『時刻を生きる者達』
 





 風呂は良い。
 一日の溜まった疲れを垢と共に流してしまう。

 例えこの身が水を苦手とした強化兵に変わり果てていようとも、日本人として風呂
に入る習慣だけは止められない。
 身体の中の仙命樹がいくら嫌がろうとも、身体中の垢を洗い落として身を湯に浸す
ことは、どこか心の奥底から安らぎを与えてくれる。
 不老不死として人間とは違った時を生きることになった俺でもまだ、人でいられる
ものを持っていることは素直に喜ばしい。
 人と同じものを食べ、人と同じように排出し、人と同じく惰眠を貪る。
 ただ、その生きる時の流れが人と違うだけ。
 そしてその時の流れに終わりが見えないだけ。
 例えそれ一つが決定的に人とは異なるものであったとしても、一つの違いは一つで
しかない。
 所詮はただの人であり、それ以上にはなれない。
 人が羨むほど良いものではない。

 不老不死を望むものは、既に他の事を成し遂げてしまった者たちなのだろう。
 不死身の強化兵と謳われた存在だった自分の能力もこの今の平和な世の中では、ほ
とんど何の役にも立たない。
 日々生きる糧を得るためには、人と変わり無く働き、人と変わりなく過ごさねばな
らないのだ。
 そして他の人と同じ時を生きられない以上、同じところに長く留まることはできな
い。
 近所の人間が一人だけ歳を取らずに若いまま何十年もいたりしたら、問題になるだ
ろう。
 例え表立って言われることが無くても、人の口に戸は立てられない。
 噂が噂を呼び、俺と言う存在が知れ渡ったりでもしたら、大変なことになってしま
うだろう。


 だが、俺はまだ50年の長き眠りから覚めたばかりだ。
 まだそんなこれから長い長い先のことを考えることはない。
 幾らでも考えるだけの時はあるし、遠い将来に嫌でも直面する問題なのだ。
 今はまだ、純粋に旅を楽しもうと思う。
 祖国日本各地の見聞の旅を。

 所かの山々に囲まれた場所の緑はとても眩しい。これが秋になれば紅葉がとても美
しく綺麗なのだろう。
 50年という空白を挟んで改めてみたこの世界は、人が人として生きていく以上の
文明に育っているように俺には感じていた。
 都会という存在は50年という年月の間に、大きさも広さも信じられないほどに膨
れ上がり、いかにして人が効率よく存在できるかという点にだけ考えぬかれたような
都市計画は驚愕するよりも先に人とはここまで貪欲になれるものかと感心する他はな
かった。
 だが、そんな文明が発達した今の世の中でも人以外の生き物は多く存在し、本来地
球を形成してきた自然はこうして多く残っている。アスファルトやコンクリートがど
れほど地表を覆っていようとも人の亡骸は土に還り、人の魂は天に還る。
 不死身に近い能力を持つ俺でさえも、生命活動を維持するための栄養が枯渇したり
、事故や何者かの襲撃で頭部を欠損されたり、大量の血液と共に仙命樹が流れ出てし
まったりすれば他の生命体と同じ様に命を落とし、土に還る。
 改めて思う。自然の力は偉大だ。
 こうして都心を離れた場所に行けば、自然を強く感じ取ることができるのだから。


「……良い湯だ」
 露天風呂に浸かって、俺はつい独り言を口に出していた。
 あての無い長旅を続けてきたが、この温泉街に来てようやくゆっくりと寛げる時間
を得ることができた。
 今まで生きてきた時代は本当に忙しない世の中で、こうして気侭に生きる事など許
されようがなかった。
 遊べたのは子供の頃だけで、少年と呼べる頃にはもう軍に入ることが義務付けられ
ていたし、それが当然だった。
 戦争の最中に生き、そして戦争の集結を迎える前に眠りに入ってしまった俺が初め
て得る自由な時間だった。
 例えそれが50年後のこの時代であろうとも関係は無い。
 一日一日を楽しんでいけば良い。
 長い長い人生の果てにいつかは飽きがくるのだろうが、今はまだ存分にこの新鮮な
体験を楽しめるのだから。


