『エンジェル月宮とパンドラ川澄の仁義無き決戦』


 …祐一はまいのことが好き?

 ぶしつけだな…
 それは今の舞か、それともキミか…?

 …今の舞。未来のあたし。

 好きさ。じゃなければ、俺は今こうしてキミと…
 思い出の中でキミと出会いはしないだろ…

 …まいもね、好きだよ、祐一のことが。

 それはキミがかい。それとも今の舞がかい…

 …両方。ずっと祐一を必要としてたんだよ。

 どうして。たったちょっとの間だったのに。

 …それが力だよ。

 力…?

 …そう、舞の純粋な力。じぶんには『この人だ』って信じられる力。

 俺がか…

 …そう。だから祐一は、あの日にも現れたんだよ。
 …訪れてもいなかった、この場所に。

 …祐一をよんだのは、まぎれもなく、舞のその力だから。
 …あたしは生まれてしまったから、純粋な祈りから生まれてしまったから…
 …舞と居続けなければいけなかったから…

 …だから、それは希望。
 …あたしも含めた『自分』を好きになってくれるひとが、この世界のどこかに居るという希望。


 でもすべてはそこからはじまって、今、終わってしまったんじゃないか…

 …でも、そのときから、はじめることはできる。
 …十年という時間は、今からでも取り戻せることができる。

 …舞は今もあの日の少女のままだから。

 ………。

 …だからよろしく。未来のまいを。


 ………。

 …また会えれば、そのときも同じことを思うから。
 …やっぱりこの人だ、って。

 ………。

 …いい?

 ああ…

 …じゃあ…

 …始まりには挨拶を。

 誰に…

 …そして約束を。


 ………。
 ……。
 …。

 今、祐一の頭にはまいのたんじょうひわを流している。
 いかにして舞のなかにまいが生まれたのかを映像とサウンド付きで流してもらっている。

 そのきちょうな時間で……あたし、まいは『力』をつかう。
 じぶんのために。
 じぶんじしんのために。

 ……そして、祐一のために。

『ちょっと待ってー』

 ……え?

『駄目だよ、それは駄目だよー』

 だれかのこえがきこえる。
 どうして?
 ここはグリーンウッ…もとい、まいの中なのに。

『それはボクの役目なんだよ!』

 おさない女の子の声がきこえる。

『うぐぅ……見た目7、8歳の子供に幼いなんて言われたくないもん』

 すがたも見えてきた。
 子供のようだったが中学生ぐらいだろうか。
 はねをつけたリュックを背負っている。
 何かすねてるようだ。

 …だれ?

『え、あー、うん。ボクの名前はあゆ。月宮あゆって言うんだよ』

 …ふーん。
 …あ、あたしいそいでるからまたあとでね。

『あーっ! ちょっと待ってよー』

 …あのね、あたし今、舞を生き返らせないといけないからいそがしいの。

『それはボクの役目なんだよ』

 …え?

『ボクはね、ボクの願いを叶える天使なんだよ』

 ……。

『あー、無言でどっか行かないでー』

 …あたし、ほんとうにいそいでるから……しごこーちょーくとかするとたいへんだし。

『だから、舞さんの事は天使であるところのボクに任せてよ』

 …てんしなんていないよ

『うぐぅ、魔物の存在を訴えたくせにー』

 …それはそれだよ

『とにかく、ボクはボクの願いを叶える祐一君の願いから生まれた存在で、ボクは祐一君の願いを叶える事を願った訳だから祐一君の願いは舞さんを生き返らせることのようだからボクが舞さんを生き返らせなくちゃいけないんだよー』

 …もういっかい言ってみて?

『そんなの無理だよー ボクだって判って言ってる訳じゃないし』

 …それはともかく、舞の面倒はまいでみるからいーよ。

『そうはいかないよ。これがだいじなみっつめの願いなんだから』

 …だからいいってば。

『ボクがやるからってば』

 ………。

『………』

 ………。

『これはボクの管轄なんだよ』

 …舞のことはまいがするもん。

『ボクがやらないとボク、色々と諸般の事情とか裏設定とか他の人との釣り合いとかメインヒロインとしての出番だとか落とし物とか色々と都合があるから困るんだよ』

 …そんなのしらないよ。

『うぐぅ…まいってば強情ー』





「…はじめまして、かな」
「あ、相沢君!? この血塗れの教室は一体……川澄さん……よね。彼女、どうしちゃったの!!」
「…よぅ」
「相沢君ってば!! ね、ねぇ……し、死んでるの?」
「…じゃ、取り戻しに行こうか」
「あ、相沢…君?」
「…ああ、いかない」
「ね、ねえ……聞こえてる?」
「…俺たちはすでに出会っていて、そして、約束をしたんだからな」
「あ、相……沢く……ん……ね、ねぇってばっ!!」

「…ずっと、舞のそばに居るよ」


 どっちでもいーから早く何とかしてやれ。


                                  <おしまい>