『ふたりのなつみ』
「私はなつみ」 「私もなつみ」 「私は本当のなつみ」 「私も心のなつみ」 「私は健太郎さんが好き」 「私も健太郎さんが好き」 「健太郎さんは優しいし」 「顔はそこそこ」 「私の事を色々と気遣ってくれたし」 「下心も見え見え」 「私のつまらない話にも付き合ってくれるし」 「大学休学の暇人」 「私の初めて好きになった人」 「だからヘナチンでも気にしない」 「……」 「……」 「……」 「ん?」 「ええと……お、叔父さんはいい人」 「金持ちだし」 「他に身寄りのない私に親切にしてくれたし」 「金持ちだし」 「窓ガラスを私が割ったんじゃないかって事も疑う素振りも見せない」 「金持ちだし」 「い、いつも自分の娘のように可愛がってくれる」 「金持ちだし」 「……」 「……」 「……」 「ん?」 「あ、あの……健太郎さんのお友達もみんないい人」 「今ではただのどうでもいい人」 「ス、スフィーさんは私に魔法の扱い方を教えてくれたし」 「ガキだけどいい人」 「リアンさんも私の事を助けてくれたし」 「チビだけどいい人」 「ゆ、結花さんも私達の事を応援してくれてるし」 「ええと、誰だっけ。顔忘れちゃった」 「……」 「……」 「……」 「ん?」 「こ、こないだはお母さんに会えて嬉しかった」 「お父さんがガ○キチじゃなくて嬉しかった」 「捨てられたんじゃないと知って嬉しかった」 「結局、自分では何も出来ない無責任な人だったけど」 「お母さんの温もりがあったかかった」 「顔CGもないけれど」 「……」 「……」 「……」 「ん?」 「わ、私は牧部なつみ」 「私もなつみ」 「自分に正直な女子高生」 「正直過ぎる女子高生」 「あの……これは……」 「本音の私」 「そ、そうじゃなくて……」 「本当の私」 「え、えぐ……」 「泣いて見せるから許して」 「えぐ……えぐっ、えぐっ……」 「でも夢の中なの」 「えぐえぐえぐ……けん……たろ……さん……えぐっ」 「だから起きたら忘れてね」 「えぐっ、き、嫌……」 「嫌いにならないで。次のいい人見つけるまでは」 「えぐっ、えぐっ、えぐっ……」 「それでは今夜はこの辺で」 「えぐ〜……」 俺、宮田健太郎はそんな夢を見た。 「……別れよっかな」 ふと思う夏の日の朝。 <おしまい>