レオの旅



  □書き込み/ スケッチ -(XXXX/XX/XX)
 
 スケッチ 
   
 
 箱○の皆さ〜ん、GALZれるものですよぉ〜!!

 こんばんは、イカパラ1の獣姦王レオパルドです。
 無事大陸に帰還したものの、前の世界消滅の影響によりテレポートゲートの座標がずれ何処とも知れない世界に飛ばされた僕と女の子モンスター。僕らは離れ離れになった他の女の子モンスターや、あと一応エリナとかを探しながら故郷に帰る旅を続けていたりします。
 お師匠様が聞いたら泣いて悔しがった挙句強奪を企むであろう僕の女の子モンスターのコンプリート率は異常で、総勢26名のレア含みの僕の可愛い仔猫ちゃんこと個性的な女の子モンスターたちは皆、お兄ちゃんこと僕が大好き。勿論従魔関係による強制力に似た衝動がきっかけとか、僕が中性的でマダムキラーな容姿とかあるのだけれども、それはそれ。
 この物語は旅人レオと、その相棒である従魔(注・彼に仕えるモンスター。彼と性的関係を結んだものだけを指す)達のFirst Kissどころかえっちから始まるハレムの愛のHistoryを描くファンタジーでありました。まる。
 
   
   


「スケッチ、お願いだから勘弁してください」
 へびさんのお陰で僕は間違いなく土下座が上手くなったと思う。嬉しくないけど。
「違う…の?」
 スケッチは最近、絵だけでは飽き足らなくなったのか描いた絵に言葉を加えて絵日記を描くようになった。旅の一日一日を描き残している彼女にそれをどうするのかと尋ねたが、明確な返答は未だに得られていない。多分、考えていないんじゃないかなとも思うのだけれども、何かとんでもないことをやらかすとしたらどうしようと怖くもある。
 ということで改めまして、レオパルドです。
「グオゴゴゴ」
 僕、次鋒じゃないから。
「やあ、僕は富○。フリーのカメラマンさ」
 お願いします、喋らせてください。
「合いの手」
 その、いらないから。
「…おおぅ」
 とんこつハリガネの人風に驚いているスケッチの絵日記通り、僕らはテレポートゲートを抜けてバラバラにそれぞれ見知らぬ土地に飛ばされてしまいました。初め彼女と二人だけで見知らぬ土地に飛ばされた時は困惑したけど、一人また一人と従魔だった女の子モンスター達と合流することでb「ハーレムでウハウハ」……えっと、そのスケッチ怒ってる?
「質問の意図が理解できない」
 長門有○?
 な、何はともあれ、僕らは旅を続けるのでありました。その、何故鉛筆の先を僕に向けるのでしょうか
「硬いですよ」
 え、ええと……。
「おーい、レオ!」
 そんなことを考えていると、先行していたバニラ達が戻ってくるのが見えた。
 僕らが休憩していた間に偵察してくれたのだった。
「本妻が帰ってので、このやるせない気持ちを込めて絵日記の続きでも描くことにします」
「…えっと、いや、うん。そうしてて貰えるかな」
 止めようとしたが止めた。無駄だろうし。
 何せ大所帯になっている僕ら。
 レア女の子モンスター揃いの一行はそれぞれの土地に根を張るモンスター達、特に男のモンスター達にとって注目を浴びない筈がなく、襲われることも度々だった。偵察能力や飛行能力、観察能力など持った女の子モンスターが先の道を調べ、戦闘能力に優れた女の子モンスターが手分けして護衛として僕らに張り付いて守ってくれている。

