今日はいつになく槙久さまは機嫌がよかった
終わった後、わたしにプレゼントまでくれた
『今日は琥珀の誕生日だったんだよな』
そんな事、言われるまで忘れていた
呆然としていると不意に殴られた
『人からプレゼントをもらった時は、嬉しそうな顔をしてお礼を言うものだ』
ありがとうございます
とても嬉しいです
『開けてよろしいですか』
開けてもよろしいですか
わたしが言われた通りに言うと、槙久さまはとても嬉しそうに笑った
『ああ・・・琥珀によく似合うだろう・・・』
そうか
プレゼントと言う物は、相手に渡して自分が気持ちよくなるためにあるのか
『次からは、常にその白いリボンをつけておくように』
かしこまりました
槙久さま
amberance
作/柴レイ
ゆっくりと目が覚める。まだ部屋は薄暗い。つけっぱなしのテレビの画面は青く澄み切った空と、緑色に輝く南の海を映し出していた。それに優しい旋律のクラッシックがBGMで流れている。画面左上の時計表示は4:30だ。そして下に一行で「次の台風情報は午前5時となります」のテロップが流れていた。
台風か・・・もうそんな季節になったのね。そういえば昨夕は風が強かった。窓がガタガタと鳴っている。離れの地下室はお屋敷と違って古い作りだからさぞかし怖いかもしれませんね。そう思ってわたしは、ふふふ・・・と笑った。
志貴さんを探しまわっていたみたいだけど、それも叶わず酷く落ち込んだ様子で秋葉さまと翡翠ちゃんが帰って来たのは二日前のことだ。それからしばらくはお二人の相手をしていまして顔を見せませんでしたから、寂しい思いをしているかもしれませんね。まだ二人は寝ているでしょう。すっかり目も覚めてしまったので、わたしは和服に着替えて・・・・・・と思ったけど、ふと考えを変えて普段開けない引出しから男物の白いワイシャツを引っ張り出してそれを裸の上に羽織ってみた。そして以前志貴さんから返してもらった白いリボンで髪を後ろで結わえて部屋を出ました。
外に出るとまだ真っ暗だ。厚い雲がたちこめているからだろう。月も星も見えない。漆黒の闇だ。ただ風だけが気味の悪いひゅーひゅーという音だけを立てている。雨がまだ降らないだけでも幸いねと、わたしは呟きながら離れに向って歩いていった。闇夜でも迷う事はない。目を閉じたって辿り着く事が出来るくらいに屋敷から離れまでの行程を身体全体で把握しているから。程なく離れに辿り着いた。
先ず居間で食事の用意をする、最後に会った時に点滴をしていたし、ビスケット数個とお茶を置いていったから二日三日何も与えなくても死ぬ事はないでしょう。全然運動もしないのだし。それでもわたしは米が2割程度のおかゆと、鯖を塩焼きにした物、そしてたくあんを添えて小皿に盛り付け、それをお盆に乗せると最後に白湯を・・・まるで病院食みたなメニューを持って、居間の隣の寝室の襖を開けた。そこには地下室への階段があった。
「・・・・・・」
おかしい。不審を感じた。誰かがそう遠くない前にこの襖を開けている。そしてこの階段を降りている。この階段から地下室へのルートを往復する者は、わたしと、今の地下室の住人志貴さん、そして過去の住人四季さましかいなかった筈だ。だからそれ以外の者が辿ればその気配が残って、このわたしには感じ取れる。わたしは食事の乗ったお盆を寝室の畳の上に置いて、手ぶらで階段を降りていった。
シエルは暗闇の夜道を少しも迷うことなく、遠野屋敷へと辿りついた。その姿は、法衣を纏い、左手に黒光りする物々しい銃火器らしき物を持っている。今の彼女は戦闘モードだ。にもかかわらず、この喜色満面の様子から察するに、今回のミッションは彼女にとってかなり楽な部類であり、かつそれによって得られる報酬が格別の物なのだろう。
「待っててね遠野くん。もうすぐとっても美味しいカレーを食べさせてあげますからね」
今も彼女の部屋の鍋はぐつぐつとルーを煮込んでいる。玉葱10個を二時間かけて炒める所から始まって、今回のカレーはかなりの自信作だ。チキンもフランスの田舎から直輸入してある。Mademoiselle Ciel は、ビーフよりもチキンが Tres bien なのだ。志貴の口元に、特製カレーをすくったスプーンを、あ〜ん・・・してあげる自らの姿を瞼に浮かべ、表情がだらしなく弛緩してしまう。まったくもって緊張感が皆無だった。
「あうあう・・・マスター。油断は禁物なのでは」
物々しい銃火器が言葉を発する。緊張感の欠片も無い主人の姿に胸騒ぎを覚えての事だった。シエルは、そんな心配性の第七聖典(ななこ)をパシンと叩くと
「セブン!このわたしにいっぱしの口を叩くものではないですよ。まぁ今回だけは許してあげましょう。今夜のわたしはとても機嫌がいいのですから」
最初はきつめの口調から、後半は弾んだ口調へと言葉が話してる最中でさえも変化していっている。よほど有頂天になっているのだろう。ななこはそれでも、でもぉ・・・とか言いかけたが、そんな彼女の言葉は
「着きましたね。この離れに遠野くんのにおいがしますわ・・・・・・ふむぅ・・・ここね」
目的地に到着して早速探索を始めたシエルには、もはや届かなかった。
しかし簡単に地下への隠れ入り口を見つけてしまう辺り、浮かれているように見えても、流石に埋葬機関七位の実力だ。ななこもその姿を見て安心したのか、沈黙の銃火器に戻った。
そんな第七聖典を左手で抱えつつ、法衣姿の淑女は軽やかに地下室へと続く階段を降りていった。
階段を降りきると、湿り気が有りどこかかび臭い廊下みたいな所に出る。前方に灯りが見えるので、そのまま歩いて行く。そして蝋燭の灯りに照らされた広さ二十帖程のスペースに辿り着いた。すると今度は、どこかむっとする生々しい異臭が立ち込めていて、シエルは思わず顔をしかめた。その異臭がどんなものかは彼女には直ぐにわかる。次第に彼女の表情が強張ってきた。思わず彼の名を叫んだ。
「遠野くん、どこにいるんですか?助けに来ましたよ!!」
叫びながらもきょろきょろと辺りを見回す。蝋燭の灯りは乏しく、室内全体は見えづらい為、シエルは第七聖典を床に置き、慎重に気配を探りながら室内中を歩き回ろうとしたが、不意に彼女に微かな声が届いた
「待ってたよ・・・」
か細い声。それは間違いなく志貴の声だ。しかしその調子は聞くだけで、衰弱が酷いのがわかる。
「遠野くん」
シエルは声のした方にむけて呼びかける。すると先程は何も感じられなかった場所に、まるで突然現れたかの様に床に半裸で蹲る志貴の姿を発見した。シエルは思わず駆け寄った。
