「えっ!? 綾香、次の授業、抜け出すの!?」 綾香は同級生の口を手ですかさず押さえ込む。 「声が大きい……聞こえるじゃないの」 「でも……どうして?」 「今日、フラット・ヒットが来日するのよ。空港でサイン貰おうと思って……」 「じゃ、じゃあ……」 「そう。この次の四時間目の国語の黒木先生の授業だけね……午後には戻ってくるわ」 「黒木先生って出欠に厳しいからズル休みとかバレたら大変よ」 「ふっふっふ……そこは任せなさい……カモンッ、セリオ!!」 その綾香の声と共に、教室の後ろのドアが開き、黒いカツラを被り、ガーゼのマス クをしたセリオが入ってくる。耳センサーは外してあった。 「――風邪気味どいうごどにしておぐのでずね、ズビ」 「そう。じゃあ、身代わり作戦GoGoGoよ!!」 「こ、これでバレないつもりなの?」 「ほら、黒木先生、目が悪いから……」 「う〜ん……」 「じゃあ、後は任せたわ!! ……そろそろ行かないと間に合わないからっ!!」 「――後はお任せ下さい」 ・ ・ ・ 「ただいまっ!! どうだった?」 「綾香、アンタ、ラッキーね。テストだったわよ」 「そっか。セリオ、ご苦労様」 「――いえ。お役に立てて嬉しいです」 『ピン♪ポン♪パン♪ポ〜ン♪ 2年○組の来栖川綾香さん、来栖川綾香さん。黒木 先生がお呼びです。至急職員室までお越し下さい』 「え”……」 「やっぱり、ばれてたのか……」 「――私の独断と言うことで、代わりに謝罪しておきましょうか?」 政治家の秘書か、アンタは。 「いえ、いいわ……余計、事が面倒になるし……」 「――今、大至急で黒木至教諭の弱みを衛星で検索します。2分程、お待ち下さい」 「いいってばっ!!」 「――では、彼の家と子供の幼稚園までのルートの地図をプリントアウトしますから 提出して下さい。黙って渡し、その際、顔を見てニヤリと笑って下さい」 「やめぃっ!!」 「――それでは、私が自ら……」 「服を脱ぐなっ!!」 「――では、やはり実弾を」 そう言って、懐から一万円札の札束を取り出すセリオ。 「やめ――ぃっ!! アタシが悪いんだから、いいわよっ!!」 それまで黙っていた友人が綾香にボソッと聞く。 「……綾香、アナタの会社、大丈夫? 色々な意味で」 「……た、多分……」 ・ ・ ・ 「あの、失礼します……」 綾香が職員室に入ってきて黒木先生の一言。 「お前、さっきのテスト、カンニングしただろ」 その両手には○文社のテストの模範解答と、その模範解答と全て一字一句違わず書 かれたテストの解答用紙が握られていた。 <おしまい>