「レオ、今日は何とか野宿しなくて済みそうだな」
 視界の先に拓けてきていた町並みを見てバニラが呟く。
 借りて覗いた望遠鏡で確認していたとはいえ、こうして目に見えて近づいていくのがわかると感慨深い。
「そうだの。儂たちはいいが、レオ殿もベッドで休ませてあげられるというものじゃ」
「そんな……」
 僕自身はずっと皆と共に野宿でも構わないのだが、従魔として皆は心苦しいと思っているものも少なくなく、彼女らの意見を纏めるようにクスシさんはわざわざ言ってくれたのだろう。その細やかな心遣いには感謝するけれど、やっぱりそう特別扱いして欲しくないというのも心情ではあった。
「レオ殿の気持ちもわかるがこれだけの人数じゃ。皆で泊まれる宿もそうあるまい」
「う、うん……」
「ところでレオ、お前、金はあるのか?」
「え? ま、まだそんなには遣ってない筈だけど」
 バニラの何気ない問いに僕はうろたえて財布を取り出そうとするとクスシさんが軽く制し、
「そのことなら抜かりはない」
 そう言って、硬貨が詰まった袋を取り出した。
「これは甲板に店を出していたプルーペット商会に卸していた薬の代金。レオ殿や皆が集めた材料で作ったもの、だからこそ皆が使っていいお金じゃ」
「おお、すっごいな。クスシ」
「うん本当にすごいね、クスシさんは」
 僕がただ毎日必死にイカパラで動き回っている間に、色んなことしてくれていた。
「ほんと、抜け目ないというか手回しがいいというか、正直クスシがいなければ私も……」
「クスシさんだけじゃない。バニラだって僕のレベル上げの為に勉強してくれたし、メイドさんは毎日大和の掃除をほぼ一人でこなしてくれてたし……」
 僕はこうして養われて面倒を見てもらって護られているだけで。纏め役以上のことはほとんどできてないのが恥ずかしい。
「そんなことはないぞ、レオ殿」
「ああ。それがどれだけ大変かは皆知っているし、お前だからこそできたんだ。もっと胸をはれ」
「う、うん。ありがとう。でも、やっぱり宿はいいよ。それに僕は、皆と一緒に居たいんだ」
「う……」
「そ、その顔はマズい……」
 何故か二人は僕から顔を背けて蹲る。そんなに変な事を言ったのかと思うと少しショックだった。
「えーと、そのごめん。我侭で」
「い、いや、そうじゃなくてだな」
「お持ち帰りというかなんというか」
「?」
 二人が何を言っているのかわからずにいると、
「レーオくん☆ バニラ達とばっかり喋ってないで、ちょっといいかな」
 その微妙なタイミングを知ってか、サワーが間に割り込むようにして話しかけてくる。
「レオー、メイドさんが即席の竈で焼き菓子焼いてくれたんです。レオも一緒に食べましょう」
「あー、私が言うつもりだったのにー」
「ちょーちんさん、食べながら歩くのは行儀が悪いです」
 口にお菓子を咥えるちょーちんと、メイドさんも先を行く僕らの方へやってくる。
「ねえ、レオ。この休憩がてらにそろそろ町に入る前に決め事をしようと思うんだけど」
 と、まじしゃん。
 どうやら後ろの方で一人考え込んでいたのはそのことだったようだ。
「決め事? わけのわからぬことを……」
 側にいたへびさんが不機嫌そうに眉をしかめると、
「人間共の住処にこんなに大勢でわいわい入れないでしょうが!」
 ぴしゃりと言い放つ。
「えー、そんなの気にしなくたって……」
「何暢気なこと言ってるのよ。ただでさえ男はこんな頼りない顔したのが一人いるだけの集団なのよ。余計な揉め事に巻き込まれない筈ないじゃない!」
「あー、それは断言なんだ」
 こうもビシリと指差されると、笑うしかない。
「何笑ってるのよ! これというのもレオがもっと確りしないから!」
「いや、それは無茶苦茶な言いがかりだぞ」
「とは言ってもだな」
 バニラとクスシさんの反論を無視するまじしゃん。
「レオと何人かで先行して、様子を調べてからにしましょう。それにはまず外見があまりにみっともない人は削除ね。そして戦力バランスも考えると魔法使いは欠かせないわ。仕方ないわね、渋々だけど私がついってって――
「妾に指図するな、たわけ」
「適当でいいんじゃない? 皆子供じゃないんだし」
「じゃあ、そういうことでレッツゴーです」
「やれやれ」
「――というわけで決まりね……え? ちょ、ちょっと待ちなさいよっ!」


 結局、人の多くいる場所が怖かったり、そもそも興味がなかったり、団体行動が苦手なものなどが離れたことで、結果としてその街には少数での行動になっていた。
「おかしっ♪ おかしっ♪」
「ふむ、ちょーちんはそればっかりだな」
 表情こそ変わらないが、バルキリーの言葉には優しさが感じられる。
 だからなのかちょーちんも笑顔で答える。
「行く先々でその土地独特の名産品を楽しみにしているんですー♪」
「そうか……」
「はい。旅とかしたことありませんし。バルキリーさんはどうですか」
「旅か……戦場から戦場を渡り歩いたのだからそれをそう呼んでも良いのかも知れないが、こんな多くの人がいる町には入ったことがないな」
 一行の中でも大柄のバルキリーは目立つが、旅の女剣士とでも思われているのか騒ぎになるほど注視はされていない。
「こらこら、早く食料を買って皆のところに合流するぞ」
 まとめ役のクスシさんが嗜める。
「えー、もっとゆっくり街を見て行きましょうよ」
「一理あります。こんなに大きな都市は久しぶりですし……」
 買い物メモ片手にメイドさんが珍しく弁護する。
「それもそうじゃが、待っている者の身になれ」
「でもー、レオくんはどう思う?」
 バニラが珍しく別行動になったせいか、サワーが僕の横の位置をキープしていた。腕を組むのは恥ずかしいけれど、振り払うようなことはしたくないのでそのままにしている。
「本当なら全員でこうして歩ければいいのに……」
「あの人数では否が応でも目立ってしまうものな」
 周囲を警戒しつつ、一番後ろにいるバルキリーが答える。
「ふふーん、レオくん。今でもちょっと目立ってるけどね☆」
「あぅ」
「こら、サワー、レオ殿を困らせるでない」
「こんなに可愛い子がいっぱい揃っているんだもん。あ、悪い人に絡まれたら守ってね☆」
「それは勿論だよ」
「いや、守るのは儂らの方であろう……」
「やいやいやい!」
「ほら、こんな声で――え?」
「やいやいやい」
「期限はとっくに過ぎてるんだ」
「利息合わせてきっちり、とっとと払ってもらおうか!」
 声のした方を見るとチンピラ風の男が三人、老夫婦を囲んですごんでいた。

