笑顔を向 けてきた。 「いや、準備OKだなって」 「は、はあ……」  冬も終わりに近づき、暦の上での春が近づきつつある頃。  受験も全て終わり、後は本命の結果発表を待つだけとなった俺にとっては高校生最 後の季節になっていた。  舞を幸せにして、共に幸せになりたいと願った佐祐理さん。  そんな佐祐理さんを助けてあげたいと願った舞。  彼女達の間に割って入るような存在になった俺を彼女達は初めの頃はどう捉えてい たのかは知らない。きっと舞にとっては自分に妙に付きまとってくる些か奇特な人間 で、佐祐理さんにとっては舞を幸せにする手伝いができるかも知れない人間というぐ らいの存在だったと思う。  それが今では舞とは親友と自惚れてもいいぐらいの関係だし、佐祐理さんとは交際 を続けた結果、昨年から彼女とこうして同棲するまでに至っていた。これに関しては 俺よりも佐祐理さんよりも舞の努力が実ったと言う気もしないでもない。  俺が知り合った時点で佐祐理さんにとっての一番の関心事は舞のことだったし、俺 にしてもこう言っては申し訳ないが佐祐理さんの問題よりは、あいつの不審な行動か らの縁なだけに、舞の方に意識が向いていた。  全員が似たもの同士、そう表現したのは佐祐理さんだったような気がするが、俺は 幸か不幸か舞や佐祐理さんのように自分が抱えているものを覚えていなかった。忘れ たいぐらいに悲しいことがあった、従姉妹の名雪に言わせればそういうことらしい。  結果的に唯一自分を心配することのない俺は舞や佐祐理さんに目が向けたことにな る。佐祐理さんと一緒に舞を構いながらも、舞が心配する佐祐理さんの問題に対して も触れるか触れないかの距離で接し続けた。  俺がこの二人に愛情を持つのは当然だったし、佐祐理さんにより傾いたのは舞が佐 祐理さんの幸せを俺に求めたことが大きかったように思える。成長のどこか遅い彼女 らしい思春期がさせたのかも知れない。舞が佐祐理さんの為として俺と二人きりで接 する機会を設け続けていくうちに何となくまあ、そのそんな感じになっていったわけ だ。お陰で今の生活も本当は舞も誘って三人で暮らすという予定だった筈なのが、蔑 ろにしたら祟られるんじゃないかというぐらいの舞の極度の気の使われっぷりに彼女 を誘うには諦めた格好になっていた。  最初に舞ありきの佐祐理さんだけに、じゃあ同棲は止める方向で話が片付くと思っ ていただけに、こうして二人きりで暮らすことになったのはかなり意外だった。 「舞の気持ちを無にするわけにはいきませんから」  ということらしい。  そう言われた時は嬉しいような、複雑な気分だった。  因みに今は嬉しいのだが。ああ、無茶苦茶嬉しいな。  舞は今も母親と二人で暮らしていて、ここへは決まって三日おきに遊びに来る。  どうもあいつなりに計算した上での気の回し方らしい。  一昨日来た日なので、今日舞は来ない。  ばっちりだ。  俺は律儀な舞の一面に感謝する。  そんなわけで、ここからは大人の時間だ。 「え、えと、それじゃあ祐一さん」 「ああ!」  俺が力強く頷くと、 「はええ……」  ますます佐祐理さんは困ったような顔をしてきた。  これは話せば短いのだが、受験生として受験勉強に励む俺に対して佐祐理さんが励 ます意味を込め、受験が終わったら何か御褒美をくれるというので何も要らないから 佐祐理さんをくれと言ったのが今という瞬間を迎えている理由である。  俺と佐祐理さんが付き合い始めて以降、所謂恋人同士のアレをナニしたこと自体は ないわけではない。だからわざわざ特別ということではないのだが、同じ大学を目指 そうと佐祐理さん達の学力に追いつくためには並大抵のことではなく、受験勉強を本 格的に始めてからはすっかりそういうことはご無沙汰になっていたのだった。  