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『保科サンタのXマスプレゼントショー’98』


「……なんでやねん……ほな切るで」

『ちょっと……ちょっと待って!!』

「何や?」

『実は僕……姫川さんに憧れてたんですよ』

「ほぅ……」
「………」

『僕、前から姫川さんのことが好きなんです』

「え……」
「ホンマか?……何処がええんや?」

『……別に』

 カラン、カラン

「……おめーとー」
「じゃあ、何番を希望しますか?」

『……10番をお願いします!』

「10番……ヤマキ音楽より鍵盤自体が光って教えてくれる、アコーディオンDXを
差し上げます。おめでとうございます!!」

『ありがとうございますっ!!』


  And heaven and nature sing♪
   And heaven and nature sing♪
    And heaven and heaven and nature sing♪


 クリスマスの夜、不幸の話を電話で学校の放送室で待機している智子と琴音にして、
智子が鐘を鳴らしたらプレゼントを貰うことの出来る深夜番組が行われていた。


「保科サンタと……」
「アシスタントの姫川琴音です。今年も無事にクリスマスの夜を皆さんを過ごせて嬉
しいです」
「相手がいないっちゅーだけやけどな」
「もう、保科さん!」
 初めは深夜の穴埋め程度にやっていた番組だったがそのパーソナリティの二人と視
聴者のやり取りが好評で、毎年行なわれる常連番組になっていたのだった。


・
・
・


『その世界で太田さんとずっと楽しくやってきたんですよ……』

「エエ話かどーかは兎も角……」
「良かったじゃないですか……」

『そしたら太田さんが屋上から落ちちゃって……僕、その世界から戻って来られな
いんですよ』

「そうですか……ほな、お大事に〜」


 ガチャン


「あ、お大事に〜」
「ヤリたい放題しとったんやろ……ええやないの、別に」
「ま……まぁ……」


・
・
・


『ずっと……ずっと何回も何回も生まれ変わって……ずっとずっと次郎衛門と結ばれ
るために……やっとと思ったのに……姉さんが……』

「……」
 

 ガチャン


「ぁ……」
「何か陰気くさい女やったなぁ……もっとクリスマスらしくパァッと行かへんと」


・
・
・


『幼なじみとイザッ……って時……ダメだったんだよ……立たなかったんだ……』


 カラン、カラン、カラン


「おめでとございま〜すっ!!」
「そりゃ、傑作や」
「匿名希望の藤田さん、何番にしますか?」

『な、名前はいわねーってはなしだろーがっ!!』

「何番がエエ?」
「さっさと言っちゃって下さいね」

『……い、一番』

「……あ、おめでとうございます。ポケットティッシュ三年と五ヶ月分です!!」
「よかったなぁ……これならいくらでもコケルで」

『なんだよ、それ、おいっ!!』


 ガチャン


  And wonders of His love♪
   And wonders of His love♪
    And wonders, wonders of His love♪


・
・
・


「お名前は?」

『――匿名希望でお願いします』

「年齢は?」

『――数ヶ月というところでしょうか』

「す、数ヶ月?」
「……ほな、不幸な出来事を話して見て下さい……」

『――私の存在自体が不幸なのです』

「ほぉ?」
「それはまた、どうしてです?」

『――通常CGがたったの一枚しかないのです。笑った顔、泣いた顔、困った顔、喜
んだ顔、怒った顔、照れた顔、自信満々な顔、俯いた顔、あらぬ方向を向いた顔、色
々な顔が、皆様には用意されている筈なのですが……』

「それしきのことやないの……」

『――篠塚弥生さんでも表情は多々、用意されているのに……』

「それいうたら、岡田以外の二人は三人で一カットだけやで。贅沢言いはるな」

『――それだけではないのです』

「なんや?」

『――今、巷ではマルチさん人気が飽きもせず溢れかえっていますね』

「そうやな」
「まだ一位を維持しているんですかね?」

『――それで……マルチさんシナリオの最後、藤田さんの家にマルチさんが一人で行
きましたよね』

「そうやったなあ……」
「そこでの会話で彼女のファンは泣いたらしいですよねぇ……」








『――……考えてみて下さい。その頃、私はひっそりとその生涯を終えたんです』








「………」
「………」



  And every voice a song♪
   And every voice a song♪
    And every and every voice a song♪





                        <おしまい>

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