「何てわかりやすい人たちなんだ!」
 あまりにあんまりなその光景に、不覚にも感動すら覚えてしまった。
「どうする、レオ殿」
 周囲の人間は遠巻きにしているだけで、何もしようとしない。それどころか面倒を避ける為なのか足早に立ち去っていく人も少なくない。
 足を止めて見回すが、どこからも衛兵とか警備兵が来る様子もない。
 手こそ出さないものの、脅し続ける声はエスカレートしていく一方だった。
「その、できるなら助けたいんだけど……いいかな」
「わかった」
「じゃあ行ってくるね☆」
 僕がそう言うや否や、僕の横に一陣の風が通り過ぎるのを感じたかと思うと、
「……終わった」
「これどうしよっか、レオくん」
 さっきの人たちがバルキリーとサワーによって簀巻きになっていた。
 早っ。

「借金があるのです」
 簀巻きを片付けた後に成り行き上、囲まれていた老夫婦から彼らの構えている店に入って事情を聞くと、
「昔からの付き合いのある人の保証人になったのですが……」
 そんな割とよくある話だった。
 このままではこの自宅も兼ねた喫茶店が借金のカタに取られてしまうので困るらしい。
「店は立地条件が良く私ら二人が暮していく分には困るほどではなかったのですが、借金を返すだけのお金はとてもとても…」
 取立てが来てからは昼夜嫌がらせを受けるようになり、商売どころではなくなってしまったのだそうだ。
「ふむ。金よりもこの店と土地が目当てと言うところじゃな」
 暴力でカタをつけるとこっちが追われる身になってしまうということで、何とか平和的解決を望みたいところだが、そんな虫のいい解決方法は僕らには思い浮かばない。
「それで私が呼ばれたわけか」
 腕を組むバトルノート。
「うん。こんな我侭なこと頼むのは申し訳ないんだけど」
 愛の貧乏脱出大作戦も大昔に終わってるし。
「フフ、どんなことであれ、御指名で頼られるということは嬉しいよ」
 若干読みきれないところがあるものの、喜んでくれているようだ。
 クスシさんと彼女が僕の中での頭脳派だ。
「そこそこの大金を稼ぎたい。それも不法な手段ではなく、と。かなり無理難題ではあるが、まるっきり不可能というほどでもあるまい……道具はこのうらびれた茶店のみとなると我々が打てる手は一つ。ズバリ、メイド喫茶だろう」
 その頼りある頭脳を高速回転させると、彼女は特に溜めることもなく一気に結論を言う。
「「「メイド喫茶ぁ!?」」」
 そんなバトルノートの提案に素っ頓狂な声をあげる皆。声は上げなかったけど僕も勿論驚いた一人だ。
「なんでえ、それは」
 雷太鼓が皆を代表するように尋ねる。
 呼び出したバトルノートについてくるように街の外で待機していた皆も集まってきていた。急なことで別行動を取っている者等もいてここにいるのは従魔全員ではないが、仕方がない。
「何も特に変わったことではない。女性店員が全てメイド衣装を着て客に奉仕をする真似事をするだけの飲食店だ」
 そんな反応を予想していたように扇子で口元を隠す仕草をしながら説明するバトルノート。
「それだけでも随分と風変わりな気がするが……よもや風俗の類ではあるまいな」
「えー、そんなんだったら私イヤだなー」
「そうです。幾ら善行の為とは言え、そのような破廉恥な真似など」
「それは違う」
 やもりん、サワー、とっこーちゃんらの発言に対して何故かバルキリーがバトルノートに代わって答える。
「メイド喫茶とは……」
「メイド喫茶とは?」
「ぷに萌えなのだ」
「……は?」
「だから、こう……」
 身振り手振りで何かを訴えかけるバルキリーだったが、
「まあこれは放っておいてだな」
 バトルノートに放っておかれる。
「飲食店とは風評が鍵だ。となるとてっとり早くこの飲食店が稼ぐには、絶品の料理を編み出すか、安易に人受けのする企画を立ち上げるかのどちらかしかない。前者はそんなものを産み出すのが難しいのだから、自然選択は絞られるというものだ」
「でもでもー、私接客とかやったことないし」
「そこは適任がいるではないか」
 バトルノートがビッと扇子で示した先にはメイドさんがいた。
「そりゃまあ適任中の適任だけど」
 本職中の本職だし。
「彼女の指導があればそれなりのメイドにはなれるであろう。なあにメイドなどと言っても顔と態度でなんとでもなる。特にその手の店に好んで入る客など、容姿さえ良ければそれなりの対応でなんとかなるものだ」
 そしてこんなぶっちゃけが入るところがバトルノートらしいと言えばらしい。
 でもこれも彼女なりに僕らに心を許しているからこその仕草なのだろう。
「第一、私たちがそんなことをする必要なんてどこにもないわ」
 肩を竦めるまじしゃん。
 別行動を取っている最中、急に呼ばれた理由がこんなので機嫌を損ねているようだった。
「うん、そうだよね。これは僕が……」
「いやだからレオ一人でどうなるもんでもないからこそこうして話し合ってるんじゃねーか」
 バニラが僕を嗜めるようにして、肩を叩く。
「それはそうだけど」
「そうそう。頼って貰えることこそが従魔としての幸せというものじゃぞ」
 そう言ってクスシさんはまじしゃんを意味ありげに見る。
「なあ、まじしゃん」
「わ、わかったわよ。じゃあこの私、まじしゃんが具体的計画を立てるわね!」
 クスシさんの言葉にまじしゃんは顔を赤くして議長役を買って出てくれた。
「わたしも何か手伝えることはあるでしょうか」
「そうねフローズンは接客もいいけど、その凍らせる能力で氷菓でも出してみるのはどうかしら。元手もそうかからないでしょうし……」
「デザートのことならこのちょーちんにお任せですよ」
 たちまち、皆で具体的な話し合いが始まる。
 こうなると僕の口を挟む余地はなくなり、ちょっと離れて椅子に座りなおした。
「……ありがとう、皆」
 嬉しいものの、ちょっと複雑な気持ちになる。
 この喉に引っかかるような感覚は、未だに馴れない。
「やれやれ、つくずくそなたはお人よしよの。こんなこと放って置いても良いだろうに……」
「迷惑かけて御免、へびさん」
「まあ妾は手を貸すつもりはないが、そなたらが勝手する分には構わぬ。それに……そなたのそういう部分が妾は嫌いではない」
 プイと顔を逸らして店を後にするへびさんと入れ替わるようにして、クスシさんが横に立つ。
「それよりもレオ殿のことじゃ」
 クスシさんも僕のほうを見る。
「う、やっぱり見透かされてます?」
「気に病むなと口に出したところで無駄であろう。だが皆がレオ殿の従魔であることに幸せを感じていることもわかって欲しい」
 魔物使いの従魔としてではなくという部分を込めた言い方だとはわかる。
 それでもすっきりしないのは、僕の潔癖症じみたものなのかも知れない。
「結局、悪者になりたくない意識なだけなのかも……」
 拾われ子だからということなのか、僕はどこか引っ込み気質なところがある。それを良く師匠やエリナに叱られたものだ。もっと図太くなれ、我侭になれと二人によく言われた。確かに師匠は図太い性格だし、エリナもちょっぴりだけど我侭だった。
「いや、それは違うだろう」
「私はレオくんをご主人様じゃなくて王子様って思っているから☆」
 サワーに椅子の背もたれごしに抱きしめられる。
「金や権力に縁のなさそうなツラしたやけどな」
「えーい♪ サッカーボールキーック☆」
「かんにんやーっ」
 にゃごにゃご先生が星になった。
「まあ、そういうことじゃ」
「うーん」
 こういう悩みは一朝一夕で解決するものではない。
 けれども、いつかは答えを見つけなくてはいけない。

