鮒は生きろ。女狐も生きろ



 セイバーが足を止める。
 あれだけ群がってきた兵士たちの姿もない。
 ここが終着なのか、目前には何かが立っていた。
 歪な人影。
 ローブか何かを羽織ったソイツは、そこだけ黒く塗り潰されたように、姿というも
のが見えなかった。

 ……黒い影。
 それを見た瞬間、なんともいえない不安に襲われた。
「貴女がセイバー? ……なるほど、確かにこれならあの怪物バーサーカーを倒し得るわね。私の
雑兵では足止めにもならないでしょう」
 クスクスという忍び笑い。
 黒く塗り潰されたアレが骨どもの主……キャスターのサーヴァントらしい。
 だが――――

「マスターがいない……」
 近くにマスターらしき姿はない。
 こいつもランサーと同じで、マスターから離れて行動するタイプなのだろうか……?
「―――貴様。契約が、切れているのか」
 不快そうにセイバーが問う。
「ええ。彼は私の主に相応しくなかった。だから消えてもらったし、消えてしまった
わ」
 黒いローブはどんな表情をしているか判らない。
 それでも、ひどく冷たい声で、キャスターはそう答えた。
「マスター殺し―――では、貴様のマスターは」
「とっくに死んだわ。けれど問題はないのよセイバー。私たちは魂喰いでしょう?
魔力の供給源なんていくらでも溢れている。マスターがいなくとも、聖杯がある限り
こうして留まる手段は幾らでもあるわ。
 あとは、そう――――聖杯さえ手に入れてしまえば、そんな杞憂もなくなるでしょ
うね」
「……貴様も現世への復活を望むのか。どこの英霊かは知らぬが、その為にかつての
誇りを捨てたのか」
「あら。人間風情に使われるのは、誇りを捨てるとは言わないのかしらね。
 私はそれが我慢ならなかっただけよ。今も昔も、誰かの手足になるのはこりごりな
の。だから使う側に回っただけ。貴女に非難される謂われはないわ」
「―――だろうな。私も、貴様の非業になど興味はない」
 セイバーの体が、わずかに傾く。
 ―――キャスターまでの距離は十メートルほど。
 それなら、セイバーは一息で間合いをつめ、キャスターを仕留めるだろう。
「物騒ね、せっかく話し合いに来たのに問答無用だなんて。これでも手加減はしたつ
もりなのですよ?」
「貴様と話す事などない。潔くここで散れ」
 セイバーは倒す気になっている。
 ……反対はしない。
 キャスターには血の匂いしかしない。
 自らの手でマスターを殺したというが、それは間違いなく真実だろう。
 この襲撃だって、屋敷にいる人間を皆殺しにしようとしたものだ。
「…………」
 故に、セイバーを止める理由はない。
 そもそもセイバーとキャスターでは勝負にならない。
 キャスターの能力ぐらい感じ取れる。
 アレは一対一では最弱のサーヴァントだ。
 この状況になってしまえば、もはやセイバーに倒される以外にない。
 だが、

