寒い夜
 ―――やっと涼しくなったと思ったらもう寒くなるってのも嫌よね。  そんなことをさっきまで言っていたくせに、彼女はオレの顔に降りかける様に汗を 流し続けている。  今日は、彼女が泊まりに来た。  食事を作りに来たというのは有り触れた口実ではあったけど、その言い方が可愛ら しい。  普段はたった一つしか違わないにも関わらず年齢差以上の年上ぶりを見せつける彼 女なのに、こういうところになると極端に初心というか何というか。  先日神社の境内で押し倒したオレにしてみれば、非常に申し訳無い気分になるぐら いだ。  高そうな下着だったので、聞いてみたらはたかれた。  照れながら睨む彼女の顔はなんか良かったけど、それを言うのが気障っぽくて恥ず かしくて黙ってしまった。  何か純嬢さが戻った気がする。  初めの頃は裸になるのが恥ずかしいからと、毛布を被って服を脱いでいたのだけれ ど、夏を挟んだ頃にはその習慣はなくなっていた。  理由は聞くまでも無いだろう。  その身体を隠す仕草が可愛くて、その申し訳なさそうにする表情にそそられたので そのことを一度も咎めたりはしなかったので、今こうして極自然に服を脱ぐことや、 脱がせることへの抵抗が無いのが逆に少し寂しいぐらいだ。  下着を指で感じる手触りは意外と嫌いじゃなかった。  彼女の身体に直に触れるのではなく下着を通しての温かみ、柔らかさ、湿っぽさ、 その全てを生地越しに味わうことは、もどかしげに身体を動かす彼女の反応と共に新 たな悦びになっていた。  セックスは真面目にやらないといけないと思う。  別に愛の営みはどうたらこうたらだからとかいうわけではなく、  滑稽な格好で、滑稽な顔をして、滑稽な音を立てながら、滑稽なことをしているの だ。  真面目にやらなければ可笑しくなったり、恥ずかしくなったりしてしまう。  真面目でいるからこそ、見栄も外聞も尊厳も捨てて、欲望と快楽にだけ浸り続けて いられる。  切り離してできるヤツもいるのだろうが、オレはそんな性格ではないし、彼女に対 してそうしたくもない。  かといって特に信念というまでにはいかないのだから半端だ。  彼女とセックスに関しての話は特にしたことがない。  ただ縛ったり、変な姿勢でするのは嫌らしい。  後ろを使うなんてもっての外だそうで、何度も念を押されるほどに注意を受けた。  そのくせ咥えるのも挟むのも、飲むのも平気らしい。  乙女心というにはあまりに何だが、その辺の物差しが良く判らない。  オレとしてはせいぜい身体の隅々まで洗い、爪もキチンと切るといった程度の心構 えを常にしておくぐらいだ。  だからこそ、どこでも押し倒しても結局本気で嫌がられることが無いのだと思う。  愛も最低限の気遣いがあって成り立つものなのではないだろうか。  いや、他に経験がないので知らないが。 「‥‥大輔?」  声を掛けられて、顔を上げるとまだ服を脱ぎきっていない彼女が立っていた。  胸を持ち上げるようにして腕を組み、こちらが考え事をしていたことを咎める。  しかし怒っているという顔をを作ってはいるが、瞳が潤んでいるようでは効果が無 い。  面白かったので、答えず動かずにただ見詰め返した。  睨み合いになどなっていない。  すぐに彼女は、泣きそうに顔を歪める。  女の子は恋をすると強くなるとか、何かで見聞きした覚えがあるけど、瑠璃子先輩 にとっては違ったようだ。  彼女は、弱くなった。  素直になった分、昔はできた痩せ我慢ができなくなっているように思える。  オレといる時は顕著にそれがでる。  抱き寄せ、泣き顔を拗ね顔にまで戻してあげてからキスをする。  首筋から首の付け根にかけて口で吸うようにして跡をつけると、鎖骨の上から胸の 膨らみを舌で滑り、唾液の線を引いた。 「あっ‥‥あっ‥‥んんんっ‥‥あんっ‥‥」  自分のものの先の直ぐ下を握って、彼女の割れ目の中を擦る。 