実録、星井美希プロデュース


「ごめんください! プロデューサーになりに来ました!」

「は?」
 目指す事務所に到着した俺は、勢い良く社長室の扉を開けると、黒い影の男ことこの場所で一番目に偉い人物を見つけて早速挨拶をする。
「高木順一朗社長ですね。この度プロデューサーになることに決めた者です!」
「音無君。何かこのような予定があったかい?」
 社長の隣には、何か報告の途中だったらしい小鳥さんがいた。本当にインカム着けてる、可愛いなぁ。
「いえ、あの……失礼ですが、アポとか取ってありますか?」
「映像の中でいつでも待っていると言われました!」
 それで俺も一発プロデューサーになるかと決めたんだ。きっと天職に違いない。
「「……」」
 だが、俺の意気込みに反して目の前の二人は非常に微妙な表情を浮かべている。
 何かマズっただろうか。菓子折りの一つでも持ってくるべきだったか。
「ええとキミ、プロデューサーに関して実績などは……」
「ゲームの中でもう何人ものアイドルをプロデュースさせています!」
 一日中毎日毎日遊んだお陰で指には幾多ものゲームダコができている。まさに漢の指だ。ランクは聞いてくれるな!
「「……」」
 だがまたしても微妙な顔が二つ。まあ社長の顔なんか本当はわからないわけだが。
「あの、申し訳ありませんけど……」
「あっはっは。その意気、大いに結構結構」
「社長?」
 何か小鳥さんが困ったような声と手振りで言いかけたが、それに被せるような社長の高笑い。おお、ここにリアルがあった! 本当にリアルはあったんだ!
「面白い。採用しよう」
「ええっ!?」
 やれやれ驚かせてくれる。まさか不採用なんてことはないと思っていたけれども、さっきまでの空気が微妙だったのでちょっと不安になっていたところだ。何せ、真っ当に人と話すのも久しぶりだしな。
「ウチは慢性の人手不足でな。やる気のある者を拒む理由は無い」
「社長……」
 よくわからないがOKなのだろう。ならば応じるのみ。
「お任せください、社長! 俺の手で今の765プロを一回りも二回りも大きくしてご覧に入れます!」
「うむ。期待しているよ」
「いいのかなぁ……」
 ふふ、小鳥さん。漢にしかわからない世界というものがあるんですよ。今度食事でもしながらゆっくりと話しましょう。
「じゃあ早速ウチのアイドル候補生をプロデュースして貰う訳だが……小鳥君。彼女をここに呼んで来てくれ給え」
「はい。彼女、ですね」
 そう言って小鳥さんが一度社長室を後にする。
「あの、俺としましては……おっぱいの大きさでですね」
 大事なことだったが、社長に軽く手で遮られた。
「すまないが人選はこちらでさせてもらう。今、候補生は一人しかいないのでね」
「うっ、そうですか。まあ俺の手に掛かれば誰でも立派なスーパーアイドルにしてみせますよ」
 まあ最初から贅沢は言うまい。楽しみは後に取っておく手もある。
「頼もしいことだ。善きかな善きかな」
「あの、社長。彼女をお連れしました」
 所詮は狭い事務所。すぐに戻ってきたらしい小鳥さんがドアの向こうでノックと共に話しかけてきた。
「おおそうか。入ってくれたまえ、美希君」
 美希、ああ彼女か――