「…………だめだ、セイバー」
 それは、駄目だ。
 俺の中の俺が強く反対する。
 ここでしかできない何か、その何かの為に俺は彼女を止めなくてはならなかった。
「話し合いに来たと言ったな、キャスター」
「シロウ!」
 俺はセイバーの肩を手で押さえながら、キャスターに向かい合った。
「あら」
 相手は俺を見て、少し愉快げな呟きを漏らす。
「ええ、そうよ坊や。私は争う為に来たのじゃないわ」
「じゃあ話とやらを聞こうか」
「シロウ、いけません! 相手は自分のマスターさえ殺した狡猾且つ邪悪な敵です!
話し合いなど通用する相手ではありません」
「まあ、いいさ。別に罠を張っての時間稼ぎということではないだろ? ……ただキ
ャスター。仮にも話し合いというのならこの目障りな連中は引っ込めてくれないか」
「この雑兵達は貴方達を倒せはしないけど、牽制ぐらいにはなるわ。私の身の安全ぐ
らい確保させて貰わないと」
「ふん。この距離ならいかなる魔術師でもセイバーには勝てないぞ、キャスター。だ
ったら無駄なことは止めることだ」
「あら、無駄かどうかは私が決めることで、貴方が決めることじゃないでしょう」
「むむ」
「シロウ、いい加減に―――
「ならばこいつらのことは引こう。ならせめてそのフードぐらい取れ。仮にも話し合
うというのなら顔ぐらい見せて当然だ。別に正視に耐えない容貌というわけじゃない
だろ」
「……」
 俺の言い分について少し考えたようだったが、
「いいわ。確かに貴方の言う通りね、坊や」
 即座の判断後にニヤリと一度微笑むとゆっくりと顔の半分を隠していたフードに手
を掛けた。
 これで読めた。明らかに相手は何かを企んでいる。
 自分のスタイルを固持するよりも、こちらの機嫌を取る方に意識が向いている。
 だとするとまずはそこを何とかしなくてはならないと俺も腹を括る。
「これでいいかしら」
「む。ローブに隠すのが勿体無いぐらいの美人だな」
「シ、シロウっ!」
 隣でセイバーが咆えるが聞こえない振りをしてやり過ごす。
 思わず軽口を叩いてしまったが、言うだけの甲斐はある。
 想像以上にキャスターは美人だった。
「ありがとう、坊や」
「知っているかも知れないが俺は衛宮士郎だ。セイバーのマスターをやっている」
 まずは挨拶からを切り出すと、案の定相手は笑うだけだった。
「ええ、知っているわ。何でも相当のお人好しなんですって」
「今、君の話を聞くぐらいには」
「ふ、ふふふふふ、そうね。確かにその通りね」
 俺の切り換えしがツボに入ったらしく、口元に手を当てて微笑む。
 相手は手練れのようでもあり、初心なようでもある。
 皮肉を混ぜた駆け引きがどこまで通用するかは判らなかったがやってみるしかない。
「じゃあ本題に入るわね。私と手を―――」
「組もう」
「シロウっ!?」
 これ以上見てられないとばかりに、セイバーが俺の前に割って入る。
「い、幾らなんでも……黙って聞いていればなんですか!」
「キャスター、君の目的はセイバーだな」
 胸倉を掴まれて揺さぶられるが、俺は視線をキャスターからは離さない。
 向こうは俺が自分の意図にどこまで気がついているのかと考えたのだろう。
 反応が遅れる。
「――――――ええ。でも気が変わったわ。貴方にも興味が沸いたわね」
「俺を魔術で木偶にして、間接的にセイバーを操るか?」
 わざとらしく肩を竦めて見せたが、まだこのぐらいでは相手も動じない。
 こうしていると何故か、かつて遠坂の側に居たアーチャーを思い出す。
 そりが合わなかった相手だが、何故か今の俺はアイツに似ている気がした。
「あら、そんなに警戒しなくてもいいじゃない。私が怖いかしら?」
「怖いね、綺麗な女性には。ガキの俺なんかよりも多く人間を知っているだろう相手
なら尚更に」