勉強で相当煮詰まっていた状況の言葉だった。物欲は節制を心がけている新生活で 無理はしたくなかったし特に欲しいものもなかった。食欲に関しても佐祐理さんのお 陰で毎日美味しいものを食べられる生活を過ごしていただけに取り立てて何もなく、 遊ぶことに関しても唯一の息抜きということで舞と三人であちこち遊ぶ機会があり、 今更これというのがなく、何にもなかったが故の選択である。 「御免なさい。わたくし嘘をついておりました」  本当はお預けをくらった犬宜しく滅茶苦茶したかったです。 「ふぇ?」  俺の突如の芸人口調にどう対処していいのかわからない佐祐理さんは不思議そうな 顔をしていた。 「いや、何でもない」  まあそんなわけで馬鹿なことを口走ってしまったお陰で、嬉しい反面妙に落ち着か ないこの時間を迎えていた。 「佐祐理さん、身体の方は?」  念の為に聞いておく。 「え、あ、はい……終わりました」 「よっしゃ! 計算どおりっ!!」 「あ……あははー」  オギノさんのお蔭で今では野郎の俺でもある程度予測することが出来る。  偉大な先人に乾杯。 「そうきっぱりと言われると恥ずかしいです」  気合の入る俺とは対照的に佐祐理さんは照れまくっている。  まあ当然だろう。  それでも佐祐理さんなら一緒に喝采しかねないとほんのちょっぴり思っていたこと を心の中だけで詫びておく。  というかテンションが上がっているようで内心落ち着かないで困っている俺をどう にかしてくれ。 「……」 「?」  どうかしましたかと佐祐理さんの目が訊ねている。  いかん、興奮が変なところに飛び火しまくっている。 「そ、それでは……」 「は、はい……」  佐祐理さんは目を閉じて俺を待つ。  その仕草にゴクリと唾を飲み込む。  まるで初夜の男女の様な恭しさだ。  うわ、なんかボケてえ。  いざ事を行う前に、ここにきてちょっとつけないことに不安になる。  完全ではないとは言え、多分大丈夫だろう。うん、多分。  ううう、偉大な先人をここは一つ信じることにする。  いや、問題は先人ではなくこっちなのだという雑音は聞こえないふりの方向で。 「ん……」  押し寄せる雑念とか照れ隠しとかを振り払うべく、軽く首を振ると佐祐理さんの肩 に手を当てた。  一瞬、佐祐理さんの身体が震えたようだが目は固く閉じられたままだった。  緊張している。そう思うと俺は、そんな彼女を可愛いらしいと思った。 「あっ。ん、んむっ……」  佐祐理さんの顎に指を掛けるようにして軽く持ち上げ、その唇にキスをした。 「………ん…あっ…」  意外と佐祐理さんは声を出す。  彼女曰く恥ずかしいとのことだが、お隣さんにまで届かなければ問題ない。  本当は届いているかもしれないが、俺は困らないので構わない。 「んんっ……っぁ」  唇を離し、お互いの息がかかる位の距離で見詰め合う。  微かに開いた長い睫毛の下から覗く佐祐理さんの目が、俺の瞳を覗き込むようにし て揺れる。 「ゆ、祐一さん……」  再び、軽く唇を合わせただけのキス。  それでも、引き金としての役割は果たしてくれた。  彼女の瞳を見ていると、何だってやれる気になる。実際、今までもそうだった。  だから俺は彼女のこの瞳の前ではいつだって素直になれる。  愛しい――その気持ちだけが今までの余計な雑念を消してまわる。 「むぐっ、んっ……んんっ……」  一度息を整えてからもう少し強く、長く唇を重ねる。  佐祐理さんも俺に応えてくれる。  啄ばむように互いの唇を覆う。  