「*********」


 開いたドアの向こうの小鳥さんの横に、等身大の黄色い藁束が。


「……」
「おお、元気そうで何よりだ」
「社長……な、なんですか。このムックの毛を更に伸ばして黄色に染めたような藁束の化け物は!」
「ちょっと、女の子に向って化け物なんて言い方、失礼ですよ!」
 小鳥さんがプンプン怒ってますよなんて年甲斐も無く可愛らしく怒って見せていたがそれを喜ぶ余裕は今は無い。あ、藁束が入ってきた。
「まあまあ、紹介しよう。星井美希君だ」
「*********」
「……」
 何か声だか鳴き声だかわからないものを発している。ああ、愛知万博にこんなのいたっけ。色違うけどって、うわぁっ!
「ほらボーっとしてないで、彼女も宜しくって」
「あ、あの、触手伸ばしてきてるんですが……」
 ミミズみたいな触手が波打って伸びてる。
「握手だよ、握手」
 これが……手? 信じたくないが、社長と小鳥さんの反応を見る限り冗談ではなさそうだ。仕方が無い。
「ど、どうも初めまして……って、うわっ! なんか粘ついたっ!」
 ねとって言った! 今ねとってっ!
「じゃあ早速頼むよ」
「*********」
「あのチェンジ! チェンジはっ! うわわっ、触らないで――っ」


「くそっ、騙された。ゲームじゃこんなんじゃなかったのに……」
「*********」
 俺の魂からの叫びもサクっと無視され、社長室から追い出された。いやこのモ○ゾーに襟首掴まれて引っ立てられて行った。
「まあいい。元ニートのやれば出来る力を今こそ見せる時。ばりばりやって見返してみせるぜ」
 俺の決意に反応したのか、美希?は触手を蠢かせながら身体を震わせていた。ぶっちゃけかなりキモいです。
「*********」
「いや、何言ってるかわかんないから。ええと、最初の仕事は……ヒーローショーの司会? いきなり営業かよっ! 順番とか手順とかおかしくね?」
「*********」
 何か一本の触手を胸部にパシンと叩きつける。ひょっとしてこれは任せろという意思表示なのか。この美希は随分と意欲的なようだ。でも俺あふぅでもあの美希がいい。
「よくわからんが、自信満々そうだな。……まあそうだな、俺が来る前からレッスンとかしてただろうし、ここは流れに身を委ねてみるか、頼んだぞ!」
「*********」
 コクコク頷いているような気がする。まあ害意はなさそうだし、いいか。

「良い子の皆さーん。こんにちわー。ん〜、声が小さいぞー。もう一回、こんにちわー」
「お、丁度午前の部が始まってるみたいだな。お前の担当は午後の部だそうだ。ええと詳しいことは最初に渡されてたこの書類にあるから……って……台本とかないけどいいのか? しっかし随分ファジーな指示だな。コレでどうしろって言うんだよなあ美希。ん……あれ? 美希はどこ行った?」
 さっきまで横に居た筈の場所には誰もおらず、妙にテカテカと床が光っている。そしてその光の道は舞台脇まで続いていた。
「ま、まさか……」
「さあ、悪のモンスターの登場だ! みんなでヒーローを呼ぼう! せーの、ヒーローっ!」
「*********」
「うわぁぁぁぁぁ」
「きゃぁぁぁぁぁぁ」
「たすけてぇぇぇぇ」
 ステージの方から沢山の子供たちの悲鳴が!
「……」
 駆けつけてみると、ステージではヒーローを捕獲してまさに咀嚼しようとしていた美希の姿が。
「美希――っ! それは食べ物じゃない! どうどう!」
「*********」
「ぎゃわわわわわ――っ」
「だずげでー!」
 逃げ散った子供たちだけでなく、着ぐるみの中の人達やお姉さん、警備の人たちまでを巻き込んだ阿鼻叫喚の騒ぎに。当然、この後こっぴどく怒られて叩き出される羽目となった。

【ノーマルコミュニケーション】

「うそーん! これでノーマルならバッドコミュとかどんなだよ。やっぱり人死には避けられないのか!?」
「*********」
「そうなの!? 頷いてるように見えるけどそうなの!?」