「………」
 そこまで俺が言ったところで、どう答えていいのかわからなかったのだろう。キャ
スターは難しい表情になる。
 少年らしく年上の女性への憧れをストレートにぶつけるのも手だが、そうなると完
全に向こうのお姉さんのあしらいモードになる。それは面白くないので少し攻め手を
変えてみる。
「坊や。もしかして私を口説いているつもり?」
「気に障ったなら謝る。ただ俺は歯の浮いたお世辞を言ってるつもりはない。見たま
ま、感じたまま言っているだけさ」
「そう……」
 何か調子が狂うわね―――そう心の中で言っているように感じる。
 さて、ここからが正念場だ。
「キャスター。聖杯に対する君の望みは何だ?」
「それを聞いてどうするというの?」
 明らかに警戒の色が濃くなっていくのがわかる。
 セイバーも事の展開が全く判らなくなっているらしくて、襟首を掴んでいた手を離
して俺とキャスターを交互に見ていた。
「聞けば聖杯はマスターとサーヴァントの望みを叶えるという。つまり回数にして二
つの望みを聞いてくれるということだろ」
「……ええ」
「セイバーの分は譲れない。けれども、俺の分は君に譲れる」
「な―――」
「何を言い出すのですか、シロウ!」
 二人のサーヴァントは揃って俺を見る。
「坊や。貴方には望みがないとでも言うの」
「聖杯に頼らないといけないようなものはない。これは初めからだよな、セイバー」
「そ、それは……」
「貴方は命を賭けてこの聖杯戦争に参加しているのでしょう。だったらそんな……」
 俺の言動に動揺しているようだ。
 想定外の事に関しては、案外脆そうだ。
「君がどんな決意があって人を殺めてまで聖杯を求めるのかは知らない。けれども俺
が引くことで、その目的が果たされるのなら安いものさ」
「随分と……いえ、予想以上にお優しいのね、貴方」
「気になるのなら、ご機嫌とりと思ってくれてもいい」
「私の機嫌を取ることで貴方に得があるのかしら?」
「女の子が血を流して戦う機会が減る。それにあとは、君と敵対したくない」
「……口説くにしては稚拙ね」
「まだ未熟でね。その辺はおいおいで構わないから教えてもらえないか、キャスター」
「私は、狎れるのは好きじゃないんだけど」
「手を組むというのは慣れ合うことさ。俺は君のことが知りたいけどね」
「ふ、ふふ、随分人とは会ってきたけど貴方みたいな子は稀少よ。気に入ったわ」
 キャスターは口元を緩ませて、本当に愉快そうに微笑した。
「じゃあ……」
「ええ組みましょう、セイバーのマスター。私の望みはさっきも言った通り現世に留
まる事。聖杯に望むのはそれだけよ」
 そう言って右手を差し出してきた。
 右手というのは意外だった。予想以上に好感触を得たらしい。
「ひとつ、いいかしら」
 応じようと俺が一歩近づくと、キャスターが何か悪戯っぽい表情を浮かべる。
「もしかしたらこの手を握ったら、貴方は意識を失って私に操られるかも知れないわ
よ。信用できて?」
 からかっているのか本気なのかはわからない。
 けれどもこれは明らかに彼女の失点だった。
 その一言は、俺を罠にかけるよりも俺を試して遊ぼうという意思表示なのだから。
「君は、人に疑われるのは好きかい?」
「え……」
 だからこそ、努めて真摯な顔を彼女に向けた。
 切嗣 ( オヤジ ) から教わった全てのことを今こそぶつける時だった。
「一つだけ約束をしよう、キャスター」
「約束?」
「ああ。強力な魔術師である君に、未熟者である俺からできる約束は一つしかない」
 俺の言葉の意味が汲み取れないのか、キャスターは小首をかしげる。
 その不用意な状態を逃さず、俺は差し出されたままになっていた彼女の手を握る。
 生粋の魔術師なのだろう。踏み込みに対しての反応が遅かった。
「あっ……」


