恥ずかしい予感


2000/09/28



「──おはようございます、綾香さま」

  相棒の声がした。
  目を閉じたまま目の覚めた来栖川綾香は、そのままの体勢で、まず格闘する相手に気づく。

  頭痛 = 二日酔い。

  これは強敵だった。
  師匠(=セバスチャン)にイイのを一発頂いた時よりも、効く。
  たしか昨夜は大学の飲み会だった・・・はずだ。
  気の合う女友達と飲んだ。それはもう、浴びるほど。
  実際、四件目では頭から浴びていたような気がする。
  何度か言い寄ってきた男連中もいたが、綾香が手刀によるビール瓶切りを披露したら逃げていった。
  このままでは「たれ綾香」になる・・・そう思った時に、セリオに電話をした、と思う。
  あとの記憶は、無い。
  きっと違法ながらもセリオが車を運転して運んでくれたのだろう・・・そう、綾香は思った。
  思いながらも、頭痛はひどくなる一方だった。
  このまま眠っていても仕方がない。

  意を決して、瞼を開く。

  白いカーテン越しの太陽が網膜に焼き付いた。
  その真っ白に染まったステージの中、じっとたたずんでいる人影。


「おはよう、セリ・・・おおぉおぉぉぅーーーっ?!」


  そこに立っていたのは、一人の天使。
  均衡のとれた美しい全裸にシーツのみを纏い、こちらを見つめている赤毛のビーナス。
  少し桜色の頬を、午前の日差しがさらに美しく染めて。
  はにかんだ表情のHMX−13が、その主人をじぃっと見つめている。
  クスッと笑う、という最近覚えた必殺技の後、その桃色の唇が開いた。

「──改めておはようございます、綾香さま」

「あああああんた、なんて格好してるのよ?!」

「全身の洗浄を終えたばかりですので」

  人間とのバッティングを避けるため、メイドロボは昼前にシャワーを浴びる。
  ああ、そうか、と安堵の溜息をついた綾香の耳元に。
  ささやくようなセリオの声が聞こえてきた。

「───夕べは興奮したので発汗量が激しくて・・・」

  なに?!

「あんた・・・あたしに何か、した?」

「──────いえ、べつに」

「目をそらすなーっ!」

「落ち着いて下さい、モーニングカフェーでもいかがですか?」

  カフェー、ってなに?
  しかし、セリオの煎れるコーヒーはいつも通りに美味しかった。
  いつもとおんなじ、休日の朝。
  が、何かが違う、と綾香は直感した。
  原因はセリオだ。
  どこかしら浮かれているような表情と雰囲気である。
  それはちょうど、長年想い続けた相手と結ばれた翌朝の少女のような・・・

  なにを言ってるんだ、あたしはーーっ!!

  と、両側頭部をガンガンと殴り鳴らす。
  で、さらに頭痛を悪化させて頭を抱え込んだりする。

  落ち着きなさい、綾香。
  相手はただのメイドロボなのよ。
  そう、ただのメイドロボ。
  親友、というのはわかってるけど、あたしは彼女がロボだということを十分理解している。
  ロボが人間にヘンなコトをするわけがない。
  うんうん、とうなずきながら、セリオがつけたテレビを見る。
  何処かの高原の、すがすがしい風景が映っている。
  陽光を反射する水辺に、白い花々が整然と揺れていた。

「──綾香さま・・・」

  画面に見入っていた綾香は、セリオの台詞を夢うつつのように聞く。
  聞きながら、ぐっ、とカップに残ったコーヒーを飲み干した。
  セリオは続けた。



「白百合って、美しい花ですね」



  綾香は吹いた。
  ぶばあぁぁーっ、と吹き出す間欠泉。
  せき込みながら、セリオを見る。

「──他意は、ありません」

  他意って何じゃい?!

「申し上げておきますが、綾香さま。
 私は、基本的に綾香さまから指示がなければ、作業を行うことはありません」

  あっそうか、と綾香は大きな胸をなで下ろす。
  が、はた、と思い当たる。

「・・・っていうことは、逆に言えばあたしの言う通りには何でもする、ってことね」

  たらり、と背筋を汗がつたう。

「あたし・・・ゆうべ、何か命令した?」

「──いえ、べつに」

「目をそらすなーっ!」

「そんなことを私に復唱させるおつもりですか?」

  そんなことって、なに?!

「久しぶりにお願いよぉ、とおっしゃられまして」

「ななななな何をよ・・・?」

「お酒が入ってグチャグチャするから、と」

「どっ、どこがーっ?!」

「とても恥ずかしい所(ポッ)をほじくって、と命令なされたのです」

  なぬー?

「道具は机の引き出しにあるから、とも」

  そんなの知らないー!

「──じつは告白致しますと、私は初めての経験ではありません」

  げっ。

「あああ相手は誰? だれなのよ?!」

「────そのぅ・・・」

「言いなさい!」

  なぜか嫉妬する、不思議の国の来栖川綾香。

「マルチさん、です」

  こいつ、真性だったかーっ、と錯乱する綾香。

「許して下さい、綾香さま。
 こんなことをお願いできるのは、同じ境遇のマルチさんだけだったのです」

「・・・まさか今も続いてるわけ・・・?」

「綾香さまが留守の時に、したり、されたり」

  だめだ、これはーーっ!

「二人でお気に入りの道具を持ち寄ったりして」

  だめだめだめだめーっ!
  このSSを十八禁にするつもり?!

「──私のお気に入りは『木彫り』なんです」

  ぐはぁーっ、と耳を押さえながら畳を転がりまくる、キンドーさん風綾香。

「マルチさんは浩之様や神岸様にも」

  なんだとーっ?

「私も学習中に神岸様にして差し上げたことがありまして・・・
 気持ち良いと、とても喜んで頂きました」

  ショック。
  あたしは神岸さんと姉妹になってしまったー。

「せ、セリオ!」

「はい」

「・・・過ぎたことは仕方がないわ。
 でも夕べのことは他言無用。わかったわね?」

「わかりました。綾香さまと私だけの秘密、というわけですね」

「・・・もう、寝る」

「かしこまりました」







  ぐすんぐすん、と泣きながら寝入った綾香を見守ってから、セリオは立ち上がった。
  机の前にしゃがみ込み、引き出しからそれを取り出す。
  さあ、これからが独りきりの秘め事タイム。
  メイドロボにとって最も恥ずかしい行為に、少しワクワクしながら没頭するのである。
  木製の、先の反ったその道具は綾香の物だった。
  が、今ではその魅力に憑かれてしまったセリオ専用となっている。



「──やはり、人間のみなさんにとっても、
   とても嬉し恥ずかしい行為なのですね・・・」

  木彫りのその道具を見つめながら、セリオは思った。



「────耳掃除は。」



  ・・・どっとはらい。







以上。




 突発・発作的衝動。  TOP絵を見て深い感銘(爆)を受けましたので、書かせて頂きます。  煮るなり焼くなり好きにして下さい、山岡さん!  と言いつつ、心の底にそっとしまっておいてください。


 では当HPの底にひっそりとしまっておきます……あれ?(爆)
 いやー、MIO様のCGでAE様のSSが出る!
 久々野の介在一切ナッシング!
 素晴らしい! 素晴らしいです!!
 いよいよ本人色の薄い当HPを皆様ヨロシクですー。


 MIO様のCGを見た記念でAE様より拝領致しました。
 セリオSSでもあり綾香SSでもあるいつものAE様の描く綾xセリSSです。
 いつも乍らに勝手に自爆していく綾香と思わせぶりなセリオとが非常に可愛いです。
 AE様、本当にありがとうございました。


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