「予定だと……次はこのフィットネスクラブで筋トレか。無茶苦茶だけどまあ、さっきよりはいいか」
 このまま途方にくれても仕方が無いので次の場所に向かう。都内にあるジムだ。
「*********」
「しかしオマエのどこをどう鍛えろと。いや一応生物っぽい気はするが……お、おい、何処に行くんだ! 勝手な行動はやめろ!」
「うわぁぁぁぁ!」
「きゃぁぁぁぁ!」
 逃げ惑う善男善女。なんだろうこのB級臭漂う状況は。
「さっきの騒ぎを忘れたのか! 待て! 人を襲うな! 食べるな、食べちゃ駄目!」
「*********」
「いいか、人間は玩具でも器具でもないんだ。ここらにある設備で運動するんだ、わかったな!」
 ちょっとした美希のお茶目で強制的に貸切状態に陥ったものの、関係者も気絶か何かしたのか誰も何も言ってこないので、これ幸いと俺たちはスケジュールを進めることにする。幸い、被害は小規模だ。うん、早くも少し慣れてきた気がする俺。
「これからどうなるんだろ、俺」
 前途は相当に暗い。
「はうぅ、みなさーん。どこにいっちゃったんですか……」
 美希を奥で遊ばせてると、入り口のほうから女の子の声がしてそっちを見る。
「雪歩。雪歩じゃないか」
「ひぇぇぇぇぇ! え、え? あ、あの……私の名前を知っている貴方は……」
 壮絶に警戒する彼女は今にも消え入りそうになりながらも、健気に踏みとどまっていた。その小動物チックな彼女の扱いはおぼろげにゲームで覚えている。
「今度765プロに所属することになった新人プロデューサーなんだ。よろしくね」
「は、はい……そうだったんですか……」
 多少警戒は揺らいだかな。少し空気が落ち着いた気がする。
「ところで雪歩もトレーニングか」
「……そのつもりだったんですが、あの、私のプロデューサーさんを知りませんか?」
 他にも誰も居なくて、どうしちゃったんですかと怪訝がる彼女に対して、
「ああ、そうだったのか。何かみんな急用が出来たりしたみたいで今は俺たちの貸切状態になってるんだ」
 嘘は言って、ない気がする。
「は、はぅぅぅ。それじゃあ私は一体どうしたら……」
 お、これはチャンスか? うん、チャンスに違いない!
「そうだったのか。じゃあもし良ければ俺が代わりに雪歩のトレーニングを見ようか?」
「え、で、でも……」
「なあに同じプロダクション同士じゃないか。遠慮は要らないよ」
 ここで雪歩の好感度を稼いで一気に彼女へのフラグを伸ばすチャンス。強く出れば彼女は断ることはできないだろう。
「さあ! さあ! さあ!」
「あ、あの……ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「? どうした、雪歩って、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「*********」
 逆光で見る美希は強烈だった。ホラー映画的に。
「急に出てくるな! マジで心臓止まるって! ああ、ゆきぽっ!」
「はらほろひれはれー」

【タッチしてください】

「この状況で!? 駄目だろ! 犯罪だろ!」
「*********」
「二次元には大胆に振舞えても三次には臆病なのが、元自宅警備員としての哀しい性なんだ!」
 悔しいが目を廻して気絶している雪歩は休憩室に置いておこう。これ以上美希を放置すると何か怖いし。
「*********」
「ああ? なんだ、もう帰るぞ。え?」
 何か説明している美希。そのゼスチャーでやっと意図に気付く。
「さっきのタッチってオマエにかよ! イヤだよ! 粘つくし!」

