男女七人馬鹿物語



 ……音がした。

 古い、たてつけが悪くて蝶番も錆びて無闇に重い、扉が開く音がした。
 暗かった土蔵に光が差し込んでくる。
「――――っ」
 眠りから目覚めようとする意識が、
「――、起きていらっしゃいますか?」
 近づいてくる足音と、冬の外気を感じ取った。
「……ん?」
「おはようございます、――」
 まだ目が覚めてないらしい。
 どうも頭がはっきりとしない。
 まるで目の前のものを理解する事を避けたがっているような。
「朝です、士郎様。まだ時間はありますけれど、ここで眠ってしまいましたら私が寂
しくて泣いちゃいます」
「……」
 それは困る。
 切嗣 ( オヤジ ) は女の子を泣かせるなと言った。
 例えそれが見ず知らずで、尚且つ女の子と呼ぶような年齢に見えず、どうにも理不
尽というよりも意味不明であってもだ。
 というか、あれ?

「―――誰だ、アンタ」

 そこに控えているのは俺の知っている後輩じゃなかった。

「……」
「……」
 夢見悪くまだ覚醒しきらない頭のまま上半身だけ起き上がった俺と、正座したまま
前にかかりそうになる髪を片手で押さえている女性は互いに無言で向かい合う。
 それ以上声が出ない俺に対して、彼女はただ俺の顔を覗き込んでいる。
 う、ちょっと可愛い。
 いや、かなり可愛い。
 目をクリクリとさせて、俺の様子を可笑しがるような素振りで見つめている。
 年は恐らく俺より一回りぐらい上で、端整な顔立ち。その佇まいは清楚でありなが
らも、その表情にはどこか愛らしさが感じられた。
 だから美しいという以上に、可愛らしいという表現が似合う。
 きっと桜が十年ぐらい歳を取ったらこんな風になるんじゃないかと―――

「――て、そうだよ、オイっ!」
「きゃっ」
 見惚れている場合じゃない。
 というか、疑問も棚上げされたままだし、第一その疑問に答えてもらっていない。
 何、見つめているんだ。

「あ、いや驚かせてごめん」
 俺のいきなりの大声に、ビクッと体を震わせてしまった彼女にまず謝る。
「その、キミ……誰?」
 もしかして藤ねえの知り合いか何かだろうか。
 俺の交友関係は狭くはないが、一度会った人間を忘れるほど広くはない。
 間違いなく、初対面の筈だった。

 おずおずとした尋ね方が面白かったのだろうか、口元に手を当てながら彼女は笑っ
て頷いた。
「驚かせてしまってごめんなさい。でも士郎様は朝がいつも早いとお聞きしましたか
ら、こうして起こしに行ける機会は逃したくなかったんです」
「いや、だから……」
 惚けているのか、天然なのか俺の問いに答えてくれない。
 いや、俺が寝起きの頭だからマトモなことを言っていないのかもしれない。
 だから彼女はクスクスと楽しそうに笑っているのだろう。
「―――ちょっと待っててくれ。すぐ起きるから」
 深呼吸をして頭を切り換える。
 冬の冷たい空気は、こういう時に役に立つ。
 寒気は寝不足で呆っとした思考を、容赦なくたたき起こしてくれた。

 ……目の前には見知らぬ女がいる。
 ここは家の土蔵で、時刻は午前六時になったばかり、というところ。

「……士郎様?」
「ああ、目が覚めた。ごめんな、変な問答して」
「そんな、私の方こそ士郎様の都合も考えず……」
「うん。でもそろそろいい加減にキミが誰だか教えてくれないか?」
 流石に落ち着いた。
 間違いなく、俺の目の前にいるのは見ず知らずの人間で、俺を起こしに来る人では
ない筈だった。
「では、失礼して」
 俺の言葉が通じたのかどうかは判らないが、彼女は軽くコホンと咳をしてから正座
をし直して居住まいを正す。
 日本人にはどう見ても見えないのに、その正座の姿勢は確りしていた。
 上半身を起こしただけの俺も、思わずつられて座り直そうとして―――断念した。
 姿勢を正した彼女の表情を見てしまい、動けなくなる。
 さっきまで生きている人であったのが、いきなり芸術作品になってしまったような
錯覚を固まってしまった。
「――――」
 声が出ない。
 突然の代わりように混乱した訳でもない。
 ただ、目前の女性の姿があまりにも綺麗すぎて、言葉を失った。
「――――――――」
 女性は宝石のような瞳で、何の感情もなく俺を見据えた後。



「―――問いは無用。貴方が、私のマスターです」



 凛とした声で、そう言った。


 そうか、俺は彼女のマスターなのか。
 なるほど、それで納得がいった。

「いくかっ!」

 何だよ、それ!
 マスターってなんだ!
 それよりも問いは無用って何だよ!
 問答無用ってことかよ!