俺の唇が彼女の唇を制そうとしているようでもあり、彼女の唇が俺の唇を慰撫して くれているようでもある。  時折唇ごしに固い歯の感触が、鼻から漏れる息の熱さが、どうしようもなく俺を興 奮させてくる。 「ん……あぁ……っ」  舌を伸ばし、彼女の上唇をゆっくりと舐める。そうして舌で唾液を塗りつけるよう にその唇を濡らせると、彼女の口が開く、  迎えられたその隙間にもう一度舌に唾液を溜めて侵入する。  舌先で彼女の前歯を舐めてから、口内の柔らかさと熱さを楽しむように探検する。  そして引き篭もっていた彼女の舌に触れ、ざらついた表面を舐め廻してから、誘い ようにして絡め合った。 「ん……ぁ、はぅ……」  十分に堪能してから唇を離すと、佐祐理さんは小さく息を吐き、俺の視線から目を 逸らすように俯く。 「う〜。祐一さん、へ、変です……」 「何を失礼な」  敢えて言葉の表面だけを捉えて反論してから、改めて答えた。 「伊達に禁欲生活を送ってきたはいないからな」  何故か胸を張って威張ってみる。  威張れることでもなければ、そもそも威張るだけの理由にもなっていない。  ノリで押し通す。 「あは、祐一さんらしいです」  その言葉の意味が気になったが、聞くのは止めておく。  そろそろ自分としても集中したかった。 「……」  俺は黙って佐祐理さんの肩を抱いたまま、彼女を優しく蒲団の上に横たえた。 「あっ……」  パジャマの裾から手を差し入れると、佐祐理さんが敏感に反応する。 「あ、ごめん」 「い、いえ……」  冷えた手で悪いと思いながらも、掌で彼女の暖かい肌を撫でることは止められない でいた。  もう一方の手で彼女のパジャマのボタンを外していき、全部外れたところで両手で 前を開く。ブラジャーはつけていなかった。  緩やかな起伏の肢体に場違いなほどの膨らみが彼女の雌としての主張が為されてい る様に思える。  天井の蛍光灯の薄白い光に浮かび上がるその身体が目をうつ。  しなやかな、肢体。  目の前に放り出された果実に対して、自制が効くはずない。  うっすらと赤みを帯びた綺麗な肌に手を伸ばして、直に触れた。  しっとりと掌に吸い付くような感触。  撫でながらも次第に目の前のそれを壊したい、歪めたい衝動が膨れ上がって止まら なくなってくるのがわかった。 「……」  口を閉じてじっと見詰めるその瞳は、羞恥を耐え忍んでいるようにも見える。  俺の掌の動きに耐えかねて寝返りを打つように捻るその身体を追って、俺は彼女の パジャマのズボンのゴムに指を引っ掛けた。 「ゆ…祐一さん…」  答える余裕もなく、無言で下着と一緒に引きおろした。 「ゃ……あっ!」  初めて見せた抵抗の声を無視して、捕食するかのように俺は彼女へ覆い被さり、身 体を重ねた。  たわむ胸の柔らかさを知りたくて、両手でそれぞれの膨らみを掴み揉みしだく。  掌で押し潰し、指をめり込ませる。 「あっ」  力が入り過ぎる前に一度手を放し、今度は捏ねるように弄り始める。 「ゆ、祐一さ……あっ、あ…」  乳首を指の又で挟むように弄りながら乳房を揉み、下から持ち上げるように寄せあ げる。 「……はぁっ……っぅ……」  指で摘んで持ち上げて、離す。 「…あ、あああ、ああ…」  摘み上げられた乳首を指で擦るように弄ると、 「あ……あっ、んんっ、んぁ、あああっ!」  ここで初めて佐祐理さんの口から嬌声が漏れた。 「佐祐理……さん……」  身体の下で揺れる彼女の高潮した白い肌が、酷く蠱惑的に見える。  息を荒げる彼女の顔が、溜まらなく引き込まれるものを覚える。  長く艶やかな髪を指で梳きながら、閉じられた両脚の付け根を、彼女の全てを視姦 する。  全てを蹂躙せずにはいられなくなる。  