 生活の方も日雇いの労働を中心に金を稼ぐことも難しくなくなった。
 髪を白に染める若者も珍しくない世の中なので特に目立つことも無く、教えられる
ままに仕事に従事することができる。
 複製体に教えてもらった履歴書の書き方も我ながら上手くなったものだ。
 携帯電話の扱いも上手になった今では俺も立派な現代人だろう。
「すとらっぷ」やら「ちゃくめろ」は牛飯屋の臨時雇いで同僚だった少女に入れても
らった。彼女の電話番号も何故か入っていたが、その仕事はもう止めていたし、こち
らからかける用も無いので一生このままだろう。またあの土地に来た時に縁があれば
会えるかもしれないが。
 金髪で鶏冠のような頭をした若者に勧められた耳ピアスは、穴がすぐ塞がってしま
うので断念した。言葉遣いは乱暴だし、物の役にはあまり立たない男だったが、性格
は良いヤツだった。昔なら生き残れない人種だが、今の平和な世の中では彼のような
者こそ生きていけるのかもしれない。

 まだ旅は始めたばかりだが、出会いは少なくなかった。
 彼ら彼女らとはもう二度と会うことがないのかもしれないが、その思い出だけはい
つまでも大切に覚えていたいものだ。
 一期一会。
 この言葉が実に今の俺には当て嵌まる。

 先日までの仕事は最先端の電子機器の配線を繋ぐ仕事だった。あれだけの施設にあ
れだけの機械を民間企業が所有していて、しかも素性の知れない外部の者を平然と大
勢雇っていることには、頭では理解はしていてもやはり驚かされた。
 単純作業の割には報酬は少なくなかった。口止め料も含まれているのかとも思った
がそういうことでもないらしい。
 仕事の分量と報酬は必ずしも比例しないということは、色々な仕事をやってきて大
分判ってきていたのだが、基本的に仕事を選べるような身分ではないのであんな高収
入の仕事は非常に助かる。

 そんな訳で今晩は野宿やカプセルホテルとか言う安宿は止め、旅館に泊まることに
した。
 芸者遊びなど豪遊はできないが、こうして温泉に入ったり地元の幸を楽しむぐらい
の贅沢を楽しむことにする。
 今ではこれも庶民のささやかな楽しみの範疇だが、俺のいた世界ではそれでも大変
なことだった。

 雄大な景色を眺めながら、疲れた身体を湯に浸しす。
 これだけでも十分に贅沢している。
 考えてみればこんなにものんびりできているのは、旅立って以来初めてのような気
がする。
「………」
 口が少し淋しい。
 酒とつまみを用意しておけば良かったと少しだけ後悔する。
 今の時代の主流である麦酒は思いのほか、俺の口に合った。
「そう言えば光岡は下戸だったな」
 光岡悟。
 奴は今どこで何をしているのだろう。
 古くからの同窓である奴は、互いが互いを意識した親友だった。
 家も近所で学校も同じだった。
 影花藤幻流という剣術道場にも一緒に通っていた。
 強化兵にも同時期になっていた。
 そして同じく幼なじみのきよみを挟んで俺達は好敵手になり、
 いつしか宿敵になっていた。

