晶、走る


2002/02/15

 瀬尾晶は走っていた。  大事そうに胸にチョコを抱え、恋する人の元へとひたすら駆けていた。  彼女は未来視を持った女子学生だった。  その頃、寄宿舎では。 「あ、秋葉ちゃーん。やっぱり部屋にいたんだ」 「あら、羽居。どうしたの?」 「今度のバレンタインなんだけど、これ秋葉ちゃんから渡してくれないかなあ?」 「へー、羽居が人に託すなんて珍しいな」 「本当。それで、誰に渡せば良いの?」 「秋葉ちゃんのお兄さん」 「あー、わたしのチョコが窓から弧を描いて焼却炉にー」 「どういうこと羽居。返答次第ではただじゃおかないわよ」 「遠野っ! 落ちつけっ!! 髪が凄いことになってるぞ、おいっ」 「ぶー、いきなりひどいよ、秋葉ちゃん」 「質問に答えなさい。それともアバラの一本でも…」 「だから、今週また秋葉ちゃん、家に戻るでしょう。その時に…」 「そんな話じゃなくてっ!!」 「えっと……? だから食べ物は粗末にしちゃいけないって…」 「違うわよっ!!」 「ぐぉっ!? な、何か吸ってるっ」 「だからどうしてそんな大きい本命チョコを兄さんに渡すほどの関係にいつなったの かを聞いてるのっ!!」 「えー?」 「不思議そうな顔をしないっ!」 「あ、だって、これ本命じゃないよ」 「へ?」 「羽居……だから言っただろう。そんな立派なチョコを知り合い皆に配り歩くのは止 めろって。共学高だったら絶対皆から誤解されるぞ」 「えー、でもちょびっとじゃ食べた気しないし…」 「………」 「羽居。バレンタインのチョコってそういうものじゃない」 「…そうなのかなぁ」 「「そうだって!」」 「うーん」 「そこ、不思議そうな顔をしないっ!」 「ま、まぁ……これで血は見ずに済んだな。遠野ももう少し落ちつけって」 「わ、悪かったわね……で、でも羽居」 「なに?」 「どうしてあなたが兄さんを知ってるわけ? 会ったことないでしょう?」 「うん。でも、秋葉ちゃんとかから話聞いているから他人の気がしなくて……」 「うっわー、それすげぇ迷惑な性格」 「そうよ。そんなんじゃ兄さんに何て言って渡したら良いかわからないじゃない。だ からそれは預かれませ……あら?」 「ん、どうした。遠野?」 「秋葉ちゃん。眉間に皺を寄せてどうしたの?」 「う、五月蝿いわね。ところで羽居」 「なになにー?」 「「とか」って言わなかった?」 「あ、言ったよ」 「私の他にこの学校で兄さんを知っている人なんか………」 「どした?」 「秋葉、ちゃん?」 「………」 「ぐぉわっ!?」 「きゃあっ!!」 「せ〜〜〜〜〜〜お〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!!!!!」 「と、遠野っ! おまえ、ちょっとワンパターンだぞっ!」 「うん。初めは晶ちゃんに頼もうと思ったんだけど、晶ちゃんのとごっちゃになった らいけないから……」 「おまえも火に油を注ぐなっ!!」  晶はずっと走っていた。  涙目で必死に。  繰り返そう。  瀬尾晶は未来視を持った少女である。                             <おしまい>


 玲子派の御二方がバレンタイン企画で月姫の萌えSSをやっていたらしく、そこの
SS掲示板に掲載されていた二作品を読んで感想変わりに即興にて書きました。
 中途半端な長さで、SSとしてもどうかと思うのですが月姫コーナーを作ってから
自作SSがゼロという有様ですので、出してみようかと思ったり。どうでしょうか?