夢も現も今も未来も変わりなし。〜体はエロく出来ている〜
 んっ……! あは、あ、んあ、は……!

  赤い。
  黒い眠りに落ちたというのに、いつのまにか、真っ赤な教室に誰かいる。 

  ふあ、はっ、あ――――いいわ衛宮、くん――――ずんっ、て、んっ、くっ……! ……あは、あたままで、貫かれてる、みたい――――

 聞き覚えのある声。
  液みずの滴る音と、パンパンと冗談じみた音が、脳髄に響いている。

  っ……! や、らんぼうに、かきまわして―――んあ、は、んあああぁあ……!

  嬌声が聞こえる。
  指に柔らかな肉の手応えがある。
  朦朧としていた意識が、少しだけ自由になる。
  ……眠い。
  眠いが、こんな声を聞いたら、目を覚まさずにはいられない。


  目を開ける。
  いつのまに夕方になっていたのか。
  俺は誰もいない教室で、彼女と秘密を共有している。

 「―――よかった。来てくれたのね、衛宮くん」
  粘つく声は、暴行への期待に満ちている。
  頬を紅潮させた彼女は、疼く体を持て余すように、淫蕩な笑みを浮かべた。
 「どうしたの……? ここなら誰の邪魔も入らないわ。いつもみたいに、わたしを好きにしていいのに」
  女がにじり寄ってくる。
  待ちきれず肩を引き寄せた。



 「―――ここまでだ」



 「……え?」
  俺は引き寄せた女の肩に手を掛けたまま腕を取り、捻り上げた。
 「ぐっ!」
  視界が明瞭になっていく。
  薄暗闇の世界が広がっていく。
  そこはいつもの俺の部屋だった。
 「やっぱりそうか」
  知らず、呟いていた。
 「なっ……」
  俺の腕の下には、ライダーがいた。
  横目で時計を見る。
  時間にして眠りについてからそう経っていなかった。
 「な、何故……」
  自信があったのだろう。
  相当狼狽している。
 「驚いたようだな」
 「な、何故です……」
  もう一度、同じことを繰り返していた。
  俺如きが術を見破ったというのは彼女に相当のショックを与えていたようだった。
 「そうだな、驚くのも無理はない」
  間違いなく、ライダーの術は俺に対しては完璧だった。
  違和感を全く感じさせなかった。
  この今の俺が一つのことに気づくまでは。
 「どうして貴方は見破れたのです」
  彼女は俺の腕ひしぎから逃れようともせず、その事を知りたがっていた。
 「遠坂だと思った瞬間から、かな」
 「で、ですが……彼女は貴方の……」
 「好きな人ではないのですか、か?」
 「そ、そうです……もしや、サクラに気が変わっていたと」
 「桜? そこでどうして桜が出てくるのかは判らないが違うよ」
  もしや慎二あたりから吹き込まれていたのだろうか。
  でもそれは誤解だ。
  桜は俺の家族なのだから。
  性欲の対象にはならない。
 「で、ではセイバーだとでも……」
 「む」
  少し眉を顰めたが、すぐに気を取り直す。
 「セイバーっ!」
  そう思うのなら、
 「――っ!」
  お望みどおり、呼んでやろう。


 「シロウ!」
  襖一つ隔てた向こうの部屋でセイバーは寝起きしている。
  今の今まで眠っていただろうが、俺の呼びかけ一つですぐに飛び出してきた。
 「……」
  ライダーは抵抗しようとしたが、俺に腕を極められている状態なのを思い出して足掻くのを止めていた。
 「賢明な判断だ」
  俺を振り解くことは可能かもしれないが、その瞬間セイバーに斬られる。
  かといってこの状態で一瞬で俺を倒すこともできない。
  観念したわけではないだろうが、無駄な抵抗はできないと悟ったらしい。
 「くっ……」
 「……」
  俺の腕の下で歯噛みをするライダー。
  俺の命令一つで動けるように待機するセイバー。
  さて、役者は揃ったというわけだ。
 「で、さっきの話の続きだけれども」
 「……」 
  ライダーは返事をしない。
  目は隠れていて見えないが、その表情は俺の隙を窺っているように感じ取れた。
  それを見て、自然に口元が緩むのが自分でもわかる。
  威勢がいいのは嫌いじゃない。
 「俺がオマエの術に引っ掛からない訳は簡単さ」
 「……なんだと言うのです」
 「セイバー」
 「はい」
 「ライダーに見せてやれ」
 「え、あ、その……」
  俺の命令にうろたえ出すセイバー。
 「俺の命令が聞けないのか、セイバー」
 「い、いえマスターの命令には、その……」
 「セイバー。今の俺はマスターじゃないだろ」
 「あっ」
  自分の失言に気付いたらしく、ハッとした表情をして俯いた。
 「令呪を使わないと、言うことが聞けないというのか?」
 「……い、いえ」
 「じゃあするんだ」
 「……はい」
  ライダーが怪訝な表情をする。
  普段の俺を知っているからだろうか。
  まあ、知ったことではない。



