長門から幼なじみのフィギュアもらった 消失編
出展:2008,04,05 長門から幼なじみのフィギュアもらったスレ(幼なじみから長門のフィギュアもらったスレの派生スレ)
「長門、これはなんだ?」
「幼なじみ」
「このフィギュアがか?」
「……」
長門はコクリと頷く。
「お前の?」
「違う。あなたの幼なじみ」
長門よ、俺にフィギュアの幼なじみなど存在しないのだが。
それとも何か、俺に幼なじみなど存在しないと哀れんでの所業か。
いやいやいや、ハルヒならともかく長門に限ってそんな真似はしないだろう。
だとすればきっとこれも何か意味があるの違いない。
「しかしどう見てもただの人形にしか見えないのだが」
帰ってから、部活帰りに長門に呼ばれて手渡されたフィギュアを自分の机に置いて眺める。もしかして動き出したり、喋ったりするのではないかと思ったが何も無い。
このままでは俺は部屋にフィギュアを飾り、あまつさえ俺の幼なじみと紹介するような可哀想な人になってしまう。何より、妹や家族に見られたらなんて説明したらいいんだ。一体、どうするよ俺。
「キョンくん、はさ――」
「鋏はこれだ。糊ならこっちだ。セロテープが欲しければここにあるぞ。だから入ってくるな」
危ない危ない。ノックもせず入ってこようする妹を全力で追い払った。
危険だから人形はしまっておこう。
「ふぅ……」
意思のある人形だったらと思っていたが、ただの人形なら鞄の中でも大丈夫だろう。
この人形が何なのか。
何を以って"幼なじみ"なのか。
それはどういうことなのかは改めて明日の朝改めて、長門に直接聞くことにして、俺は明日の教科の準備をしてから、少し早めに床に付くことにした。
そして、それが今回の騒動の始まりだとは当然、その時点では思いも寄らなかったのであった。
「おいーす」
「おう」
翌日登校した俺は、教室で気の抜けた谷口の声に軽く応じた後、自分の机にうつ伏していた。
「なんだなんだ、どうしたぁキョン。随分と元気がないな」
「……いや、なんでもねーよ。寝不足なだけだ」
数秒、俺は万年悩みなしのようなこの男に対して、お決まりの顔を近づけるな息を吹きかけるな気持ち悪いんだよという台詞をぶつけようかと迷ったが、その元気も無かった。相手にしない素振りをすると、谷口は離れていった。
さて、今日こうして登校はして来たものの、既に問題が二つ発生していた。
一つは長門が欠席していることだ。
最初っから想定外。
だが、まだこれだけならいい。これだけなら問題は無かった。
もう一つが問題だ。
昨日のあのフィギュアがなくなっていたのだ。
俺はやっぱりアレには何かあったのだという妙な安堵感を持ちながらも、それがどういう事態を齎すのかと考えるとどうしても気が塞ぐ。よく探す時間もないまま登校したので、こう朝っぱらから疲労感を覚えてしまうというものだ。
これで万一、帰宅してみたら家族団らんの食卓の中央に鎮座して楽しい楽しい家族会議中なんてオチだったら泣くぞ。流石に人の鞄を開けてまで見つけられているなんてことはないだろうが。唯一の可能性であるところの妹よ、お兄ちゃんは信じているぞ。
「しかし……」
だとするとフィギュアが勝手に動いたのか。
それとも、誰かが持ち出したのか。
「フィギュア泥ってのも相当間抜けだしなあ……」
「は、キョン。お前なんかいったか?」
「言わねーよ。聞き耳立ててねーで、あっち行って今日もノルマの馬鹿やってろ」
傍で待機していたわけでも無いのに、耳聡く反応した谷口を改めて手で追い払う。今の俺にはお前に構ってやる余裕は無い。きっと今回の騒動が片付くまではずっと。できれば普段からもあまり構いたくない。いや決して嫌いじゃないぞ。鬱陶しいだけで。
まあ実際は他の可能性なんて信じちゃいない。
問題はこのことが今日の長門の欠席と繋がりがあるのかどうか。
単に他に何かあってたまたま休んでいるだけなのかどうかだ。
「ねえキョン。有希が欠席しているみたいだけど、アンタ知らない?」
放課後。真っ先に教室から姿を消していたハルヒは、あっと言う間も無く戻ってくると開口一番そう聞いてきた。
