メイド来たらば、春遠からじ



 衛宮士郎は目覚める。
 恐らくはいつも通りの時間のいつも通りの目覚めになるはずだった。
 ぼふ。
 起き上がろうと手をついた先に、柔らかな弾力を確かめなければ。
「ぼふ?」
 その弾力を確かめる前に、手をついた反対側から声が飛んだ。
「それはもっと優しく扱うものです、衛宮士郎様」
「はい?」
 キリキリと音を立てて、士郎は首を動かす。
 するとそこにはメイドがいた。
 同じ布団で彼の隣に横たわっていた。
「はい?」
「おはようございます、士郎様」
「なっ……」
 慌てて、反対側を振り向く。
 するとその手の先には、同じような胸が、もとい同じようなメイドがやっぱり彼の
隣で横になって寝ていた。
「わたしは、乱暴でも、いい」
「黙りなさい」
 もう一人のメイドの声は、最初のメイドの方の叱咤で遮られた。
「な、な……」


「なんだこれはっ!」


 当然ながら絶叫していた。


「お初にお目にかかります。私はセラと申します。イリヤスフィール様の世話をさせ
ていただいております」
「わたし、リーゼリット」
 ひとまずの混乱を済ませて居間に場所を移すと、英会話のテキストのような丁寧と
いうかピンとがずれていそうな喋り方をする方と、単に省略しているのだか超然とし
過ぎていてよく判らない方が揃って対照的に士郎に自己紹介をする。
 見た目は殆ど変わらない。身長や体つきが少し違うのと目の見開き具合だろうか。
 雰囲気は賢姉愚妹というところだが、揃ってやっている事は非常識っぽいのであて
にならない。
「ところで、随分と喋り方が違うんだな」
 真っ先にピンと外れの発言をする士郎もかなりおかしくなっている。
 動揺が抜けきれていないらしい。
「申し訳ありません。リーゼリットはまだこちらの言葉に慣れていないもので……」
「わたしは、みんなが、上手い、と、思う」
「確かに」
 まあこの辺は深く触れてはいけないところだ。
「ラモスなんて、何年、日本に」
「いや、そんなことは言わなくていい」
「モレシャン、なんて」
「いいってば」
 その二人はむしろ例外の部類に、と士郎は心の中で思う。
「そんなわけですので、士郎様にも何かと不自由をおかけすると思います」
 セラが頭を下げる。
「大体、日常会話、流暢で、名前だけ、カタカナなのは、わざ……」
「「黙れ!」」
 流石にそれはレッドカードだ。言ってはならないお約束のひとつである。
「で、一体二人して俺の布団に潜り込んで何をしていたんだ」
「あ、いたぁぁぁっ!」
 ドタドタドタと、足音荒く居間に踏み込んできた者がいた。
 この部屋でそんな足音を立てるのは一人しかいなかった。藤ねえだ。
 彼女は桜と共に、居間で士郎と向かい合っている二人のメイドに詰め寄る。
「藤ねえ、と桜!?」
「あ、士郎。おはよう」
 一度振り返って、普通に士郎に挨拶をすると藤ねえはそのままセラというメイドに
吠え立てた。
「一体、あなたたちどうゆうつもりなのよーっ!」
 虎の咆哮のように叫ぶ藤ねえ。
 けれども当のセラは両目を閉じて涼やかな表情を崩さなかった。
「え、ええと、何?」
 士郎は桜を見るが、彼女はリーゼリットの方をチラチラと見ていて士郎の視線に気
づいていないようだった。
「この家の関係者も出揃ったところで、改めて説明致します」
「面倒なのは、セラが言う」
 一瞬リーゼリットを睨んだセラだったが、すぐに鉄面皮に戻って俺達に向き直る。
「今日から士郎様の世話は私たちが致します」
「なっ」
「なんですって!!」
 俺よりも藤ねえの方が驚いている。
「却下! 却下却下却下! そんなの駄目ったら駄目!」
「そ、そうですよ、そんないきなり……」
「ちょっと待ってくれ。俺には何一つ話が見えないんだが。イリヤのメイドが何だっ
て……」
「それは、わたしが言う」
 正座をしたまま、リーゼリットが士郎の方に近づく。
「え?」
 全員の注目が集まる中、
「耳、貸して」
「お、おう」
「ちょっとこんなところで、内緒話なんて……」
 藤ねえの言葉が最後まで終わらないうちに、
「フッ」
 士郎の耳に息を吹きかけるリーゼリット。
「〜〜〜!?」
 耳を抑えて転がりまわる士郎。
「リズ!」
「ちょっとやってみたかった」
「先輩に何するんですか!」
「羨ましい?」
「ええ! ――じゃ、なくて!」
 リーゼリットに対して、つい即答してしまい慌てる桜。
「私たちはお嬢様がご立派なレディになられるまでの間、士郎様の身の回りを綺麗に
し、また士郎様御自身のご苦労を少しでも和らげる為に、お嬢様の命でこちらに参り
ました」
「こんごともよろしく」
「え、な、何それ? じゃあイリヤは」
「今は一時向こうに戻っております。色々と準備がありますので」
「金目のもの……ゲフ」
 裏拳のツッコミは勿論、相方のメイドだった。
「そうなの、藤ねえ?」
「うん。そうみたい……じゃなくて! だからアナタたちは!」
「そ、そうですよ。先輩はわた……」
「セラ」
「ええ」
 すっくと二人揃って立ち上がる。
 その光景は少し見ている者を引かせるほど、全く同じ動きだった。
「な、何?」
「え、やだ!」
「ちょっと、また、あれを……」
「あれ? あれって、桜……」
 セラは藤ねえを、リーゼリットは桜の腕をそれぞれ掴むと、そのまま隣室に連れて
行った。
「へ?」
 戸惑う士郎をそこにおいて、パタンと襖が閉められる。
「……」
 その場で佇むこと、十分弱。