「む」
 軽く首を横に振った。
 考えても仕方のないことだ。
 奴がどこで何をしているかは俺には判らない。
 いずれ俺の前に現れて、剣を交えて生死を賭ける日がやってくるのかも知れない。
 その時は潔く応じるまでだ。
 殺されるつもりはない。
 俺は俺の護るべき存在の為にも必ず勝つ。
「だが……」
 一つだけ気がかりなのは剣の腕が鈍ってきていることだった。
 今、俺の手元には跋扈の剣はない。
 真剣どころか、木刀も竹刀も持っていない。
 日々生きることに追われて刀を持つことを忘れてしまっている。
 現世に慣れる事だけを考え、旅を続けられるだけの生活の事にばかり目がいってい
て剣術者としての鍛錬はずっと怠ったままだった。
 強化兵として、軍人として生きていた頃は欠かすことのなかった鍛錬は何処へ行こ
うとも今もまだ続けている。
 だが、刀を持った練習だけはいつでもどこでもできるものではない。
 刀を振るうだけが練習ではないが、振るわなければできないものは数多い。
 そしてそれらを一日欠かせば数十日の遅れを生み出す。
 油断していた。
 早速今夜にでもいつもの鍛錬と共に、手頃な木の枝でも剣変わりに振りまわすこと
にしよう。

 そんなことを考えていると、入り口の方から微かな物音と共に人の気配がした。
「ん、先客か?」
 微かに聞えてくる人の声。

 ――っ!?

 油断した。
 お湯の中にいるせいで仙命樹の効果が薄れ、感覚が急激に失われた状態だった。
 今更敵が現れることはないだろうが、油断した事実には変わりがない。
 俺の動揺を余所に、その声の主はゆっくりと俺の入っている温泉の側までやってき
た。
 チラリと目に入る肌。
 裸身。

 …女!?

「む」
 慌てて顔を逸らした。
 どうして女が入ってくるのだ。
 何か間違いでもあったのか。
 まずい。
 このまま俺が出るにしても女性の前を通って行かなければならない。
 手ぬぐい一つ用意しなかった自分の不用意さを呪う。

 だがその女は俺に気にした様子もなく、桶を取って軽くお湯を身体にかけると、俺
と同じ様に温泉に漬かり始めた。
 そして大きくフゥと息をついたところで、挨拶程度に俺に話しかけてきた。
「良い湯だな」
「…なっ!?」

 …そ、その声は。

「ん? どうした? ここは混浴なんだろ。そんなに身構えずとも……なっ!?」
 ザバーッと大きなお湯が流れる音がする。
 彼女は思わず立ちあがっていた。
「せ、蝉丸っ!!」
「岩切……」
「貴様、どうしてこんなところに……」
「それは俺の言い分だ。お前こそ何故……」
「くっ」
 岩切は鬼のような形相で俺を睨むと、手を所在なげに動かした。
 襲いかかりたくても得物がない。
 そんな仕草だった。
「止せ。岩切」
 素手でも構わず襲いかかろうとする岩切に俺は諌止する。
「私に命令するのか!?」
「違う」
「水の中でなら素手でもお前に勝てる自信はある。舐めるな!」
「だから違うと言っている。俺はお前と争う理由がない」
「お前がなくても!」
「あるのか、今のお前に?」
 そう言うと、岩切は悔しそうに口を噤んだ。
 反論することができないらしい。
「………」
「蝉丸。ここに来たのは何か理由があるのか?」
「ない。俺は今、旅をしている。その旅の途中に立ち寄っただけのことだ」
「………」
「こんなところで戦って何になる。落ちつけ、岩切」
「私に指図するな!」
「……いいから聞くんだ」
「………」
 かなり逡巡しているようで目に落ち着きがない。
「お前だって俺と戦うためにここにきた訳ではなかろう」
「………」
「違うか?」
 違うわけがない。
 もし何かあるとすれば、ここで俺と会ったのが偶然だとしても強化兵の彼女がこん
な無防備な姿を見せるはずがない。
 どんな時であれ、刃物の一つは肌身離さず持っているはずだ。特に岩切は軍人意識
が強い奴だったのだから、間違いなくここに来た彼女は強化兵としての意識はなかっ
たに違いない。
 今の彼女はまさしく身一つの姿なのだから。

 …身一つ?