 「―――どうぞ、ご主人様」



  セイバーは両手でスカートを持ち上げて見せた。
 「っ……」
  狼狽するライダーの様子が感じられて、くくっと喉の奥で笑ってしまった。
  まあ、そうだろう。

  透き通るような白い肌。
  その肌に食い込む無骨な荒縄。
  そして微かな機械音。
  セイバーのそこには、電動バイブが深々と根本まで埋め込まれていた。

 「ちょ、調教済みっ!?」
 「そうだ。俺は女を犯す時は、いつもこうしている。気に入った女なら尚更な」
  女から要求されるなんて以ての外だ。
  女とは俺の前に跪き、ひたすら許しを請い、ただ俺の言うことを受け入れるだけに存在する。
  今のセイバーのように。
 「……」
  俯くセイバーからは羞恥に震えているのか、快感を抑えているのか判別がつかない。
  まあ、脚を伝う液体の量を見れば、顔など見る必要もないのだが。
 「い、何時の間にそんな……いえ、貴方はそんな性格では……」
 「ふうん、随分と俺に詳しいな。ライダー。その事はあとでゆっくり聞いてやるよ」
 「……っ」
  最早隠す必要もない。
  いや、隠すつもりもなかったが。
 「一度眠ってしまった俺はもう、いつもの純情少年衛宮士郎君じゃないのさ」
  本当にいつ頃だろうか。
  自分でもいつ生まれたのかわからない。
  毎晩続ける強化魔術の練習の、これまたほぼ毎晩の失敗後に行う投影の魔術の際に俺は創造された。
  きっと何か糞くだらない雑念混じりでやってその雑念が投影され歪に形成されたものなのだろう。形だけでしかも何でも
 作ってしまえる訳でもないのに、性格という形のないものまで作れてしまうとは俺としても吃驚だ。
  そもそも形がない以上、壊れることもない。
  だから俺はいつも衛宮士郎の中にいた。
  まあ、こんなのが趣味な段階でかなり最低な雑念だったのだろう。
 「セイバーは二時間で陥とした」
 「……」
  知識はあっても実経験の浅い、初心な処女を下すのは軽いものだった。
 「お前は、朝まで頑張れるかな」
  耳に息を吹きかけながら、そう囁く。
 「……っ!」
  ライダーが震えるのがわかった。
 「セイバー、手伝え」
 「はい。ご主人様」
 「ちょ、ちょっと待って下さい!」
 「嫌、だね」
  衛宮士郎の作り出した俺は、性格以外は完璧超人だった。
  普段から正義の味方なんてものを目指している所為で、こんな俺にまでその下地として無敵ぶりは影響を受けている。
  考えるだけでいいなら最強になど容易くなれるし、思い込みが強い人間なだけにそのイメージは強固のものになっている。
  今の俺に不可能はない。最強妄想万々歳。
 「俺が本当の淫媚な夢を見せてやるよ。その身体にたっぷりとな」
 「―――ひぃっ」
  俺の笑みが恐ろしかったのか、引き攣った悲鳴をあげるライダー。
  愉快だ。
  さあ、もっと愉快にしてやろう。
  短い夜を楽しもう。
 「い……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――っっっ!」




 「さ、最低の夢だ……」
  目覚めは最悪の一言と言って良い。
  幾らなんでもあれはないだろう。
  起きた直後真っ先に布団の中を確認して、とんでもないことになっていないか確かめた後、溜息と共に肩を落としていた。

  ……俺の中に潜む団鬼■な性格な俺がいたり、それが襲撃してきたライダーを返り討ちにしたり、更にセイバーが実は調教済み
 だったり、そんでライダーにもお仕置きと称してあんなことをしたりこんなことをしたり、あまつさえセイバーと三人であんなこ
 とになったりと性欲の限りを尽くしたサバトを繰り広げたなんてことは有り得ない。
  ならアレは俺が身勝手に見た夢だ。身勝手にも程があるが。
  寝巻きは寝たときのままだし、そもそもライダーはとっくの昔に撃退したのだから。

 「……そうだよな。桜は家族だからまだ手をつけないでおいてやるとか、遠坂は邪魔なアーチャーがいなくなったら存分に仕込んで
 やるとか俺が考えたりする筈がない」

  あれ?
  何か変なこと口走ってないか、俺?