「じゃあ、婚約者ということで……ポッ」
「言って自分で照れるな!」
 さっきまで彫像のようにすら思えた目の前の女が、一気に俗っぽくなっていた。
 いや頬を赤らめて、体をくねらせればそりゃあそうなる。
「一体全体何なんだ、お前はっ!」
「そんなに見つめないで下さいませんか。その、少し、恥ずかしい……」
「うっ……」
 詰め寄った関係上、彼女の目の前に顔を突き出していた。
 頬を赤らめて、顔を横に背ける仕草は淑女のように見えるが……うう、騙されない
ぞ。
 きっと全ての事情を知っている藤ねえあたりが土蔵の入り口で狼狽する俺を面白が
って覗いていたりするんだ。
「あの……士郎様」
「な、なにカナ」
 うおっ、裏返るな、声。
 まるで緊張しているみたいじゃないか。
 というか、そんな無防備に顔を更に近づけてきたりすると、吐息がかかって余計に
ドキドキしたりして困る。
「ところで契や―――」
「あっ」
 慌てて時計を見る。
 何か結構経過していたっぽい。


「……しまったしまった」
 土蔵を飛び出し、自分の部屋に戻って身だしなみを整える。
 良く判らない人は放っておくことにした。
 恐らく朝食の時にでも藤ねえが説明するだろう―――するんだろうな?
「しかしそれというのも彼女が……」
 彼女が何だというのだろう。
 悪いのは修行が足りない俺自身だというのに。
「全く、人のせいになんかしちゃだめだろうに」
 今回ばかりはしても良さそうな気がしたが、それでもだ。喝。
 一成の口真似をして気を落ち着けると、すぐさまキッチンに向かった。
 土蔵で時間をとってしまった分、桜に一人で食事の支度をさせていたかと思うと、
申し訳ない。
 キッチンからは既に先客有りとばかりに小気味良い包丁の音と、鍋かららしいお湯
が茹っているような音が聞こえてくる。
「ごめん、桜。一人で仕度させちまった」
「お気になさらないで下さい、士郎」
 鼻腔に飛び込んできた朝食の匂いを嗅ぎつつ、一人で支度をさせた申し訳なさから
頭を下げると、そこには眼鏡をかけた女が立っていた。

「あ……れ……?」
「どうしました、士郎?」
 さっきの女同様、やっぱり知らない人間がまるで当然のようにそこにいる。
 驚くより先に呆れてしまった。
 どうやら今朝は何かあったらしい。
 それだけは間違いない。
「え、と……」
 混乱している頭のまま、何はともあれ彼女の手元を覗きこむ。
 赤ピーマンが刻まれている途中のようだった。
 はて、と首を傾げつつ見ると横にあるボウルには既に緑と黄色のピーマンが同じよ
うに刻まれていた。
「朝は和食だと聞き及びましたので寒ぶりの和風ムニエル、溶き卵とスライストマト
の味噌汁、三色ピーマンとグレープフルーツのサラダ、かまぼことアボガドの和え物
にしてみましたが如何でしょうか」
「何か間違い探しっぽく微妙にメジャーでなさそうな気がしないでもないけど。特に
最後」
 決して不味くはないが、特に美味いとまではいえない風変わりなラインナップ。
 具体的に言えば料理研究家とか言う人がTVとか雑誌で紹介し、真似して一度は作
っても二度目は滅多になさそうなメニューだ。
「隠し味の山葵が良く合うのですが……」
 俺の顔色を窺うように小声ながらもさり気なく主張しているところを見ると、もし
かして好きなのかもしれない。かまぼこかアボカド。というかウチにアボカドなんて
あったっけ?
「えっと、それよか桜知らない?」
「サクラ……バラ科サクラ属サクラ亜属の落葉樹のことでしょうか?」
「ボケてるのか本気で言っているのか知らないけど、そうじゃなくて人の名前」
 更に言えばその着けているエプロンの本来の持ち主。
「いえ、私は知りませんが……」
 様子を窺うがやっぱり惚けているのか本気で言っているのか良く判らない。
 さっきの土蔵の女に比べると無表情。
 クールなお姉さんという感じだ。
「むむ」
「?」
 さっきのようにじっと彼女を観察する。
 飾り気のない眼鏡と広いおでこ。
 ジーンズに単色のシャツという地味ながらも体のスタイルがわかるような服装に、
腰の下まで伸びた長い髪の先をリボンで括っている。
 うん、美人だ。
 改めて確認すると、次第に緊張してくるのがわかる。
 さっきの女に負けず劣らずの神がかったド美人。
 そのままスーツでも着て、ビジネル街をハイヒールで闊歩しそうな女性が、エプロ
ンをつけて台所に立っている。
 そのアンバランスが何か妙にそそる。