【グッドコミュニケーション】

「うるせーっ!!」


「さて、つ、次は……ダンスレッスンか。もう悲惨な展開しか思いつかないぜ」
「*********」
「だからまとわりつくな。粘液がつくだろう。ああ、この服もう着られそうに無いな。折角の一張羅だったのに」
 さてと、スタジオには先客がいた。まずい、また同じ騒ぎが繰り広げられてしまう。
「っ!? な、なによこの化け物はっ!?」
「なんだ伊織か」
 伊織一人しかいなかった。やれやれだ。
「何よ、その態度は! それより、こ、こ、これなんなのよっ!」
 泣きべそかきながらも、健気に美希を指差す伊織。
「*********」
「すまん。コイツ、これでもウチのアイドル候補生なんだ。違う言い方をすればお前の同僚? まあその、仲良くしてやってくれ」
「冗談言わないでよっ! 第一、こんな気味悪いのがライバルだなんて認め……きゃぁぁぁぁぁぁ!」
「*********」
 美希の触手が伊織の抱いていたウサギのぬいぐるみを掴んで奪い取る。
「うさちゃん! うさちゃん!」
「おい、美希。どうした、止めろ!」
 俺としても非生物であるぬいぐるみにこの対応は予想が出来ず、思わず動揺してしまう。雑食なのか。
「返して! 返しなさいよ!」
「美希! そのぬいぐるみをどうする気だ! アイドルとしてイジメはよくない。やめてやれ!」
「アイドルとか今、そんな状況じゃないでしょっ!」
 伊織が降り注ぐ粘液にも負けず必死に飛び掛るが、触手で高々と掲げられたぬいぐるみに手は届きそうに無かった。
「いや、いやぁぁぁぁぁぁぁ、抱きしめないで! 擦り付けないでぇぇぇ!」
「え、ええと、頬擦り、してるの、か?」
 どうも様子を見ていると、美希はうさぎのぬいぐるみを愛でているように見える。
「気に入った、のか?」
 美希はゆらゆらと全身で揺れながら肯定の意を示していた。多分。
「とゆーことみたいです」
「です、じゃないわよ! アンタ、アレのプロ…責任者でしょ! 何とかしなさいよ! してよ!」
 どんなにテンパっていても伊織は、この美希をアイドルと認めることはできなかったらしく俺のこともプロデューサーとは呼んでくれない。いや俺も今回に限れば呼んで欲しいわけじゃないけど。
「*********」
「すまん。ああなった美希はもう止められない」
「視線逸らさないでよ! お願いだから!」
「美希ーっ! 後で代わりに何か買ってやるから、そのぬいぐるみは伊織のだから返してあげなさい!」
「うさちゃんはぬいぐるみじゃない! うさちゃんよ!」
「今はいいだろ。そんな話は」