 そう思ってから気がついた。
 目の前の岩切の状態を。
「岩切」
「………」
「いいからまずは座れ。そのままでは正視できない」
「何?」
「………」
「………」
 俺が顔を逸らしてそう言うと、岩切は初めて自分の姿に気づいたようだった。
 裸で俺の前に身構えている自分の姿を。
「ぶ、無礼なっ!」
 ザバァと再び大きな波が立つ。
 勢い良く岩切が湯の中に身を沈めた音だ。
「私は女である前に軍人だ。そんなことを気にしていたら戦えん! 見くびるな!」
「そうだな……すまん」
 口ではそう言って謝ったが、岩切の顔が赤いことには気付いていた。
 指摘するつもりはなかったが。

「………」
「………」
 奇妙な沈黙が続く。
 間が持たない。
 そう考えていると、岩切の方から話しかけてきた。
「悪縁だな」
「ああ」
「こんなところで知った顔に会うとは思いも寄らなかった」
「俺もだ。よっぽど縁があるとみえる」
「そうだな……」
「………」
「………」
「岩切。俺が先に出るか?」
 沈黙に耐えきれず、そう言うが、
「混浴なのだから気にする必要はない」
 そう言われると出るきっかけを失ってしまった。
「む」
 混浴。
 昔は風呂と言えば混浴が当たり前に近い時代もあったと聞くが、自分が生きてきた
時代は男女7歳にして席を同じゅうせずなどと言われ、なかなかきよみと遊ぶことも
ままならなかった。それでも俺は生真面目な光岡とは違い、人の目を盗んでちょくち
ょく会いにいったりしていたのだが。
 しかし今の時代になって、異性と一緒の湯に入るという状況に陥ることなど思いも
寄らなかった。
 それもあの岩切とのんびり同じ湯に漬かることになろうとは。
「それにだ……お、お前になら私は構わん」
「む」
「た、他意はないぞ。同じ強化兵としてだな」
「わかっている」
「………」
 岩切が「本当にわかっているのか?」と小声で呟くのを俺は聞き逃さなかった。
 意外と心配性な面でもあるのだろうか。
 もっと豪放的な性格の持ち主だと思っていたのだが。


「蝉丸」
「なんだ」
「平和な時代になったものだな」
「ああ」
「ここは本当に日本なのかと疑いたくなる」
「同感だ」
 そうは言ったものの、きっと俺と岩切の認識のズレは大きいと推測する。
「もう我々のような存在がこの国で生まれることはないのだろうな」
「ないだろう。決して二度とあってはならない」
「その言い切り方がお前の気に食わないところだ」
「む」
 チャポンと音がする。
 目だけを動かしてみると、岩切は腕を出して大きく伸ばしているところだった。
 濁った温泉の湯の合間に、その性格とは裏腹に大人しめの膨らみが見て取れる。

 …いかん。

 首を横に振って雑念を払う。
 脳裏から「邪念を捨てよ、蝉丸」という蓮行法師の声が聞えてきそうだ。
「どうした、蝉丸?」
「いや、何でもない」
「そうか……」
「………」
 岩切もやけに大人しい。
 いつもの険もあまり見て取れない。
「なあ、蝉丸」
「ん?」
「私達がやってきたことは、結局なんだったんだろうな」
「………」
「人という身を捨ててまで、自分の命を捧げてまで尽くしてきた国家という存在は…
…なんだったのだろう」
 何もかも、まるであの時のことがなかったかのように変わり果ててしまっていた。
 それを岩切は認めることは出来なかったに違いない。
 認めれば、今までの自分が全て嘘のように思えてしまうのだろう。
 岩切は時代が見えなかったわけではない。
 見ることが出来なかったのだ。


