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Cries with future.
 それは強い腐臭。  冥い冥い闇の臭い。  そこは島の奥。  更に森の奥。  そしてその神殿の奥。  ここは祭壇の間。  森の中の神殿の内部で恐らく一番広く、一番要の空間。  巨大な祭壇があり、魚の化け物のような彫像が鎮座し、祀られていた。  祭壇の周囲を、同じ顔をした異形の生き物が取り囲んでいた。  鰓の張った顔が左右に狭くなることによって額の面積が狭くなっていて、その目は 目蓋が消失したようで、眼球の形そのままに大きく見開いたままになっている。  そして唇は薄く、歯はこまかく尖って並んでいる。耳も退化してなくなっているそ の顔は、魚のようでもあり蛙のようでもあった。  猫背で蠢くそれら生き物――インスマウスの住人達が存在していた。  ヒトであることを捨てた彼らは、ただその薄く膜の張ったような澱んだ色の瞳をし て、一心不乱に唱えていた。  そこにいる誰もが、唱えていた。  ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ  うがふなぐる ふたぐん!  ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ  うがふなぐる ふたぐん!  ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ  うがふなぐる ふたぐん! 『其は常しえの深淵に横臥せし死せるに在らず。恒久なる永劫の果てに死すらをも越 ゆる者なりば』  彼らの信奉する神へ届ける祈りの言葉。  ヒト非ざるモノどもの怨讐の祈り。  そしてヒトへの怨讐の呪い。  深きものどもと呼ばれるその生き物らは祭壇の向こう、彼らの信じるモノへ向けて 強く強く唱え続けていた。  それは彼らの意思であり、彼らの血の呪いであり、彼らの魂に刻まれた約束事であ った。誰もが疑わず、戸惑わず、ただひたすらに念じていた。  そしてその広間では、所々でまた違った蠢きがある。  深きものどもが、ヒトと交わっていた。  ヒトは全て人間であった。人間で女であった。  女一人に深きものが二匹、三匹と群がり、その媚肉を貪っている。  乱交であり輪姦であるその行為は美と尤も掛け離れ、ただただ不快だった。  浚われた観光客であったのだろう、その女性達は一人の例外もなく犯されていた。  数匹がかりで、膣に、口に、肛門に、突き入れられていた。  身にまとうものは勿論何もない。  僅かに水着だと思われる布切れがヒトによっては躰にへばり付いている程度だ。  魔術師が生み出した出来損ない共から発生し、今は広間一帯に充満しつつある甘い 香りは、祭壇を覆っていた目に見えることのない深きものどもによる瘴気と交わり合 い、この媾合いの儀式を彩っていた。  掠れた声がヒトの口から零れる。  まだ、声は出るようだった。  辛うじて、やっとのことで。  だが、それはもうヒトの声ではなかった。  牝の鳴き声。  牡を求めるだけの、快楽に全てを委ねる牝でしかなかった。  異形に躰を貪られ、魂まで汚染されたその牝は低く醜く呻き続けていた。  牝の名前を覇道瑠璃という。  その口から垂れ落ちる薄い緑色の粘液。  咽喉に溜まっていた異形から分泌され注がれていたぬらぬらとして生臭い唾液が床 に垂れる。  女の躰からは腐臭がした。  全身が生臭い臭いに包まれていた。  海水と腐った魚の臭い。  そこにある空気と同じ臭い。  同化、していた。  男達は女の躰に臭いを染み付かせていた。  仔を孕ます行為である。  生命をこの世に産み出す為の儀式である。  だが目の前の交尾は、理性あるものが見れば醜悪で見るに耐えないものだった。  それでもその牝が感じるのは快楽だけであった。  群がる異形たちはその牝を手放さない。  粘液にぬめる掌が彼女の頭を鷲掴みにする。  蟹の鋏のような爪が乳房を挟み込み、紫色の痣を痣を作った。  幾度となく貫かれ、何度となく注がれた。  蛙のような乱杭歯がその肌を裂き、血を啜った。  その牝の反応に対して、犯すものたちは一様に皆嗜虐的な笑みを浮かべる。  他の牡に汚染されていなかったその牝に子種を注ぎ込み、執拗にいたぶることへの 愉悦が表情を緩ませた。  いや、それだけではなかった。  彼らはその牝の胎の中に確かに自分達の成果を感じ取っていた。  知性が乏しい化け物ほど、本能に対する反応は鋭い。  太い指で鼻を強く摘まれたまま、口の中に突っ込まれる。  それでも牝が感じるのは快楽だけであった。  鼻水と逆流した精液が混ざり合い、出口を求めて鼻の穴から零れ落ちる。  快楽。  頭から浴びせられ、へばりつく精液。  髪にこびりつき、固まっていく。  快楽。  尻にむしゃぶりつくものがいた。  それは彼女の臀部に歯型の傷をつけるほどに噛みつき、肛門から己が唾液で垂れ落 ちるまで舐めまわし、所構わず吸い尽くした。  粘液でべとべとになった陰毛を毟るものがいた。  退化した中指を秘所の奥にまで突っ込んで膣内に詰まっていた精液を描き出し、先 ほどまで啜られて赤くなっていた後ろの穴に親指を宛がい、直腸の内壁を擦り上げな がらそれぞれの指を激しく動かす。  乳房の谷間を舌で舐めあげるものがいた。  発汗した肌の味を堪能しつつ、右の乳首を強く吸い上げ、そして左の乳首に噛み付 き、乳房の肉を口で目一杯しゃぶり尽くして、舌先を臍まで伸ばした。  