「―――俺は、君を裏切らない」


 そのまま体を寄せると、驚く彼女の目を見つめながらそう言ってのけた。
 亡き切嗣 ( オヤジ ) から俺は魔術や武術と共にこうした口説き文句も教わっている。
 俺は彼の背を見て、正義の味方というものを目指したのだ。
 だからこそそれまで彼がしてきたことは、これから俺がすることだ。
「―――え」
「俺には何の力もない。取り得もない。あらゆる努力はできても、あらゆる結果を出
すことが出来ない。だから俺が今、君に約束出来ることは一つだけ―――君に誓うこ
とだけだ」
「貴方……何を……」
「君が俺をどう思い、どう考え、どう扱うかはわからない。今だけのことでも、これ
からのことでも何一つ。俺はただ君を信じよう。君だけを、信じよう」
「わ、私だけって……ちょ……」
「俺は媚びない。君に対しては口先で応対する人間にはならない。俺は逃げない。君
の前から黙っていなくなったりはしない。俺は誤魔化さない。君へは真を以って向き
合いたい。誓おう―――これが唯一、今の衛宮士郎が君にできることだから」
「そ、そんなこと―――そんな、コト……」
 相当混乱している。
 これまでの対応から、賢しげでも愚直でもなく真摯こそが武器になると睨んでいた。
 思った以上に効果はあったようだ。
「キャスター」
 もう一方の手を握手をしている彼女の手に重ねた。
「たとえこの世の全てが君をどう言おうとも―――俺は君を裏切らない」
「……あ、ぁ」
 俺の両手に包まれる彼女の可憐な小さい手。
 相手は、こんな華奢な手の持ち主なのだ。
 この手の温もりが伝わるように、包んだ手を感じてもらえるように強く願う。
 本当は言葉を使ってはいけないことだ。
 だが、形のないもので伝えるには些か彼女には難しい気がした。
 どういう生涯を送り、それが彼女にどういうものをもたらせたのかはわからない。
 だからこそ、詰まらない言葉で突破口を開いた。
 後は、この手をどうするかだ。
 これは賭けだ。
 身代程度は賭けない限り、得られないだけのものなのだから仕方がない。
「……呆れた。坊や、貴方は良く知りもしない私にそこまで言う気なの?」
「どこまで知ったって、人を知れるなんて思わない。キャスター、俺は君が良い子だ
とか悪い子だとか思い込んでいるから言うわけじゃない。同時にどうにでもなれと投
げ出しているわけでもない。俺は君を見た。君と話した。君を考えた。その時に君を
信じようと思えた。俺にとってはそれで十分なことだ」
「つまり、私は信用できる―――と?」
「俺は君を信じようと思った。裏切りたくないと思った。その感情を口にしているだ
けだ」
「わからない……ちょっと変よ、貴方」
「人を信じるのは怖いことだと思う。けど、信じられることも同じぐらいに怖いこと
だと思う。だから押し付けるつもりはない。俺は約束ができるだけ。その約束を受け
入れるかどうかは―――キャスター、君の判断だ」
 彼女の手をとった両手に軽く力を込める。
「あ……」
 魔術師としての表情は既にない。
 まるで求婚でもされている乙女のように戸惑い、翻弄され、心が千々に乱れている。

 こんな勝負はしてこなかったのだろう。
 彼女の人間関係はきっと常に一方的で、互いにというものがないのだろう。
 でなくば、こんな下手な言葉で揺らいだりはしない。

「その……」
「焦らなくていいよ、キャスター」
「そんな、コト……」
「君のこれまでがどうだったかはわからない。だから偉そうなことはいえない。俺は
ただ俺が思うことをしたいだけさ。君の、力になりたい」
「……っ」
「迷惑、かな」
「そ、そんなコト……」
 鬼が出るか、蛇が出るか。
 あとは黙って見つめるだけだ。
 切嗣 ( オヤジ ) はそうして家にまで押しかけてきた沢山の国籍多様の女性を、あしらっていた。
 俺はあの時の彼に、近づけただろうか。
「わ、私は……」
「……」
「え、衛宮、士郎……」
 初めて彼女が俺の名前を呼んだ。
 おずおずとローブの中に隠していた、もう一方の手が差し出される。
 その手には何も握られていない。
「私、マスターを殺めたわ。そ、それに今も多くの人から……」
「君の過去に興味はないよ。俺は君の未来に力を貸したい。その未来が間違ったもの
にならないように、誰もが心から笑えるようにさえなれればいい」
「し……信じて、いい、の」
「人の誰もがそうであるように、君にも幸せになる権利がある」
「衛宮士郎……」
 ふらふらと彷徨う彼女の心境を表すかのようにその頼りない手が、俺の手に重ね合
わされた。
 俺は彼女の手を強く握る。
「ありがとう。そして宜しく、キャスター」
「え、ええ……こちらこそ……」
 話し合いでの解決の大事さ。
 切嗣 ( オヤジ ) はいつもそう言って俺の頭を撫でていた。
 その記憶が今、脳裏に浮かんでいた。
 俺は、勝ったのだ。
「よしっ」
 思わずガッツポーズ。
 間違いなく、これが運命の転機だった。
 それまで魔力を溜め込んでいたキャスターを仲間にしたことで、