「‥あんっ‥‥はあ、はあ‥‥くっ‥あっ」  弾かれたように反応し後ろへ逃げる瑠璃子先輩だったが、すかさずその腰を両手で 引き寄せた。  透明な液が滲み出た先端で、彼女の粘膜を塗りつけるように擦り続ける。  壁の口がオレの性器の先で突かれ、押され、擦り続けられることで様々な形を作る。  彼女のそれが次第に赤く充血し、滑ってくるのがわかる。  先の一番太い場所まで入れ、瑠璃子先輩の粘膜を限界まで広げさせたところで動き を止める。  赤く充血した部分が更に圧迫され赤紫に色を変える。  そして両手で腰を押さえつけたまま、身体を揺らす。 「んぁぁっ‥‥ば、馬鹿ァ‥‥ああっ‥‥‥あ‥‥ぁあっ‥‥」  目を見る限り、抗議をしているようだが声にならないらしい。  見開いている目も視線が定まりきれていない。  オレがこうしていることよりも、こうされている自分の状態を知覚することで自分 に興奮してしまっているのですぐに昂ぶってしまうのだそうだ。  感じやすいこと以上に、客観性と自意識が強い性格なのだろう。  昨日の一種の露出プレイでは幾度と無く登りつめていたことからも、十分に頷ける。 「欲しい?」  軽いジャブのつもりの言葉に対して、瑠璃子先輩は溜めていた涙を落とすように零 しながら頷く。  二度、三度と激しく首を縦に振る。  その仕草に身体中が熱くなる。  欲しがる彼女を存分に観察しつつわざと、ゆっくりと抽入する。  じわじわと肉径を広げるようにして、反応を楽しむ。 「んはぁぁぁぁぁぁ‥‥‥あはぁぁぁぁぁぁっ、はぁぁぁっ、んあぁぁぁぁ!!」  彼女の抱き寄せようとする手が届かず、空しく虚空を掴む。  起き上がりかけていた上半身が再び崩れ落ちる。  唯一自由に動かせる首を激しく左右に振っていた。 「あっ、あぁぁっ‥‥あぁぁぁぁっ‥‥」  動きを遅めて先輩を一度落ち着かせてから、また昂ぶらせる為に動く。  その動きで躍動する膣の中ぼ締め付けに対抗して、腰を進めた。 「あぅぅぁあぅぅ‥‥っ あはァ! はァん‥‥んぁぁぁぁああっ ああああぁ!」  左右に身を捩る彼女の腰を持ち直すようにして改めて押さえつけ、一気に埋め込ん だ。 「んぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」  彼女の体温を一点で感じる。  全ての熱が股間に吸い寄せられるような錯覚。  思わず呻いてしまう。  荒い息。  激しい呼吸。  空気を求める。  冷たいものが咽喉の奥に消え、熱いものが吐き出される。  自分の身体の一部が自分の意思から離れたような、じわじわと押し寄せる快感の渦 に飲み込まれるような  自分を取り戻す為に、身体を動かす。 「あっ、あううううっ‥‥、くぁっ、くぁぁぁ んんっ! は、はぁぁぁぁんぁっ!」  美しい顔が歪む。  眉間に皺が寄る。  口からは悲鳴に似た喘ぎ声だけが紡ぎだされている。  身体の内から押し寄せる快感とは別に、目や耳から入り込む悦楽。  共鳴するようにその二つがまた、オレ自身を昂ぶらせ興奮させる。  強く締め付け続ける肉の輪を肉の鑢で削り落とすように動かす。  濡れているのに、擦っているような感触。  締め付けが痛いくせに身体は快楽を覚えている。 「ひゃっ‥‥ぁっあっあっあっあっあっああぁっ、あぁっ‥‥ああああぁぁぁ!」  それは瑠璃子先輩も同じらしい。  動きに合わせて彼女の喘ぎが耳に届く。  次第にぬめりが激しくなり、白く濁っていく。  熱さの中に滑らかな感触が伝わってくる。  気持ちがいい。  とても気持ちがいい。  声をあげてしまう。  言葉になっていないと思う声を。 「はあっ、あっ、あっ‥‥ん、んっ‥‥はあっ」  僕も頭と身体を切り離すことが出来ない。  身体が興奮すると頭も興奮する。  まともにものが考えられなくなる。  これは慣れれば、慣れるのだろうか。  それとも人の性格によるものだろうか。  どちらにせよ、今の自分は嫌いじゃない。  