「も、もうお嫁に行けないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
 部屋の隅で畳を叩いて号泣する藤ねえと、
「先輩にはっ、先輩にはっ」
 顔を真っ赤にしてカチンカチンに固まった桜が出来上がっていた。

「何をした、おまえら!」
 そんな彼女達を指差しながら、仕事の後の一服とばかりに揃って湯飲みで茶を啜る
メイド二人に詰め寄る士郎。
「ティーチャー藤村は元から婚儀には縁がないと思います」
 しれっと、追い討ちをかけるセラ。
「まだ、甘い」
「あぅぅぅぅぅぅぅ」
 リーゼリット方も桜にだけは意味が伝わる言葉をポツリと漏らしていた。
「無事に話し合いで解決しましたので、士郎様も宜しくお願い致します」
「悪いようには、しない」
「いや、オマエの物言いはかなり不安だ。じゃなくて、勝手に決めるな!」
「残念ながらお嬢様はこの国の結婚でき「ピー」達し……リーゼリット?」
「この物語に出てくる登場人物は全て18歳以上」
 口で警告音を鳴らすリーゼリットはセラの真似をしながら囁いた。
「あ、コ、コホン。レディになる為の猶予期間が必要なのです!」
 何か見ていると面白い二人だと士郎は思った。
 その会話内容に自分が関わらなければの話だがとも思ったが。
「悪いが、俺は……」
「では、さっそく」
「ええ」
「え?」
 二人はさっきのように立ち上がると、士郎の両腕を掴んだ。
「え?」
「決して士郎様を失望はさせないと保証致します」
「セラのサービス、アインツベルン中随い」
「黙りなさい」
「処分逃れも、そのおかげ」
「黙れ」
「あのー」
 何でまた俺の部屋に連れて行かれるのでしょうか、と士郎は聞きたかったが、二人
のメイドは漫才に忙しくて聞いてくれそうにも無かった。