彼女の切なげな声の余韻が、口から漏れる呼吸音と耳の奥で重なっていった。 「佐祐理さんっ」  唇で、舌で、指で、掌で、頬で、胸で、脚で、腰で、佐祐理さんの身体に侵攻する。 「あ、あの……あ、あ、あぁ……っ、あっ、あっ、あっ」  相手の気持ちとか、  優しくとか、  順序とか、  何一つない。 「あああ、ああ…っ」  男として褒められる要素の一つもない行為。  ただ牡として、犯したい牝を犯す。  その為の準備。  自分がより一層満足する為だけの儀式。 「はあ…っ……あ、ああ…っ」  秘裂に唾で濡らした指を一気に挿入する。  指を締め付けられるその感触に抵抗するように、出し入れを繰り返す。 「はぁ……ぁぁっ、ぁっ……」  徐々に速度を上げて、膣内で指を曲げる。 「あっ、あっ、あっ……くっ、あああっ……んっ!」  細く壊れそうな身体が小さく跳ねる。  艶美な吐息を漏らしながら、切なげに身をよじる仕草が狂おしい。  ようやく愛撫らしくなってきた。  彼女の太腿を伝う愛液の量を見ながら、そんな淫猥な作業を続けた。 「ゆ……んんぁ! …ぁ! んん……」  唇を互いに貪るようにして重ね合う。  歯と歯がぶつかるのも構わないほどに夢中になる。  溢れ出る彼女の唾液を啜りあげ、自分の唾液と共に飲み干し、逆に自分の唾液を舌 に溜め、彼女の柔らかな舌に擦りつける。  音を立てながらの口付けに夢中になりつつも、頭の中は一つのことだけで一杯に埋 め尽くされている。  欲しい。  欲しい。  欲しい欲しい欲しい。  ずっと股間が痛くてたまらない。  早くこれを開放したい。  これを解き放ちたい。  がっつき、せっつかれた気持ちだけがぐるぐると頭の中を駆け巡る。 「ぁん、ん、んふぁ……あ、はぁ……」  乱暴で雑になってきていた秘所への愛撫を止める。  指を抜くと、粘度の高い液体が指に絡みついていた。  既に垂れ続けた淫猥な液体は手首にまで流れている。  これならもう。  もう。  ほぐれた秘裂に、跳ね上がったままの俺自身をあてがう。  見ると限界まで膨らんで、びくびくと震えていた。 「ん…っ」  先が触れるだけで脊髄が背中が脳の奥底が、弾けるように痺れる。  それだけでイってしまいそうになる。  ずっと溜まり続けてきたものが、はちきれそうになる。 「くっ……」  気を張り直す。  自制する。  流石にこれで果てては情けな過ぎる。  そう思うことで必死に自分を立て直す。 「……はぁっ」  大きく息を吐いた。  先端から永続的に伝わる悦楽だけに、意識を絞り込む。 「…はぁ、ああ、ああ……祐一さん……」  佐祐理さんの声。 「……お、おぅ」  我ながら変な返事だな―――そう思ったのは一瞬だ。  ゆっくりと、  腰を落とし、 「ゃんっ!」 「あっ……」  ずれた。 「わ、悪……」  慌てて自分のものを掴んで入り口に戻そうとすると、佐祐理さんは自分の身体に俺 の身体を擦り付けるように背中に手を廻し、両手で俺を抱きしめてくる。 「あ……」  今にしてやっと気がついた。  俺は佐祐理さんを抱こうとしているのだと。  同時に彼女の身体を使った自慰をしようとしていたことに。 「あ、佐祐理さん……」  そんな俺の行為に対してさえも応えてくれようとしていた彼女に気付く。  今更ながら俺も彼女の背中に手を回す。  抱擁。  こんなことすら忘れてしまっていた。  見ると、小さくて丸い肩が微かに震えているのがわかる。 「……ぁ」  鼻息荒くさかったままの自分が少し遠ざかる。そんな今までの自分の身勝手さを嫌 悪しながら、その身勝手さを受け入れてくれていた佐祐理さんに対して申し訳なさを 覚えた。 