即興BB 『グリーングリーン』



「リック」
「はい、お嬢様。お呼びでしょうか」
「貴方のことで、一つ気になることがあるの」
「私のことで気になること、ですか? 一体何でございましょうか」
「貴方、私が知っている限り戦闘中に二度ほど不覚を取っているけど、いずれも相手はリザードマンよね。何か理由があるの?」
「理由と言われましても……」
「苦手意識とかは。子供の頃に大口あけて寝ていたら喉にトカゲが潜り込まれていたとか」
「……そんなぼくの夏休みでもないような思い出はございません。苦手意識というよりは単純に、リザードマンは大きく硬く速いので地上戦では非常に手強い相手だからではないでしょうか」
「そんなつまらない答えはいらないわ」
「いや、その、そんなばっさりムチャを仰られましても……」
「つまりこれはひとつの抑制力なのよ。世界の抑制力」
「はぁ? ご、ごほんっ。失礼致しました。その、お嬢様……」
「私にはわかるのよ。リックっ」
「は、はい!」
「雪エンドは諦めなさい」
「はぁぁぁぁっ!? ご、ごほんっ! い、いきなり何を言っておられるのですか?」
「雪の父親、形式上の父親は誰?」
「ガラ様でございますが……その」
「そうよ。貴方は雪と結婚する時に立ちはだかるのは父親であるガラ! そして彼はリザードマン! 貴方は娘さんを僕に下さいと言った側からボコられて死んじゃうのよ」
「死んじゃう……のでございますか? というかちょっと待って下さい! その前提は色々とおかしいのではないですか」
「違わないわ。きっとエル・アギアスが貴方の為を思ってリザードマンは危険だと教えてくれているのよ」
「エル・アギアスに怒られますよ、そんなこと言ってると」
「ふふふ、そしてもう一つあるわ。リザードマンの肌の色は何色?」
「肌の色……多少の出身地や血の混ざりから例外もありますが、一般的には緑色の鱗が……」
「そうね! だからリック、ヴァレリアエンドも諦めなさい」
「なんでそうなるんですかっ!?」
「ふふふ、ヴァレリアの服は何色?」
「あはは、お嬢様。確かに緑色ですが、それはあの魔女の服装がそうであって彼女の肌の色が緑ではないのですから全然関係ないのではないでありますですよ」
「リック、言葉遣いが変よ?」
「ははは、誰のせいでありましょうねえ?」
「後でベイルに焼き入れておきなさい」
「おい、思いっきり冤罪だよ、そりゃ!」
「畏まりました、我が主」
「おめーも、頷くな!」
「いいこと、思慮浅い我が執事。確かに服装と肌という差はあるけど、リザードマンと言えば緑、緑と言えばヴァレリア! これはイメージカラーとしての区分よ。第一発想から導き出される答えよ。加藤芳郎か藤田弓子が伝えてくれたヒントよりも簡単ね」
「ところでお嬢様はお幾つだったでしょうか?」
「女の歳を尋ねる男は須く死罪」
「それは誤用……ではない意味で仰られているのですね」
「話を逸らしたけれども、いいわね。雪とヴァレリアとは結ばれないこと。これは貴方の身を案じてのことであって、決して言いがかりをつけて仲良し四人組の関係を歪ませるのを恐れているわけじゃないんだからっ」
「ツンデレるつもりなのかすら一向に判りかねますが、御安心ください。私はお二人に対してそのような気持ちを抱いたことは御座いませんゆえに」
「本当に?」
「本当でございます」
「妄想の中で劣情を抱いたことは?」
「ノーコメントでございます」
「正直で宜しい」
「……」
「じゃあ、下がっていいわ」
「はい、では失礼致します」
「(聊か強引ではあったものの、これで他のフラグは潰したわ。残るはメインルートである私との話が進むだけ。ホープとのホモENDはないでしょうし”末裔たる者”として修羅の道を私は突き進むのみ!)」
「(…などと思っているでしょうが甘いですよ、お嬢様。世間にはハーレムエンドというのが御座いまして、ウハウハエンディングを目指すのが一流の執事たる勤めです)」


「いや、オマエラ。このままBADEND直行だから」


「エルマ、ちょっとお話があります」
「リック。執事同士話があるんだけど、いいかしら?」



 お約束っぽく終わる。




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