「琥珀さん・・・今日はちゃんとしますから・・・ボク頑張ります・・・だからだから・・・」
「遠野くん、遠野くん・・・もうそんな事を言わなくてもいいんですよ・・・もう・・・そんな事言わなくても・・・」
「・・・そうなの・・・」
シエルは怯えた声で呟く志貴を強く抱きしめて、涙ぐみながら彼を制した。
「あなたはもう自由なんです。もうこんな暗い地下に閉じ込められなくてもいいんです。日のあたる世界で・・・自由で開放的な空気を身体一杯に深呼吸して・・・ぐすっ」
「日のあたる世界・・・」
シエルは以前にも志貴に抱きしめられた事がある。その時の彼はとても逞しかった。再び今度はシエルが志貴を抱きしめたというのに、何故に彼はこんなにもか弱いのだろう。まるでこれ以上強く抱きしめたらポキっと折れてしまいそうなくらいに。やがて志貴は物も言わなくなり、自分を泣きながら抱きしめるシエルを不思議そうな表情で見つめていた。
「・・・・・・」
ふつふつと怒りが身体に満ち溢れてくる。その身を焦がすような、どす黒い怒りがシエルの涙さえも乾かしてしまった。もはや数分前までの笑みが完全に消え去った。今のシエルにあるのは、ただ憎悪と殺意のみであった。埋葬機関七位の研ぎすまされた感覚が、彼女の背後にある忌々しい存在を確認していた。
「それ以上わたし達に近づかないでください・・・」
「不法侵入者のお言葉とは思えませんね」
「これ以上わたしを怒らせない方がいいですよ・・・いえ・・・もう手遅れですね・・・貴方という存在をこれから灰にしてあげます・・・もう二度と遠野くんに近づけないように」
「あはーそれは怖いですねー」
シエルはそのお気楽な声を背に聞いて、身体をガタガタと震わせた。それでもあえて冷静さを取り戻そうと努力する。目標をこれ以上も無く完璧に消滅させる為には冷静さが必要だから。それに刑を執行する前に色々と聞いておきたいこともある。だから、そう思えば瞬時に背後の忌まわしい存在をずたずたに切り裂く事が出来るのに、それをぐっと堪えた。
「どうして志貴さんがここにいる事に気がついたのですか」
先に質問してきたのは向こうだった。シエルはそれもまた耐えた。そして静かな口調で端的に回答を返す。
「ちょうど夕食の準備をしていたわたしの所に、遠野くんの使い魔の黒猫が来たんですよ」
「・・・・・・レンちゃんには後でお灸をすえないといけませんね」
クスクスと含み笑いが聞こえてくる。その嫌らしい笑い声を聞いて、シエルの忍耐は瞬時に消し飛んだ。
「貴方を処刑します!!」
抱きしめていた志貴を離して、シエルは振り返りながらそう叫んで琥珀を睨みつけた。そして黒鍵をふるおうとしたが・・・・・・
ちくっ
「なっ!?」
シエルはその鈍い痛みを左の二の腕に感じ、そして信じられない顔で足元を凝視した。
「ボクの琥珀さんに何をするつもりだ・・・」
「遠野くん・・・・・・ぐっ・・・・・・がはっ・・・・・・」
唖然とするシエル。志貴が蒼い液体の入った注射器を握り締め、逝ってしまった表情で彼女を見上げていたのだった。信じられない、今わたしの二の腕に注射をしたのは彼なのか?・・・どうして?・・・何故??
そのまま身体が痺れてくるのをシエルはどうしょうもなかった。悔しさに顔を歪めながら、そのまま崩れ落ちた。それでも必死に一言だけ叫んだ
「セブン!!」
床に置いてあった銃火器が振動する。すると琥珀は、その銃火器を乾いた目で見つめた。その目を見て、ななこはぶるぶると震えた。このヒトはまともではない、すっかり色ボケしていたマスターが最初から敵う相手ではなかったんだ。このままだと自分もどんなめに遭わされるやら。
「・・・・・・お帰りなさい・・・・・・」
琥珀のその声は不思議と優しいものだった。ななこはそれを聞いて、ぱっとユニコーンの姿に変化すると、地下室の出口から脱兎の如く逃げていった。
薄れ行く意識の中、シエルはななこの逃走を眺めていた。こうなったらせめて救援を呼んで欲しい・・・それだけが彼女のせめてもの願いだった。そのまま意識を徐々に失っていく。
「琥珀さん・・・ボクやったよ・・・埋葬機関七位のシエルをやっつけたんだ・・・」
「おりこうさんね、今日の志貴さんは・・・それじゃあ今日は特別に攻めさせてあげましょうか・・・」
「うん・・・でもやっぱり最初は琥珀さんから・・・」
「あらあら・・・もう、しょうがないヒトですねー」
「・・・・・・遠野くん」
シエルは二人の会話を聞きながら深い眠りへと落ちていった。
いっぽう地上へ出て、遠野屋敷からぐんぐん遠ざかって行くななこは、駆けながらも大声で叫んでいた。彼女の行き先は、以前に少しだけやっかいになった乾の家だった。
「有彦さーん、ななこは・・・ななこは・・・自由になりましたぁ〜!!」
シエルさんは、静かに気を失った。わたしの薬を志貴さんに注射されたというのに、さほど苦しむことなく意識を失うなんて、よほどこういうのに耐性があるヒトみたいですね。これはいいサンプルになるかもしれません。殺さずに大切に保存するとしましょう。
「あっ・・・」
あらあら志貴さん。まだこれからなのに気絶してしまいました。せっかくわたしも気持ちが盛り上がってきたのに、しょうがないですね。まぁ〜数日何も与えてませんでしたから、消耗しきっていたのでしょう。これはあと一押しで死んじゃうかもしれませんね。それではつまりません。感応能力を使えばすむでしょうけど、その前に刺激を与えた時点で心臓が止まりそうな感じです。これは取り合えず、おかゆを差し上げましょうか。
わたしは先ず用意した白湯を口に含み、そのまま志貴さんに口付けして、舌で志貴さんの口内に優しく流しこんであげました。それをゆっくり繰り返した後、今度はおかゆを口に含み、またゆっくりと口移しで流し込む。なんかこういうのも興奮します。
以前、死にかけていた槙久さまにやってあげたのを思い出しました。さんざんわたしを弄んでくれた癖に、すっかりと耄碌しちゃって、わたしと翡翠ちゃんの母の名前を呼んで涙ぐむんですもんね。少し哀れにも思ったんだけど。
ふと槙久さまが目覚めて、わたしの顔を見るや。目をぎゅっと閉じ首を振って、「助けてくれー・・・」と呟くんですもの。流石のわたしも腹がたってしまいました。助けてくれは、わたしの台詞じゃないですか。わたしがいたいけな幼女の時から部屋に監禁して、陵辱の限りを尽くしていたくせに。
