『君がいなきゃ はじまらない』


1998/10/16




 ……私は正直、疲れていた。


 3年生の卒業まで後数日と迫った頃、生徒会のメンバーの殆どが「ねぇ、ここから
出して下さいよ〜」なカミー○こと月島先輩に率いられて六甲田山死の行軍宜しく、
扉の向こうに行ってしまっていて、今……


 生徒会役員は私一人だけだった。



 そう、何をするにも一人。
 必要な書類をまとめるのも、各式典実行に関しての取り仕切りも、教師への生徒側
からの意見陳述も、取り敢えず、何もかも一人でしなくてはならなかった。

 副生徒会長の香奈子ちゃんは勿論、書記の由紀ちゃん。会計の美和子ちゃん等、全
てあの忌まわしき日を境に、「あの夕日に向かって走ろうっ!」と、熱血教師月島先
輩こと、腐れ畜生ポンポコ野郎に率いられ、走っていってしまったのだ。それが夕日
なら可愛げもあるが、あっちの世界である。稲川淳○の得意な世界ともちょっと違う
世界である。歌うなら『ふ〜しぎ〜なせ・か・い〜』とTDLのそれほど並ばなくて
も入れる数少ないアトラクション(最近は知らない。行ってないので)の1つの場所で
流れるような……って……何はともあれ、私は今まで一人で生徒会を仕切ってきた。


 ……って、他に誰もいないんだけど。


 その苦労たるや聞くも涙、語るも涙、鬼の目にも涙、涙君さようならこと、涙涙の
日々だったのだ。
 勿論、メリットもあった。例えば授業をサボっていてもここなら見つかる可能性が
低い。鍵も持っているし、勿論、真面目で勉強できる娘ちゃんこと私はそんな真似し
ないけど、ちょっと前の言葉で「不良」今で言う「不健全な態度を取る人達」に一時
限八百円で貸してるのよ。そしたらさあ、こないだなんて煙草の吸い殻程度ならよく
あるし、液体の入ったビニール袋もたまにあるから勝手に脳味噌溶かしてな的な事も
いいんだけども、コン○ームよ、○ンドーム。近藤ちひ○の歌うヘッドライトじゃな
くて。ローカルなボケやめなさいよ○々野彰。しかも今は多分、番組改編で違う人に
なってるかもよ。だいだいそんなんだから、最近、相手にされないのよって閑話休題
。しかも使用済み。捨てろって。置いておくなって。臭くてしょうがないじゃないの
よ。誰が片付けたかと思ってるのよ、このエテ公。万年発情期馬鹿ップルめが、激し
くして穴でも開けて妊娠でもして、学校追い出されやがれってんだ、こん畜生。あ、
別に私がもてないって訳じゃないのよ。これは生徒会役員、学校の最後の良心こと私
の立場的意見。そうそう、生徒会の予算の使いたい放題ってのもナイスだったわね。
こないだの学園祭なんて、ゲーセンでバルーンファイ○やりすぎて気付いたら予算数
千円しか残ってなくて困ったから、全クラスにそれぞれ一冊ずつタ○ンページだけあ
げたの。私ってばナイス。何とかなったし。流石よね、四色刷り。


 ……でも、それ以上に一人が寂しかったんだ。


 ボケても突っ込んでくれる人は居ないし。
 内申書目当てで推薦入学決めようと企んだ割には、面倒な事多いし。
 サラリーマンすらなることが出来なかった社会の落伍者たる「先生」様達は無能で
役に立たないし。
 ここで私が眼鏡を使って、ケント・デリカッ○の得意芸をしてみせても、わざと眼
鏡をおでこに乗せて彷徨って見せても、人差し指できざったらしくあげて見せても、
誰もいない。趣味が鏡を見る事なんて喧嘩売ってんのかこのハゲ予備軍。
 外はどうせ将来は揃いも揃ってスポーツとは縁遠い人生を送るだろうにクラブ活動
に励んでる馬鹿が五月蠅いし。甲子園も国立競技場も花園もニューヨークにも行けな
いわよ、あんたらには。無駄だってのに……あ、潰せば、その分予算浮くわね……今
度考えてみよう。



 そして何より……


 香奈子ちゃんが居ない。


 そう、私がここにいるのは香奈子ちゃんがここにいたから。
 さっきは心にあることもちょっとは言ったけど、香奈子ちゃんに薦められたせい。
 香奈子ちゃんは私の全てだ。
 中学生の頃、報復手段として髪の毛を盗んで夜中に神社で藁人形を釘打つ事しか出
来なかった私に、屋上でオルゴール取ったやつらに正義のありようを見せてくれた香
奈子ちゃん。
 ぼこぼこにやられたけど。遠慮仮借なく。


 正直、チン○の長さを自慢し合う事しか出来ないような馬鹿男達に呆気なくやられ
た時は、

『弱い……わたしより弱いかも……これが人の弱さというものなのか……』

 と、思ったの。


 でも、でも……

「そのオルゴールの音、聴かせてくれる?」

 って、言ってくれたとき、私、思ったの。


『これ、今月のなか○しの「リリカルボンバー飛んでねマッチョ」の鬼瓦龍平君の科
白とほぼ同じ!!』

 って。その時、私は彼女のことを……


『熱血偽善馬鹿』


 って思ったの。そいつ、そんなタイプだったし。あ、その漫画では喧嘩勝ってたけ
ど。チンピラ相手に。どうして小学校にチンピラが来たんだろう。しかも負けるか、
小学生に。身長も届かないのに。漫画だからって許されるのかよ、架空の話なら何書
いてもいいと思ってるのか、この文打ってるヤツ。