「何故俺に聞くのかわからないが、風邪かなんかだろ」
「風邪って昨日は全然普通だったじゃないの! よく考えて答えなさいよ。病気ならお見舞いに行こうかと思うけど……違ったらマズいじゃない」
「マズいってどうして……ああ、そうか」
長門の家庭の事情とかの可能性か。俺の考えを肯定するように、目の前のハルヒは強く頷いた。
「そうよ!」
長門の事情に関しては自分が全面的に関われていないのが相当ご立腹な我が団長は、全て俺のせいとばかりに睨みつけていた。
勿論長門の家庭に問題があるというのは以前、長門の件に関してでっち上げた俺の大嘘なのだが、バレるわけにはいかない。今後も何かあったらその方向で誤魔化しつづける予定だ。
「まあどんな理由にしろ一日休んだぐらいで騒ぐのもヘンだろ」
実際、今日の長門の状況がわからないだけに当たり障りのない返答をする。
「うーん、まあ、そうね」
その答えにハルヒは納得しかねたような表情を浮かべていて、おいおい勘弁してくれよと思ったが、なんとかこいつの頭の中で納得の虫が勝利を得たようで頷いた。
「じゃあ有希がいないのなら今日の部活はお休みね。でもキョン、アンタこのところダラけているみたいだから、宿題をだすわ! 明日までに何か団の活動になりそうなアイディアを出しておきなさい! これ絶対だから!」
ただで終わることは今日もなく、相変わらずの理不尽さを振りかざしながら、足音荒く帰っていった。
「さて、と」
まあ、全ての諸問題で一番の難関であるところのハルヒを離しておけたのは幸いだ。あのまま皆で長門の家に行こうという流れになったらもしかしたらまずいことになっていたかも知れない。以前あったカマドウマ騒動も、あの場に長門がいたから何とかなったわけだからな。
取りあえず消えたフィギュア探しは後回しだ。関係があったとしても今現在、いないことで問題が生じていない以上放置して大丈夫だろう。
それより、俺に手渡した翌日に長門が姿を見せないという方が気になる。
「はっ、まさか……」
そこで以前手渡された本の栞の時のように、もしかして何かメッセージが残されていたのかも知れないと今気づく。
しかし外から眺めただけでは何も……まさか服の中にとか? まさかな。いくらなんでも人形に変態行為をするような人間に思われている筈が……筈がないよな、長門。俺がそんなことをするような人間じゃないって、信じてくれてるよな!
「ごほん」
落ち着く為と、まだ教室に残っているクラスメイト数人が少し何かヘンな目で俺を見ているような気になったのでひとつ咳をして誤魔化す。
さて、このまま長門の家に行くべきか、それとも古泉や朝比奈さんと連絡を取るべきか。
「失礼します」
そう思っていると教室のドアを開けて張り付いた笑みを浮かべる古泉が入ってきた。
どうやらハルヒがいなくなるのを待っていたようだ。
「実は今、機関の方でも長門さんの行方が掴めなくなっているところです」
「なんだと」
挨拶もそこそこに本題に入る。
「長門さんが消えたのが昨日の深夜2時頃。それまで自身の部屋にいたそうです」
「……おい。その口ぶりだと常日頃からお前らは長門を監視しているようだが」
「そんな怖い顔をしないでください。僕が監視している訳でも、勿論望んでいるわけでもありません」
それではわかっているが、ムカつくのは事実だ。
「それに長門さんの方もこの事は知っています。気にも止めていないようですが」
そりゃあいつの性格からしてそうだろうが、だからっていいという話じゃない。
「だから何だ。いくらなんだって……まさか俺やハルヒ、朝比奈さんも監視しているのか?」
「それはないと聞いています。勿論、僕がそう聞かされているだけなので実際のところはわかりませんが」
「長門がされていて俺たちがされていないって方がおかしいだろう」
「一応長門さんは地球人ではないということなので……ああ、だから僕を睨まないで下さい。その方針に賛成しているわけじゃないですから」
その言い方は非常に腹立たしい。
基本的人権は人類だけのものということか。
「……くそっ!」
「すみません」
「いや、俺もすまん。お前に当たる話じゃないしな。続けてくれ」