「そうか。これまで溜め込んだ魔力をセイバーに回せると」
「ええ」
「わかった。 ―――告げる。汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に――」
「シロウっ」


「雑種に名乗る謂われはない。失せるがいい、道化」
「―――Μαρδοξ――――!」
「熾天覆う七つの円環ロー・アイアス――――!」
「いきなり瞬間契約テンカウントの合体魔術!?」


「……では、私が反対した場合でも、シロウは一人で町に出るのですか?」
「ああ、絶対に行く。そうでなきゃ一晩考え抜いたのがバカみたいだ」
「そんな必要はありません、士郎様。セイバーなど捨てて卒時ながら私―――」
「いえ、私が行きます」


「―――聖杯は欲しい。けれど、シロウは殺せない」
「な――――に?」
「判らないのね、下衆めが。そのような物より、私は彼が欲しいと言うことよっ」
「そ、それは私の台詞ですっ」


「な――――ランサー、貴方は」
「くだらねえコトなら口にするなよ。別に貴様らに肩入れしている訳じゃねえ。オレ
は、オレの信条に肩入れしてるだけなんだからよ」
「貴様の信条とやらは三対一でボコるということか?」
「あっはっは。だってテメェ等悪い奴じゃん」


「鞘を取ってくれ、セイバー。これは俺たちが勝つ為の絶対の条件だ」
「――――――――」
「取るのです、セイバー。貴女と彼の縁切りの為にも」
「……その言い方は激しくムカつくのですが」


「よく来たな衛宮士郎。最後まで残った、ただ一人のマスターよ」
「ああ」
「だがサーヴァントを三体連れてくるのは反則だと思うが。ランサー、貴様もか?」
「今のオレは破戒すべき全ての符ルールブレイカー使われたからキャスターの使い魔ってことで」
「……変わらぬと思うぞ」


「最後に、一つだけ伝えないと」
「……ああ、どんな?」
「シロウ――――貴方を、愛している」
「じゃあ後のことは私に任せて、さようなら」
「な――――っ!?」


 と、色々あって聖杯戦争を解決した。
 キャスターのマスターに頼らずに行動できるほどに溜め込んだ魔力は、俺を通して
セイバーをも現界させるだけのものを持っていたので、実際のところは全てが終わっ
た後もこの関係は変わる事がなかった。
 頑張ったヤツが報われるようにと願った俺と、可愛らしい女の子を躾るのが大好き
と言った彼女の望み通りに。
 だから今、俺たちはここにいる。なあ、セイバー。


「セイバー。お手」
「キャスター! いい加減にしないと本気で……」
「ふうん。その剣でどうしようというのかしら」
「……」
「斬る? でも私を斬ると現世に留まれないわよ」
「……くっ」
「士郎様も悲しむでしょうに。さあ、その覚悟があるのなら、このメディアを斬って
御覧なさい」
「ぅ、ぅぅ……」
「ところでこのメディア、この御時世にこれほどまでに無駄飯食いの王など初めて見
ましたわ。鮒よ鮒よ、鮒騎士よ。おほほほほほほ」
「うぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐっ」
「さあもう一度言うわよ。お手」



「―――ああ。未練なんて、きっと無い」
「いいから目ぇ背けてないで、早く止めなさいよ」
 遠坂の目はずっと冷たい。具体的に言えば十三日目の夜から。
 イリヤは即行帰りやがったし、桜や藤ねえも姿を見せないのだからまだ顔を見せる
だけマシなのかもしれない。


『オヤジ。オヤジみたいに正義の味方 ( ハーレムキング ) になるにはどうするんだ?』
『ポイントは女の子は泣かせないコト、後で損するからね』


 俺はまだ切嗣 ( オヤジ ) の背中を越えられない。


「ないったらないんだからっ」
「逆切れすんなっ」



                          <おしまい>