「…っ」  詫びる言葉さえもしてはいけない気がして、俺は自分の感情を全て両腕に託した。  その愛しさが逸って、抱きしめる腕に力が入る。 「ん……んぁっ……」 「ご、御免……」  力を入れ過ぎ慌てて謝るが、佐祐理さんは笑みを作ると、まるで自らが望むように 身体を一層擦り付けてくれた。こういう時、女の子は男よりも大人だと思うのは俺だ からなのか、彼女だからなのか。 「大丈夫です、祐一さん」  微笑む彼女。目尻からは涙が零れていた。  いつも彼女は俺に笑顔を向けてくれる。俺を見てくれている。赦してくれる。  俺が泣かせてしまったのに。  そのことに悔む以上に嬉しくて、泣きそうになる。 「……きて、ください」 「………」  感極まったまま強く頷く。  身勝手を赦してくれるのなら、その優しさに甘えようと思う。  受け入れてくれる彼女の気持ちを、  俺は心地よく受け止めて、  優しくなろう。  優しく、なりたい。  そう思いながら俺は彼女に自分をあてがう。  ぬるぬるとした感触に先端が包まれて――  一つに、なる。 「あっ、あっ、ああ……んぁぁぁぁ、ああっ!!」  腰を落とし、狭い入り口を割るようにして侵入していく。  痛い。  奥へ奥へと突き進むようにして刺さり、そして飲み込まれていく感触。  きつい。  佐祐理さんの中。  熱い。 「くぅっ」  自分のペニスから一気に精液が噴出しそうになるのを耐える。  彼女の膣内の粘膜に絡みとられ、絞り上げられそうな鈍く、強い締め付けに否応無 く引き上げられていく。 「はぁ……ああぁ……」  ゆっくりと奥まで腰を進めて沈め込むと、彼女は陶酔するような声を漏らした。  佐祐理さんが微かに身をよじると、内で蠢く感触が伝わってきた。  猛々しく高ぶった感情が俺の中で膨れ上がってくる。 「んぁぁっ……あっ、んああああっ……」  口からは深く長い吐息。  切なげな眉の動き。  俺以外の誰もが見ることのない佐祐理さんの表情。  俺のペニスを膣に突き入れられた佐祐理さんが、すぐそこにいる。  その全てを網膜に焼き付けたくて、もっともっと長く見続けたくて、佐祐理さんの 顔だけを見ながら身体を動かす。 「ん、あ、ぁああ……っ」  一つになった部分をゆっくりと動かし始める。 「あっ、はああっ! ん、んっ、ああああっ!!」  熱くぬめる膣の感触に、より強い快感を引き出される。  とめどなく熱い。 「ぁぁっ……ん……んぁぁぁっ……」  腰を揺らす程度の動きに対して、佐祐理さんは過剰とも思えるぐらいに身体を跳ね させて反応を返してくる。 「…ぁっ!」 「佐祐理さん?」  その激しさに俺は驚いて動きを止めた。  それでも暫く、佐祐理さんの身体は震えたままだった。  繋がったまま佐祐理さんの髪を梳くように撫でると、彼女の目がゆっくりと俺を知 覚した。 「ぁ、す、すみません……」  大丈夫?と目で問いかけると、佐祐理さんは、 「凄く、感じてしまって……」  羞恥からだろう、顔から湯気がでるぐらいに赤く火照らせながらそう告げてくれた。  俺が久しぶりな以上、彼女も久しぶりということだ。  照れる。 「じゃ、じゃあ、もうちょっとゆっくり動くから」  僅かに彼女が少し動くたびに、二人が繋がっている部分が擦れ、痺れるような快感 が生じていた。 「は、はぃ……すみませ……はぁあっ! は、ああっ、あああっ、んんっ!!」  そして俺が少し動かしただけで、彼女は過敏に反応する。  互いに互いの快感を増幅し合っていた。 「っあ……!」  これなら逆に一回イカせてしまった方がいいかも知れない。  そうも思ったが、約束した以上動くのは極力控えめにする。  代わりに、彼女の肌に指を滑らせた。 