その間、揺れ動く乳房をまるで捏ねるかのように強く揉みしだくことも怠らない。  それぞれが好き勝手に己の好きなように振る舞い、思うが侭に瑠璃を散々貪りつく した。  そして最後には一様に、その膨張しきって反り返り、下腹部にぶつかりそうなくら いに隆起している性器をその秘穴目掛けて突き入れる。  深きものどもは張り付くように躰を入れると、一方的に激しく腰を打ち付ける。  肉と肉のぶつかる音と、粘液質の水音の響きが広間に断続的に響く。  異形のものは身震いしながら、執拗に己の精を念入りに最後の一滴まで余さず、瑠 璃の膣内に放出する。  そしてまた新たな深きものどもと入れ替わり、最初から繰り返される。  牝に休みは無い。  牡の数だけ、精が注ぎ込まれるまでは終わることが無い。  ソレはそれだけの為にここに存在している。  祠の外、島の上。  密林の果て、岩山の奥。  烏が嘲笑うような羽ばたきでして飛び立っていく。  これも僅かばかりあった過去。  まだそこに留まっていた三つ目の烏はそう嘯く。  この世界ももう終わり。  そう云いながら屍肉を啄ばみ、つまらなさそうに低く喚いた。  それは全てを捨て、見放した合図でもあった。  しかし地下では何も変わらない。  何も気付くことはなかった。  ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ  うがふなぐる ふたぐん!  ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ  うがふなぐる ふたぐん!  ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ  うがふなぐる ふたぐん!  その行為が何日、何時間続いたのだろうか。  それでもヒトにとっては僅かな時間だった筈だ。  たったそれだけの時間である筈なのに既に異変が起きていた。  薄く濁っただけで最早何も映し出さない瞳。  人形のように動かない。  目尻だけは腫れ上がっている。  そして腹が、異様に膨れていた。  白い肌がテカテカと粘液で塗りたくれられたいたことと、四肢に力がなく、折り曲 げられた足が却って股間を突き出す格好になっていたことで、その姿はまるで尻穴に ストローで空気を入れられた蛙の姿そのものに見えた。  その彼女の周りを先ほどまで性器を一心不乱に突き入れていた深きものどもが取り 囲み、呪文を唱えていた。  ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ  うがふなぐる ふたぐん!  ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ  うがふなぐる ふたぐん!  ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ  うがふなぐる ふたぐん!  ヒクヒクと彼女の腹の中から呼応するように蠢いていた。  半開きに開いた口からは、白というよりは黄色がかった液体だけが零れ続けていく。  その量は多い。  ゴボッと咽喉の奥が鳴った。  飲み込みきれなかった汚液が、泡立ちながらせり上がってくる。  嘔吐を繰り返した結果なのか、赤く濁った白濁液が汚れた床を更に穢す。  瞳に意思が戻った。  だがそれは覚醒の為ではなかった。  彼女の腹が蠢く。  そして、唯一の出口である膣口から精液と血液と愛液が混じり合った液体が何かに 押し出されるように噴出する。  同時に絶叫し、躰が跳ね上がった。  首を左右に千切れんばかりに振り回す。  手に爪が食い込むことを厭わないほどに強く握り締められていた。  顎が外れそうなどに開いた口と、限界まで舌が伸びきった時、彼女の膣口が大きく 開き、血塗れの肉塊が転がり出た。  有りえる筈のない出来事だった。  だが、その場にいるものは誰一人動揺することも無く、それを見ていた。  ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ  うがふなぐる ふたぐん!  ギャァッ――と、産まれたばかりの赤ん坊が呪文の合唱の中で啼く。  ヒトであるようで、ヒトでないそれは矢張り異様であった。  ヒトでないものの精を得た、ヒトの胎から産まれたそれはヒトであることを亡くし ていた。  皺だらけの顔、縮こまった手足、それだけを見ていればまだ普通の赤子に見えた。  だが、臍の緒で母体と繋がっているソレは普通の赤子にはない身体的特徴を持って いた。  産まれたばかりでヒトに見えるそれは、何故か股間が異様に膨らんでいた。  体躯は幼児のそれであるのに、そこだけは大人の男の逸物と変わりがない。  いや、その異形さはそれ以上であった。  啼き続けた赤ん坊はいつしかその両足で立ち上がっていた。  まるでビデオを早送りした映像のようにその赤子はじっくりと緩やかにそれでも見 る見るうちに大きくなっていく。  その血が、この地に反応するのかまるで広間の空気から栄養を受け取るかのように その仔は膨らんでいく。  胴が、手が、足が、少しづつ、でも確実に伸びていった。  皺だらけの顔が開けていく。鼻は潰れ、目の位置は左右に広がっていった。  顔が、広がる。周りの男達のように。  赤子が再び吼える。  少しの時間で赤子は三、四歳の幼児にまで成長した。  