よほど腹にすえかねたわたしは、その後待望の四季さまとの親子の対面をさせてあげました。槙久さまもやっと楽になれて幸せそうに逝ったのを今でも覚えてる。四季さまのほうも父親殺しで完全にいっちゃって、それからはわたしじゃ満足しきれなくなって、夜な夜な近くの学校に巣くうようになった。そして何をしてたのかはわからない。
それから秋葉さまが、志貴さんを呼び戻すと言い出して、わたしと翡翠ちゃん以外の使用人や親戚達をみんな屋敷から追い出して・・・これもわたしの前からの望みだったんだけど。それから志貴さんがアルクェイドさんやシエルさんと吸血鬼狩りを始めて、学校で暴れてた四季さまを退治してしまった。なんかつまらないなと思ったんだけど、それから志貴さんが苦しみだして部屋に閉じこもり、心配して食事を運んであげたわたしを乱暴に犯してくれましたわね。あんなに乱暴にされたのは・・・とても久しぶりだった。
「志貴さん・・・あの時の事をまだわたしに謝ってませんでしたよね」
静かに眠っている志貴さんの顔を軽く蹴飛ばしながらわたしは尋ねた。しかし志貴さんはなんの反応も示さない。これは今日は使い物にならないか・・・わたしは小さく溜息をついて。志貴さんをそのまま床に寝かせて、隣で気絶してるシエルさんを見下ろした。取り合えず、地下室から出さないと。わたしはパチンと指を鳴らす。
弓塚がやってきた。相変わらず死人そのものの薄気味悪い灰色の顔色のままで。目だけが赤くギラギラしてるのが妙に浮き上がっていて不自然だけど。まぁこれも定期的に血をあげているから元気な証拠なのでしょう。わたしひとりの力では、ヒト一人運ぶのは手に余るけど、彼女はひょいとシエルさんを抱え上げて階段を登っていく。便利な事このうえない。やくにたつ死徒だわ。離れの押し入れにでも投げ込ませておきましょう。
さて・・・志貴さんは変わらず眠ったままだし、もう直ぐ夜も明ける頃だ。秋葉さまや翡翠ちゃんに朝御飯を作ってあげないといけないから屋敷に戻るとしましょう。外に出ると少し明くるなっていた。空は分厚い灰色の雲が立ち込めていたけど、風はややおとなしくなっていた。雨もまだ降ってこない。
「琥珀さん・・・ボクやったよ・・・埋葬機関七位のシエルをやっつけたんだ・・・」
「おりこうさんね、今日の志貴さんは・・・それじゃあ今日は特別に攻めさせてあげましょうか・・・」
「うん・・・でもやっぱり最初は琥珀さんから・・・」
「あらあら・・・もう、しょうがないヒトですねー」
「あああー今日の琥珀さんはとても優しいんだね・・・うっ」
「いつも優しいんですよ、わたしは。志貴さんが聞き分けをよくしてくれたら優しくしてあげるんです」
「もっと強く・・・」
「ダメです・・・少しじらしてあげましょう」
「そんな・・・お願いだから・・・あうっ」
「わたしに命令するのはこれくらいにしておきなさい。じゃないともっと殴りますよ」
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
「ふふふ・・・そんな風に謝っていながらもこんなに固くしちゃって・・・しょうがないわねー」
「あああ・・・琥珀ぅ!!」
「兄さん!!」
秋葉は大声をあげて身体を起こした。激しく息をしている。顎から汗が滴り落ちていた。思わず自らの身体を抱きしめて、息が落ち着くのを待った。やがて収まると正面を凝視する。さっきまでは、志貴が琥珀にいいように嬲られる姿を眺めるしかなかった。しかし今、目の前には志貴の姿は無い。ただ琥珀だけが心配そうに自分を見つめていた。
「・・・・・・」
だんだんと冷静になってくる。自分は今、自分の部屋のベットの上で部屋着姿のままで座り込んでいるのだ。なんて無様、恐らく取り乱していたのでしょう。それを琥珀に見られてしまった。兄さんがアルクェイドにさらわれて行方不明になって以来、すっかりと弱くなった自分を自覚している。毎晩嫌な夢ばかり見て、そして起きている間も心ここにあらずでぼっとしている。学校にも行っていない。遠野家としての当主の役目も今は勤め上げられる自信も無い。こうなるともはや目の前の琥珀に頼る以外に何も出来ない。
「落ち着いたのか・・・遠野」
「えっ??」
気持ちをなんとか整理しようとしている秋葉に声がかけられる。秋葉は驚いた。蒼香の声だ。続いて
「大丈夫ぅ・・・秋葉ちゃん」
羽居の声まで。秋葉はきょろきょろと部屋を見渡した。
「今日はですね、秋葉さまのお友達の、月姫さんと三澤さんがおみえなんですよ。でも秋葉さまがなかなかお目覚めになりませんから」
琥珀がそんな秋葉に言葉をかけた。彼女の後ろで、蒼香と羽居が心配そうに秋葉の事を見つめていた。
「あたしが無理に、琥珀さんに頼んでお前さんの部屋に案内してもらったんだ。驚かせてすまなかったな。こいつがさ、どうしてもお前さんに会いたいと言うもんだから」
「秋葉ちゃぁ〜ん」
蒼香が琥珀の言に続いて、訪問の理由を簡潔に説明する。隣で羽居は今にも泣きそうな顔で秋葉の名前を呼んだ。
「あなたたち・・・」
秋葉はいきなり部屋で寝ているところを入られたにも関わらず、表情を崩しそして涙を零す。そんな秋葉の姿を見て、思わず羽居が抱きついた。そして二人でしくしくと泣き始めた。
「わたしはいったん席を外しますね」
琥珀が、抱き合い泣き続ける秋葉と羽居を見つめる蒼香に声をかけた。
「すまないな」
蒼香は琥珀に軽く会釈して、自らも顔を歪めながらも感謝の意を示した。琥珀はニコっと微笑んで、彼女等を部屋に残し一人で退室していった。
琥珀が退室してしばらくしてから、不意に蒼香は、秋葉と泣き続ける羽居に声をかけた。
「羽居、もう充分だろ。そろそろここに来た本当の理由を遠野に話すべきじゃないか」
「そうね・・・」
その語りかけに、羽居は低い声で呟いて、そして秋葉から静かに離れた。瞳は涙で真っ赤に充血していたが、その表情は普段秋葉が見たことも無い、険しい物だった。
「羽居・・・」
驚いたように呟く秋葉。何か言いかけたが、蒼香がすっと右手を前に差し出してそれを制した。そして
「あまり時間も無いし、その内また琥珀が戻ってくるだろうから、一方的に説明させてもらうぜ」
「なっ・・・」
その蒼香の口調に驚く秋葉。しかし驚いている暇は無かった。険しい顔の羽居が静かに喋り始めたからだ。
