長門から幼なじみのフィギュアもらった 朝倉編
 出展:2008,04,05 長門から幼なじみのフィギュアもらったスレ(幼なじみから長門のフィギュアもらったスレの派生スレ)


 長門からフィギュアを貰った。
 何故だ。

「なんだ、これは」
「私の幼なじみ」
 長門の答えは簡潔かつ明確だった。だが、理解不能だ。
「そうか。まあある意味そうかもな。だが朝倉がどうしてこの……」
「フィギュア」
「いや、それはわかるが何故、お前が朝倉のフィギュアを持っているのかということを聞きたいんだが」
 朝倉涼子。
 かつてハルヒの反応を見るというだけで俺を殺そうとした奴だった。
 物騒極まりない女だったが、今こうして身動き一つせず手の中に納まっている状態では流石に恐怖は感じない。
 そんな朝倉が何故か、人形になっている。
「情報統合思念体が総力をかけて作った対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイスの最新型。それがこれ。1/8サイズ朝倉涼子」
 総力かけんな。
「マックスファク○リーには負けない」
 いや、負けるとか勝つとか。
 確かによく出来てるが。
「パンツは着脱可能」
「ああこれも見事な白だが……なに、今、何て言った?」
「下から覗き込んでいるあなたに有益な情報。試してみることを推奨する」
「そうか、おまえがそう言うのなら……」
 そこまで言うのなら仕方ない。
 俺は知的好奇心の赴くまま、もとい仕方なくこれも良く出来たスカートの中を覗き込みながら宇宙の匠の域を調べようと手を伸ばすと、

「因みにこのスイッチを入れると起動する」

 ジャキン! と刃が突き出された。

 鼻が削げるところでしたよ、長門さん。


「キョンくんのどH! もう信じられなぁい! 乙女のスカートを覗くなんて! こら、足を持つな! スカート捲れ…こら! パンツ見んな! もーバカバカバカ!」

 当たらなければどうということはない。
 ミニ朝倉の振り回すミニナイフはこうして、指で摘むように彼女の足を持つと、俺には届かないということを知り安心して逆さ吊りの計だ。
「長門、説明してくれ。いつも通り適切かつ適当にそれっぽく頼む。あと俺の朝倉はこんな喋り方はしない」
「涼宮ハルヒを観察する我々以下略は、人型よりも小回り且つ機動的に優れたボディを持つことで、タンスの隙間や配水管の奥まで観察できるようになった。これで私達の活動はちょっと上がった気がする」
 気がするだけか。
 適当でOKとは言ったが、おざなりすぎる気もする。
「つまるとこ、どーゆーことだ」
「きゃっ! や、やめて! そんなところ……いやー! いやー! いやー! 犯される犯されるだれかー! 長門さん助けなさいよ!」
 何か人聞きの悪いことを言っておられるが俺は単に朝倉を嗅いでいるだけだ。
 臭いとかは特にしない。つまらん。
「変態! 変態! 変態!」
 おっきしたがケフィアです。
「わけわかんないわよ!」
 このまま踊り食いできそうな状況だが、性的な意味合いにはなりそうもないので臭いだけで我慢する俺をもっと世間は褒め称えるべきだと思う。

「因みに眉毛も着脱可能」
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 怖っ! 眉なしって超怖っ!

「んもー、手、離さないでよ! あんな高さから落とされたら人間だったら死んじゃうじゃない!」
 今、必死で眉つけてます。太いからつけやすそうですが、必死です。
「大丈夫。案外この朝倉涼子は丈夫。やれば出来る子」
「うわぁぁぁぁん。長門さぁぁぁぁん!」
 俺の手から逃れた朝倉は半泣きで長門の背中に回りこむようにして隠れた。
 おいおい、それじゃあまるで俺が危険人物みたいじゃないか。
「最初っから十分危険人物じゃない!」
「どうでもいいがテンション高ぇなお前」
「人が身動き取れないのをいいことにスカートの中覗いたり、あまつさえパ、パ、パパ…の中を見ようとしたり! どうしようもない変態じゃない!」
「パ? ん〜よく聞えなかったなぁぁぁ、もう一度ちゃんとはっきりと言ってくれ!」
「こ、こここ、このド変態!」
「うわわわっと。危ねえ!」

