『ドアの向こう側の世界』


1998/12/18



 とうとうTVも、ぱっとしない芸能人達と、やたら長いけど、ぱっとしない時代劇
しか映さなくなってしまった。

―――これだから年末のTVって。

 なんて、自分もTV局でバイトしてみると、結構それを責める気持ちにはなれない。
 まあ、そのあたりの事情は判ってても、番組がつまらないことに変わりはないんだ
けど。
 それにしても、年末くらい部屋で退屈するのは避けたいな。
 俺はちょっと迷って、そしてやっぱりTVを消す。
 途端に部屋がおそろしく静かになり、表の通りの音が聞こえがよしに響いてくる。

 そういえば、由綺も、今日は仕事なんだろうな。
 この心が脆くなりかけている時に、一番思っちゃいけないことを思ってしまう。

 どうしようかな…?
 こういう時は、やっぱり外を出歩くのがいいのかも知れない。
 外は寒いかもだけど、部屋で一人でTVに相手をしてもらってるのはもっと薄寒い。

 俺は元気にドアを開ける。

「きゃっ…!」

 ごん…。

 ごん…?
 何だ、今の鈍い音は…?

「大丈夫ですか!?」
 な、なんだかドアの向こうで、すごいことになってるみたいだ。

 俺は改めてドアを大きく開ける。

 どす…。

 どす…?
 何だ、何だ…この音は…?

「弥生さん!? 大丈夫!?」
「わ、私は平気です、それよりも由綺さんこそ、平気ですか…」

 なんかさっきよりヤバ目になっているみたいだが……。

 俺は覚悟を決めて、ドアを……

「私は、ほら!、この通り、大……」

 ばしん…。

「きゃっ!?」
「由綺さん!?」

 がらん、がらん、がらん、がしゃん!!

「由綺さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――んっ!!!!!!」

 なんだ、なんだ、なんだ!?

 由綺!?
 由綺がどーしたんだ!?
 由綺が来たのか!?

 俺は三度閉まったドアノブを握り締めて開けると、

 ゴス…。

「由綺さん、今、行きまぁっ!?」
「あ……」

 ドアが開いていくのと同時に、誰かの背中が見えてきた。

 その背中は、ドアに押され、よろけるように前進し、手すりの向こう側へと……

・
・
・
 今日は誰も来なかった。
 そうしよう。

 俺はTVで『年末お笑い! 水着でポン』を観ながら、そう心に誓った。




                          <おしまい>


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