「岩切……」
「何だ?」
「俺達は幸いか不幸かは判らぬが不老不死に近い存在だ」
「完全体なのはお前一人だがな」
「む、茶化すな」
「すまん。それで?」
 今日の岩切はやけに素直だ。
 それだけ今の状態が不安定なのだろう。
「いや、大した事ではないのだが……」
「………」
「お前がこれから生きる時間は沢山残っていると言うことだ」
「………」
「………」
「くっ……」
「………」
「いきなり何を言うと思えば……」
 身体を小刻みに揺らしているのがお湯を通して伝わってくる。
 どうやら笑われているらしい。
「それで何だ? 励ましたつもりか?」
「いや……」
「フン。相変わらずだな、蝉丸」
 昔ながらの冷ややかな口調。
 だが、それでも今日の岩切の言葉には棘は感じられなかった。
「人のことを気にかける暇があったらもう少し自分のことでも考えたらどうだ」
「俺は……」
「光岡もお前も、もう少し気楽に生きたらどうだ」
「お前に言われるとは思わなかったな」
「自分自身のことは、誰も見えないものだ」
「む」
 俺は愉快そうに笑う岩切の顔を見た。
 この世の中に馴染むにはまだまだ時間がかかるだろう。
 全てを運命と割りきるには更に時間がかかるだろう。
 だが、いつかは自分で自分なりの答えを見つけるはずだ。
 そう確信できる表情だった。



 夜も明けきらない早朝こそ、陽射しに人一倍弱い彼女の出立の時間だった。
 俺は海岸に立っている岩切を見送っていた。
「私はこの国をもう少し見てみようと思う。私に命を下すものは本当にいないのか確
かめるつもりだ」
「そうか」
 岩切は何も手荷物らしいものは持っていない。
 聞いてみたが泳ぐのに邪魔なものは何一つ持っていないのだそうだ。
 それで生活できるのかどうか怪しいが、今までそうして生きてきたのだから何かあ
るのだろう。
 深くは聞けなかった。
「そして何れは世界中を回ってみようと思っている」
「世界中……?」
「ああ。世界の色々な国で色々見てみようと思う。どうせ時間は無限にあるんだ。世
界中を渡っても飽きることはないだろう」
「む」
「蝉丸。お前は一生このこの国に留まるつもりか?」
「わからん。ただ、今はこの国の果てから果てまで見て回るつもりだ」
「……またいつか何処かで会うこともあるだろう」
「そうだな」
「その時は美味い酒でも飲もう」
「ああ」
「約束だ」
「わかった」
「ふっ、相変わらず愛想のない男だ」
「すまないな」
「気にするな。今更変えられないのだろう?」
「む」
 くくく、と喉の奥で笑った声がした。
 厚いフードに隠れてその表情は見えなかったが。
「岩切」
「なんだ」
「……いや、すまん。何でもない」
 光岡のことを聞こうとしたが止めておいた。
 聞いたところでどうなるものでもない。

 そう思っていたら逆に岩切が近付いてきて耳打ちしてきた。
「いずれ、決着をつけに来るそうだ」
「なに?」
 岩切の顔を見る。
 間近でみた彼女の顔はやっぱり可笑しそうに俺を見ていた。
 そして岩切は再び俺から離れる。
「光岡のことだろう?」
「………」
「貴様等二人の力は私には底知れん。だが、一つだけ判っていることがある」
「なに?」
「等しく馬鹿だ」
「む」
「犬飼といい……あんまり周りに迷惑をかけるな」
「………」
「ではそろそろ行かせてもらおう」
「ああ」
 俺が別れを告げるべく、軽く手を上げた。


 俺は背中を向けてゆっくりと歩き出す。
 背後で水飛沫の音が聞えてきた。
 次は何年後か何十年後かは判らない。
 また、奴とは会えたら良いと思う。
 同じ時を生きる仲間として。


 …その時にはきっと彼女を紹介できるだろう。


 肩に下げた荷物を担ぎ直して、俺は歩みを速める。
 行き先は既に決めていた。
 行く予定はなかったが、元々は共にと誘われていたのだから別に構わないだろう。
 目指す先。
 俺の一度は捨てた故郷、島神県のあの家へ。
 友達に会いに戻っている彼女の元へ。


 俺と同じ時を生きる、妻の元へと俺は歩み始めていた。





                            <完>