 魔物使いの修行をする際に一番最初に師匠に教わったことは、魔物使いは使い魔に深い情を交わしてはいけない、ということだった。
 それはこういう悩みを背負い込まない為だったのかも知れない。

「ただ師匠は、魔物使いは魔物さえ使いこなせればまず食いっぱぐれることはないとも言ってたっけ」
 だからこそそれに寄りかかり過ぎないように強く自分を持たないといけないのだとも。
「あのご主人様……」
「あ、メイドさん。なんだい」
「私は一体どのようにしたら宜しいのでしょうか」
 バトルノートからの突然の指名からずっとどう対処していいのか分からなかったらしく助けを求めてくる。と言われても僕も特に何か言えるようなこともない。
「その、色々と問題もなくはないと思うんだけど……他に方法も思いつかないし、もし嫌じゃなかったら引き受けてくれないかな」
 まじしゃん達の熱気からして、今更代案もなく止めようもない。
「それは教育係、ということですか」
「う、うん」
 そのキーワードに家にいたリサを思い出して自然と身震いが出た。
 でも怒りながらも心配しているのではないかと思うと、少し懐かしさを覚える。
「それでは、ご主人様の御期待に添えるべく微力を尽くします」
「え、あ、うん。大変だと思うけど頼むよ」
「畏まりました」


―――そうして僕らのメイド修行が始まった。



    
  
   
 
「「「「おかえりなさいませ、ご主人様」」」」


 人間達の住む街に女の子モンスター達の声が響く。
 街への襲撃?
 行商人の見世物?

 人々の戸惑いを余所に、その店はあった。
 昔からあった小さな店。
 そこは、ある日突然女の子モンスター達が出迎える楽園に生まれ変わった。


                      主題歌「地○の星」
                         中島み○き



                             旅
                             先
                            人で
                            助の
                            け



 底抜けの
  お人好し


                         連帯保証人
                             の
                             罠


 債
 権
 者
 の嫌がらせ



 窮地に陥った
 老夫婦を救う


                         天才軍師が
                        示した策とは


  待
  ち
  構
  え
  る
 種
 族
 の
 壁



 野生育ちゆえ
       の苦難



                         DP暴逆差
                         ・T動切別
                         VA れ
                         ・
                         D



           うおっ!まぶしっ!



 ヤシガニ
 キャベツ
 富士山
 ガンDODODODODO!!
 