「そんなにじっと見つめられると、照れてしまいます」
「……くっ!」

 参った。
 本当に卑怯だ。
 そんな急に微笑まれると、圧倒されるじゃないか。


「ところで――」
「これでもう終わりですから、士郎は寛いでいてください」
 俺が顔を赤くしている間に、最後のサラダも終わったらしい。食器棚の引き戸を開
けながら盛り付けの器を探している。
「う、その……せめて食器の用意ぐらいは俺が―――」
「それでしたら士郎はまだ寝ている人を起こしに行ってくれませんか」
 迷うことなくサラダ用のガラスの器を取り出しながら、俺の方を見る。
 特に普通にしているのにも関わらず、何かその眼には抗えないような雰囲気がある。
 そう言えば昨晩は藤ねえは客間に泊まった……っけ?
 覚えていなかったが、まあ泊まったのだろう。他に泊まる奴はいないし。
「え、そ、そう」
「はい。もう全員分の準備もできていますので」
 爽やかな笑顔。それは俺なんかの異議の差し込める余地のないものだった。
「あー、うん。わかった」
 それでも本当ならもっと粘っていたかったのだが、今日に限っては藤ねえを起こし
に行くことを優先することにした。
 いい加減、何があったか知りたいし。
「ところで士郎」
「ん?」
 向こうから呼びかけられるとは思わなかったのでちょっと驚く。
「つい仕度に夢中になって忘れるところでした」
「あ、そうか。おはよ――」
 てっきり朝の挨拶だと思った俺を無視し、
「士郎。その前に、これを読んでいただけませんか」
 予め用意してあったのか、エプロンのポケットから四つ折にされた紙片を俺に差し
出してきた。
「う……って、何これ?」
 聞いても黙って見つめているだけなので、仕方なくメモを開くと達筆で何やら書い
てあった。
「『―――告げる。汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に。せい――』わっ!」
 読んでいる途中でいきなり紙が焼け焦げた。
「――っ!」
「な、何だ一体……」
 慌てて紙を手放すと、あっという間に灰になって空気に溶けていった。
「クッ」
 その歯噛みのような声を聞いて顔を上げると、先ほどまでの表情から一変して、眼
鏡の奥で苛立ったような表情を作っていた。
「えーと……」
 中庭の方を睨みつけているようだったが良く判らない。
 ただ言えるのはその手にしているものが包丁ではなく、とげとげがついたナイフの
ような妙な凶器に変わっていて怖いということぐらいだ。
「え、えと――じゃあ俺、藤ねえ起こしに行くから……」
 聞こえているのかどうかも判らなかったが、空気が一変したキッチンから逃れ出る
口実を口にしてその場を後にした。


「一体全体何だっていうんだ」
 見知らぬ女が二人もいるし、いつも来ている桜はいないし。
 桜はもしかしたら何か用事があって来ていないだけかもしれないが、出会った二人
の方は問題だった。
 どう見ても日本人には見えないのに流暢な日本語を話すし、何故か俺の名前は知っ
ていたし、何より揃って美人だった。
「いや、それは関係ない」
 でも何か浮世離れというか地に足が着いていないというか、そこんじょそこらで見
ることはなさそうな美女ではあった。
「もしかして、切嗣 ( オヤジ ) の知り合いか?」
 外人さんなので、十分ありえる。藤ねえの知り合いというよりも納得がいく。