【パーフェクトコミュニケーション】

「*********」
「そうか、ご機嫌か。そっかそっか……何か無理矢理悟らされてくるな」
「ああ! うさちゃんに、うさちゃんに……ネバネバがぁぁぁぁぁ!」


「そしていよいよと言うか、とうとうと言うか初オーディションの日がやってきたわけだが」
「*********」
「ハナっから絶望しかないわけだが、やるしかないよな、ハァ……」
 あれから数日、あちこちで俺と美希の快進撃は続いた。詳細は語りたくない。お陰で立ち入り禁止場所が随分と増えた。そして社長も小鳥さんもあれから一度も会ってくれなかった。畜生。
「きゃっ!?」
 肩を落としながら、路地を美希と歩いていると曲がり角で誰かとぶつかってしまった。
「あ、すみません。考え事をしていて……って、あずささん!?」
 大仰に倒れこんで見せていたのはあずささんだった。
「あら、何処かでお会いしたことありましたか?」
「まあ色々あるんです」
 説明する気がそろそろなくなってきたので適当に返事をして、倒れた彼女を助け起こす。
「どうも、すみません」
「いえいえ、ぶつかったのは俺のせいもありますから。で、迷子ですね?」
 こんな路上で会ったのはそんな理由だろう。
「うふふ、お恥ずかしい……あらっ?」
「*********」
 照れてるあずささんが可愛いぜと思ったら、美希の気配がする。なんか日に日に美希が俺との物理的距離を縮めてきていて困る。同時に最近ジャージで過ごすことに抵抗を無くしかかっている自分にもマズいと感じている。
「どんなに洗っても落ちないし」
 驚きの粘着力です。
「ええと……」
「ああ。驚かせてすみません。コイツはこれでもア……」
 アイドルと呼ばないと美希が不機嫌になることに気付いたので、心の中の大事な何かを妥協してそう紹介しようとすると、急に尖ったものが突っ込んできた。
「てりゃぁぁぁぁぁ!」
「*********」
「なっ!?」
 あずささんの触覚が美希のボディを切り裂いた。
「*********」
「ちぃぃぃ」
「いやっ、違うっ」
 切り裂いたのは……残像!? 美希は既にあずささんの背後に位置を取っている。何時の間にそんな俊敏な動きを。
「*********」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 そのまま一飲みにあずささんを飲み込んだ――っ!!
「……って、出せ! 飲むな、美希っ!!」
 こんな往来で、人間を丸呑みはやばい。
「やめろ、吐け! 吐き出すんだ、美希! ほら、ぺっ。ぺーって!」
「あの、どうしましたんですか……?」
「どうしましたかって、あずささんが消化されてしま――えぇぇぇ、あずささん!?」
「急に叫んだりして……どこか身体の加減でも?」
「え? なんで? 何? 幻覚? あれ?」
 SASUKEか!
「ウフフ、なんだか良く判りませんけど、お二人は大事な用事で急いでいるんじゃありませんか?」
「はっ。オーディションだったんだ。あの、それじゃあ俺たちはこれで失礼します」
「ええ、頑張ってくださいね」
 にこやかに手を振るあずささん。迷子の彼女も気になるが、一応いい歳もとい大人なんだし、携帯もあるだろうから何とかするだろ。
「*********」
「ええ、何れ決着は後ほど」
「え?」
 何かあずささんと美希の間で火花が散ったような。
「いえいえ、行ってらっしゃい」

 考えてみたら時間に余裕があるのでそれほど急ぐ必要は無かったのだが、成り行き上そのままオーディション会場に向かう。
「ま、まあ随分早く着いたが、遅刻するよりいいだろ」
「*********」
「何かやる前から疲れたな。正直もう帰りたい」
「*********」
 慰めているのか励ましているのか不明だが、鬱陶しい。あと粘液つけるな。
「ああ、何言ってるかわからんケド全てお前のせいだ。でも別にお前が悪いワケじゃないから仕方が無い」
「*********」
「うう、意思の疎通が取れつつある自分が怖い」
 そして日々、多弁になってくる美希も怖い。多分喋ってるんだろうけど。
「あのう、765プロの人ですよね」
「はい……って、真じゃないか!」
「ええ、同プロ所属の菊地真です。会うのは初めてですよね。初めまして」
 落ち着いて挨拶をしてくる。うんうん、いい娘や。
「そちらも今日が初オーディションみたいですね。お互い頑張りましょう!」
「*********」
 おお、あの触手にも動じず握手を交わす。流石真。男前だ。
「あ、良ければウェットティッシュ使うか?」
 気休めだけどね。殆ど取れないし。
「いえ、大丈夫です」
「*********」
 美希が俺以外で積極的に話しかけている。珍しいこともあるものだ。
「あ、そうなんだー」
 そしてそれに対して応じている真。え? え?
「真。もしかしてミュータント語とか専攻してて堪能なのか」
「え、ミューたん? 可愛らしい渾名ですね」
「いや、そうじゃなくて真は美希の言葉、わかるのか?」
 会話が弾んでいる様子に思わず尋ねる。
「え? わかるのかって……普通の日本語じゃないですか」
「ええっ!?」
 どこの日本!? エリア11でも間違いなく通じませんよ。
「はは、冗談の上手いプロデューサーだなぁ」
「*********」
「へぇぇ、そんなことが。ふぅぅぅん、何だかいいなぁ、そういうの」
 美希の言葉に、真が口を猫口にしてニヤニヤとこっちを見る。う、実はその流し目が俺、好きなんだよなー。べっとり。
「って、ひっついてるひっついてるはなれろはなれろー」
 美希が0距離で密着してきました。何故。
「あっはっは。駄目ですよプロデューサー。いくらボクが魅力的だからって目移りなんかしちゃ」
 ごめん。その顔はマジむかつく。
「美希も傷つきやすい乙女なんですから、心配かけないようにしてあげてください」
「はぁ」
 痛てて、皮膚が皮膚が。ちぇ。やっぱりウェットティッシュじゃ取れないなぁ。
「ボクも人からなかなか女の子として見て貰えなかったりする所があるから、共感できるんです」
「それ、何か違くね。いや真がいいならいいけど」
 でもまあそんなこんなで真と仲良くなったのは収穫だった。今度、美希の言葉を知りたい時は真に尋ねよう。
「ではオーディション参加の方はこちらへ来てください」
「あ、時間みたいですね」
 スタッフの指示に従って、今日集まった候補生達がステージに向かう。
「いいか美希。お前はここで歌ったり踊ったりして、あの3人の審査員にアピールするんだ。間違っても捕食したりするんじゃないぞ」
「*********」
「何言ってるか全くわからんが、いい返事だ」
「美希ならやれますよ。むしろボクの方が不安なぐらいです」
「喜んでいいのか、それ?」
 俺は側についてやることができないが、見守ってやる。
「さあ、行け。美希っ!」
「*********」
「ええと、あの、人間以外の方はご遠慮ください」


