『尊い犠牲』
文章:久々野彰  イラスト:あどべんちゃら様 


「………」
「………」

 私、天沢郁未は今最大のピンチを迎えている。

 ちょっとあそこが疼いて、ちょっと擦るものがないかと探して目に付いたのがたまたま机だっただけ。
 他意はないのよ。
 ええ、ないんだったら。
 深い意味もないの。
 そう、ないのよ。
 ないったらない。
 信じなさい。

 それなのに、ちょっとだけ、そうほんのちょっとだけのっかかってたら何故か由依が入ってきた。



 どうせなら最後まで達した後だったら……じゃなくて見られたのが由依だったのがせめてもの幸いだ。
 これが髪の毛を突っ立てていたり、学ランを改造していたり、鎖とか巻いていたりする所謂不良チームだとかだったら漢字二文字系タイトルが踊る他社ゲーっぽい展開になってしまうところだった。

「………」
「………」
 ウブなネンネでどこからどう見てもお子ちゃまな由依には刺激が強すぎたのか、真っ白になって固まっている。
 彼女が状況を把握する前に何とかしなくてはいけない。

 このままでは「学校の机でナニをする女」と認識されてしまう。
 それどころか噂が噂を呼び、憶測やらいい加減な妄想、願望や陰謀が混ざってとんでもないことになりかねない。

 机が恋人。
 机でナイとイケない女。
 ザ・机フェチ。
 四本足なら机ともまぐわえる、中○人を超えた女。

 この学校の一二を争う美人のこの私がそんな噂を立てられたりしたら、校内での地位は低落してしまう。

 ――まだ見ぬ美少年達は遠ざかり、人知らずライバル達はほくそえむ展開に!?

 ――朝礼で校長先生に匿名でお叱りを受けて周りの連中からは笑われるハメに!?

 ――気づいたら机がヤ○ーオークションに写真付きで出典とかいう事態に!?

 ……それ以前に、学校通い続けられるかな、私?

「――あ、でもでも意外とあけすけな女の子ということで逆に人気出たりして。ナチュラル系とか言って芸能界デビュー……ってそんなわけあるかい」
「………」
「え、ええと……」
「………」

 …なにをしてるの、あなたは。
 …聞いてるのよ、答えなさい。

 …なにをしてるの、あなたは。
 …聞こえない。

――えっと、ちょっくらオナニーってやつを。


 …そう、あなたは誰もいない教室でオナニーしてるのね。
 …どんな神経であんなところでオナニーしてるの。

――ヘンな気分になっちまいまして…


 …ヘンな気分て、どんな気分なの。

――や……やらしい気分でがす…

 …あそこが疼いてたの。

――そう…。あそこが疼いてたんでこりゃあもう一大事と…。

 …どこかに擦らせたかったの。

――そう…。どこかに擦らせたかったんで! わかっていらっしゃる…。

 …家まで我慢できなかったの。

――べつに我慢できなかったわけじゃありやせん…。


 …じゃあどうしてなの。

「――それは……って何故に時代劇風!? しかも身分低そう!!」
 いけない。
 気が動転している。
 心の闇からドッペル郁未が出てしまうところだった。
 取り敢えず、私は硬直している由依の元に駆け寄る。
 泣き出して逃げられたら大惨事になる。主に私だけが。
「由依!」
「ひゃっ!」
 逃げ出されないように先に腕を摘む。
 このまま捻じりあげれば悲鳴を上げさせることも可能だ。
 可愛い泣声を聞きたい気もしたが、今は私の名誉と体面の保持が最優先だった。
「何を考えているかは判らないけど、きっとそれは誤解よ!」
「ひっ!? え……ご、誤解?」
「ええ!!」
 声を大きくすることで余計なことを考えさせないで圧倒する。
「で、でもでも……」
「いいから!! いい? あれはね! えっと… その…」
 しまった。
 考えてなかった。

「あのね……ええと……」
「………」
「運動……もとい、た、た、体操! そう、体操よ!! 深夜番組でやってた新しい体操を試していたのよっ!!」
「………へ?」
「だーかーらー、開脚…もとい、大股開き…じゃなくて、片足を上げて股関節を柔らかくすることで、何となく健康になるっぽい感じの新しい体操が紹介されていたのよ。世界中で大流行してるんだって! ニューヨーカーやパリジェンヌに人民解放軍のお偉方までがそりゃあもう大絶賛!!」
「………」
「北○鮮の偉い人も○ューバの凄い人もどっかの大佐も将軍もママとパパお兄さんお姉さんおじいちゃんおばあちゃんお隣さんもいつも元気でみんなのことが大好きだからずっとずっと笑い続けて世界がたくさんの笑顔でいっぱいになってみんながあったかくなって生きていけたらいいわよね!!」
「………」
「そういうことで由依もイッツザチャレンジ!!」
「………へ?」
「ほら。私もやったんだから! 由依もやらなくちゃっ!!」
 腕を引っ張って、さっきの机の前に立たせる。
「え? え? えぇ〜!? ど、どうして……」
「常に新しい試みは、幾多数多の先人達の血と汗と涙の上の思考錯誤の努力と多大なる犠牲者達の屍の上によってなされるのよ!だからさあ!さあさあさあ!!」
「い、郁未さん恐い……」
「恐いと思えるのは生きている証拠よ! 死んだらそんなこと思えないんだから!」
「む、無茶苦茶ですぅ〜」
「ほらほらほら…」
「あの…イジメ入ってません…?」
「全然!! 愛するがこそ!」
「………」
「いいからさっさとやんないとひん剥くわよっ!」
「ひ、ひどい……晴香さんよりも外道!!」
「………」
「………」
「やるの? やらないでひん剥かれて校庭の鉄棒に縛られて放置プレイ?」
「うわ、増えてる!!」
「この季節、変質者多いでしょうねぇ…」
「うえ〜んっ! やりますぅ!! やりますからぁっ!!」




「キャ――――――――――っ!! 名倉由依さんったら学校で何してるのよ!!」




「ラッキーだったわ…」
 郁未は必殺技、『尊い犠牲』を使用した!

「ちょ、ちょっとわ、わたしは――――っ!!」
「いいから来いっ!!」
 代わりに由依は職員室に連行された!

 郁未は99999の経験値を得た。
 郁未はレベル999にレベルアップした!
 郁未は新しい必殺技、『女生徒Iは見た! 由依さんったらこんなあどけない顔してあんなことを…』をあみ出した!
 言いふらす、とも言う。

「ひどすぎ…」
 その後、由依は校内中で人気者になった!


 退学になったけど。



                                  <おしまい>


 再掲載に当たってあどべんちゃら様よりイラストの転載許可を頂きました。
 絵描きにとって昔のイラストを、しかも落書きという形のものをわざわざ引っ張り出されるのは困惑でしょうが、このSSのきっかけとして我侭を言わせていただきました。
 快諾してくださったあどべんちゃら様、本当にありがとうございました。


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