『還らない青春 還らない想い』


2000/08/03



  あらすじ

 詠美と由宇の喧嘩に巻き込まれていくうちに皆まとめて永久追放なバッドエンド。
 それを知った瑞希は飛び出していってしまう。
 追いかけた俺の行き先は……。



「なんだここは? 屋上?? 会場にこんな所あったんだ」
 瑞希を追って来た先は、屋上だった。
 そして瑞希は鉄製の柵を掴みながら俺に背を向けて下を眺めていた。
「…………」
「……あたし……、昔からここが、大嫌いだったの……」


 昔も何も、この一年だろ。
 お前がここに来るようになったのは。


「会場全体が見渡せるの……。こみパに群がる人も全部見渡せて……みんな、ヲタク
の集団なんだなって……」
「あ、ああ…。た、確かに下の道路をすごく沢山の人が歩いてるよな……。参加者っ
てこんなに沢山いたんだな」
「……こみパって……みんなに、それぞれの楽しみ方があるでしょ?」
 瑞希の隣に来ると、瑞希は下を眺めるのを止めて、くるりと柵に寄り掛るように背
を向ける。まだ、顔は伏せたままだ。
「高値で売れる同人誌を沢山買えて喜んでる人とか、写真誌に載るような際どいコス
プレを楽しんでる人とか……人には言えない趣味を持つ友達同士で卑猥なお話できた
人とか……鉛筆書きのコピー誌もどきでさえ売れて売れて図に乗ってる人とか……こ
みパって、異常な楽しみが詰まってる……」
「い、いや、その……。それはかなり歪んだ見方では?」
「和樹だって……常識の範囲内で行動して、楽しく健全な活動をしてくれれば、何の
問題も無いはずなのに……」
「……し、してるってば」
 今頃になってもまだ誤解されている。
 これって、悲しい事だよな……。
 永久追放された直後では説得力は皆無だが。
「…………」
「でも……瑞希。良く頑張ったよな。仮病使ったり原稿破こうとしたり……結果は残
念な形で終わっちまったけど……その行為は、決して無駄じゃないと思う」


「瑞希みたいに、真剣に俺のこと考えてくれる人が、どんどん増えてくるさ……」


 詠美達の乱闘に巻き込まれて脳震盪を起こして倒れた南さんも、少なくても俺は止
めようしていたのはわかってくれてる筈だし。
 けども、南さんの発言力など、多寡が知れているのもまた事実だ。

「その時は……きっと、またこみパにブラザー2が復帰させるように頑張ろうぜ!!」
 そんな不安を打ち払うように俺は努めて明るく言う。
「みんなの意識が変われば、またこみパ準備会だって、会場施設の人だって許してく
れるよ!!」


 詠美達は知ったことじゃないけどな。
 前科も多いし。


「うん……そうだね」
 だが、瑞希の表情は冴えなかった。
「こんなにいろいろやってあげたのに……」
「…………」
「……和樹を手伝うのも、これが最後……かな……」
「お、おい……なに言ってるんだよ。瑞希がいなくなったら……ブラザー2の売り子
はどうなる!?」
 俺と言う存在は立ち入り禁止でも、ブラザー2というサークル名は使えなくても、
どうとでも本は出せる。
「ん……。でも……、あたしは、和樹がいてのこみパだったから……和樹がいなくな
るんだったら……売り子する熱意もなくなっちゃうかも……」
「…………」


 瑞希の事を思うと黙ってしまう。
 確かに、瑞希は俺の本がどうとかじゃなくて、俺自身についてきてくれたのだから
その気持ちは当然だ。
 俺は一体、何を考えていたのだろう。


 …俺ってやつは……


 そして、瑞希は顔を上げた。



「あたしね……もう、和樹のコト……すっぱり諦める事にしたわ!」


 突然、そんなことを言う。


 …へ?


「結局ダメだったけど……。……後悔してない……。出来る限りの事は、やったし」


 …あ、あの……。


「こういう結果に終わるのは悲しいけど……仕方ないわ……。もともとあたしが勝手
に迫ってただけなんだもん……」


 …そ、そのう。


「それに……。もう……和樹を恋人に出来なくってもいいや」


 …ゲゲッ!


「え! ど、どうして……俺を追い回すことを生き甲斐にしてたくらいなのに……」


 動揺しまくる俺はそんな普段思っていても口にだしてはいけないレベルの発言を口
にしてしまっていた。
 が、瑞希は平静だった。


「うん……生き甲斐だったけど……。……今は、新しい生き甲斐……手に入れちゃっ
たから……」



 あっさり認めた上に更に注目発言。



 …な、何ですタイ。そりは!?



「和樹よりも……いい人が漫画の中にいるから……」



 …なぬーっ!!



「和樹がいなくなって……大丈夫だもん☆」
 そう言う瑞希の胸元に両手で持った本が目に入る。
 アンジェリー●とか何とか言うゲームの同人誌のようだが。
 まさか……まさかそうなのか瑞希!?



「瑞希……」
 瑞希は微笑んでいた。
 涙は見えない。



 どんなに悲しい事があったって、決して挫けたりしない……前向きに行こうとする
……。
 そんな瑞希が……今回ばかりは痛々しい。
 あれほど俺のこと好きだったんだ……。
 そんな簡単にあきらめたりできるもんか……。



「なぁ、そうだと言ってくれっ!!」
「カードマスターピーチ! 呼ばれなくても参上です☆」



 満面の笑顔でバトンをかざす瑞希に俺は涙した。





 …瑞希! カムバーック!!






                          <おしまい>


written by 久々野 彰 『Thoughtless Homepage』

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