「数日前に、秋葉ちゃんが寮に電話してきたよね。お兄さんが行方不明だって。どうしよう、見かけてないかって。そんなのわたしが知ってるはずないじゃない。そりゃ、晶ちゃんから噂は聞いた事はあるけど、まだわたしは、お兄さんには会った事も、それこそ写真を見せてもらった事すらないのにって答えたんだけど。それだけ秋葉ちゃんが動揺してるんだと、瞬時に理解したわ。それでこちらから話を聞いてみたら、アルクなんとかさんという吸血鬼にお兄さんをさらわれたと琥珀さんに聞かされて、それ以来一睡もせずに街中を探し回っているって、でもどうにも見つからない。そのアルクなんとかさんのマンションにも行ったんだけど、もぬけの殻で・・・電話の向こうで号泣してたね、秋葉ちゃん」
「羽居・・・」
「なんか気になったから、そのアルクなんとかさんの容貌も尋ねたよね。そしたらさ、金髪の怖いくらいの美人で、着ている服は白のタートルネックのセーターに、紫色のロングスカート。でさ・・・それから数日後、つまり昨日の夜ね。わたしさ、そのアルクなんとかさんに会ったんだよ」
「ええ??」
「実は、そのアルクさんに襲わそうになったの・・・なんか発情してて怖かったから、気絶させて・・・」
「なんですって!!」
秋葉が大声で叫ぶ。しかし羽居は少しも驚いた表情を見せず、落ち着いたまま頷き。そして一枚の写真を秋葉に差し出した。興奮した秋葉はそれをひったくるように取り、それを凝視してそのまま固まった。
その写真に写っていたのは、アルクェイド・ブリュンスタッドがベッドでやつれた表情で寝てる姿だった。
「苦しそうに発情してたの・・・あまりに可哀相だから、このヒトの病魔を探し出して、その点を殺しておいたわ。そしたらやっと穏やかになって、それで寮のベッドに運び込んだの。蒼ちゃんに手伝ってもらってね」
「病魔を探し出して、その点を殺すだと・・・それを聞いた時は、あたしもびっくりしちまったよ。羽居にそんな一面があっただなんてな。まぁそういう異常な能力どうこうは、既にお前さんで慣れっこにはなっていたけどよ・・・くくく」
「蒼ちゃん、説明するのはわたしだから、変な横槍をいれないで」
「悪ぃ・・・」
口を挟んだ蒼香を、羽居がめっと睨みつける。蒼香は肩をすくめて、羽居に謝る仕草をした。秋葉は写真をじっと凝視している。
「その人が秋葉ちゃんの言ってた、アルクさんなんでしょ。こんな小さな街にこういう特徴を持った外人さんはそうはいないでしょうから。でね・・・そのアルクさんだけど、大人しくなったけどさ、今度はベッドで寝ながらうわ言の様にぶつぶつ呟いていていたの。志貴・・・志貴・・・って。秋葉ちゃんのお兄さんの名前だよね。それでわたしが志貴さんがどうしたの?って聞いたら」
会いたいよぉ・・・志貴・・・苦しいよぉ・・・
「何よそれぇ!!」
「わぁ〜」
秋葉がそこまで聞いて突然大声をあげ、今度ばかりは羽居も驚いて声を上げた。そしてその時、部屋のドアの向こうからガチャンという何かが割れる音が蒼香の耳に届いた。
「しまった・・・」
蒼香が慌てて、ドアを開けた。そこにはお盆が床に落ち、そしてジュースが入っていたらしいグラスが三個割れて転がっていて、こぼれたジュースが床を汚していた。そして蒼香の目には廊下の向こうに、駆け去っていくメイド服姿の少女の背中が見えた。
「あの後姿は、琥珀ではないな・・・」
どこかほっとしたような表情で呟く蒼香。一方羽居は、そんな部屋の外の物音にはまったく意識を向けず、ただ羽居の胸倉を掴んで興奮する秋葉を必死になだめていた。そして
「確か琥珀さんが、秋葉ちゃんに、お兄さんをさらったのはアルクさんだと言ってたんでしょ。そのアルクさんは、お兄さんに会いたいと苦しみながら呟いていた。だいたいあの様子では、お兄さんをさらってどうこういう風に全然見えないわね。だとすれば、お兄さんをアルクさんがさらったというのは嘘だという事に・・・そう思って、その事を秋葉ちゃんに伝えたくって、先ず第一に、わたしが助けた金髪の女の人がアルクさんだというのを確認する為に、写真を撮ってここに来たと言う訳なの」
「琥珀ぅ!!」
秋葉はそこまで羽居の説明を聞いた所でまたも大声をあげて飛び出そうとした。しかしその正面に羽居が立ちはだかった。
「どきなさい、羽居!!」
「ダメだよ、秋葉ちゃん」
羽居は秋葉を嗜めてそのまま抱きとめた。秋葉は必死に抵抗しようとしたが、何故か羽居を振り解けない。そしていつのまにか身体から力が抜けてくる。秋葉の意識が朦朧としてきた、羽居はそんな彼女の変化を確かめるように目を閉じ、静かな口調で優しく呟く。
「秋葉ちゃん・・・お兄さんの事はわたしに任せて・・・」
秋葉の瞳から涙が一滴こぼれた。そのまま羽居の胸に顔を埋めてもたれかかった。そんな二人の姿を蒼香は黙って見つめていたが、ぽつりと呟いた。
「遠野をここまで消耗させてしまうなんてな・・・兄さんというのは、遠野にとって本当にかけがえの無い存在なんだろうな」
羽居は、再び自分の胸で眠りに落ちた秋葉を抱きしめながら、蒼香の呟きに頷き、呟いた。
「琥珀さんという人がそのお兄さんを拉致して、秋葉ちゃんをここまで苦しめたんだね・・・」
その口調が低く微かに振るえているのを蒼香は感じだ。蒼香はそんな羽居にむかって
「恐らくそうだろうな・・・でっ、羽居。今遠野にわたしに任せてとか言ってたな。一応言っておくが、遠野というのは特別な能力をもった大変な女だ。そのこいつをここまで消耗させた琥珀とかいう女は間違いなく只者ではないぞ。それはアルクェイドってやつをあんなにした事でも明かだ。それでも行くというのか?悪いがあたしはごめんだぜ」
羽居はそんな蒼香に微笑みかけて
「もちろんだよ。蒼ちゃんも行かない方がいいと思うな。だから言ったでしょ、わたしに任せてって。この件はわたし一人でなんとかするから、蒼ちゃんはここで秋葉ちゃんを看病していてね。後でお兄さんを連れてくるから、それまで二人で待ってて欲しい」
羽居はそう喋りながら、秋葉を抱きかかえてベッドに再び寝かせた。そして寮から持ってきていた大き目の巾着袋を掴むと
「わたしには、この七つ道具があるから心配ないのだぁー。では、行ってくるね」
わざとお気楽な口調で、軽い足取りとともに、部屋を出て行った。ドアが閉められると、黙って羽居を見上げていた蒼香は、くすっと笑みを浮かべて、すやすやとベッドで眠る秋葉に向って語りかけた。
「不思議なもんだな、遠野。あの羽居がとても頼もしく見えるよ。恐らく言葉通りに、お前さんの大切な兄さんをここに連れてきてくれるんだろうな。それまで二人で待っていような」
