『あなたにあげられるわたしのもの』
俺が呆然と修羅場を見つめ続けるなか、二人の口論は続く。 再び理奈ちゃんの声が静かに響いた。 「どうしていつも… いつも人のものなの…? いつも、いつも…」 キッと、上げられた彼女の瞳にも、涙が光っていた。 「私がんばった! がんばってきた! みんなに天才だって言われて、その期待を裏 切らないようにしてきた! それなのに、どうしてみんな人のものなの!?」 パアァ……ン………。 理奈ちゃんの手が衝動的に振り上げられ、その平手が今度は由綺を捕らえた。 「どうしてみんなあなたのものなのよ!? 初めて、ほかに何も要らないって思った のに、それなのに、兄さんも、藤井君も…。どうして私のものじゃいけないのよ!? 」 理奈ちゃんの整った瞳から大きな涙の粒がぼろぼろとこぼれる。 スポットライトを反射して、その雫の一つ一つまでもが見て取れる。 「……………」 「……………」 由綺が流れる涙を拭こうともしないで、黙って理奈ちゃんを見つめ続ける。 理奈ちゃんも同じように由綺を見ていた。 それもほんの一瞬のはずだった。 だけど俺にはひどく長い長い時間が流れたように感じられた。 流れた、というよりは、滞った、といってもいいような、そんな粘液質の時間がゆ るりと過ぎていった。 そして、由綺がおずおずと口を開いた。 思い詰めた顔をして。 「…………………………………じゃあ………弥生さん………………あげる…………」 「……………………………………………………………………………………いらない」 弥生さん、ダブルショ――――――ックッ!! <おしまい>