 ナイフを投げやがった。あやうく刺さるところですよ。

「しかーし」
「な、なによ!」
 俺が一歩近づくと、朝倉はギョっとした顔で後ずさる。
「ククク… 唯一の得物を失うとは馬鹿なヤツだ」
「深く同意。これでもう朝倉涼子が純潔を失う確率は朝比奈みくるのバストサイズ程度」

 かなり高いな。

「ひぃぃぃぃ!」
「ふっふっふ。こうしてみるとお前、いいカラダしてんじゃねーか」
 指をわきわきと動かしながら更に近寄る。
 朝倉、長門の靴下を必死に掴んでます。が、
「伸びる。離して」
「んきゃっ!」
 人はどこまで残酷になれるのだろう。
 あっさりと顔面強打。
 もしかして以前のこと、根に持っているのかも知れません。

「まあそれはどうでもいい」
 俺は俺しかできないことをやるだけだ。
「ちょ、ちょっと待って。こ、これっておかしいじゃない。なんでこんなことになってるのよ! 第一私、こんなキャラじゃ――
「地球人に親しまれるようにとスタッフの皆で改造した。製作総指揮は喜緑江美里」
「あのモブ娘! 第一私って言えばもうガチSでしょ? 立場逆じゃない。ホ、ホラ、上目遣いでナイフに舌伸ばしてみたりする感じで…」
「そして舌を切ってしまうドジっ娘。計算ウザイ」
「してもいないことで私罵られてる!」

 朝倉、気づいているか。
 多分、この場で一番の危険人物はそこの長門だ。

「ちょ、やめ……あっ」
 背中が壁に当たったことで、その場にしゃがみ込む。
 くそっ。人間サイズならスカートの中が覗けるのに! 覗けるのに!
「大事なことなので二回言いm(r」
「言わなくていい! いいから!」
「さっき十分に見たのではないかとナガトはナガトは発言してみる」
「あれは視姦。今のはフェチだ。あと、そのキャラはお前には無理だ」
「了解。こちらも言っておく。あんまり乱暴にすると壊れるから注意して」
「さっき丈夫って言ったのに!?」
「ああ任せろ。俺って結構上手いって評判なんだ」
「何の評判よ!」
「言わせるなよ、恥ずかしい」
「照れてる!? 何か照れることなの?」
 さて絶体絶命の朝倉涼子さんの皮を被った弱気っ子1/8をいたぶっているわけだが、
「――フ、フフフフフフ」
「おや」
 ここで涼子たん含み笑い。
 一見逆転フラグっぽいけど、実は大丈夫なんだよな。この手の場合。
「実はもう一本ここにナイフがあっ「問題ない。実は刃はゴム製」」
「最後まで言わせてやろうぜ」
「タイミングを間違えた」
 緊張感まるでなし。状況はあの時と似ていると言うのに。全ては長門の言動と朝倉のサイズのお陰だろう。
「ふ、ふぇぇぇぇぇぇぇん」
 落ち着き払い過ぎの俺たちを余所に、全く余裕が無いのかとうとう両手をついて朝倉号泣。
 しまった虐め過ぎたか。
 俺の頭の奥でそろそろ潮時という言葉が浮かぶ。
「――ええ、わかりましたよ」
 自分の中の警告に頷いてから、
「はぁ、なんか白けたからもういいや」
 そう号泣する彼女に聞える大きさの声で呟いた。
「ふぇぇぇぇぇん、ふぇ……え?」
 俺の声に、朝倉は涙と鼻水ですごいことになっている顔を上げる。
「血が出る以上、それらも出るんだな」
 こりゃ、他の液体も期待できますなと思ったが、空気の読める子であるところの俺はそこまでは口に出さなかった。
「そこまで出ていれば十分」
 そして長門は、当然のように心の中、俺の地の文を読む。お約束だ。
「なによ……まだいたぶろうって言うの……」
 小さいながらに震えています。
「……」
 欲情よりも哀れみが勝った。
 なんかここまでこうだと気の毒というよりも張り合いがない。
「だから、もういいって言ったんだ。第一そんなサイズで収まるほどじゃないしな」
「見栄を張らなくてもいい。まだ成長の余地はある」
「見栄じゃない。断じて」
「現在の地球の技術レベルでは難しくても私達情報統合思念体の手に掛かれば、もう貧弱な坊やとは呼ばせない。安心して」
「いや、だからな」
「う、嘘! そんなこと言って私を騙そうとしてるんでしょ! もう騙されないんだから!」
 ゴム製というナイフを構えて凄むが、そのサイズでは迫力は無い。
「遠く離れて、床に這って、目を細めて見ればあるいは……ひょっとして……」
「そこまでして、迫力を求めようとは思わん」
 ジオラマ写真取るわけじゃあるまいし。