「おーい、藤ねえ。説明してくれ」
 遠くキッチンか居間の方で何やらぶつかり合うような音が聞こえてきたが、それを
無視して襖を開ける。

「うっ……み、みっともねっ」

 思わず漏らしてしまうぐらいに寝相が悪い。
 体半分が布団から出ていて、蹴飛ばしたように掛け布団が斜めにずれて半分捲れ上
がっている。あーあ、膝なんか立てちゃって。
 枕は辛うじて頭を乗っけているというぐらいにギリギリで、散々動いたのかほつれ
た髪がぐしゃぐしゃになっているのがわかる。これは寝癖が凄いことになってるぞ。
 パジャマのボタンは半分ぐらいしか留めてなく、豊かとはいえない胸の控えめな膨
らみが覗いたり、臍が丸出しだったりするが色気が感じられないのであまりドキドキ
はしなかった。ロリ属性は持っていなくて良かった。
「ムニャムニャ……げろー、跪けー、首を刎ねよー」
 寝息は健康そのもの。小声での寝言は楽しそうな夢でも見ているのだろう。幸せそ
うに微笑んでいる寝顔に何かムカついて叩きたくなるがここは我慢だ。あーあ、涎垂
らしちゃってまあ。
「ZZZ……」
「ふぅ……」
 ところで問題はいつ藤ねえが金髪に髪を染めたのだろうかとか、背が縮んだのだろ
うかとか、いい加減現実に向き合わないといけないんだろうなぁとか、いやこれって
現実なのかコレは夢だったりするんじゃないかなーとか。
 弛みきった寝顔を眺めることしばし、半分は予想していたとは言えやっぱり謎の外
国人女性が一人増えていることに納得はいかなかった。

 ぐー

 あ、腹の音。
「うにゅ」
 腹時計なのか、そう一声漏らすと目蓋がゆっくりと持ち上がってくる。
 薄目を開け、傍らにいた俺を見て言う。


「―――問おう。貴方が私の朝食か?」


「違う」
「じゃあ昼食か?」
「それも違う」
「おやつ?」
「いい加減そこから離れろ」
「むっ」
 何故か不機嫌そうな表情に。
 いや、その顔は既に俺がしている。


「―――まさか夕食とは言わないでしょうね」
「言うかっ」


 取り合えず小突いた。


「はぐはぐ……シロウは美味しくない」
「だから食うな! 痛ぇよ! しかも不服そうな顔してんじゃねぇ!」
「シロウは細かい」
 人の二の腕に喰らいつく金髪碧眼の欠食児童を引き連れ、居間に入るとそこはやっ
ぱり予想通りというか何というか、土蔵の女とキッチンの女が嫁と姑ぐらいにいがみ
合いながらも二人揃ってテーブルの前に座っていた。
「ん……?」
 何だか内装がまるで焼け出されたみたいにボロボロになっていたり、テレビが木っ
端微塵になっていたり、まるで銃乱射でもあったみたいになっている。
 けれどもその割には襖は紙一枚破けてなく、ガラスも全て無事だった。
「あー」
「士郎様」
「士郎」
 立ち尽くす俺に二人揃って深々と頭を下げてくる。
「シロウ、食事はまだですか?」
「黙れ、テメエ」
 一人だけ傍若無人っぽいのは無視する。

「えーと、そろそろいい加減キレそうなんだが……」
「それについては私が説明しよう」
 最後まで言い終わる前に、キッチンから神父が現れた。
 手には何やら料理の皿が盛られ、れんげですくいながらもくもくと食べている。
 行儀が悪い―――そう思う以上に、一体何を食べているのかわからないぐらいにそ
の料理の皿は赤かった。
 一味唐辛子の粉が山盛りになったそれは最早何を食べても一緒レベルに思える。
「うむ、赤い」
 満足そうにそう呟く。
 美味いでも辛いじゃなくて赤いなのか? 赤けりゃいいのか?
「それでだ、少年」
 漸く説明が始まろうとしている。
 控えている二人の女も流石に神妙そうだ。
 残りの金髪は神父の横を通ってキッチンに向かった。
 さっき言っていた、寝ることと剣を振り回すこと以外には食べることしかしたくな
いというのは本当らしい。妥協できるのは風呂程度だと誇らしげに無い胸をそらして
いたぐらいだから筋金入りだ。■バQと呼んでやろうか。