  ――――ふう、と何かを振り払うように思いっきり息をつく。
  とたんに力が抜けて、ぱふり、と派手に背中から倒れこんだ。

 「シロウ……? どうしました、いま音がしたようですが」
  襖ごしにセイバーの声がする。
 「ああ、その」
  昨晩の「ご主人様」の声やら嬌態が浮かんできた。
  ああ、もうっ!
  もういい加減に忘れろって。
  アレは夢。もう夢、ぜぇっっっったい夢。

 「シロウ?」
  セイバーが入ってくる。
 「―――よ、よう。おはようセイバー」
  平静を装って声をかける。
 「どうしたのですシロウ。横になったまま挨拶をするなど、貴方らしくもない」
 「いや、ちょっと不測の事態が起きて」
  不思議そうに首をかしげるセイバー。
  さて。
  アレが夢だったのはほんっとーに助かっ―――あれ?


  セイバーの首筋に何か縄の跡が。


 「セ、セ、セイバー?」
 「はい、なんでしょうかシロウ」
 「あー、その、ええと……昨晩は俺……」
 「?」
 「いや、起き出したりとか、してない、よな」
 「……夜中に抜け出したというのですか」
 「し、してないよな」
 「何のことだか判りませんが、昨晩はシロウも私もずっと眠っていたと」
  んー、と首をかしげるセイバーの様子にいつもと違うところは見受けられない。
 「そうだよな! うん、そうだ!」
 「シロウ?」
  大声で何度も頷く俺にセイバーは目を白黒させる。
 「いや、何か変なこと聞いちゃって御免な、セイバー」
 「い、いえ……」
  安堵のあまり思わず、セイバーの両手を取ってぶんぶんと振る。
 「シ、シロウ……」
 「いやー、ちょっと変な夢を見――」

  ウィィィィィィン

「………」
 「シロウ?」
  何か、その、セイバーの体から微かにモーター音のような。
 「あ、ええと……」
 「シロウ。もしかして具合でも……」
 「熱でもあるんだろう。うん。そうに違いない」
  頭から布団を被る。
 「シロウ!」
 「俺、病気! だから寝る!」
  これもあれもきっと夢だ。うん、夢だってば。



  だから一日中寝込んだ翌日の屋上で、

 「…………そうか。じゃあ、本当にキャスターは生きていて、まだ町じゅうから魔力を集めてるっていうのか」
 「……断言できないけど、そういう事ね。けど柳洞寺の雰囲気が変わったって事だけは判る。
  貴方たちはキャスターを倒した。けどキャスターはいまだ存在する。いま確かなのはそれだけよ」
  不機嫌そうに見える言う遠坂の顔が妙に色っぽく見えたり、首筋は紅潮しているように感じたり、息が荒かったり、
 微かに発汗の匂いを嗅ぎ取れたり、

 「―――フッ」

  遠坂の背後にリモコンを手にしたまま腕組みをしている奴が見えるなんてのも、夢のせいに違いない。
  勝ち誇って笑っていたりしない。
  見下されたりしていない。
  ………
 ……
 …
 くそ、先に手ぇ出しやがったな。


  一方その頃。
 「んっ、ふっ…………!」
 「何一人でくねってんだよお前は! キモいだろーがっ!」
 「ご主人様……ああ、んぁあ……っ」
 「お前のマスターは僕だって言ってるだろ! 何余所向いてやがる! 馬鹿にしているのかっ!」
 「ああっ、ああぁ……」
 「聞けよっ!」
  まだ慣れておらず、夜が待ちきれない人がどっかにいたとかいないとか。


 「? どうしたの衛宮くん。急に汗かいたりして。……なんか、心拍数もあがってるけど」
 「っ!? い、いや、なんでもない、ただの風邪だ、メシ食えば治る! メシ食えば治るんで、そろそろ
 昼メシにしよう!」
  このまま自分の中のエロス士郎に乗っ取られそうになったが、遠坂の声で戻ってこられた。
 「そう?」
 「そうだとも!」
  危ない危ない。
  夢どころか幻覚に幻聴とは相当重症だ。
 「なら……んっ!? ぁ、やぁぁ……っ! ア、アーチ―――駄目ぇぇぇぇっっ!」
  グィィィィィィィィィィィィィィィィン
「スイッチを「強」にするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――っ!!」



―――――体はエロく出来ている。 



  そのまま俺はアーチャーと奴の繰り出した大人の玩具屋そのままの固有結界の中、

 「――――さらばだ。幻想の牝を抱いて腹上死しろ」
 「俺の妄想は、間違ってなんかいやしないっ!」

  とそれぞれ次々と大人の玩具を手にしながら、凄いことになっている遠坂を挟んでそれはもう大暴れするのだが、
 これも夢ということで。



 「性戯の味方は――――っ!」
 「一人でいい――――っ!」



  夢万歳。
  あとついでに俺のステキな未来にも万歳。



                          <おしまい>