「ほ、本当に酷いこと、しない?」
「嘘。実はす……いや、しない。しないから泣くな」
 恨みはあれど、ここまで追い詰めてしまうと逆に申し訳ないような気がしてしまう。
 徹底的にやれないのは日本人の美点だが、長門は冷たく目を細めて俺たちを見ていた。
「フラグ狙い?」
「断じて違う」
 女の涙に対する男の悲しいサガという奴ですよ、長門さん。
「そっちも計算ウザイ」
「計算じゃないもん!」
「もんとかキャラ作るとか小賢しい」
「何よ何よ何よ! 長門さん達がこうしたんじゃない!」
 さて、言い争いはあちらに任せて改めて、いや本当に今更だがこの事態をどうしたらいいのか考える。だが、悩むオレを長門は見逃さない。
「この朝倉涼子は貴方に進呈したもの。煮るなり焼くなり指を入れるなり、その自称発展途上ブツ…プププ。失礼。を挿し込むなり好きにするといい」
「笑うな、失礼だぞ。俺と息子に謝れ」
 さっきのやり取りがお気に召さなかったのか、長門の矛先が俺にも向いてきている気がした。いや、もしかして最初っからだったか。
「ちょ、問題はそこじゃないでしょ! な、長門さん。どういうことよそれ!」
 俺の憤慨を余所に、朝倉も抗議するが当然長門はどちらも取り合わない。
「涼宮ハルヒを観察し、指導洗脳連行する作業は私一人で十分。貴女は不要。邪魔。ゴミは屑篭に」
「俺は屑篭か」
「言葉の綾。気にしないで」
 本当に綾だといいな。多分違うけど。あと不穏な言葉の方は全力スルーだ。
「ちょ、じゃ、じゃあ何で私は蘇ったのよ! こんな扱いを受けるためだけになの?」
「そうだそうだ。言ってやれ、言ってやれ」
 俺では長門に口では勝てないので、もしかしたらという若干の期待を抱いて朝倉を応援する。
「ありがとうキョンくん! 大体、言わせて貰うけど、いつもいつもカレーって何考えてるのよ!」
「おでん三昧の貴女にだけは言われたくない。この女片岡○太郎。芸術家?書道家?ぷーくすくす」
「つ、鶴ちゃんを馬鹿にするなぁぁぁぁ!」
「はぁ……」
 今更だが理解した。
 この二人だけだと話が全く進まない。
 ああ、もう、俺ってなんて損な役回りなんだ。

「ほーら、もう喧嘩しない喧嘩しない」
「ちょ、キョンくん離して! 離してってばぁ! 脱げる、脱げちゃうから!」
 今度は優しく襟首を摘んで持ち上げただけなのに、大騒ぎだ。
 心配するな。振り回す腕とその凹凸がお前を半裸から守ってくれる。
 脱げたらそれはそれで。できればブラジャーもご一緒に如何ですか?
「……」
 はいはいぺたぺた。