ムカつくが確かに古泉が悪いわけじゃないし、今そのことを追及している場合じゃない。
「はい。長門さんが我々の知ることの無い特殊な力を幾つも持っていることから、今回の場合のようにいきなり消えること自体は当然可能だと思っています。ただ、長門さんは地球に来てから涼宮さんが直接関わった時以外、あの雪山の時など以外はこのように突然姿を消すということは一度もないそうです」
そしてその涼宮ハルヒは普通にさっき帰っていった。関係があるとは思えない。
「それで……お前は機関から何か指示を受けているのか?」
「いえ。今のところこの事は涼宮さんが直接関与しているとみられないので、機関は静観するようです。彼らにとっては涼宮さんの動静が第一ですので」
個人で調べることは止められていませんので動いてみますと言った古泉と別れた。
そう言えばすっかりフィギュアのことを言うのを忘れていたが、わざわざ追いかけて説明することかどうかわからないので放っておこう。
それより俺がどうするかだ。
生徒会室に寄って喜緑さんを探したが今日は生徒会の活動日じゃないのか誰もいなかった。彼女がどこのクラスかもわからなかったので、いるのかいないのかもわからない。あとは朝比奈さんと連絡を取るべきか……しかし、古泉の反応からして彼女も何も知ってはいないだろう。ここは一人で長門の家に乗り込むのが正解か。
そう思って、足早に彼女のマンションに向ったのだが、そこでまた驚かされる展開が待っていた。
「……どういうことだ?」
長門の家がない。
いや、長門の住むマンションそのものがない。
違う場所に出てしまったのかと思って何度も住所を確かめてみたのだが間違いない。
ここに長門のマンションがあった筈だ。
しかし目の前にあるのは簡素な分譲住宅街。
まるっきり違う景色がそこにあった。
どうやら事態は想像以上に深刻だった。
「くっ……一体、どうしちまったんだよ」
長門、お前は昨日一体俺に何を伝えたかったんだ。
まさか本当にあのフィギュアにメッセージが籠められていたのか。
俺が見落としてしまったから起きてしまった事態なのか。
「……!」
その時、携帯が鳴った。表示を見ると朝比奈さんからだった。
「はい、もしもし」
慌てて出るが、
『……』
電話の主は無反応だった。
「朝比奈さん? あの、朝比奈さんですよね?」
『……』
確かめるが反応が無い。
「もしもし、聞えてますか? 朝比奈さんっ!」
『……プツッ』
「朝比奈さん!? 朝比……」
ツー ツー ツーと通話が切れる。遂に向こうからは一言も発せられなかった。
こちらからかけ直すが、何度やっても繋がらない。
メールも飛ばしてみたが、返事が来るかどうか。
「こうなったら……」
この無言電話の相手を確認すべく、俺は朝比奈さんに連絡の取れる可能性のある相手に電話をかける。
「もしもし、あ、鶴屋さんですか。ええ、あ、はい……俺です。え、いや、ですから朝比奈さんのことで……え? い、いやですから朝比奈さんの……ちょ、まっ……」
切られた。
なんだ、今のは。
まるで見知らぬ相手から突然受けたような応対を受けたぞ。それよりも今、鶴屋さんは俺も朝比奈さんも知らない人間のような態度だった。
どうなっているんだ。
「……!」
再び携帯が震える。
今度はメールだった。
慌てて開いてみると、朝比奈さんからでも鶴屋さんからでもなく
「長門!」
『フィギュアを探して。全ての鍵はそこから YUKI,N』
長門からのメール。
長門のアドレスというだけであいつからかどうかはわからないが、他に手がかりが無い以上、信じるしかない。いや俺はもう信じているのだが。
「しかし……探してって、どこを探せばいいんだ?」
長門の行方、朝比奈さんの動向に関してはあっさりと万策尽きた。古泉からの連絡待ちとなるがこっちがこのザマでは向こうが何か掴んでくるとは思えない。
ひとまず、家に帰るか。
いなくなったのが俺の鞄というか俺の部屋からなんだから、見つかるのもそこからかも知れない。
「さて、探すとするか」
