『親馬鹿と馬鹿親』


2001/02/21




 俺は幼なじみの結花と結婚した。
 長い事幼なじみで、ずっとそのままだとばかり思っていた俺たちの距離が突然縮ま
ったのは、ある日突然現れて、そして消えていったある一人の魔法使いの少女のお陰
だった。



 ――あいつにまた会える時が来る。



 俺達はそう信じていたし、それを疑うことはなかった。



 そして月日は流れ、俺たちの間には子供が二人できていた。
 自分で言うのも親馬鹿だが、可愛い子供たちだと思う。
 自分の子供は可愛い。
 結花の奴は早くから雅に遠鉄の帽子を被せて、バッファーズファンにしようと洗脳
を企んでいる程だ。
 いや、それは関係ないか。



 そんな俺たちだから


 ――コインロッカーに捨て児の死体


 だとか、


 ――パチンコに夢中で子供を車内で衰弱死


 だとか、


 ――泣き止まないからと虐待死


 だとかいう親の資格以前に人間としての資質が問われる奴等の事が理解できない。
 子供を何だと思っているんだ。


 が、ちょっと育児に疲れることあるのも事実だ。
 結花は別にそうでもないようだが、育児の分担をしている俺にとっては自分の子供
に生活を振り回されることばかりだった。
 以前の赤ん坊の頃ほどではないが、今でもかなり世話を見るのが大変だ。
 そんな訳で今の俺は多少、へばっていたりする。


 休日の今日、デパートの子供服売り場に拘束されてもう、二時間が経過していた。
 未だに結花は子供たちの服選びに余念が無い。
 更衣室を一つ貸し切った状態で次々と服を試着させていた。
 さながら着せ替え人形の如く。



「うわぁー、可愛い♪」



 弾みきった結花の声が売り場に響く。
 初めは彼女のそんなアクションが非常に恥ずかしかったが、もう慣れてしまった。
 店員さん達もそんな俺に、理解を示すようなぎこちない笑みを浮かべてくれていた。
 しかし売り場を横切る普通の客は何事かと、こっちを向きながら通り過ぎていくの
が辛かったが。
 因みに俺は既にこのコーナーに居座ってから一時間程でダウンして、少し離れた場
所で座っていた。
 今日も今日とてへばっていたと言うわけだった。


 一人でいると、いつもあいつのことを思い出してしまう。
 自分を忘れさせるような魔法を使ったあいつ。
 俺はあいつのことを忘れたくなかった。結花もそうだった。
 あいつのことが俺達は大好きだったから。


 だからこそ、今こうしてまた、あいつのことを思い出すことができる。
 今頃何をしているんだろうか。
 あいつは今頃、どのような容姿になっているのだろう。
 背丈は、顔立ちは、胸の膨らみはどうなっているのだろうか……



 俺の回想の中でのスフィーはいつでも勿論LV.1状態だ。
 あれで21歳とは流石は魔法。
 法規性に引っかからない生涯で一番のチャンスに、どうして一発カマすことが出来
なかったかといえば、壊れたりするとコトだし、生権与奪をアイツが握っている以上
、下手な真似をしたら俺の死に繋がる恐れがある。
 だからこそ、胸の薄さだけはスフィー同然だった結花で手を打ったと言う訳だ。
 二兎追うものは一兎も得ず。
 苦渋の決断だった。
 しかし、あのつるぺたを思い出すと思わず愚息も元気凛々まっぷりま状態。
 あのスフィーをヤりた……もとい、スフィーに会いたい。
 そうだ。
 純粋に俺はあいつに会いたいのだ。
 今の俺には子供たちがいる。
 そう、手の掛かるがとても可愛い雅が。
 光源氏プロジェクト進行中のあすかが。
 だから、我慢出来るのだ。
 きっと。
 いや、多分。
 誘惑されたら考えないでもない――みたいな。
 まぁ、臨機応変に。
 期待しよう。
 会えたら。
 いや、会いたい。
 会いたいのだ。
 ちょっと不純な期待も混ざっているかも知れないが。
 あのナイチチを是非……



「お、お客様っ!! お客様っ!!」



 店員の慌てたような声で俺は現実に戻された。
 声の発生源は更衣室――結花達の方だ。



 何だ!?
 何が起こったんだ!!
 貧乳の結花は無事か!?
 一生バストはこのままでいて欲しいあすかは無事か!?



 一体何事が……




「お、おいっ!! 結花っ!!」




 慌てて駆けつけた、俺は見た。




「可愛い〜〜〜〜〜〜っ!!」




 結花の腕の中で紫色になっている着飾られた我が子の姿を。
 力いっぱい抱きしめながら、夢見心地で頬擦りする結花を。
 店員が慌てて声を掛けているが、結花はひたすら抱きしめ続けていた。



「かわいい、かわいい、かわいい〜〜〜〜♪♪」
「ふわふわ〜〜〜♪ すべすべ〜〜〜♪」
「可愛い〜〜〜♪♪ ぷにぷに〜〜〜♪♪」
「う〜〜、柔らかくていいにおい〜〜♪」
「可愛い可愛い可愛――――――いっ!!」


 雅は泣き叫ぶことも出来ずに、ただただ顔を紫色に染まっているだけだったりする。
 こちらも着飾られたあすかは既にぐったりとして動かないでいた。
 なんてことだ。
 己の欲望だけを優先し、我を忘れるとは。




 結花、お前親失格。




「アンタが言うか」
「!? そ、その声はもしやつるぺ……もとい、スフィーか!?」



 ――捜し求めていたつるぺたが今、ここでっ!!





「まじかるさんだぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――――っ!!!!」





 けんたろ、今度こそ念入りに記憶消される模様。






                         <おしまい>


written by 久々野 彰 

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