「……で、わたしにどうしろって言うんです。藤村先生」
「遠坂さんならきっと名案を出してくれると思って」
「姉さ……遠坂先輩なら、先輩の目を醒ましてあげられると思うんです!」
 校内放送で進路相談室に呼び出された凛の前には、泣き喚く藤ねえと桜がいた。
「それで、士郎はどうなってるわけ」
「見れば判ります」
「見れば判るわ」
 二人揃って言う姿に、凛は少し興味を引かれた。
 何せセイバーを失っても変わろうとしなかった士郎が変わったというのであれば、
気にならないわけは無い。
「わかった。この件はわたしに任せて……と言いたいけど二人ともそれでいいの?」
「わたしは……ちょっと」
「うん、ちょっと、ね」
「?」
 士郎の事で容易に引き下がるとも思えない二人が引け腰になっていることにも気に
ならないでもなかったが、凛はそのことには追求しなかった。
「じゃあ、さっそく見てみましょうか」
 一時間目を遅刻してきたらしく、朝から出会っていなかった士郎の顔を拝むべく、
凛は早速彼のクラスに向かった。


「おっぱいはこわくなーい」


 ズサッ。
 すぐに凛は廊下に逃げ込んだ。
「え、ええと、あー」
 覗き見て様子を伺うと、クラスメイトも士郎の変貌っぷりには引きまくっているよ
うだった。
 何とか必死に声をかけているのは一成だけだったが、彼の声も届いていないらしい。


―――あれはもう手遅れではないだろうか。


 凛はそう思った。
 あの目はもうこの世を見ていない。
 どういうことでああなったのかは判らないが、彼の目には桃源郷しか映っていない
に違いなかった。
「うーんと」
 凛は心を落ち着かせて考え込む。
 こんな時、魔術師として正しい対処を思いつくだけの知識と経験を積んで来た筈だ
った。
 そんな彼女のとった判断は、

「さてと、次の授業はなんだっけ」

 見て見ぬふり、だった。



 だが、そんな日々が続くと流石に無関心ではいられなくなった。
 と言うよりも、昼休みに一人きりの場であった筈の屋上にて、彼女の目の前で、

「はい、あーんしてください」
「あーん」
「美味しいですか? 士郎?」
「うん」
「じゃあ、口移し」
「あーん」

「だぁぁぁぁぁぁぁぁっ! どっか行けっ、あんた達!」

 こんなことをやられていては当然だった。

「あーん」
「あーん、じゃない!」
 凛は士郎の頭を引っぱたこうとするが、セラの箸でその手を挟まれる。
「なっ!?」
「貧しい胸の娘よ。暴力はいけませんよ」
「誰が貧しい!」
「失礼。間違えました。貧しい家の娘、でした」
「貧しくないっ! どっちも!」
 ぜったい、わざとだ。
 そんな目で凛は睨むが、セラはしれっとした顔を崩さない。
「遠坂家、火の車」
「るさい!」
「そうなのか、遠坂」
「黙れ!」
「騒いでるのは、貴女一人」
「全く」
「だぁぁぁぁぁぁ! だからなんでここで食事をしているのかって聞いているのよ!
 どっかに行きなさい!」
「ここ、貴女の土地じゃ、ない」
「わざわざ見せ付けてるのかって、ことよ」
「ええ」
「そう」
「だってさ」
 ブチン。
 凛のこめかみの太い血管が切れた。
「男運無い女、前にして、食べる食事、格別」
「イリヤスフィール様によると、貴女も駆除対象になっておりますので」
「ふーん。そうなんだ、遠坂」
 最早、士郎にとっての価値観は二人の思うがままらしい。
「わかったわ。そっちがその気なら、やってやろうじゃない。その喧嘩、買ってあげ
るわ」
「まあ、せいぜい怪我などなさらないように」
 ギュッ。
 セラはその豊満な胸を士郎の顔に押し付ける。
 その時、凛は誓う。