恥ずかしいが、嫌いじゃない。  交わりで鼻息荒く興奮しきった自分と、彼女が更に交わりを強める。  そんな構図を考えることもなく、ただ続けていた。 「はあ、はあ‥‥あっ‥‥ああっ‥‥」  白く泡立ち、肉同士のぶつかる音とはまた別の音が聞こえる。  液体が肉とぶつかり跳ねる音。  淫靡。  痺れる。  痺れる。  自分が抑制できない。  動く動く。  腕を伸ばし、身体を伸ばし、深くより深く彼女を求める。  考えることなど無い。  彼女の背中に腕を回す。  密着する。  より深くより強くもっと、もっともっともっと。  欲しい欲しい欲しい。 「くううっ‥‥んっ‥‥あっ‥‥」  腰だけが別のもののように動く。  止めることが出来ない。  力が入り過ぎるぐらいに彼女の身体を抱き締めていた。  緩めることが出来ない。 「んっ、んっ‥‥ぁんっ!」  鼻に掛かった声が漏れていた口を塞ぐ。  唇は重なり合い、舌を求め合い、唾液を吸い尽くす。  歯がぶつかり合おうとも、止めることが出来ない。  欲しい欲しい欲しい。  更に更に更に。 「はあ、はあ‥‥んっ、はあ、あっ‥‥ああっ」  続けたくて、終わりたくなくて、それでも我慢ができそうになくて。  どうしていいかわからずに自分の限界まで腰を動かす。  そうすることしかできないから。  膨れ上がるものを必死で堪え続けるが意識の向こう側に我慢が飛び散りそうになる につれて限界を知る。  最後に一気に彼女の膣壁の奥、自分の限界まで押しつけると、  先端から今まで我慢に我慢を重ねていた精液を子宮口に向けて激しく吐き出した。  その瞬間、彼女の身体が痙攣する。  最後は絡ませた足を攣らせ、子宮口を締め続けた。 「‥‥ッ!」  噴出した。  噴出し続ける。  出る、出る、出るッ  吼えそうになる自分の声を噛み殺す。  彼女の絶叫に隠すように咽喉の奥だけで、唸った。  オレの性器は彼女の歪な性器に飲み込まれたままで、結合し続ける。  一度は彼女の奥底に溜めこまれた精液が結合部分から逆流して湧き出てきた。  彼女の臀部を、オレの腿を伝って垂れ落ちることで、初めてそれは外気に触れる。  出る勢いに任せ続ける。  その濁流の元の放出が一区切りつくと、そこでようやく大きく息を吐いた。  呼吸を忘れていた気分だった。  五感の全てをそこでようやく取り戻す。  冷たい外気と発汗し熱を放出する身体。  自分の性器が根元まで熱い彼女の性器に押し込まれていて、熱くて心地が良い。  いつまでも入れていたいぐらいに。  大きくなる前に未練を捨てて自分のを抜くと、白い精液が、滝となって紅い滝壷か ら白い岩肌を伝って流れ出していく。  ドロドロと熱い液体が流れ出る様は、白い溶岩が煮えたぎっているかのようだ。  荒い息が徐々に整ってきているのが判った。  空気が、息で白く灼ける。  そこでようやく観察を止める。  くちゅん。  可愛いクシャミ。  お風呂から出てすぐに外に出たように、急に寒さを肌に感じたのだろう。  今まではそこに気づくまでのゆとりがなかったということか。  オレの息も荒く、微かに白い。  このまま寝てしまっては風邪を引いてしまうのではないかという当然の予測からな 危惧と、だるくて重くてただただ眠いという自然の欲求とが葛藤し合った結果、  ズルズルズル  隅に追いやっていた掛け布団と毛布を引っ張り込んで自分達に被せた。  ぼんやりとした表情で丸まっている御園先輩とオレの目が合う。  投げ出されていた腕が動き、オレの首に絡みつく。  今日はこのまま眠る事に同意してくれたらしい。  抱き合ったまま、布団の中に潜り込んだ。  そしてそのまま布団の冷たさと、彼女の肌の暖かさを感じながら目を閉じる。  ―――そんな寒い日の夜。                            <完>

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