「つまり長門は朝倉を、俺やお前のオモチャにする為だけにわざわざこうした形で復活させたってわけだな。そしてそれをお前らの親玉や他勢力も支持していると」
 今までのやり取りの中で拾い集めた情報を纏めるとそんなところだろう。
「ええぇっ!? そ、そんなこと……そんなことないわっ ないんだってば!」
「真実はいつも一つ。そして残酷のディーバ」
 必死に否定する朝倉と、何か意味があるのかわからないことを呟く長門。異議はなさそうだ。
「そんなことない! そんなことないもん!」
「今、窓を開けるのでそこからそれを投げ捨てることを強く推奨する」
 必死に俺の指にしがみ付きながら抗議する朝倉に対して、長門はを腐ったものでも見るような態度を取る。
「ひどい!」
「一応、お前らが設定したんだろーが」
 朝倉を擁護するが、
「親は無くても子は育つ」
「なんか微妙に合ってそうで却ってやだなそれ」
 何か納得してしまう。口では一生勝てないな。いや、当然ですが腕力でも頭脳でも俺は勝てませんよ。これが本当の言葉の綾。
「ねえ、本当に……本当にそうなの? それだけの為に、私、ここにいるの?」
「うっ……」
 なんだその涙目は。
 くそっ、思わず顔面に正拳突きを入れたくなるじゃないか。
「なんという媚。流石は眉関連には定評がある朝倉涼子」
「ねえ! 茶化さないで! 御願い、答えて。本当にそうなの? それだけ、なの。それしか、ないの? そんなことでしか私、生きられないの……」
 尻が痒い。猛烈に痒い。だが、ここは大人の器量で我慢だ。
「それだけ。あと私の憂さ晴らし。復讐。仕返し。意趣返し。十倍返し。今後私に逆らう全ての者に対して警告を兼ねた見せしめ」
 いっぱい有り過ぎですよ、長門さん。
「そう……そんなに酷いこと、しちゃったのかな。私。そうされても仕方ないほど、酷いことしたの? だって私、キョンくんを殺そうとしただけなのに」
「おいおいおい。それだけでお前は全世界の女の敵だz「それは関係ない。私に逆らうことで十分」」
 わかってはいたけど最後まで言わせてくれ。

「そう……私、それだけの為に、なんだ……」
「おいおい、堕ち……いや諦めるのは早いぞ。それじゃ興醒めだ」
 強気系処女が10クリック後にみさく○語大絶叫な気分だ。
 お前はもうちょっと頑張っていい。俺の為に。


「それじゃあ私はもう行く」


「え?」
「お、おい長門!」
 突然の帰宅宣言に慌てる俺と朝倉。
「必要なことは全て話した。もう私の出番はこれで終わり」
「ちょっと待って、長門さん! これから私はどうしたらいいのよ」
「そうだ! 俺もどうすればいいんだ」
「それは二人で決めればいい。さっき言った。朝倉涼子の処遇は貴方に委ねると」
 確かに言われたが、あの流れで言われてそれが真実とは思えないだろJK。

「じゃあまた、この部室で」
 そう言って長門は本当に帰ってしまった。
 ごゆるりと、とか言ってくれるかと思ったが案外普通だった。
 取り残されたのは俺と朝倉(小)。
 朝比奈(大)と似ていますが別物です。

「……」
「……」
「…あ、あのキョンくん」
「あ、ああ、なんだ!」
 くっ。どもった。
 つうか何か緊張してきた。さっきまでの空気が嘘のようだ。
「長門さん、本当に帰っちゃったわね……」
「ああ。いや、もしかしたら帰ったフリして隠れて見てるかも知れないぞ」
 言っててそれが真実の気もしてきた。あのアイツならやりかねん。
「ううん。本当に帰ってる。私にはわかるんだ」
「そうか……」
 まあ、いたらいたでなんかこの空気に対して何か言ってきそうだしな。むしろそうなってくれた方がいい。長門カモーン。
「二人きりになっちゃったわね」
「そ、そうだな」
 いや、だからどうした。というかどうすればいいんだ。
「こんなとこ、涼宮さんに見つかったら大変な騒ぎになるわね」
「そうだな。アイツに見つかったら蛙みたいにお前は解剖されるな間違いなく」
「酷っ。そ、そんなことないもん! ……多分」
 この辺がハルヒの怖さだ。

「しかし、本当に復活したなぁ……」
「うん。まさかこんな形でなんて思わなかったけどね」
 他に話すことも思いつかないので、今更なことを話す。
「お前は実際、あれからどうしてこうにまでなったんだ」
「実はよくわからないの。気がついたら……」
「気づいたら?」
「キョンくんが私の……その、も、もう! 言わせないでよ!」
 ぽかぽかぽかと叩いてくる。