―――ま、負けられねえ。


「というわけで、遠坂家の秘術を駆使して作ってみました。惚れ薬」
「ほ、惚れ薬だと!?」
「そこ、なんて陳腐なんだとか言わない」
「しかしだな、凛。そういう安易な解決法はどうかと思うぞ」
「あいつらだってどーせろくでもない方法を使って士郎を操ってるに違いないわ!
だったらおあいこじゃない!」
「胸の大きさとか?」
「胸のことは言うな――――――――――――っっ!」
 早朝から遠坂凛はハイテンション。
 何せ、昨日の昼から延々と屋敷の奥に篭ってずっと薬を作り続けたのだ。
 思わず片手にアーチャー人形を填めて一人芝居もしたくもなる。
 勿論お手製。フェルトの彼はちょっとクール&ダーティー。
 まだ朝早いこともあって、交差点には生徒は滅多にやってこない。
 僅かに通る部活動の生徒も交差点の真ん中で吼える彼女を見ると、引き返したり、
塀に張り付きながら通り過ぎたりと忙しい。
「ふふふ、お爺様も父さんもこの薬に頼って結婚したと知った時は思わず泣きそうに
なったけどね」
「だから魔術書に蛍光マーカーで二重丸にしてあったわけだな」
「でなければ一晩で完成なんて無理よ」
「……いや、まあいい」
 アーチャー君は皮肉屋だが、凛にとって本当に痛いところはついてこない優しい奴
だった。
 だって一人芝居だもん。

「何してるんだ、遠坂?」
「っ!!」
 気が付くと、凛のすぐそばに士郎がいた。
 挙動不審そのものっぽく、二度三度と凛はあたりを見回す。
「敵影……なし」
 二人のメイドは昼休みにならないと学園にはやってこないようだった。
 そうなるとすることは一つとばかりに凛は早速ポケットから惚れ薬を取り出した。
「士郎。飲んで」
「へ?」
「いいから、飲めってば」
「な、何が?」
 いきなり両手で粒状の宝石を差し出されて面食らう士郎。
 目は宝石よりも、左手に填めこまれていたアーチャー人形に注がれていた。
「遠坂、寂しさのあまりお前、とうとう……」
「だぁぁぁぁぁ! 何勘違いしてるのよ! 何、その哀れんだ目は!」
「悪かった。俺、お前のこと少しも気づかずに」
「そんなことは気づかなくていい! というか、さっさと飲め!」
 アーチャー人形で鼻を摘むと、無理矢理開かせた口に宝石を放り込んだ。
「げほっ! んぐっ!」
「吐くな! 飲め!」
 今度は口を抑えて無理矢理飲み込ませる。
「がほっ、な、何だよ、一体……」
「いいのよ。すぐにわかるから」
「え……あ……?」
 飲み込めばすぐに効果が現れる。
「おーす。遠坂」
 目の前に立った異性にメロメロというお約束の代物だ。
「衛宮まで何やってんだ。おい、大丈夫か?」
「あ、その、ちょっと苦しくて」
 これであの腐れメイド二人に先んじて……
「衛宮、具合でも悪いのか? おい、遠坂」
 そんな凛の妄想を現実は許してくれそうにない。
「だからどうしてあんたが現れる、綾子っ!」
 諦めて現実に向き合う凛の目には士郎を抱きかかえたりした美綴綾子がいた。
 凛は思う。
 因縁か。
 やっぱり因縁なのか。
 殺す殺さないの関係は今こそ発動されるのだろうか。
「何怒ってるんだよ、遠坂?」
「……く、苦しい」
 泥棒猫殺しておけばよかったとかブツブツ呟く凛の吐き出す黒い怨念に思わず美綴
は仰け反るが、目の前で士郎が蹲っているのを放っておけず意識を彼に向ける。
「あ、おい。衛宮、しっかりしろ」
「……胸が、苦しい」
「さすってやろうか? どの辺だ」
「違うんだ、美綴」
「ん?」
「俺、お前のことを見ていると胸が苦しいんだ」
「はあ? 何、冗談言って……」
 首を傾げる彼女を前に、士郎は立ち上がって叫んだ。