「――――喜べ少年。君の願いは、ようやく叶う」
「いや、こんなこと願ってねえ」
 1ミクロンともだ。
「まず君の勘違いを正そう。いいか衛宮士郎。エロゲ主人公という物は他人に譲れる
物ではないし、なってしまった以上辞められる物でもない。その名をプレイヤーに知
られた者は、たとえ何者であろうと主人公を辞める事はできん。まずはその事実を受
け入れろ」
「断じて嫌だ」
 心の底から拒絶したが、胡散臭いその神父は「……なるほど、これは重症だ」とか
呟きながら唐辛子の粉の山を片づけていく。
 しかも問題はそこじゃねえ。
 真っ当なエロゲ主人公ならまだいい。初体験に困ることは無いだろうし、履歴書に
も有利だし、就職にも苦労しない可能性が高い。出会いも豊富で、今後の人生に有利
に働く。
 が、これは違うだろう。これはどう見てもエロゲじゃない。ギャルゲですら微妙な
ところだ。
「君はエロゲーを純愛テキストノベルのみと勘違いしているのではないかね」
「いや、エロゲの話はもういいから。ぶっちゃけどうなっているのだけ教えてくれ」
 説明役として出てきたんだろうから、それ以上は求めない。
 あ、一瓶丸々使ったと思われる一味唐辛子代は終わったら請求しよう。
「では本題に戻ろうか、衛宮士郎。君が巻き込まれたこの戦いは『精液戦争』と呼ば
れるもの――んがごっ!」
 左ハイ一閃。
「何だよそれは!」
「し、七人のサーヴァントが一人の精液を求めて繰り広げる争奪戦」
 倒れながらも皿とれんげは手放さない根性は何かもう執念だった。
「因みに十年前の前回は切嗣が途中で腎虚に陥ったことで―――うぐっ!」
 陰気面した胡散臭い神父をかつてTVだったものの残骸で黙らせる。
 何か切嗣 ( オヤジ ) の名誉というよりも俺自身の思い出の為に。

「全く……うおっ!?」
 額の汗を拭って、残骸を放り捨てるとすぐ側には3人の女が立っていた。
「さあ」
「さあ」
「ひゃあ」
 見ると紫色のローブを着た危ない女やら、SMクラブから抜け出してきたような女
やら、唯一着替えてすらいねえ色気より食い気そのものな寝巻き女やらが俺を囲むよ
うにして迫ってくる。取り合えず最後、物食いながら来るな。
「ちょっと待……」
「待った!」
 勿論救いの手ではないことを察知しつつも、その声の方を振り向くと四人の男が並
んで立っていた。
 揃って違うものも立っていた。うほっ。

「俺様のゲイボルクが光って唸るっ」
「やれやれ他人よりはマシとは言え、全く因果なものだ……」
「衆道は武士 ( もののふ ) の嗜み。黙って身を委ねるがいい」
「■■■■■■■■■■■■――――!!」

 何だよ、おめーらは! 泣くぞ! 特にそのでっかい奴!

「■■」
「さあ」
「さあ」
「さあ」
「さあ」
「さあ」
「ひぁあ」


――――神様、俺何か悪いことしましたか?


「■■」
「さあ」
「さあ」
「さあ」
「さあ」
「さあ」
「ひゃあ」
 男女七人俺物語状に取り囲まれると、みるみるうちに服を剥がされていく。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――」
 逆レイプとかそんな単語が頭に浮かぶ。


 助けてと泣き叫ぶ直前、家が大きく揺れた。


「――――っ!」
 その直後、群がっていた七人に向かって天井からありとあらゆる剣や槍や刀など武
器という武器が飛び込んできた。
 家、大ピンチ。



 大音声と共に、刃物という刃物が降り注ぐこと数分。
 現実逃避した思考が、獅子座流星群とかゲームウォッチでこんなのあったなぁとか
思っていると漸く音が止んだ。
 埃やら落ちてくる瓦礫やらがひと段落して視界が晴れると老若男女分け隔てなしと
ばかりに、七名の変態達が思い思いに串刺しにされていた。勿論血塗れスプラッタで
ブラドとか何とか思い出す。数が合わないと思ったら七人のうち一人は腐れ神父で、
寝巻き女は平然と飯を食べていた。どうやらキッチンにお代わりをしに行って難を逃
れたらしい。流石はヒロイン。口の周りは食べかすだらけだったけど。
 そんな彼女の姿のおかげではないが、不思議と現実味を感じないのは既に麻痺して
いたからかもしれない。
 だって気がつくと、



「―――やっと気づいたぞ。雑種、貴様は、オレのエンキドゥだったのだな」



 ……そう、深く染みいるような声で、



 金ぴか野郎がふかく腕を回して、ぎゅっと、俺の体を抱きしめていたから。



 わあ、俺大人気。



「シロウ、お代わり」



 頼む。
 お前ら全員、消え失せろ。




                          <おしまい>