 なんだというのだこれは?
 おい、誰でもいい。
 悪いが俺は今迄こんな空気に接したことが無い。
 こんなんで本当にいいのか、ご指導ご鞭撻の程をだ。

「で、これからどうするんだ」
「んー、それなんだけど」
 朝倉はなんか指を組んだ腕を伸ばして一度大きく背伸びをすると、


「長門さんが言ってたでしょ? キョンくんの好きにしていいよ」


 こちらを見て微笑みやがった。


 なんだそれ。
 なんだそれは。
 おかしいだろ、そんなの。

「……あ、ああ。フッ、それじゃあ殺して解して並べて揃えて晒してやんよ」
「うん。キョンくんがそれを望むなら」
 精一杯の虚勢を籠めた戯言に、迷い無くあっさり頷きやがった。
「おい、ちょっと待て。キャラ変わりすぎだろ」
 さっきまでの流れじゃありえねえぞ、その態度は。
「だって私、キョンくんを殺そうとしたんだもん。それぐらいされても仕方ないよ」
 たったそれだけなのに、とか言ってたのに?
「いや、どうしてここでそんな思想操作されてるんだよ。さっきまでのノリと違うだろ。ここは喚いて罵ったりする流れだろうが」
 もしくは豹変していつものガチSに戻るとか。いやそれはいつも通りなのか知らないが。だが、この流れは無い。
「キョンくんだって……。さっきと全然違うじゃない」
「馬鹿言うな。俺はいつだって……」

 いつだってなんだ。
 あれ、いつもの俺はあんなキャラだったか?

「あのね、これはもしかしたらなんだけど、長門さんは私に謝らせたかったのかも知れないって思うの。ううん……きっと、そう……かな」
 気圧されていると、朝倉は更に言葉を継ぎ足してくる。
「謝らせる? それってどういう……いや、待て。それはない。それはおかしい」
「私、本当はどこが悪いのかとかわからなかった。あの時も今も。間違ってるって言われても、それは立場の違いでしかないって」
「そんな突然イイ話みたいな流れにされてもな」
 困る。非常に困る。
「だけど、さっきまでさんざん脅かされて、怖がらされて、勿論元々大分いじくられているせいってこともあるんだろうけど……」
「お、おい……」
「ごめんね。キョンくん。酷いことして、ごめんなさい」
 そう言って、朝倉は深々と頭を下げた。

「……」
 畜生。これじゃあ茶化せないじゃないか。
 あの惨劇を、昔のこととして
 笑い飛ばせ、
 ないじゃ
 な

「……くっ!」
 何か浮かんだ。慌てて頭を振って振り払おうとする。
「大丈夫だよ、キョンくん。もう私は貴方に何もしない。できないし、しないから」
 朝倉の声だけが聞えるが、顔を向ける余裕がない。
「……!」
 膝を落としていた。
 そんな俺に朝倉が抱きついていた。
 小さい身体で、精一杯しがみ付く。
「刃物を向けられて、怪我をして、長門さんが傷つく姿を見て、血が一杯出て」
「やめろ……やめろやめろやめろ!」

 やめてくれ!
 振り払おうとするが、離れない。

「ごめんなさい。許してもらえないけど、ごめんなさい。こんなに、こんなに怖がらせて」
「怖い? 冗談言うな! 俺は怖くなんか……」
 震えている。
 嘘だ。
 そんな筈ない。
 だってあれは結局、誰も何も

「!」

 そうか。
 朝倉は、消えたんだ。


「ごめんなさい。酷いことしたのに、心配させて……」
「そんなもんしてない。死んだとかというわけでもない癖に!」

 けど、あの日消えた朝倉は二度と姿を見せなかった。
 死んだみたいに。
 別世界では登場したが、それはこの朝倉じゃない。

「怖がらせてごめんなさい。酷いことしてごめんなさい」
「気にしてなんか、いない」

 忘れていたんだ。
 忘れていた、つもりだったんだ。

「長門さんは気づいていたんだと思う。だからこんな回りくどいことをしてくれたんだって今なら思える」
「あいつはそんな殊勝なヤツじゃない」
 さっきまでの長門は。
 でも本当の、いつもの長門有希はどうだっただろうか。