「美綴! 俺、お前のことが好きみたいだ!」


「因みに先代も先々代も、目当ての相手には失敗したそうだ。だから資産家の令嬢と
結び付けなかったのだと嘆いたとかいなかったとか」
 左手のアーチャー君は解説は大得意。
「ねえ、あれ」
「美綴先輩だよね」
「何、告白?」
 さっきまで殆どいなかった筈の朝練に向かう生徒がぞろぞろと集まってくる。
「あれは誰だ?」
「あれって、衛宮じゃん」
「最近ちょっと変だったのは、もしかして」
「そうだよ、こういうことだったんだ」
 うわぁい。
 凛は周囲の説明台詞っぽく状況を凝り固めて行く連中を、片っ端からガンドで掃射
したい気持ちでいっぱいになる。
「じょ、冗談キツいぞ〜、なあ衛宮」
 あはは、と一人笑って美綴は場を収めようとするが、士郎は強くかぶりを振る。
「冗談でこんなこと言えるかよ。何かもう胸の奥が熱くて、お前を見ていないと耐え
切れないぐらいに苦しくなって、ああ、俺、何言ってるんだろう!」
 それは、きっと宝石が溶けてガンガン効力を発揮しているのだろうと凛は思ったが
言う余裕はなく、
「あー、その、ええ、と……」
 同じぐらいに顔を赤くした美綴に、珍しいものを見たと思う気持ちにもやっぱりな
れなかった。



「セラ! リーゼリット! これはどういうこと!」
「それが意外な伏兵が……」
「知らないけど、完敗」
「だーかーらー、あれは誰よ!」
「同級生だそうです」
「エロゲー、水月で、メイド勉強、したのに」
「むきーっ!」


 戻ってきたイリヤが正座をする二人のメイドを前に説教している横で、


「でも、本当に俺なんかで良かったのか」
「あたりまえ。そりゃあびっくりしたし、衛宮からはそんなのは絶対無いと思ったし。
こっちもそんなこと今まで考えてなかったしね」
「そうか? もてるだろう、お前?」
「ほら、あたしこんな性格じゃん。だからさ、男から異性として見られないっていう
のかな。そういうのって縁がないんだ。告白されたことが全くないわけじゃないけど、
やっぱり向こうもあたしの性格とか考えてるのかさ、腰が引けてるんだよね。あたし
の顔色をうかがって、最後まで言い終わらないうちに結局、冗談だって笑って誤魔化
すんだよ。仕方ないから一緒に笑うけどさ、やっぱり辛かったんだよね。そんなこと
もあってか男嫌いなんて思われてたみたいだし」
「うん」
「だから衛宮がはっきり言ってくれたのって、すごいびっくりしたし、正直それまで
意識もしてなかったけど……すごく、嬉しかった」
「美綴……」
「綾子でいいよ。ううん。そう呼んで欲しい」
「綾子」
「うん。士郎」
「……」
「はは、て、照れるね。こういうの」
「そ、そうだな」
「そうだ、綾子。食後のデザートは何がいい?」
「士郎の作ってくれるものならなんでも」
「そう言われると責任重大だな」
「大丈夫。士郎のは何でも美味しいから」


 士郎と美綴がいちゃついていた。


「……」
 それを横目に、凛は一人思う。
「遠坂ー」
 はにかんだ笑顔が眩しい美綴の声に対しても、振り向かずに凛は返事をする。
「何?」
「あの先に恋人をって約束だけどさ、あれ、いいや。何か今、すごく満ちてるし」
「そう。ありがとう美綴さん」
 三年になったからどっちにしろ無効だけどねと言う言葉は封印する。
「遠坂もいい相手見つけろよ。その時は応援するし」
「ええ。その時はお願いするわね」
「〜♪」
 凛の声の調子に欠片も気づかない美綴の鼻歌をBGMに凛は、一人思い続ける。



 セイバー、カムバック。





                          <おしまい>