   
   


「ちょっとこの制服何よ! 露出多過ぎじゃない! こんな恥ずかしい服着るぐらいなら私は参加しないからね」
「まあそんな年中フードを被って顔を隠したがるような(r」
「そんな安っぽい挑発に乗るような(r」
「一山幾らの安女」
「な、な、なんですってムキーッ、見てらっしゃいレオ! 私がこの店のNo,1になって見返してあげるから」
「何故僕に!?」
「誉めてもらいたいのじゃよ」
「違うんだからっ!」
 皆からお約束的な弄られキャラとなるまじしゃん。

「もっともっと食べたいのだ!」
「山のサチ、お主はちょっと出ておれ」
「やっぱり、は、恥ずかしいです……」
「普段は水着なのに?」
 戦力外通告のサチ二人。

「出迎えはいらっしゃいませではなくお帰りなさいませ、らしいです」
「このメイド喫茶ガイドによるとそれが通例だそうよ」
「何だそれ。どうしてそんなのが手元に」
「バルキリーさんから貸していt」
「ひ、ひ、拾ったのだ!」
「はいはい、そういうことにしておこう」
「ほ、本当に、そのっ」
 実は誰よりも実情に詳しいバルキリー。

「もっと腰をかがめてください」
「こ、こうか?」
「言葉遣いは丁寧に」
「くっ……こうでございましょうか?」
「相手を睨んではいけません。メンチ切って暴れるのは野生の中だけにしてください」
「て、てめぇ、今、なんつった?」
「ですから怒鳴らないことです。本当にやろうとする気があるのですか?」
「なんでぇ、べらんめい! やってられっか!」
「警告はしましたよ雷太鼓さん、そこの赤ちゃん進入防止柵に三分です」
「なんじゃそりゃあ!」
 後でメイドさんに聞いたところ、尊敬する人はジョー・フ○ストなのだそうだ。
「でもさあ、あたしらじゃなくてあんたがやればいーじゃん」
 次に講習を受けるバニラが言うと、
「私はレオ様一人のメイドです。例え真似事であっても余人に仕えるなどとんでもない」
 それを捨てるだなんてとんでもないという顔をするメイドさん。
「それに私には私の役目があります」
「なんだよそれは」
「バーテンダー」
「喫茶店でか?」
「では特訓を続けます」
「ノーリアクションかよ!?」
 新装開店準備に追われながら、メイドさんのメイド指導の様子を見ていたが一つわかった。
 彼女の一族は皆スパルタ。