【オーディション不合格】


「やっぱりオマエ、人間じゃないのかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 この数日の苦労はっ!
「*********」
 いや、そんな触手で頭掻いて申し訳なさそうにされてもなっ。
 オマエが悪いのかっ。
 あ、悪いな。こればかりはっ!
「*********」
「ん?」
 何か言っているような訴えているような素振りに、意図を知ろうと俺は首を傾げようとすると、
「*********」
「え、おいっ。うわぁぁぁっ!」
 暗っ。急に真っ暗だっ。
「あ、美希、何か脱皮してるっ。全身茶色くなってるよっ」
 ええっ!? 何それ何それっ。全然見えないっ。見たくないけどっ。
「うん、ふんふん。えぇー、それって……」
 真と美希が相変わらず何か会話してるようだが、見えない上に妙に声が遠い。
「あ、それより真、お前はオーディションいいのか」
「いやぁ、恥ずかしながらボクも性別不詳とのことで落とされました」
 えぇぇぇぇぇぇ、不詳なんだ!?
「まあ良くあることで、これぐらいでいちいち挫けてられないです」
 良くあるって……これぐらいって……。
「最初は少し落ち込んだりもしましたけど、いつかきっとわかってくれる人がいるって信じてますから」
 それより戸籍謄本のコピーとか身元が判るものを用意した方がいいんじゃないかな。
「そうですね。あれば考えておきます」
 ないの!?
「じゃあ今度作ってみますね。上手くできるかなぁ……」
 お菓子作りにでも挑戦するような口ぶりですが犯罪です。
「え? 何か言いました?」
 ああ、そうそう。真。どうなってるんだ、これ。
「あー、その、プロデューサー?」
 さっきからくぐもった声しか出せないし、真の声もイマイチ良く聞えない。
 しかしどうして急に。
 あ、何か徐々に生暖かくなってきた。手足の感覚もなんか、微妙に……ない。
「……その、ボクは恋愛とかよくわからないんだけど……」
 あれ、なんか嫌な予感しかしません。
「美希と、末永くお幸せにっ」


 ええぇ――――――っ! やっぱりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?



【TO BE CONTINUED】


 いや――――――っ!!



<完>                    


 書いてて何故か妙にこの真が愛しくなりました。ビジュアルが欲しい…。
 感想はかなんかで下さると感激します。