それでも焦りがあるのか、自然早足のまま帰宅すると、そのまま鞄を放ってから大掃除するぐらいの気持ちで、部屋を家捜しする。ここまでして探しても見つかる気はあまりしなかったが、外をうろうろ歩いていて見つかるとも思えない。それよりもどうやって探していいのかも見当がつかない。だったら無駄骨でも家捜ししていた方が考えなくて済む。
くそっ、本当はどうすれば良かったんだ、長門。
やや荒っぽくなりながら、部屋の中を探し回る。
今まで、そう選択肢を誤った気はしていないが、今回はどうも誤ってしまった気がしてならない。このままBADENDに直行だとすれば大変だが、あの長門のメッセージを信じる限り、まだ大丈夫だ。それでも安易に睡眠一択を選んでしまった身とすれば、探し回らなくては気が済まない。
「あった!」
探し回ってから三十分かそこらだろうか。実際はもっと経っていたかも知れないが、探し続けていたら見つかった。まさか本当に見つかるとは。
あの問題のフィギュアは押入れの奥、それも小中学校の卒業アルバムやら証書やら文集やらを纏めたダンボールの中に紛れていた。
しかし一体、なんでこんなところに。
「おい、これはどういうことなんだ!」
半日ぶりのフュギュアを握って問い質す。
傍目から見るとどうしようもなく危ない人だが、構っていられない。
きっかけはただの長門の欠席の筈が、朝比奈さんの不在に加え、鶴屋さんからは完全に他人の対応をされた。
全ての始まりはこいつにある筈だ。
「おい、なんとか言え! 言ってくれ! 頼む!」
だがやっぱりうんともすんとも言わない。
見れば見るほどただのフィギュアだった。
「何なんだ。何がおかしいんだ。何が足りない? 何をすれば……」
昨日のように机に置き直してから頭を抱える。
このままだとマズい。
それは間違いない。
なんで長門からフィギュアを押し付けられただけで、こんなことになっているのかさっぱりだが。
悩める俺に対してフィギュアは何の反応も示してくれない。
当然のことなのに腹立たしい。
そして見る限り、この人形自身に何らかのメッセージを残しているようにも見えない。スカートの中どころか引っ剥がせる服の布地はずらしてみたので間違いない。
くそっ、なんだってんだよ。
「……待てよ、落ち着け。落ち着いてもう一度考えてみろ」
投げ出したくなる気持ちに必死に抗いながら、考え続ける。
どうして長門は俺にこのフィギュアを渡したんだ。
俺はこのフィギュアに対して何かリアクションをすべきだったんだろう。
昨日は男がフィギュアを持っているという羞恥が勝って考えることを後回しにしてしまった。それがこの事態を引き起こしたのだとすれば、このフィギュアに対して適切な応対をしていれば防げたはずだ。
そして引き起きた結果が長門の失踪。いや消失だろう。
そしてそれは朝比奈さんにも……朝比奈さんがいなければ鶴屋さんとも関わりを持つことは無い。前にもこういうことがあった。長門が内気な文学少女だった世界だ。
あれは長門が原因だったが、今回もそうなのか。
いや違う。それならば長門がいない筈がない。
他の連中、喜緑さんとかが関わっている可能性は……わからん。
何かヒントは、手がかりは無いのか。
俺が鞄に押し込んだフィギュアは、そこからいなくなった。
自分で動いたのか、謎の侵入者が持ち出したのかは判らないが、
そういうことが行われたのは俺の処置が間違っていたということだ。
そしてそのフィギュアは、俺の部屋の押入れの奥、あのダンボールの中で見つかった。押入れかダンボールの中、もしくはその中身。
普通に考えればヒントはダンボールの中だろう。
長門は何て言っていた? 幼なじみ。
俺の幼なじみ……わからん。
俺の知り合いにフィギュア愛好家など存在しない。
密やかな趣味までは知らないが、そんなところまで踏み入っての話ではお手上げだ。
考えないことにする。
もっと単純に考えろ。フィギュアが幼なじみ? 馬鹿馬鹿しい。
そんなモノが存在していたら、俺の人生も少しは違ったものになっていただろう。
わざわざハルヒという存在に振り回される以前に、俺は
ん?
何かここにヒントがなかったか。
ハルヒか? ハルヒが関係あるのか?