「んぁっ、あっ! ああっ!」  紅潮した彼女の肌は既に汗が噴出していて、撫でるだけの指先が滑る。  腰の動きを緩く抑えながら、それに合わせるように彼女の身体のラインをなぞるよ うに指先で滑らせる。 「祐一……さん……ご、御免なさ……ぁぁぁっ!」  何について謝っているのかもわからない。  止めとばかりに深く、突き入れたと同時に、 「んっ、んっ、うううっ! ……はぁぁぁぁぁぁぁぁあああ――――っっ!!」  佐祐理さんの身体が、俺の上でひときわ大きく弾んだ。 「はぁ……あっ! あああぁー……っ、ああっ、あー…っ!」  そして立て続けに二度、跳ねた。 「…ん…っ!」  跳ね上がった佐祐理さんの身体を再び押さえつけると、一度休むどころか激しく出 し入れを続けた。止められなかった。ペニスが膣壁にぶつかり、擦られる。 「ぁ…ぅ、や……ぁ……ぁ、ぁぁ、ああっ!」  肌がぶつかる音が、欲望を刺激し続けて抽挿を繰り返させる。  蜜が蕩け出るように、愛液が結合部分から掻きだされる様にしてとろとろと糸を引 きながら流れ落ちていく。 「んあああああっ、んああああっ……ああっ、んんんっ……ああっ!」  絞り取られるような刺激が先端から根元へと幾度と無く往復する。  湧き上がり、膨れ続け、疼き続ける快楽。 「くっ、あっ……」  俺は掠れた声しか出せない。  呻く。  狂うほどの快楽と耐え続けねばならない苦しみとが交差する。  余裕が、ない。  俺の身体の下で揺れる佐祐理さん。 「ああぁっ……ああああっ、あ、あ、ああああぁ…っ」  ずっと続く激しさから一転した緩慢な動きに戻そうとするが、身体が言うことを聞 いてくれない。 「んあっ、あ、あ……はぁんんっ!」  既に自分の意思から離れてしまったようだ。  俺の身体は彼女の身体を貪りつくすことしかできなくなっている。  より深く抉り、より強く擦る。 「…っ」  愉悦に狂いそうなほどの快感が脊髄を這って脳裏に突き刺さる。  溶けて混じり合ったような熱が腰全体を伝う。 「ん、ぁああっ、んはぁっ! ぅあ、ぅああああっ!」  彼女の中を攪拌するように腰を動かし、掻き混ぜて続ける。 「くっ…」  ベッドについた両腕の鈍い痺れだけが、俺を俺という人間としての意識を保ってく れている。  身体の殆どがもう自分のものではないような気分に陥っている。 「んん、ん、んん、んあ、ああ、あああっ、ああああっ!」  目の前で揺れ続ける乳房を顔で押さえつけるようにして、舌を弄って探り当てた乳 首を唇に含んで吸う。  佐祐理さんが首を激しく左右に振ることで乱れた髪が俺の顔に当たる。 「ひ、ひぐっ……はぁぁっ」  獣が獲物の腸を貪るような行為ですら、自分がやっているような気がしない。  それだけ夢中になっている。  陥っている。  俺は、佐祐理さんの全てに。  何かを考えられるということがない。  これが本能だというのならそうなのだろう。  彼女の中に自分の全てを埋め込みたい、溶け込みたいという気持ちしか残っていな い。  彼女の胎の中に還りたい。  佐祐理さん。  佐祐理さん。  佐祐理さん佐祐理さん佐祐理さん。  声に出しているのかどうかすらわからない。  唸り声とも喚き声とも区別が付かない。  口は彼女の身体を弄ることで忙しい。 「ああああっ! ああああああっっ ああっ ああああああっっっっっ!」  大声で喘ぎ続ける佐祐理さんの口に舌をねじ込むようにして、声を塞ぐ。  佐祐理さんの全てを犯したい。  身体も口も心も全て侵食し、蹂躙したい。俺で埋め尽くしたい。 「んふぁ、んふぁふぁぁ、ふぁうぁっ」  舌が絡み合い、捻り合う。  唇も歯もぶつかり合い、重なり合う。  