躰が膨らむのではなく、薄く引き伸ばすかのように大きくなる。  そこで伸びが止まる。栄養が、足りなかった。  繋がった臍の緒から享ける母の命、種の血から享ける大地の命。  それだけでここまで成長するが、足りなかった。  ちからが、足りない。  女のちからが。  おんなが、足りない。  テラテラと光る女陰が赤子の直ぐ側にあった。  今しがた自分が出てきた場所。  それが、開かれたばかりの赤子の目に入る。  仔は、迷うことなくそこに己の逸物を埋めた。  長く伸びきった臍の緒も切らないままに、またそれは繋がった。  おんながそこにいた。  それだけが原因だった。  彼は自分の精を授け、ちからを得るためだけに腰を振る。  誰からも教わっていない行為。  血が、本能が、そうせよと囁く。  神の声を受けしそれは盲従する。  牝の股を割り、その醜く膨れ上がった逸物を秘所に捻じ込み、腰を振る。  そのままパンパンに張った乳房を口に含み、母乳を吸い上げる。  繋がった場所からは、慣れていないせいか既に何度も漏らしていた。  赤子から出るはずも無い白いものが流れ落ちる。  その小さな体の何処から作り出すのかというぐらいの量を膣に流し込んでいた。  母子相姦。  誰も止めるものはいなかった。  この場にいる全ての男はその女に入れ、出している。  ならば順番を明確に守るべきだった。  産まれたばかりの同胞こそ、その女に入れ、精を注ぐことが正しいことであった。  彼らと同じではない陸のものに、父も母もない。  ただのおんなであった。  仔は歩くよりも先に、射精することを覚えた。  話すことよりも先に、射精することを覚えた。  だからこそ、射精だけがその仔にとって全てであった。  この世の全てが射精だった。  だからこそ、何度も何度も、何もわからないまま知らないままに射精を続ける。  ちからを得る為の行為という意識は既にない。  その仔はただおんなの膣に自分の性器を突き刺し、腰を振り、射精をすることだけ しかできなくなっていた。そういう生き物に退化していた。  周りの大人は例外なく、ただ見ていた。  穢らわしい女が、よりいっそう穢れていく。  それだけであった。  ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ  うがふなぐる ふたぐん!  瑠璃は身動き一つしていなかった。  産褥状態の彼女は、呼吸すらしていなかった。  限界異常に見開いた目。  半端に開いたまま閉じることのない口。  ヒトでなくなり、牝でなくなり、生物ですらなくなった存在に成り下がっていた。  だが、それに気付くものはいなかったし、気付いたところで何も変わりはなかった。  周りよりも躰の小さい深きものどもが一匹、その肉を抉り、乳を吸うだけのことで あった。  関心が薄れたのか、殆どの深きものどもはまだ息のある牝を犯し始めていた。  見ると、小さな生物も混ざっていた。腹を膨らませている牝や、身動きしない牝も 混ざっていた。  白目を剥き、妙に長い舌を突き出して尿と糞便を弛緩した肛門から垂れ流している 牝も、脳細胞が死んだのか瞳が濁り、死斑が出ている牝も犯されていた。  死後硬直が解けたばかりで死臭を発し始めていた牝でさえも、異形のものたちの性 欲からは逃れられない。  生殖どころか、その膣から締め付けがなく悦楽に結びつきにくいにも関わらず、構 わずに性交を続ける。文字通り精根尽き果てるまで、彼らが命を絶やすその時までこ の交わりは終わることは無い。  彼らは彼らの神からも、彼らをそうした者からも、そうなる運命を紡ぎだしたモノ からも既に見放されていることを知らない。  捨てられていることを知らない。  そしてもう、何をしているのかさえもわからなくなってきている。  ただ蠢くだけ。  ただ唱えるだけ。  ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ  うがふなぐる ふたぐん!  ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ  うがふなぐる ふたぐん!  ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ  うがふなぐる ふたぐん!  哂う。  赤子が哂う。  口から白い乳液を垂れ零しながら。  陰茎から白い精液を垂れ流しながら。  征服したばかりの牝の躰の上を這いながら、高らかに哂った。  哂う。  化け物達が哂う。  口から緑色の唾液を垂れ零しながら。  陰茎から黄色い粘液を垂れ流しながら。  新たに生まれ育っていく仲間を祝いながら、朗らかに哂った。  ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ  うがふなぐる ふたぐん!  ただの音の羅列と化した呻きだけのこの世界はまだ、未練がましく終わろうとしな かった。  全てに捨てられたモノ達の宴はそうと気付かれるままに、誰からも知られることも なく、今もまだ続いている。  そう、この世の果ての何処かで今もまだ彼らは歌う。  ふんぐるい むぐるうなふ くするふ るるいえ  うがふなぐる ふたぐん!                    Has already ended.

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