考えてみろ、元よりこの世の全ての不思議はハルヒに直結するんだ。
あいつが望めば、無意識であろうがどうだろうが世界を変えちまう。
それだけの力を持つ。
だとすればこれも、ハルヒのせいなんじゃないか。
勿論、アイツが直接どうこうしたってことはある筈が無い。
だが、何か結果的にこんな事態に陥ることになる何かがあったんじゃないか。
無意識に長門や朝比奈さんがいなくなるだけのことが。
「しかし、それはありえん」
再び考えが詰まる。
どうしてハルヒが長門や朝比奈さんを否定する。
今日のアイツは若干日々に退屈しはじめてはいたが、こんな方向に思考が向いている素振りは一切ない。
だが、これだけの力はアイツぐらいしか起こせない。
アイツの力はこの世の神と呼べるぐらいの
ん?
ヒントだ。
この辺にヒントがある。
だが何か足りない。
何がないんだ。
この世に長門や朝比奈さんを消失させるだけの力の源は。
その理由は、ない。
「もしもーし、キョン君?」
「ぬわぁ!?」
気がつくと目の前に妹がいた。
「い、いきなり人を驚かすんじゃありません!」
「もう、さっきから呼んでたよ。キョンくんが気づかなかったんじゃない」
「そうか、あー、すまんな。ちょっと考え事していた」
「お人形さんを前にして?」
「そうだ、フィギュアが全ての……うん。これは預かり物ですからお手を触れないように、いいですね」
「キョンくんがそういう趣味でも全然大丈夫だよ」
そんな満面の笑みで言わないでくれ妹よ。
「それで一体この兄に何の用だ」
羞恥を誤魔化す為に胸を張って尋ねるが、妹は少し拗ねたように口を尖らせる。
「もー、聞いてなかったの」
すまん。聞いてなかった。
「あのね……」
しかし、その口から語られた内容は本当に他愛の無い用事だったりしたので、改めて俺はノックの重要性と兄に対する敬称について述べたのだが、残念ながら興味を完全に向けてしまったらしく、フィギュアを弄り倒す妹の耳には届いてくれなかったようだった。
「ところで、このお人形さん。誰かに似てるね。ええと、ホラ、昔……」
まあそういうわけだ。
都合よく出現した妹ことお助けキャラのヒントそのものの言葉で全てが解決した。
俺の中にかすみがかっていた記憶は明瞭に蘇り、古泉から長門の存在確認が電話で知らされ、朝比奈さんからは電波の繋がらない場所にいた云々のメールを頂く。未来に里帰りか何かですか。この分なら、鶴屋さんにまた連絡すればにょろにょろ言ってくれるだろうが、彼女への電話は今更必要ないだろう。
『それで僕のところに電話してきたってわけなのかい』
「原因がお前なら確認の連絡をするのは当たり前だろう」
別に全てが片付いた今、必要があるわけではないがやっぱり電話の一つして声を聞いておきたくなったというのが実情だが、そこまで話す気は無い。
『僕としては、キョンくんが僕の声を聴きたくなったと言ってくれた方が嬉しいんだけどね』
「悪かったな。気の効いたこと一つ言えなくてな」
『しかし、実に不思議なこともあるものだね』
「不思議といえば不思議だが。世界を変えちまう神様が二人もいれば、そりゃなんとでもなってまうだろ」
『僕は別に神様なんて興味はさほど、ないんだけどね……』
「神様は嫌でも、基本的人権を阻害されて黙ってはいられないだろ」
電話の相手は佐々木。
中学時代の旧友で、先日再会を果たしていた相手だった。
全ての切欠はやっぱりハルヒだった。
佐々木と会った後にどうやらあいつは国木田など、佐々木を知っている者に聞いて廻ったらしい。それでなにがどうなったのかは知らないが、結果として佐々木という存在が消失した。いや、ハルヒを含めて当事者全てがそんな意識はなかっただろうし、俺のも他の結果からの推測でしかないのだが、そういう結論が出てくる。
そして全ての人間の記憶からも消えた佐々木がいなくなってめでたしめでたしとは当然ならず、その影響が至る所で起きた。それが長門や朝比奈さんの消失に繋がっている。何故、佐々木がいなくなったら彼女達もいなくなるのか。
本来ハルヒの為にいる筈の彼女らが佐々木の消失とリンクするという事実は、佐々木を押したてる連中からすれば、それこそハルヒの本来の能力は佐々木のものだった証拠と言い立てそうだが、そんな単純なものではないだろう。