「暇ゆえ、妾は遊びにいく」
 へびさんは周りの慌しさをガン無視して出て行ってしまった。
「ちょっと、全く少しは手伝っていきなさいよ!」
 まじしゃんはご立腹だが、強制できるものではないし仕方がないと思う。
「あたしもちょっと出てるわね〜」
 はりまおーも何か用事でもあるのか、針を小脇に抱えながら出て行った。
「じゃあ私はお客さん役でもやる。セクシーナイト指名で」
「だからそういう店じゃないって言ってるでしょう!」
「そんな無乳なんか呼んで無いわよ」
 サルファもまじしゃんと揉めて出て行ってしまった。その際、彼女を追ったバトルノートも一言二言話ただけで引き止められなかったようだがこれも仕方がない。
 残った者だけでレッスンが行れ続けた。
「ほら水だ。で、注文は何だ」
「最悪です、やもりんさん。誠心誠意、奉仕の心を持つべしと言った筈ですが」
「いらっしゃいましたか?」
「デス子さん。時には無心になることも必要ですが、何も考えていないのとは違います」
「いらっしゃ〜い☆」
「サワーさん。商売女と間違えてはいませんか?」
「メ、メイドとは奥深い……」
「唸ってないでもう一度です」
「やはり難しいものだな」
 先に指導を受けている様子を見ているバルキリーの横に、バトルノートがやってくる。
「どうだバルキリー。念願のメイド服の感想は」
「なっ、そ、そんなことは」
「まあまあ。皆着ているしそう慌てることもなかろう」
「だからこそ、だ」
「ん?」
 バルキリーの声のトーンが一層落ちる。
「私のようなものが着ていては……」
 そんな態度を見て、バトルノートが僕を軽く呼ぶ。
「レオ」
「なんだい、バトルノート」
「一言頼む」
 バトルノートは茶化し気味だったが、僕は縮こまっているバルキリーに素直に答えた。
「凄く綺麗だよ」
「あ、そ、その」
「プッ……」
「バトルノート!」
「悪い、あまりに純情でな」
「お、お前はっ」
 こうした二人を見ているとずっと前から仲良しだったのだなと思う。計略の為とはいえ敵味方に分かれて戦っていたことが嘘のように、ずっと慣れ親しんでいる。打ち解けられていると感じる関係が、素直に羨ましい。
「そこのお二人も遊んでないでこちらに来て下さい」
「うむ。すまん」
 はしゃぎ声が届いたのかメイドさんから呼び出しを受ける二人。
 いつの間にか傍らには指導を受けた女の子モンスター達が死屍累々とダウンしている。
「つ、疲れる……」
「舌が縺れました〜」
「お、俺も逃げ出すべきだった…」
「だ、だらしないわよ〜、こ、このぐらいで…」
「その格好で地べたに座らない!」
「「「「はいっ」」」」
 メイドさんの一喝で、全員飛び起きる。
「な、なんだか凄い事になっているな」
「私語は慎んでください」
「す、すまん」
「お二人も挨拶の練習から始めましょう」
 ではバトルノートさんからという合図に、バトルノートは優雅に応じる。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「バトルノートさん」
「何だ? 口上に間違いはないと思うが?」
「目つきがえらそうです」
「そ、そうか」
 いきなりの駄目出しだった。タイが曲がっていてよで腕立て伏せ二十回とか言われるタイプの。
「はい。上から見下ろすようなその目つきはメイドとしてあってはならないものです」
「み、見下ろすか…」
「はい。メイドとは全ての主、そして客人達に仕えし者です。選り好みなどあってはならないのです。常に下にの意識を持ってください。ほらその目線です。気をつけてください」
 指揮棒で肩をぺんぺんと叩かれる。
「意外と難しいものだな。いや理屈ではわかるのだが」
「正視しようとせずに目線を落とすのが大事です。チビだから見上げたくなるのは分かりますがそこは我慢です」
「なっ」
「何か?」
 しれっと受け流すメイドさん。
「今おぬし……」
「そんな情けない顔をしてどうしました。客と言っても店に入って注文すればどんなならず者でも一応は客なのです。どんな暴言にも受け流すゆとりがなくてはいけませんよ」
「そ、その通りだが、何か騙されているような」
「気のせいです」
「くっ……こ、このバトルノートともあろうものが圧されている」
「ではあちらで壁に向かって挨拶の練習を続けてください。私がいいと言うまで」
「わ、わかった」
「その身長ぐらいに腰を低くしてやるのですよ」
「くっ」
「私を憎みたければご随意に。厳しくいきます」
「わ、わかった」
「わかりました、です」
「……わかりました」
「次はバルキリーさんです」
 メイドさんはバトルノートにカベに向かって挨拶の練習をさせると、振り返ってバルキリーを見る。
「う、承った!」
「なんですか、その口調は」
 ガチガチになったバルキリーを見るメイドさんの目は物凄く冷たい。僕がそんな目を向けられたら夜寝られないぐらいの。
「し、失礼した!」
「テンパっておられるようですね」
「そ、そんなことは……、あ、あの……」
 自分でもなんとかしようとしているようだが、ドツボに嵌っているようだった。
「そんなことで客商売、接待業が勤まると思っているのですか」
「す、すまない」
「口先だけで畏まって意味はありません。戦うだけの女でいたくないのでしょう」
「そ、それは……」
 メイドさんの物言いが多少柔らかくなることでバルキリーは少し落ち着いたもののその大きな身体を縮こませたまま俯いていた。
「だがやはり私にはその、似合わない……」
「ええ、その通り。バルキリーさんには全く似合いません」
 そうばっさり切って捨てる。
「うっ……」
「メ、メイドさん!?」
「ちょっとそれは……」
「ですが!」
 周囲の声を遮るようにして続けた。
「ですが、それが何だというのです。姿かたちでメイドをやるものではありません。メイドとは心。メイドらしい振る舞いというのは心の形をあらわしたものです。立ち振る舞いさえ整っていれば、たとえ馬鹿みたいに背が高かろうが、無駄な位に腕力が有り余っていようが―――」
「本当は嫌いなんじゃないか?」
 そんな外野からの声を完全無視。
「こんな私でも役に立てる。その心を忘れなければ大丈夫です」
「あのう、それは卑屈過ぎませんか?」
 呆然と突っ立ったままのバルキリーを庇うようにとっこーちゃんが代わりに尋ねる。
「そうですね、もっと簡単に言えば……身の程を知「わーっ!?」
 バリキリー涙目だし流石に止めないと、と僕が思った瞬間にメイドさんの指揮棒がバルキリーの顔の前に突き出される。
「そうです、今のその顔です」
「は?」
「え?」
 思わず固まる僕とバルキリー。
「貴女の割り当てはドジっ子。だからこそその顔が大事、萌えなのです」
「え?」
 戸惑う僕をよそに、納得しだす周囲。
「そ、そのような…、いえ、そうだったのですね」
「私がドジっ娘……。メインヒロインに割り当てられる属性のドジっ娘…感激だ。な、涙が…うぅ…」
「ひっどーい。私もそれ狙ってたのに!」
「フフフ、今の流れにそんな思慮遠謀があったとは、このバトルノートの目をもってしても見抜けなかったよ」
「え、ええと……」
 一人取り残された格好の僕にはちょっとわからない世界だった。