「私とあなた。二人を何とかしようとしてくれたんだと思う」
「嘘だろ、それは」
 冗談もいいところだ。
 あの言い争いにそんな遠謀が隠されてるなんて筈は無い。

「私は気付けた。そしてどうしたらいいのか教えてくれた」
「待て。ご都合主義に流されるな」
 勝手な思い込みだ。こいつは自分の妄想に酔っているに過ぎない。
「キョンくん」
「お、おお」
 ようやく離してくれた。
 後ずさりしたくなるが、このサイズに対してしては沽券に関わる。
 虚勢でも胸を張った。
「私にできることは二つある。どっちか選んでくれるかな?」
「二つ?」
 その時、彼女が俺から離れたのは改めて自分の全身を俺に見せる為だと気付いた。
 顔を上げた俺の視界一杯に彼女がいる。
「……っ」
 顔を背けることができなかった。
「ひとつは、あの時キョンくんが感じた感情を緩和する」
「緩…和…?」
「あの記憶に関してだけ、全ての思いを希薄にするの」
 つまり、朝倉がいうところの恐怖とか、そういう部分のことか。
「うん。勿論、私に対して気に留めることもなくなるわ」
「却下だ」
 どういうことか理解した瞬間、口に出していた。
「記憶そのものがなくなるわけじゃないのよ」
「わかってる。だが俺はあの長門に対する眼鏡不要という強い意志を揺るがすことは嫌なんだ。断じて!」
 今日の長門ならノーサンキューだが、あの時の長門ならウェルカムだ。
「……ふふ、キョンくんってやっぱり優しいのね」
「都合の良い思い込みをするな。俺はツンデレじゃないぞ」
 断じてそれだけだ。他意はない。
「ありがとう。じゃあそれじゃあねぇ……」
 そうか。
 一つ目を拒むということは自動的に二つ目の提案を受け入れるということになるのか。
「って、いや待て。もう一つもちゃんと聞いた上でだな……」
「知らなーい。だってもうキョンくん選んじゃったじゃない」
 いつの間にかそこにいるのは俺の知る朝倉涼子だった。
 大きさは変わらなかったが。
「聞いてもいない提案を受け入れるわけにはいかん」
「あら?」
 そこで、朝倉は悪戯っぽく笑った。


 ちょっと前の朝倉と被った表情だったのに、


「もう最初から言ってたじゃない。長門さんも、私も」
「ちょ、おま、それは……」


 まるで違うもののように見えた。






「やって後悔! やって後悔! やって後悔!」
「ん、んん、んー」
「殺って後悔! ヤって後悔! 犯って後悔! ……キョンくん、もう起きてってば」
「ふ、ふわぁぁぁぁぁぁぁ…… おい」
「朝は『おはよう』よ、キョンくん」
「あ、あー。おはよう」
「うん、おはようっ♪」
 満面の笑みだが、今更そんなんで騙されませんよ。
「耳元でずっと……一体なんなんだ?」
「今の私はキョンくんの目覚まし時計だから」
 その言葉を発する彼女は使命感溢れるオーラを全身から漲らせていた。
「ベル代わりってか。だからってその言葉はなんなんだ……」
 縁起でもない。
「それを選んだのはキョンくん。私を選んだのもキョンくん」
 そんな気は断じて無いぞ。特に後者。

「気にしない気にしない。あ、後ろ髪寝癖ついてる。ほら、ちょっと回り込むから動かないで」
「いや、いいって。このくらい、自分でするから」
「ちょっとだから、動かないで……ってきゃっ!」
 朝倉は俺に手を伸ばしたまま、布団の上に転げ落ちる。
「ほら、そのサイズじゃ無理だろって言うんだ。大丈夫か」
「う、うん。ありがとう」
「……っ」
 制服のスカート丈って短いよな。なんでだ?
「あ、ひょっとして照れてる?」
「照れてません。玩具サイズに興味はありません」
 先日の俺はもういない。あんな俺は断じて俺じゃない。
「でもキョンくんのご子息は違った意見をお持ちみたいだけど」
「生理現象です! 毎朝のことだし、第一知ってて言ってるだろお前!」
「キョンくん、朝から大声だしてどうしたの?」
「「っ!!」」

 あの日から数日が経ち、
 長門からのプレゼントは今も尚、

「キョンくん。私はいつだってキョンくんの味方だからね」
「あは、あははははは」
「……」

 フィギュア人形朝倉涼子として、家に存在するのです。

「ふっ。理解力のある妹さんで良かったわね」
「頼む。帰ってくれ!」




「うん、それ無理♪」




長門から幼なじみのフィギュアもらった 朝倉編                          


あとがき
 テンションが高い時でしか出来ないことがある。今こうして落ち着くと、書いていた頃や昨日修正していた頃のような勢いはもうないのです。プレデター日記とかは知らないです。



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