羽居が酷く怒っていたのを蒼香は彼女の軽い口調からも感じていた。そして、アルクェイドを病んでいたとはいえ大人しくさせた彼女の能力のただならぬ物にも気づいていた。蒼香にしても怒りは覚えていた。ただだからとって短慮に自分が出て行っても何も出来ないだろうとも冷静に見極めていた。今自分がしなければならない事は、羽居の言葉を信じて、ここで秋葉を見守りながらじっと待つ事だと。
秋葉の寝顔は穏やかな物だった。蒼香はその寝顔を見て、優しく語りかけた。
「今度はいい夢をみろよな、遠野・・・」
秋葉さまとそのお友達にジュースを持っていってと頼んだ翡翠ちゃんが、ドタドタと階段を降りてきて厨房にいたわたしの所に駆けて来た。その音の勢いが尋常な物に聞えなかったから、わたしはすっと厨房の隣にある勝手口の方へ出て、そこから食堂より厨房に入ってくる翡翠ちゃんの表情を見てみようと思った。
「姉さん!!姉さん!!」
凄い剣幕だ。普段大人しそうにしてるのに、その様子は微塵も無い。かなり怒っているみたい。しかもその矛先はわたしみたいだ。悲しいな、可愛い翡翠ちゃんにあんな風に怒りを向けられる覚えはないんだけど。それこそ、志貴さんの監禁がばれた訳じゃあるまいし。
まさか・・・
翡翠ちゃんはかなり動揺しているのか、ただわたしの名前を叫びながら厨房内をうろうろと徘徊していたけど、ふと何かを思いついたのか食堂へ駆け出していった。さてとどこに行くのかしらね。わたしは翡翠ちゃんの後を追ってみる事にした。そんな事をしたらそれこそ見つけられるかもしれないけど、それならそれで興奮している理由を尋ねてみればいい事だし。とにかくあんな翡翠ちゃんを見たら、姉としてほっておけないもんね。
翡翠ちゃんは屋敷から外に出て、中庭を越えて、一目散に離れへ向っているようだった。ふむぅ・・・どういう事だろう。翡翠ちゃんが離れに行く理由はない筈だというのに。以前、一度だけ翡翠ちゃんがわたしの様子がおかしいと思ったらしくて、わたしの後をつけて来て離れに辿り着き、そこでわたしが秋葉さまに餌付けしている姿を見てショックを受けた事がある。一心不乱にわたしの胸にかぶりつき、血を吸っている秋葉さまを見て、呆然と立ち尽くしていた。朦朧状態の秋葉さまは気がつかなかったようだけど、わたしは気がついて、そんな翡翠ちゃんに、にこりと笑って見せた。すると翡翠ちゃんはその場で崩れ落ちるように気絶したのよね。
それから、翡翠ちゃんは離れの居間で寝かせていると目を覚ました。そして私の事を怖いものを見るみたいに見つめて震えていた。秋葉さまはふらふらと屋敷に帰っていったから、そこでわたしは翡翠ちゃんにわたしが何を考えてこういうことをしてるのかを教えてやった。翡翠ちゃんは信じられない風でわたしの話しを聞いていたけど、やがて
「姉さん・・・復讐だなんて・・・そんな・・・嘘ですよね・・・」
なんて可愛らしい事を言うもんだから。あの時よせばいいのに、わたしは地下室へ案内する事にした。離れの寝室の襖から入って、ゆっくりとなだらかな階段を降りていく。そして降りきって、狭い廊下のような所を歩いていくと、やがて広い場所にたどり着く。そこには鉄格子で囲まれた牢があって、かつては四季さまを槙久さまの命で監禁していた。面白い事に、この地下牢の丁度真上が屋敷の槙久さまの部屋にあたっているのよね。
こんな凝った地下牢を作ったのは、槙久さまなりの四季さまへの歪んだ愛情の裏返しなのかもしれない。翡翠ちゃんを連れてきた時は、四季さまは牢で眠りこけていた。前の晩に狩りをしてて疲れていたから。しかしその口元には赤黒く乾いた被害者の血がこびり付いていて。その指先も赤黒く変色していた。翡翠ちゃんはボロボロ泣いて、ここにいたくないと喚いた。そして再び気を失ったのよね。
それから二度と翡翠ちゃんは、離れに近づこうともしなかったのに。それが今、その彼女にとって恐怖の離れへと駆けている。理由は・・・一つしかない。
わたしがそこにいると思ったから
そして地下牢に志貴さんがいると思ったから
どうして気がついたのかしら。不思議ね。でもいいか・・・志貴さんも翡翠ちゃんに会えたら喜ぶでしょうし。そう、あの監禁する前に、翡翠ちゃんとしていたもんね。こっそりと覗かせてもらったけど、とても激しくて思わずわたしも見てるだけで興奮しちゃった。その後、秋葉さまも乱入したけど、それでも志貴さんは翡翠ちゃんの方をより求めていたもんね。あれを見てて、よほど志貴さんと翡翠ちゃんは相性がいいんだろうなとちょっと羨ましくなったくらいだから。
でもそんな翡翠ちゃんがいながら、志貴さんはわたしにモーションをかけてきた。だからこれはもう調教しないといけないわねと思って監禁することにした。七夜一族の血の覚醒が進んだのか、殺戮の衝動と女性を際限なく犯す欲望に目覚めていたみたいだし。だけど、どうもわたしの手に余る。遠野親子とは基本的に何かが違うみたいだから。そのあたりを今度、時南先生に尋ねてみようと思っていたんだけど、翡翠ちゃんと再会することで、志貴さんになにか変化があるかもしれない。
翡翠ちゃんはやはり、離れの寝室の襖から真っ直ぐに、地下室へ向っていった。わたしはふと思い出して、居間に投げてあった槙久さまのワイシャツを羽織って、そしてゆっくりと地下室への階段を降りて行った。
翡翠は憮然とした表情で地下室への階段を降りていった。そして地下室に辿り着くと、ぎゅっと口を閉じたまま辺りを見回した。そして直ぐに開けはなれた牢の隅で呆けている志貴を見つけ出す。翡翠はその姿をみて駆け寄った。
「志貴さま・・・大丈夫ですか?翡翠です」
翡翠はそう呼びかけながら志貴に近づき、そして彼に抱きついた。
「翡翠・・・ああ・・・翡翠か・・・」
志貴のか細い呟きがもれる。
「そうです翡翠です・・・お探ししました。遅くなりまして申し訳・・・」
そこまで翡翠は語りかけたが、そこで志貴の信じられない言葉に声を詰まらせた。
「今日は翡翠の姿でボクを気持ちよくしてくれるんだね・・・琥珀さん・・・」
翡翠の身体がわなわなと震える。志貴はそんな彼女に不思議そうな表情を浮かべて
「始めないの・・・琥珀さん・・・」
そう物欲しそうに問いかけた。もはや翡翠には我慢の限界だった。そして思わず叫んだ。
「姉さん・・・わたしはあなたを許しません!!」
「何を許さないって・・・」
その声に翡翠はびくっと身体を震るわせた。志貴を抱きしめる自分の後方から声は聞えてきた。その声の主が誰なのかもわかる。そしてその口調が普段自分に向けられる優しいものとはかけ離れたとても冷たい物だと言う事にも気がついていた。