 そして始まったメイド喫茶計画だったが―――



 ……見事にポシャった。
「結局、そうそう上手くいかなかったね……」
 一日中立ちっぱなしのせいで、椅子に座りながらテーブルにへばりつくようにして呻く。他の面々も似たような有様で、メイドさんだけが平然と後片付けに励んでいた。
 最初は物珍しさも手伝って賑わいはしたものの、借金額に短期間で届くほどの収入は見込めなかった。途中、衛生管理局とかいうところの職員が来て、散々調べられたりしたことで災いしたのもある。この調子が暫く続いたとしても赤字はないが大繁盛とはなりがたいペースだった。
「ううむ」
「私の力不足でした」
 メイドさんが項垂れる。
「元々バトルノートの策が拙かったのよ。何よ自信たっぷりに言ってこの結果。どうしてくれるのよ!」
 まじしゃんがメイドさんの死の特訓の恨みがあるのか、主導権を取られていた腹立ちか棘のある言葉をすまし顔のままでいるバトルノートにぶつける。
 その言葉に少なからぬ視線が彼女に向かうが、平然としていた。
「フッ、私にだって……わからないことぐらい…ある…」
 M○Rですか。
「そんな行き当たりばったりなことで振り回した責任どうとってくれるのよ!」
「いや冗談だ。本当は既に手は打ってある」
「え」
 落ち着き払ってポンポンと手を叩くと、
「はいよ」
 という声と共に突然バトルノートの前にサルファが現れ、一枚の紙切れを彼女に手渡した。
「サルファ? 一体何処に行って……え?」
「ほら、これで大丈夫だ」
 素早く目通しし終えたらしいバトルノートから、そう僕の鼻先に突きつけられた紙の文章を受け取って中を覗き込む。
「……しゃ、借用書?」
 読むとこの店が背負っていた借金の借用書だった。
「こ、これは一体……」
 呆然となりながらも尋ねると、
「金庫に忍び込んで貰った」
 しれっとした答えを返すバトルノートが、サルファに何か渡している。
「じゃ、じゃあこのメイド喫茶は」
「まあ、相手への目くらましと言うところだ」
「「「なんだって―――!!」」」
 確かに賑わいに客を装った連中が来て、追い払ったりしてはいたけど、そんなからくりは気づかなかった。思わず僕らも隊員にもなろうものだ。
「本当は?」
 付き合いの長いバルキリーは騒がずに、もう一度尋ねる。
「バルキリーにメイド服を着せる機会を作ってやろうと思ってな」
「お、お前と言う奴は……」
 しれっと返すその答えに絶句するバルキリー。
「でも嬉しかっただろ」
「そ、そんなことは……」
 顔をあらぬ方に向けることで肯定していた。
「すまん、すまん。が、この通り目的は達したからいいではないか」
「結局、力技だったけどね」
 しかも違法もいいところだ。
「じゃ、じゃああの地獄の特訓は何だったのよ!」
 収まらないまじしゃんが詰め寄るが、
「でも終わってみると結構楽しかったですよ」
「甘いものも一杯食べることができましたしね」
「いや、正直俺はもう懲り懲りだ」
「きゃんきゃん、レオさんの為にいっぱいいっぱいがんばったんだよー、誉めて誉めて」
「うんうん、ありがとう」
 そんな賑やかな流れの中に埋もれていった。今日一日でおしまいというのが良かったらしく、概ね気にしない方向になっている。
「まあ、ぶっちゃけどうでもいいしー」
「こうして皆で街中にいられるんだから結果オーライかもな」
「お泊りなのだー 枕投げをするのだー」
 加えて、昼間いなかった面々は最初から気にしていないようだった。
 そんなダレかけた空気の中で、甲斐甲斐しく働いているメイドさんを呼んだ。
「ご主人様、お茶のお代わりは如何ですか」
「メイドさんは怒ってない?」
 開店後はキッチンをほぼ一人で切り盛りしていたメイドさんが今回一番忙しかった。だから文句を言うとすれば彼女が一番だろうと思ったからだ。
「私はどのような形であれ、ご主人様のお役に立てたのならそれで満足です」
「それならいいけど…」
 言葉通り、笑顔を向けるメイドさんはいつもの彼女だった。
 実習中の表情はどこにも見当たらない。
「ちょっと、この写真は一体何ですか!」
「報酬だよ、報酬」
「バトルノート!」
「仕方がなかろう。そういう約束だからな」
「な、な、なんと破廉恥な!」
「心配しなくても晒しのアンタの写真などほしくはない」
「そ、そういう問題ではありません!」
 皆の方を見ると、どうやら成功報酬として皆の着替え写真を受け取っていたサルファにとっこーちゃんが追いかけていた。
 メイドさんと二人してそんな様子を暫く眺めていると、彼女がポツリと呟く。
「それに……人に物を教えるのも悪くないかと」
 慌てて見たその横顔は「What do we do for a living,ladies?」と言っていた時の彼女を思い出させて、思わずブルっと震えてしまった。
 やっぱり彼女の中の何かを目覚めさせてしまったかも知れない。
 軍曹魂とか。



「ふぅ、やれやれ…とんだ道中だったなあレオ」
「でもあの人たちも喜んでくれたし、結果としては良かったと思う」
 あのあと大宴会という形で手厚い歓待を老夫婦から受け、翌朝僕らはこの街を後にしていた。
「ついでに壊滅させてきたのが良かったのじゃろう」
「最後まで力づくだったけどね……」
 僕らが街を出て行った後に報復されないようにしたということで、後ろめたさがあるものの最早手遅れだ。
「まあ、それが一番後腐れがない。余所者の利点だ」
 何だかんだしながらも、バトルノートは糾弾を潜り抜けたようだった。
 皆を見る。
 それぞれわいわいと言いながらも続いていく友達のような一行。
 あのイカパラでの出来事から今こうして至るまで、それは変わらないでいる。
「ふぅ……」
 僕は本音のところでは今でも皆と結んでいる従魔契約は解除したいと思っている。
 それは勿論、皆のことが嫌になったわけではない。
 イカ男爵という相手を倒す為の手段として助力を願うという理由で従魔になって貰ったという事情からのことだったのでそれが終わっているという部分と、主従という関係そのものが自分の性格に似合っていないと感じたからだ。友達でいたい、そう強く願っているから。
 勿論、それ自体が我侭だと思っているからこそはっきりと言い出せないところでもあった。
 いつか、従魔契約なんて存在を忘れられるぐらいになれたら、そんな存在すら忘れられるぐらいになれたらと思う。
 そしてそれが僕が師匠に対する答えになれたらとも。
 だから……


