『サブリミナル』
「そうだ、彩はどんなＴＶ番組を見るんだ？」 『ぁ……わたしは……「きょうの晩ごはん」とか…「生命の神秘」とかが…好きです…』 「そ、それじゃあアニメとかなら何を観る？」 『…………』 「もしかして、アニメは観ない？」 『そんなこと…ないです。『日本昔ばなし』は…毎週必ず録画してます…』 「…………」 日本昔ばなし。 俺はその日本昔ばなしを見る為にＴＶの前にいた。 いや、珍しく早起きしちまったし。 何かさ、丁度ほら、何か色々しなくちゃいけない事があるのに何もしたくないよう な……ほら、そんな時ってないか？ 無い？ そりゃ残念。 今、俺はそんな状態だった訳で、後は一度見て彩と日本昔ばなしトークに花を咲か せようと多少の下心もあった訳さ。 でも正直、この日本昔ばなしって長いよな。 俺が生まれる前からあったんじゃないかって思う。 そして誰もが知っている有名なアニメだ。 けれども、本当に毎回欠かさず見ていた頃はいつまでだっただろう。 俺が子供の頃はまだそれ程四六時中アニメが盛んだった訳でもないから見ていた奴 も多いかも知れないけど、俺の下の世代なんかは全く見ないまま大人になっていく奴 もいるんじゃないか？ そういう奴だって一応は知っているアニメだよな。 って、俺と彩とはたった一歳しか違わないからそれ程世代が離れているとも思えな いけどな。 でも彩は子供の頃から今の今迄見続けていたんだろうか。 だとしたらビデオは一体何本持ってるんだろう？ 何時頃から録画をしているんだろうか。 うーん、でも毎回全て違う話を続けているとも思えないし……だとしたら驚異だ しな。 だったらどうして、彩は毎回…… ぼうや〜 良い子だ、ネンネしな〜 お、はじまった。 このＯＰも長いよな。 子供の頃と全く変わっちゃいない。 しかし、本当に面白いもんかな。 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 ……………… ………… …… 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 「うーん」 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 つまらん。 やっぱりつまらん。 子供の頃、見続けるのが飽きてきた頃のまんまだな。 しかも目新しい話にも思えないし。 語りは相変わらず市原○子だし。 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 …やっぱり、彩って変わってるな。 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 どこが面白いんだろう、こんなの。 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 『やーい、やーい。馬鹿蟹。柿が欲しけりゃくれてやる。ほらっ！』 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 何故かあっというまに成長促進した柿の木に登っている猿が蟹めがけて未成熟の柿 を投げている。 猿蟹合戦だよな、確かこれ。 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 『この戦、義によって蟹に助太刀致す！』 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 『針参上！』 『臼参上！』 『蜂参上！』 『栗参上！』 『四人揃って「トガレンジャー」』 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 この面子って昔から思ってるけど変だよな。 生き物蜂しかいないし。 柿はただ食われるのに栗はなんか動いてるし。 臼や針が喋ってどうする。 それ以前に、こんな面子にする理由、あるのかな。 臼とあと誰か一人いれば十分だろーし。 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 『う、うぎゃぁ〜 重い〜』 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 『うりゃ、悪逆の酬いだぁ〜』 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 あーあ。 最後は首チョンパかい。 童話って何か残酷だよな。 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 『猿好事家之介、討ち取ったりー！』 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 『皆の衆、勝鬨を挙げろ』 『ええとう、えい』 『ええとう、えい』 『ええとう、えい』 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 ――こうして非道の限りを尽くした猿は、有志の手によって討ち取られ、その首は 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 塚に埋められて観光名所になりましたとさ。 ――めでたしめでたし。 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 めでたいのか？ 全く、最後はそれで済ませればいいと思って… 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 ――さーて、来週の「日本昔ばなし」は 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 ――「舌切りすずめ」「一寸ぼうし」「カノッサの屈辱」の三本じゃ。 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 ――先着一名に豪華客船そのものが当たるキーワードクイズ。 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 ――今週のキーワードは……「魍」 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 『来週もまた、見て欲しいのじゃ』 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 『日本昔ばなしは面白いのじゃ』 俺はＣＭに入ったと同時に、大きな溜め息を吐いた。 何だか無茶苦茶だったな。 時間の浪費以下って感じ。 やっぱり俺、彩の事が分からない。 取り敢えず…… 来週も見よう。 ＜おしまい＞ ＜おしまい＞