「志貴さまをこんなにした罪はけっして許されないのです。わたしは例え姉さんであっても、志貴さま付きのメイドとして、あなたを断罪します」
翡翠は怯まず声を荒げた。そして振り返り、正面に立つ琥珀を激しい憎悪の視線で睨みつけた。
「・・・・・・いい気なものね、このわたしにそういう目付きをする資格があなたにあると思っているの?」
琥珀の顔もようやく強張ってきた。そして翡翠を乾いた目で見つめる。その瞳はどこか空ろで、何も写し出していなかった。どこか異質の気味が悪い瞳だ。それでも翡翠はさらに琥珀に言葉を投げつけた。
「槙久さまを気取っているのですか・・・そういう姿をすれば、わたしが怯むとでも。姉さん、確かにわたしはあなたの境遇に対して、自らの大きな責任を感じています。それは一生かけても、あなたに償わなければならないものだとも知っています。でもそれと今回志貴さまをこんなにした事とは関係ありません。志貴さまにはなんの罪もないじゃないですか。それをそれを・・・」
そういう姿・・・・・・琥珀の姿は、彼女にとっては大きなサイズの白いワイシャツを羽織っていた。ワイシャツの胸元には、M.T.の文字が刺繍されている。翡翠にも記憶がある、このワイシャツはかつての主、遠野槙久の物だ。それをぶかぶかのまま着込んで、髪もリボンを解き、だらりと流している様は、わざと翡翠に向って自らに槙久が取り付いているのだと見せ付けているように見えた。そんな姉の陰険な態度が益々翡翠を苛立たせた。
「わたしが憎いのなら、わたしにそれをぶつければよろしいじゃないですか。それを志貴さまを嬲って・・・あっ」
そこまで感情のままに言葉を吐き出していた翡翠に、琥珀は音も無く近寄り、そして彼女の髪を掴んでそのまま乱暴に押し倒した。翡翠は不意をつかれて、そのまま琥珀に取り押さえられる。
「翡翠ちゃん、勘違いしないで欲しいなぁ。わたしは別にあなたに復讐しようだなんてこれっぽっちも思ってないのよ。今でもそういう風にわたしを罵倒しようとも、それでもあなたを愛しているわ。志貴さんは・・・ただ単に、わたしがそうしたいからそうしてるだけよ。槙久さまは関係ないわ・・・・・・う〜ん、そうね、でもやっぱり志貴さんを、あるいはかつて四季さまを飼ったのは、幼い頃から槙久さまにしつけられた名残なのかもしれませんね。つまりそういう事をしてしまうのは、槙久さまに完璧に調教され済みのわたしだから、こうやって歪んだ形でしか性欲を発散できない女になってしまった。でもさ、それは翡翠ちゃんを守る為に仕方なくそうなっちゃったんじゃない」
「ね・・・姉さん・・・」
琥珀に顔を床に押し付けられながら、その耳元で彼女の呪いともいえる言葉を聞かされる翡翠は、抵抗する事も出来ずに、ただ名前を呟く事しか出来なかった。
「黒猫のレンちゃんが淫靡な夢をみせてくれるという不思議な能力を持っている事は、志貴さんがあの子を紹介してくれた後、どういう訳か直ぐに気がついたわ。だからね、レンちゃんを捕まえて、志貴さんにいやらしい夢を見せるように仕向けてみたのよ。丁度四人で朝食を取ろうと決めた朝の前の晩にね。そして秋葉さまには、その朝にそれとなく志貴さんがいやらしい夢を見て寝過ごしている、今頃もたもたと起き出して翡翠ちゃんにベタベタしてるでしょうねと吹き込んでみたわ。そしたら案の定、秋葉さまは苛立って志貴さんを激しく怒鳴った。それをこれも想像通りに翡翠ちゃんが助け舟をだして。後は志貴さんが翡翠ちゃんにレンちゃんを使って淫靡な夢をみるように仕向けて・・・続いて秋葉さまも。これで志貴さんは完全に堕落しきって、わたしにふらふらとモーションをかけてきたの。そしてレンちゃんをこのわたしに仕向けてきた。あはは・・・おかしいわね。そもそもわたしがレンちゃんを利用して、志貴さんを弄んでいたのも知らないで。だからレンちゃんをこの時は捕まえて志貴さんの元に帰れなくした後、代わりにわたしが志貴さんの部屋に訪ねていったのよ。そしたらまぁ、いやらしい顔で寝てるのよ。まるでわたしを弄ぶ時の槙久さまそっくりな顔で。面白いものね、遠野槙久と七夜志貴は赤の他人だというのに、まるで血がつながっているかのような同じ気持ち悪い顔。結局男というものは、女にやましい真似を企む時は、似たような下品極まりない表情を浮かべるものなんですねー」
翡翠にもはや声はなかった。彼女は目を閉じて何も聞きたくないようにしていた。そんな彼女の態度を感じて、急に琥珀が声を荒げる。
「何自分の殻に逃げ込んでいるのよ、翡翠ちゃん。そうやってまた自分の度量を超えた事態に直面したら、それをなんとかしようとは考えずに、自己の世界に逃避して辛い現実から目をそらそうとするのね。いいわねー、そうやって悲劇の少女を演じていれば・・・演じられれば、さぞかし楽な人生でしょうよ。わたしはそういう甘えた態度は許されなかったわ。始めは人形になろうとした、そうすれば槙久さまの陵辱に耐えられると思ったから。確かに楽にはなれたわ。やがて今度は四季さまのお守りまで命ぜられた。そして秋葉さまに解放してもらったんだけど、そこで翡翠ちゃんを改めて見てみたら、自分勝手に物寂しげな悲劇のヒロインを演じているじゃない。潔癖症を演じて・・・しかもやむなく人形になっていたわたしを下手糞に真似て・・・上手く出来もしないくせに」
「ちっ違う・・・わたしは・・・」
「何が違うのよ。わたしの策で先ず四季さまが槙久さまを滅した。それから今度は四季さまが自滅するように、志貴さんを利用するシナリオを遂行するわたしの姿をずっと側で見ていたくせに、何も言わないでなすがままにしてたじゃない。少しはなんか行動を起こすかと計算していたのに、まったく傍観者のままで、相変わらず悲劇のヒロインを演じ続けていたわね。流石にそんな翡翠ちゃんの他人事みたいな態度には、ちょっとむかついたわ。そして今も都合が悪くなると、無抵抗になって、じっと嵐が過ぎ去るのを待とうとする態度に出るのね」
「・・・・・・」
翡翠は泣き始めた。すると琥珀は諦めたような顔をして、翡翠から離れた。そして冷めた目で、泣き続ける妹を見下ろし、やがてひとつ溜息をついたが
「相変わらずの悲劇のヒロインを演じ続けて、自分に酔いしれているのはあなたじゃない」
突然、聞いたことも無い声が自分を断罪するのに、琥珀は驚いて聞こえてきた方向を凝視した。するとそこには、琥珀を哀れみの目で見つめている三澤羽居の姿があった。
「なっ・・・なによあなた・・・」