 だから僕はもうしばらく、こうして皆と旅を続けたいと思ってます。



  □書き込み/ スケッチ -(XXXX/XX/XX)
 
 スケッチ 
   
 
 今日は大陸のとある街で起きた、ちょっと変わった出来事をご紹介しよう。
 今回のターゲットはこの街を訪れた旅人、森○レオ。
 ショタ好きのお姉さん受けしそうな顔をした彼は、沢山の女の子モンスターをイカの魔の手から救った英雄だが、人間社会では何の益も為していない所謂ネオニート。毎日のお小遣いを侍らす女の子モンスターの一人クスシから貰っている立派なヒモである。
 幼馴染の女の子から精神的支配を受けて育った彼は大のヒーローマニア。困った人を見ては助けずにはいられないと言うそんな彼の前に現れたのが、見るからに悪人の男達と絡まれるいたいけな老夫婦。 住人は見て見ぬふりをするといういかにもな光景に勿論正義感気取りのターゲット、腕も金もないのに関わらず女の子モンスターを使って助けに入る。
 実はこの悪人と老夫婦、そして街の住人全てが仕掛け人。
 案の定、悪人から開放された老夫婦の身の上話に何の疑問も抱かないどころか、何としても助けてあげたいというお人よし振りを発揮する。しかし顔はいいけどおつむは頑張りましょうなターゲットからは妙案は出ずじまい。結局問題解決を彼の従魔の一人バトルノートに頼み込むのだが、その彼女が出した案がまさかのメイド喫茶。
 ブームもとうに過ぎたその企画の出鱈目さにターゲットは気づかない。それどころか、彼女の口上に乗せられるがままにいい案だと思い込んでしまう。
 そしてターゲットに逆らえない女の子モンスター達は命じられるがままに、各々似合ってたり似合ってもいなかったりするメイド服を着用する。
 うは♪、桃源郷の始まりかぁ。
 しかし喜ぶのはまだ早い。
 なんと、これだけでは不十分とメイドさんによるメイド教育が行われたからさあ大変。萌え萌え媚び媚びな展開を期待したら軍曹ばりの罵詈雑言と調練が飛び交う状況となり、雲行きが怪しくなる。
 やる気あるものも萎れ、ないものはいち早く去っていくメイド喫茶計画の成功に不安を覚えるターゲットは計画立案者であるバトルノートに計画の不安を訴えるが、全く心配ないの一点張り。
 勿論、彼女も仕掛け人。
 日頃の鬱憤晴らしと兼ねているかのようなメイドさんに叱られながらも、カメラに目線を送る余裕まで見せていた彼女は「私は大丈夫、お前は銀食器でも磨いて居給え」と、体よく少年を追い払う。

 そして不協和音のハーモニーが広がる中、とうとう訪れた新装開店初日。
 威勢良く呼び込みを開始した――次の瞬間!
 なんと意気込むターゲット達を待ち受けていたのは多くの来店客ではなく、衛生管理局の職員達。
 実はこの街、暴力は黙認されても衛生には口煩いことで有名な街だったのだ。
 この不浄なるモンスター達はなんだ、そしてお前はどこのどいつだと詰めよる職員。
 もうお分かりだろうか。そう、当然彼らも仕掛け人。

 理不尽な退去命令を受け、責任者としてターゲットの少年が涙ながらに訴える。
 それにしてもこの少年、ノリノリである。
 実の肉親恩人相手でもここまで言えるかという必死の弁論も空しくあしらわれ、その様子を見守っていた彼の従魔達が暴れそうになる。
 と、ここでネタバラシ。
 その場にいたスタッフ全員からの拍手と歓声に包まれて漸く、事情に気づいたターゲット達もこの展開に思わず苦笑い。

 そして翌朝……そこには元気に街の外を走るレオ少年の姿があった。
「負債に負われる夫妻が本当はいないんだと思うと、嬉しかったね。でも、もう安易に人助けなんかしないよ」
 と、苦しい駄洒落を残して去っていく少年だったが、その背中が煤けていたのは御愛嬌というところだろう。
 
   
   


「……えーと」
「今日の出来事」
 毎日、描き上がったあと見せに来るのはどうしたらいいのだろう。
「事実とは大分違うような」
「まずは彼を落ち着かせることが第一だと思いました」
「君が落ち着こう」
「……でもきっと皆"LIKE"よりも"LOVE"ですよ」
 そう言って日記の最後に赤鉛筆で何か単語を描き加えたが、すぐに隠されてしまった。
「え? 今のは……」
「筆を洗うのは楽しい作業なんですよ。憂さ晴らしには最適、ほら」
「持ってるの鉛筆なのに? 痛い、痛いよスケッチっ」
 ボブっぽくパタパタパタと僕を叩くスケッチを隣に置きながら、僕らの旅は続くのです。



          


アイコン絵 (c)アリスソフト