 でも、違ったの。本当の彼女は、世話好きで、クラスで世話してた金魚のエサを飼
育委員でもないのにあげるようなそんな優しい所を持ってて、明るくてクラスでも「
藤田浩之」って渾名付けられてるような虐められっ子もわけ隔てなく接して、先生に
「うちのクラスにいじめはない」って、彼が首つり未遂した後でもそう言い続けさせ
た程の体裁の良さを併せ持った凄いいい子だったの。あ、金魚は水変えるときに水飲
み場から間違えて流しちゃってたけど。ハムスターは共食いさせ……何でもない。


 ……兎に角、理屈じゃないもの。
 ……それが私と香奈子ちゃんの絆。
 ……香奈子は私。私は香奈子よ。


 だから、月島拓也とか言うシスコンに勝手に入れ上げて、きっかけつくりの為に生
徒会に誘った時も一緒に入ったし、告白の時も、私が月島の後ろで紙に科白を書いて
香奈子が見えるように手伝ったし。でも、『初めて会った時から』で、「しょめて…
…」って言ったときは私も焦ったわ。緊張のせいと思っておいてあげたけど。


 そんなこんなで、あの忌まわしき日。
 長瀬祐介とか言う根暗野郎が、きっと成績が芳しくなくて、親戚の叔父に泣きつい
て、学校の調査と引き替えに単位を貰おうとか企んでいたに違いない。だって、本来
ならいの一番に私の所に相談が来る筈だもん。生徒会だし。……な、あの日。


 香奈子ちゃんがおかしくなって、落ち込んでいて、学校がだらしないから独自の調
査網を駆使して、やっぱりあのもう辞めたんだから用もないのに来るなんてええカッ
コしいするかてめえこと、月島宅八郎……じゃなくて、拓也。拓哉じゃなくて良かっ
た私的になあのタコ八郎が怪しいわね、だって私の信頼する筋の情報局のスパイのミ
ハルの情報だからよふふん。あいつの家から自分の家に戻っていくときにすでに千鳥
足だもの。千鳥足よ千鳥足。千鳥が淵、駅へ向かう人の波。僕は一人、涙を浮かべて
な脚なのよ。脚なんて飾りです。偉い人にはそれがわからないのです。だったら、そ
れ以降のMSにも脚があるのは何故だ言ってみろよ。原稿用紙、四十字以内で。だか
らさ、酒も飲まない、煙草も吸わない、シャブも大麻も戴かないそんな国民的普通顔
の太田香奈子こと私の親友O(匿名希望)が、そんな脚どりになる筈がないじゃないっ
て言うか、現場見てたんだろ、てめえ。助けろ、ミハル。昔、催眠術受けていた○米
宏にかからないで横で見ていた楠田がかかるぜ、ベイべー的な話なのよそうなのよそ
れが青春なんだ。熱い思い。燃やせばここで身体もっていつまで歌わせるつもりよ久
々○彰。著作権料払わないでいいと思ってるだろ、このスカタン。だから、今ミハル
は病院らしいの。決してミサイルでズゴッ○落としたせいじゃないのよ。


 大体、どうして私だけ無事なのよ。私以外全員罹ってて。え、言ってみなさいよ、
月島拓也!! 身体のせいだっていうなら美和子ちゃんはどうなるのよ、え? あの
冴えない目立たない性格設定なんて意味がないこと、左子はもう古いからガズL!
あれと私がどう違うのよって別に襲われたかった訳じゃないのよ。言っておくけど。
世の中には女にはレイプ願望があるなんて信じてる馬鹿共がわんさかいるみたいだけ
ど、だったら、てめえも無理矢理掘られて見ろよ、貴之君みたいにさぁ。吉川紹介し
てあげるわよ、多分。で、どうして、私だけがのけものなわけ。納得いかないわよ。
理屈に合わないわよ。それって何? 私だけ不美人だとでも言うの!? どうしても
耐えられないほど醜いとでも言うの!? だから唯一、私は直に犯らないで長瀬祐介
にやらせた訳!? ふざけないでよ○クルドボマー!! ってここだけ久○綾で読ん
でね。委員長やるみたいだから似てるタイプだと思わない? 眼鏡だけだけど。個人
的には合わない気がするとは久○野の意見。誰もてめえの意見なんか聞いてないよ。
ひっこんでろ、この甲斐性なしの節操無し!! 


 はぁはぁはぁ……。


 だから、疲れちゃった。
 生きることも、生きることも、生きることも。
 どうして、私一人しかいないんだろう……。


 誰か……誰か助けて……。


 わたし……もう一人じゃ……。


 あの事件以来、記憶も曖昧だし。そのくせ、肝心なことは覚えてるし。キチンと消
すなら消せよ、この根暗チキン野郎。しかも廊下であっても、視線逸らすし。自分だ
けちゃっかり都合良く新城沙織とか言う脳味噌まで空虚な体育系馬鹿っぽい赤髪女と
付き合ってるし。自分のことをさおりんと呼ばせようとするなんて、自分のことをく
くのんと呼ぶ馬鹿並みに間抜けっぽいわよ。判ってる、そこ? だいたい、あの日以
来、来るか来ないかおどおどしていた私が一人馬鹿みたいじゃない。誰に訴えればい
いのよ、大体、堕胎費用の十万円出せるの?、その見窄らしいチキンハーツな長瀬祐
介さん。あ、月島拓也に半額負担させればいいか。

・
・
・

  ガチャッ


「あなた、だれ?」


 見知らぬ男子生徒が生徒会室に入ってきた。惣一郎さんみたいに顔が見えない男子
生徒。同じ二年生らしい。


 聞くと、現生徒会長だと言う。



 そう言えば、そんな人もいたよーな……ってゲーム出て来なさいよ、アンタ!!




                           <おしまい>


written by 久々野 彰 『Thoughtless Web』

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