琥珀はどこかそわそわ落ち着かない様子で、予定外の侵入者を詰問した。ここまで全て彼女のシナリオ通りに事は運んでいた・・・と思っていた。しかし客観的に見れば琥珀の身の回りで起きた事が、なにもかも彼女の当初思い描いた通りに運んだ訳ではなかった。それでもまだ充分に彼女の許容範囲内での出来事だったので、後付けでこれもわたしのシナリオの内よと都合よく解釈して来たに過ぎない。
一事が万事そうだった。琥珀は、まるで全ての事象が自分の思惑通りだったと自他共に吹聴していたが、そうではなく極めて狭い人間関係内で起こった事を、勝手に自分のシナリオだと思い込んでいただけの事だ。今回の事にしてもそう。レンが琥珀に最初に淫靡な夢を見せたのは、ただ単にレンが遠野屋敷内で一番病んでるっぽい彼女に仕掛けただけの事だ。そして志貴がレンを使って翡翠と秋葉にモーションをかけたのは彼女のシナリオではない。それをこれすらも自分のシナリオなんだと勝手に妄想し、それを真実だと信じ込んでいたのだった。
しかし、今彼女にとって、許容範囲外の事態が発生した。翡翠を沈めた後は、今度は秋葉あたりが現れるのだろうと琥珀は予想していた。しかし現れた羽居は、彼女にとっては秋葉の学校の友達に過ぎない・・・つまり“他人”だった。ここまで全ての事象を自己内で都合よく消化して精神の安定を計りつづけた彼女にとって、これはパニックすら起こしかねない事態だったのだ。
その恐るべき“他人”が、冷たい目をして琥珀に近づいてくる。琥珀の顔に汗が大量に噴出してきた。腰が自然に引ける。それでも琥珀は、必死に冷静さを保とうと努力し、“他人”を激しく詰問した。
「近づかないでよ。何の資格があってこんな所に来てるのよあなたは!!」
その勢いに、“他人”は足を止める。そして冷徹な口調で喋り始めた。
「わたしが、秋葉ちゃんの友達だから。秋葉ちゃんの代理として来ました。これでいいかしら・・・」
「代理・・・」
琥珀は、羽居の言葉を反芻した。それしか出来なかった。そんな琥珀の姿を羽居はじっと見つめる。まるで相手のことを隅から隅までスキャンするかのような視線だった。琥珀はその視線に耐えられない。身体をぶるぶると震わせるだけでなく、やがて目には涙が浮かんできた。羽居はそんな彼女を見て、ひとつ溜息をして問いかける。
「ねぇーそんなにこのわたしが怖いの。まだ何もしてないじゃない。さっきまでの強気の態度からは信じられない程のうろたえぶりね」
「うっ・・・うるさいわね」
なんとか琥珀は震える声でそれだけ吐き出した。
「さっきから翡翠さんに、シナリオがどうとか自慢気に語っていたわね。つまり、このわたしはあなたのシナリオ外の存在という訳ね。だからそんなに恐慌状態に落ちいっているのかしら。なんか幼い頃から監禁され虐待を受けてきたみたいね。で、それを今秋葉ちゃんのお兄さんにやりかえしているんでしょ」
羽居の声には緊張感がなかった。しかしその仕草には僅かばかりの隙も見られなかった。琥珀は、羽居に言われれば言われるだけ、ますます泣き顔になり、まさにいじめられっ子の如くべそをかき始めた。
「・・・・・・なんでそれを」
「さっきからずっとあなたの姿を追っていたから。気づいていなかったのね。なんかぶつぶつと呟いていたじゃない。あのねー、そういった不幸な境遇だったのには同情するけどさ、だからってそれを今度は自らが、さらなる弱者に繰り返す態度は好きになれないなぁ。あなたわかっているんでしょ、自分が何をやっているのか。決して自らを止められないわけじゃない、今のそのワイシャツ姿の格好も、翡翠さんにプレッシャーを与える為にわざとそうしてる。そこまで冷静に計算高く行動しているあなたが、物事の善悪を判断できない筈無いのよ。頭がいいんだから、本来自分が何をするべきなのか、何をしなければならないのかをよく考えて、そんな風にか弱い妹とかを虐めてるんじゃなくって、もっと前向きに生きた方がいいんじゃない」
「うるさーい!!」
琥珀は泣き顔のまま羽居に怒鳴った。そして恨めしそうに呟く
「あっ・・・あなたに・・・何がわかるというのよ・・・あなたにわたしの何がわかるのよ・・・」
羽居は落ち着いた態度でその琥珀の言葉を黙って聞いていた。
「あなたは・・・ずっと監禁されて陵辱された事があるの・・・何年も何年も・・・それがどんなに辛い日々か・・・それから抜け出すのにどんなに苦労したか・・・それがどんなに大変な事か・・・」
「姉さん・・・」
それまで黙って成り行きを見つめていた翡翠が一声もらした。すると羽居は無言で首をふって、翡翠を見つめながら彼女を制した。
「やっと自由になれた。一生懸命考えてようやく自分のしたい事がしたい様に出来るようになった。そしたら・・・今度は何をしたらいいのかわからなくなったの。それまで必死に考えて、辛い境遇から抜け出す事ばかりを考えてそれだけを目標に生きてきたから、いざ自由になったら今度は何をすればいいのかわからなかったの。だから・・・だから・・・とりあえず楽しくも無いのに笑って遠野屋敷内で日々過ごしてみたわ、そうしたらいつのまにかこんな風になっていた・・・気がついたら、志貴さんが槙久さまみたな態度を取り始めたから、それならわたしがその役をやっていいじゃないって思いだして・・・・・・」
「それで・・・秋葉ちゃんのお兄さんを地下に監禁したと・・・・・・でっ、満足出来たの?」
羽居が不意に琥珀に問いかけた。
「・・・・・・」
琥珀はその問いかけを聞いて、黙り込んでしまった。やがて羽居に向って、荒んだ目で呟いた。
「大きなお世話よ・・・」
「ふぅ〜ん」
羽居はそんな琥珀を見つめる。琥珀は更に言葉を繰り返した。
「大きなお世話よ・・・大きなお世話よ・・・他人のあなたには大きなお世話よ」
琥珀の声がだんだん大きくなってきた。
「余計なお世話よ。あなたには関係ないことじゃない。遠野家の事に関してあなたは関係ないじゃない」
「そうね、関係はないわね。確かに・・・・・・そう、確かにわたしにとって、あなたの事なんて、可哀相な境遇なんて全然関係ないのよ。はぁーそもそもわたしにはどうだっていいんだわ」
逆切れした琥珀に、羽居は気だるい調子で答えた。そしてそれでも左手に持っていた巾着袋を胸元に掲げて、その口を綴じている紐を右手で解こうとしながら
「でもさ・・・秋葉ちゃんが泣くのは我慢できないの。だから、覚悟はいいわね」
羽居の声には明確な敵意が滲み出ていた。琥珀もそれを感じ取り身構える。その時だった
ドーン!!