ただ今わかるのは、連中とは確実な対決があるだろうということだ。
決戦が不可避だからこそ、佐々木不在という前提から覆されるとその要素である彼女らに影響が出るのだろう。
つまり、彼女らはハルヒに呼ばれながら、その日の為にも呼ばれている。
SOS団にとっても佐々木は消えてはいけない存在なのだ。
長門が佐々木の消失にどう気づいたのかは知らないが、彼女の口からそのことを直接言うことができなかったと思われる。だからこんなメンドクサイ手段になったのだ。
想像すると笑えるが恐らくは長門お手製の佐々木フィギュア人形。
これを見て俺が佐々木を思い出すことが、解決の鍵だったんだ。
『けどそんな、僕そっくりの人形だなんて実に興味があるね』
ヘンなことに使ってもいいんだよなんて言い放つ相手に、俺は人形相手に何をしろというんだと返事する。スカートを捲ったり服をずらして覗いたりしたが、あれは不可抗力だ。答える必要性を持たん。
『しかし、幼なじみ、ね』
そこが一番の引っ掛けだった。
俺の幼なじみといっても佐々木は中学時代からの友人だ。
児童公園の砂場で結婚の約束をするような幼なじみではない。
『彼女から見て、僕たちは幼なじみのような間柄に見えたのかな』
「もしくは、中学時代からという時点であいつにとって幼なじみなのか」
定義に対する認識の違いなのか。
こればかりはわからない。機会があったら直接本人に聞いてみよう。
「さてと」
思わぬ長電話となった佐々木との電話を切り、散らかしたままの部屋を見ながら大きくため息をつく。さっきまであれだけ慌てていたのが嘘のようだ。
ただ全身から感じる疲労と、机の上に置きっぱなしの佐々木フィギュアがこの騒動が嘘では無いと知らしめていた。
「ハルヒめ」
そう言えば、宿題を課されていたがどうしたものか。
この人形を持って不思議を言い立ててみるか。
間違いなくはっ倒されるか、罵倒されるのがオチだな。
しかし、本当に長門はどうして思い出させる手段にフィギュアなんてものを用意したのか。今は想像するしかないが、どう考えてもわからない。一体どんな気持ちで渡したのかも。
「そしてもう一つ……」
長門を除いて、全員から婢妖に取り付かれたかのように失われた佐々木の記憶を妹が持っていたかだ。思い出したが、妹は今日、ミヨキチの家に行ってて帰りが遅くなるとか言っていた気がするのだが。
更に人形が自動的に動かないのだったら動かした人間がいる。それはきっと俺が会おうとして会えなかった人あたりが一番怪しい。彼女もまた長門と似たような事情と理由で、直接的でない面倒な介入方法が必要だったのだろう。
人間如きの基本的人権に守られなくても、彼女らは大丈夫、というところか。
寧ろ人間の面倒を見て下さっているのかも知れないな。
「まあいっか」
今はどうでもいい。
ハルヒのことも、長門たちのことも。
取りあえず今は卓上の佐々木フィギュアを一瞥してから、ベッドに横になって手足を目一杯伸ばす。
佐々木の夢なんぞ見てしまうかもなんて思いつつ、俺は夕食の時間まで惰眠を貪るのであった。
長門から幼なじみのフィギュアもらった 消失編 完
あとがき
折角書いたので纏めました。ご無沙汰でしたので、後書きという名のgdgd文章も書いてみたく。
完全ROM含めても総勢10人未満だろうスレでこのような即興書いてました。何故このタイトルなのかは1さんに聞いて下さい。誤字や細部修正は勿論、あっち向きのト書き形式からこうして書き起こしたので普通のSS形式に直してあります。
タイトルに合わせた即興というだけで他は全く後先考えず書いていたので、朝比奈さん鶴屋さんあたりで、どう収拾つけていいのかわからず長考しました。それも長門消失の時点も何も考えていないというまさしくオシシ仮面状態でした。
最初に佐々木投入を思いついた時は佐々木団の橘嬢あたりの報復とか考えましたが、佐々木の神様能力が閉鎖空間以外どこまでできたか思い出せなかったのでこんな形に。書き上げるのに必死で大して面白いものではなかったかも知れませんが、本当に自己満足のお付き合い有難う御座いました。
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