唾液が混じりあい、互いの口から流れ落ちる。  熱さと、冷たさが介在する。  相手の舌を解放すると、口から流れ落ちる唾液を舐めあげる。  舌が攣りそうな程に目一杯伸ばしながら相手の顎から唇、歯茎まで舐め続ける。 「んあぁぁっ、やっ、ああぁぁっ! んあっ、んあぁぁっ!!」  息継ぎのように顔を上げて口を離すと、再び淫らというよりも悲鳴に近い喘ぎ声が 上がる。 「あっ、あぁぁっ! ああっ、ふあぁっ……あっ!」  そして佐祐理さんの中はぐいぐいと俺を締め付ける。  感じ――過ぎている。 「こんな……こんなの………あ、あああぁぁっっっ……んあぁっ!」  言葉にならないのか、させないのか。  彼女の乳首を甘噛みしている俺にはわからない。 「んああああああっ、んあぁ…ああぁ…んあああっ!!」  こりこりとした感触を味わいつつ、唇で摘み上げるようにして引っ張り、放す。  陶酔とは酷似しているようで程遠い感覚。  今度は乳房に唇を吸い付かせる。  既に彼女の肌には所々、吸い付けた跡が赤い痣になって残っていた。 「ふあぁぁぁぁぁっ! んぁっ、んぁっ! あっ、あぁぁぁっ!!」  片手でもう片方の乳房を揉み潰すように軽く力を込める。  そのふくよかな乳房の奥からは激しい心臓の鼓動が伝わってくる。 「んぁ、ぁぁぁぁぁぁあ、ぃぁ……っ! あぅ…、あぁぁ…っ!!」  いつしか力を込めて揉みしだいてしまっているのに、佐祐理さんの口から甘い声が 途絶えることがない。 「ぃぁああああっ、あああっ! あ、あ、あ……」  腰に回した腕を強く引き付けると彼女の身体が持ち上がり、腰が弓のように反り返 る。  結合部の粘膜から透明からやや白く濁った液体が滴り落ちる。  水のように身体を伝うように流れるそれは熱い。  熱い飛沫が飛ぶ。 「んぁぁぁぁっ!!」  リボンで纏められていた髪がシーツの上で滝のように流れる。 「ひゃ、ぁ、んぁぁっ、ぁん!」  いつしか佐祐理さんは俺が好きなように動くのを、身体一杯に受け止めてくれるよ うになっていた。  突き上げるたびに、淫猥としか言いようのない音が響く。  互いの腰が蠢きあって相手をより強く、深く求めていた。  そこから生み出される快感に小刻みに身体中が震える。  もみくちゃになりながらも恍惚の表情を浮かべている佐祐理さんの顔が、俺の中で 催促として変換され、より強い刺激を求められる動きを要求していた。  刺し貫く。  突く。  突く。  突く。  腰の動きが早くなる。  射精することしかもう頭の中からはなくなっている。 「くっ、ぅっ、んんっ!」  前後左右と出鱈目に腰を動かす俺と、 「あ、はぁぁ…っ! ぁあああんんっ!」  震え、喘ぎ、髪を振り乱す佐祐理さん。 「やぁぁっ、ああっ、あっ!あっ!あっ!あっ!あっ!あっ!あっ!」  届く。届く届く届く届く届く届く届く届く届く届く。 ―――達する。 「ゆ、祐一さっ…んぁ、んぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っっっ!!」  一際奥深く突き入れた瞬間、絶叫と共に弓なりに身体が反れて締め付けられる。 「…う…」  破裂寸前の俺のペニスが擦られて頂点に達し、揉みあげられて絶頂を迎えた。 「あ…っ!」  自分の全てを吐き出すように、精子の濁流となって彼女の膣内へ注ぎ込まれていく。  それと同時に膣の奥底から急激に締め付けられる。 「あ、あ、あ…っっっ!!」  俺も格好悪く吼えるが、佐祐理さんの声に掻き消された。 「あ……っっっ!! んっ、っっっっ!! んはぁっ!」  何度も何度も噴射し続け、その度に腰が震える。  背中から脳にまで痺れるような刺激が突き抜けていく。  