突然地下室内が激しく揺れた。大きな地震が来たような・・・いや、大型ダンプカーが突っ込んできたような衝撃。
白い物が羽居と琥珀の前を横切った。羽居はその衝撃だけで後方に吹っ飛ばされた。
「アルクェイド!!」
志貴が叫んだ。先程から呆けていたが、衝撃で意識を取り戻したようだった。そんな彼の叫びは、琥珀の首を右手で掴んで彼女を壁にめりこませている、真祖の姫君に向けられていた。
「こんばんは、志貴・・・しばらくね・・・」
ちらっと真っ赤に染まった目で、アルクェイドは志貴を見つめた。彼女の右手の先では、琥珀がすでに意識を・・・命の火を途絶えさせられようとしていた。志貴はそんなアルクェイドの迫力に声も出ない。
「ちょっと待っててね、今この女を殺してあげるから。それから志貴にはゆっくりと話を聞かせてもらうわ。レンの事とかね・・・」
志貴は固まってしまった。そんな彼をアルクェイドは鼻で笑いながら、再び琥珀に視線を移し、忌々しげに罵倒した。
「よくも・・・このわたしに恥じをかかせてくれたわね。今から死をもってその罪を償いなさい」
そう言って、右手を琥珀の首から放すと、そのまま壁からずり落ちようとする彼女に向って大きく振りかぶった。そのまま、アルクェイドは琥珀の心臓を串刺しにしようとしたが
「姉さん・・・」
「えっ!?」
翡翠が突然二人に駆け寄って、琥珀を突き飛ばした。そして彼女の代わりに、アルクェイドの刃が翡翠の身体を貫いた。
・・・・・・
鮮血が飛んだ。驚くアルクェイド。思わず翡翠の身体から、真っ赤に染まった右手を引き抜いた。
「なんであんたが・・・・・・」
アルクェイドが信じられない顔で呟く。
「翡翠!!」
志貴が大声で叫んだ。
スローモーションの様に、翡翠が床に倒れた。貫かれた腹の辺りと口から大量の血を吐き出しながら。
「ひっ・・・翡翠ちゃん・・・・・・」
琥珀はそんな彼女を見て、呆然としながらその名を呼んだ。翡翠は静かに閉じかけた両目で琥珀を見つめて、ほっとしたように一声漏らした。
「これで・・・・・・姉さんに・・・・・・償いが・・・・・・出来たのでしょうか・・・・・・」
翡翠の目が閉じられた。それを見て、琥珀が絶叫した。
「翡翠ちゃーん!!」
息絶えた翡翠を抱き上げて琥珀は何度も何度も叫んでいた。しかしもはやどんなにその名を呼ぼうとも、翡翠から返事は無い。やがて琥珀は声を出さなくなり、その場で泣き崩れた。
志貴が唸りながらアルクェイドに襲い掛かる。それに怯んだアルクェイドに更に黒鍵が数本飛んできて、彼女の身体を貫いた。志貴もまた眼鏡を投げ捨ててアルクェイドに刺さった黒鍵を一本抜いてそれを振りかぶった。しかしそんな彼の後頭部に手刀が振り下ろされる。志貴は一言うめいて意識を失った。
蘇生したシエルが地下室へ入ってきた。そして傷ついたアルクェイドに尚も攻撃を加える。アルクェイドは形成不利とみたか、素早く地下室から脱出した。シエルはその後を追う。
志貴を仕留めたのは羽居だった。黙って志貴を抱かかえ上げる。そして翡翠の亡骸の前で泣いている琥珀を悲しそうな目で見ながら地下室を出て行った。後には哀れな息絶えた双子の妹と、生ける屍とかした双子の姉が残された。
ゆっくりと目が覚める。まだ部屋は薄暗い。つけっぱなしのテレビの画面は青く澄み切った空と、緑色に輝く南の海を映し出していた。それに優しい旋律のクラッシックがBGMで流れている。画面左上の時計表示は6:30だ。そして下に一行で「次の台風情報は午前7時となります」のテロップが流れていた。
台風か・・・もうそんな季節になったのね。そういえば昨夕は風が強かった。窓がガタガタと鳴っている。枕元でレンちゃんがにゃあ〜と一鳴きした。わたしは彼女の下顎を優しくさする。すると気持ちよさそうに目を細めて、ゴロゴロと喉を鳴らした。さて、起きないといけません。今日も秋葉さまや翡翠ちゃん。そして地下室でわたしを待っている志貴さんの為に美味しい朝食を作らないとね。
「レンちゃんはまだ寝てなさい」
わたしはベッドの上で丸くなっているレンちゃんの頭をかるく撫でて、そして和服を着込み、部屋を出て行った。今日は鮭でも焼きますかと考えながら。レンちゃんはそんなわたしを物も言わず、じっと見つめていた。
厨房で仕度をしていると電話がプルプルと鳴った。火を使っていて手が離せないので、出る事が出来ない。翡翠ちゃんが出てくれればいいのに。今日もまたお寝坊さんだ。秋葉さまも起きてこない。まったく二人とも志貴さんがいないもんだからすっかりだらけきっちゃって、しょうがないですね。後でめっと叱ってあげなきゃ。電話は十回コールした後、留守電メッセージに切り替わった。やがてかけて来た相手が録音してきた。
『秋葉ちゃん、秋葉ちゃん。どうして学校に出てこないの。お兄さんとまだ仲直りしてないの?蒼ちゃんも晶ちゃんも、みんな寂しがってるよ。わたしも凄く寂しい。だから早く学校に帰ってきて。翡翠さんが・・・・・・プツッ
わたしは電話のコードを引き抜いた。羽居って子だ。あの子は嫌い。何もわかっていないくせに意地悪な事ばかり言うんだから。まもなく朝食ができあがる。まだ二人とも食堂に降りてこない。今日も冷めてしまうかもしれませんね。でもまぁ、今日の鮭は冷たくなっても美味しいから大丈夫でしょう。それでは寝ぼすけさんの二人は放っておいて、先に志貴さんの所に行きましょう。
離れへの庭をゆっくりと歩く。そういえばふと思い出した。前に志貴さんの提案で、志貴さん、秋葉さま、翡翠ちゃん、そしてわたしの四人で楽しく朝食を食べた日がありましたね。志貴さんが相変わらず寝坊して秋葉さまが怒って、翡翠ちゃんが止めに入って、そしてわたしが場を沈めた。それから遅い朝食になったんだけど、そこではみんな笑顔で話が弾んでとても楽しかった。またあんなふうに楽しい朝食を取りたいですね。そろそろ志貴さんを許してあげましょうか・・・
そんな事を考えていたわたしの頭に、雨が落ちてきた。あらあら降って来そうですね。急がないと。わたしは急ぎ足になって離れに駆け込んだ。弓塚がわたしに気づいて戸を内から開けてくれる。本当に便利な死徒だわ。わたしは彼女に礼を言って、右腕の着物の裾を手繰って肌を出し、軽く血を吸わせてあげた。気持ちよさそうに数滴吸って彼女は満足そうに離れから立ち去っていった。
今日はいつになく琥珀さんは機嫌がよかった
厳しく真面目な男になるように躾られた後、俺にプレゼントまでくれた
「今日は志貴さんの誕生日だったんですよね・・・」
そんな事、言われるまで忘れていた
呆然としていると鞭で打たれた
「女の子からプレゼントをもらった時は、嬉しそうな顔をしてお礼を言うもんですよ・・・」
ありがとうございます
とても嬉しいです
「開けてもいいかい・・・」
開けてもいいかい
俺が言われた通りに言うと、琥珀さんはとても嬉しそうに笑った
「はい・・・志貴さんにちゃんと持っていて欲しいんです・・・」
そうか
プレゼントと言う物は、相手に渡して自分が気持ちよくなるためにあるのか
「次からは、常にその白いリボンを携帯しておくように・・・」
かしこまりました
琥珀さん
amberance/完
えっと・・・月姫の女の子で、わたしが一番好きなのは琥珀さんで、次がさっちんです。本当ですよ。
その琥珀さんに愛を込めて書いてみました。羽ピンの描写にも力が入ってたかな。どこか式ぽかったけどね。
さて、その羽ピンの留守電メッセージが途中で切られたけど、彼女は何を言いかけたのか?
それは読まれた方のそれぞれのご想像にお任せします。
そして最後に、久々野彰様。色々とありがとうございました。
柴レイ