同時に佐祐理さんの膣内からも呼応するように何かが弾け続けるような感触があっ た。  自分の中を何かが駆け抜けていった頃に、それが快感だということがじんわりと伝 わってきた。ここまでのものは初めてだった。 「はぁっ…… はぁっ……」 「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」  俺の全身から流れ出る汗が、汗を全身から噴出している佐祐理さんの身体の上に滴 り落ちる。  互いに息をするのに忙しく、何も考えられない。  身体の奥からボォっと熱いものを感じる。  快感の余韻が燻ぶっているようだった。 「はあ……、はあ……」 「はぁ……、はぁ……」  互いの呼吸が、次第に重なり合うように揃ってくる。 「ぁっ……」 「んっ……」  自分のペニスがずるりと抜け落ちる。まだ多少ピンと張り詰めている。 「……あ…?」  急に外の空気を感じて妙にそこだけ冷えた感じがする。  抜け落ちた彼女の中から、愛液と精液の混じり合った液体が溢れ出す。 「……あ…っっ」 「…っ」  二人が一つになった証がそこにある。 「…はぁ…あ……」 「はぁ…」  佐祐理さんは横たわったまま、俺は背中から倒れかけるのを手で支えながら、二人 で荒い息をついていた。 「……」 「お腹のなかが、あったかいです……」  呟いた佐祐理さんの顔を見てから、お互いに照れくさそうに笑いあった。 「……祐一さん」  佐祐理さんの指が、俺の頬を優しくなぞる。  苦しそうで、泣きそうで、切なそうだった顔が、満ち足りたような表情に変わって いる。 「佐祐理……さん」  その指の動きが少しくすぐったい。 「その、今こういうのはセコいというか卑怯というかアレなんだけど……」  そんな赤面している俺に、佐祐理さんは全てを判ったかのように微笑んでくれる。 「凄く、好きだ」  そう言って、頭を掻いた。すげえ照れる。 「何か、ものすごく照れますね」 「あっはっは。実は俺もだ」  ハードボイルド風にここは煙草の一本でも咥えてすましたいところだが、生憎そん なスキルは持ち合わせていない。無駄に偉そうな態度を再びとって誤魔化そうとする。 「えい」 「んあ?」  そんな俺の頭を佐祐理さんがこつんと中指で軽く小突いた。 「そんな態度を取っちゃ駄目ですよ、祐一くん」 「……」  唖然とする俺に対して、佐祐理さんは照れたように毛布を被る。行動も驚いたけれ ど、それよりも今…… 「え……」  舞を通して果たされた彼女の目標。 「あの、佐祐理…さん?」 「その、今日の約束に合わせようってずっと思っていて、その……」  俺の声に、真っ赤になった顔だけを毛布の隙間から覗かせた。  みんなで一緒に、一生懸命に幸せになろう。 「あ、あはは……やっぱり変、ですよね」 「いや、もう一度言って」 「え、ええと……」  頑張り通した彼女がその際、俺に約束してくれた一つのこと。  いつか、きっと……と、言ってくれたこと。 「祐一、くん」  愚鈍な俺にもう一度、彼女は呼び掛けてくれた。 「わたしも、好きです」  佐祐理さんが、俺一人を見て微笑んでくれている。  それは…いつしか俺が求めていた光景だったのではなかっただろうか。  三人で過ごしながら、次第に俺の中で育まれてきた、求めてやまなかった光景。 ―――俺は、この人が、とても恋しい。 「佐祐理さん、二回戦突入!!」 「え? ええっ!?」 ―――無茶苦茶、恋しい。                             了

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